拾ったものは大切にしましょう～子狼に気に入られた男の転移物語～

美食の旦那さん

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「・・・という経緯でこちらに来ました。
　だから、俺が田舎者と言うのも嘘ではないですし生きる知恵を教えてくれたのも祖父母である事も嘘ではないです。」

　公爵とノア、戻ってきた執事クリストフはイオリの話を静かに聞いていた。

「地割れを何の躊躇もなく飛んだのか？」

『うん。ボクが無理をしたから・・・。』

　しょぼくれるゼンをイオリは抱きしめた。

「俺は元の世界でも恵まれていたけど、この世界に来て家族が出来た。
　ゼンのおかげだよ。」

　ゼンは甘えるようにイオリにすり寄ってきた。

「時にイオリの世界は文明が進んでいると考えていいのか？」

　公爵の素朴の疑問にイオリは考え込んだ。

「んー・・・。俺が思うに持った能力によって文明が違うんだと思うんですよ。
　俺の世界には魔法がありません。だから便利な世の中を作るために知恵を磨いた。
　一方、この世界は魔獣など一般生活に戦う環境がある為に戦闘としての技術が高まった。
　その手段の一部が魔法でそれが一般生活にも馴染んでいる。
　そんなところでしょうか？」

「ふむ・・・。」

　考え込む公爵を置いてノアはイオリに質問した。
　
「絶対神リュオン様は他に何か仰っておられなかったかい？」

「この世界をこーしろ、あーしろって事はないです。
　自由に生きなさいと。
　時折アドバイスなどありますが、それも俺個人の生き方に対してです。
　あくまでも世界は生きている人達の物です。
　リュオン様も心を痛める事もありますが問題を解決するのは当事者である皆さんなのだと思います。」

　2人は何度も頷くと自分達に言い聞かせるように

「「甘えてはいけない。」」

　と言葉にした。

《あぁ・・・。こういうところがリュオン様がポーレット公爵家を気に入っているんだなぁ。》

　イオリはゼンと静かに微笑んだ。

「でも、俺の言う事を素直に信じてくれるなんて考えてもいませんでした。」

「それは・・・。
　何も知らなかったら違っていたかもしれない。
　心にまさか？という疑念を持っていたが、イオリの事を見守る内にそうであったらと思うようになった。

　この話は、この部屋の中だけとする。
　息子達にも今は伝えるつもりはない。

　いいな。」

　公爵はノアとクリストフに伝えた。

「「御意」」

　2人は頭を下げるとイオリに頬んだ。
　イオリも立って3人に頭をさげた。


　イオリとゼンがクリストフと共に部屋を出ると公爵は、ほっとしたように従者に微笑んだ。
　しばらく静かに紅茶を口にしたが溜息を吐いた。

「時折、面倒な事案が持ち上がるな。
　ラモンめ・・・。
　息子達を怒らせ、イオリをも怒らせねばいいが・・・。」

「イオリを怒らせるとは子供達ですね・・・。
　はい。調べを進めているもの達を集めましょう。」

「そうしてくれ。私は兄上に連絡を入れておく。」

　ノアが部屋から出ると公爵は紅茶を飲んで心を落ち着かせた。




「まぁまぁまぁ。皆んなで牛のお世話のお手伝いをしたの？？
　素晴らしいわ！知らない事を経験する事は素敵な事ね！」

　ポーレット公爵夫人オルガの声が花の向こう側から聞こえる。

　子供達の笑い声と共に紅茶の香りもイオリに届いた。

　公爵家の裏庭にある花壇の中央
　お気に入りのカゼポの中で夫人は子供達とささやかなお茶会をしていた。

「ただいま戻りました。オルガ夫人。」

　イオリの声にオルガは微笑んで迎えた。

「お帰りなさい。楽しい道中だったと聞いているわ。
　イオリさんも楽しい話を聞かせて下さいな。」

「それでは、少々お時間を頂きます。
　作って参りますので、今しばらくお待ちください。」

　イオリは微笑むとゼンを連れて自分達のエリアである裏庭に戻っていった。

「「何かな？」」
「何だろう？」

　子供達の言葉にオルガはニヤリとした。

「何か絶対、美味しいものよ」

　そう子供達に囁くと子供達もニヤニヤしながら頷いた。

「「「絶対そうだね！！」」」

「今日は暖かい日ですもの待ちましょう。」

　そう言うと、またささやかだが賑やかなお茶会が続けられた。