拾ったものは大切にしましょう～子狼に気に入られた男の転移物語～

美食の旦那さん

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　足並みを揃える事なく本能のままに魔獣達は恐怖や怒りを携えポーレットの街へ走っていた。

　感情をコントロールする事など出来ない魔獣達は人の匂いを感知したらひたすら捕食しようと地面を蹴っているのである。

スパーン！

　隣を走っているブラックパンサーが予兆もなく血を飛ばし転がり倒れるのを最前線を走るオーク達は一瞬足を止めた。
　一瞬止めたその時間、次々と近くにいた魔獣達が倒れていった。

ドカーン！　ドッカーン！

　大きな地響きと共に多数の魔獣が大きな穴の中で潰れていた。

　集団で行動し女、子供が好物のゴブリンは街の方から漂う匂いに引き寄せられる様に走っていた。

スパーン！スパーン！

　何に襲われれいるか分からない。
　ただ確実に周りの魔獣が倒れていく。
　ゴブリン自身は歩を止めずに血走った目で前進する。

スパーン！

　そして次には己が倒れていた。




　1番最初に魔の森の入り口が見える丘にたどり着いた冒険者パーティは見た光景に目を疑った。

　何十、何百と思われる魔獣が既に事切れていた。

「一体、どうなっている・・・。」

「俺たちが1番かと思っていたが・・・。」

「おい！あれ来るぞ！ロック鳥だ！」

　体を固めて空を見上げる冒険者達。

スッパーン！　「ギャァァァァ！」

　ロック鳥は頭から血を流し断末魔をあげて落ちてきた。

ズドーン！！

　目の前に落ちたロック鳥の額には一つの傷があった。

「何だこりゃ・・・。」

　後から追いついてきた多くの冒険者達も驚いた顔をしていた。

「シャキッとしなさい！！
　スタンビートたど言うのなら、こんなの序の口ですよ！」

　冒険者ギルドサブマスター・エルノールが声をあげた。

「彼が前線を押し戻しているうちに、我々は進まなければ！」

　彼？　　誰だ？　　あの子だろ？　　
　最近凄いのがいるって聞いた。　
　それじゃ、アイツだ。　アイツなら。

　冒険者の中でザワザワと話声がしていると真横を白い狼に乗った双子がすり抜けて魔獣の群れに突っ込んでいった。

「おい！ちょっと待て！！」

　慌てる冒険者達が見たのは獣人の双子が突進してきた数頭のレッドブルを切り倒したところだった。

「あの子達も、すでにCランク冒険者です。
　人の心配をしている場合ではありませんよ。」

　サブマスの指さす方を見れば大型の魔獣が魔の森から顔を出しているトコロだった。

「さあ、我々も行きましょう。
　子供に負けられません。」

　エルノールの静かなる声は冒険者達の心に火をつけ足を進ませた。

「やってやらぁ！行くぞ！」

「おぉぉぉ！行け行け！」

「ひゃほーい！！」

　各々の武器を持ち冒険者達も魔獣の群れにぶつかっていった。



「ゼンちゃん！降りていい？」

　今にも飛び出しそうなパティをスコルが止めた。

「この辺のは後の人たちに任せよう。
　僕らはもっと大きいの！」

「大きいの！？良いよ！」

『全く・・・。気をつけてよ。
　イオリが悲しむよ。』

「「はーい。」」

　そういうとゼンは双子を乗せたまま、魔獣の群れを真っ直ぐ駆けていく。
　走る道なりにいる魔獣はドンドンと倒れていくからだ。

『イオリが助けてくれてる。
　まずは、あのミノタウロスからにしよう。
　周りにも沢山いるから気をつけて！』

　「「了解！」」

　双子はゼンから飛び降りると、スコルは足をパティは肩をミノタウロスを浅く切っていく。

　ミノタウロスは血が滲むのを気にせずに双子を追うが双子は舞う様に刃を当てていく。
　怒り狂ったミノタウロスが双子を見失ったかと思えば、すでに遅く2人で首を切り落とした。

「カサドさんに研いでもらったばかりだから凄い切れるね。」

「うん。切れるから、軽く感じる。」
　
　双子は再び大型魔獣を狙いにいった。

　双子の戦いを見てゼンは周りの大型魔獣を相手にした。

『ここは君たちのいて良い場所じゃないよ。帰りなよ。』

　尻尾が鋼鉄の様な鱗で強靭な武器の猿科の魔獣ムシャキはゼンに攻撃をするも軽く避けられてしまう事に苛立っていた。

『ダメだよ。これ以上すると怒るよ。
　帰りなよ。』

　それでも、尻尾に拳に攻撃をやめないムシャキにゼンは溜息をつき鳩尾に頭突きをした。

「グァァ！」

　怯んだムシャキを蹴り飛ばし魔獣の群れにぶつけた。
　ダメージを喰らわされても魔獣の群れはポーレットを襲う事をやめない。
　一体、また一体と立ち上がり歩みを進める。

　ゼンの言葉も通じず、目を血走らせる魔獣達。
　冒険者達も必死に攻防を続けるが、1人また1人と膝をついていった。

「不味いですね・・・。」

　エルノールは苦渋の顔をし始めた。

「騎士だ！ポーレットの騎士が来たぞ！！」

　歓喜する冒険者達の言葉にエルノールも顔を上げる。

「あの方は・・・。
　自らおいでになるとは、相変わらずですね。」

　苦笑するエルノールの視線の先に、ポーレット公爵　テオルド・デュク・ポーレット、その人が先陣をきって騎士団を引き連れてきたのが見えた。