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美食の旦那さん

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 緑に色づく畑の道を公爵家へまっすぐに進んで行くと慌ただしく騎士達が出入りしていた。

「やっぱり屋敷も忙しそうだね。」

 イオリ達が門から入ると執事クリストフが足早にやってきた。

「お帰りなさいませ。御無事のお戻りでようございました。
 イオリさん。
 ご主人様がお話があると、お帰り早々ですがお部屋までおいで頂けますか?
 子供達はお庭で奥様がお待ちです。」

「分かりました。ゼン行こう。」

 クリストフに子供達を任せると足早に公爵の執務室に向かった。

 トントントン

 扉をノックすると中からノアが開けてくれた。

「ただいま帰りました。」

 そう言うと公爵とノアは微笑んで頷いた。

「よく無事で帰ってきた。
 中へ入って話を聞かせておくれ。」

 促されるままにソファに座るといつの間にか戻って来たクリストフが紅茶を入れてくれていた。

「報告は受けている。ラモンが絡んでいるであろう事もな。

 率直にイオリはどう思った?」

 公爵はイオリの様子を伺いながら聞いてきた。

「そうですね・・・。
 俺には分からない事が多すぎます。
 
 何故、ラモンさんは俺たち・・・いやこの場合ニコライさんが帰宅すると知っていたのでしょう?
 何故、ポーレット公爵家に喧嘩を売っているのか?
 ラモンがポーレット公爵家を調べているとしたら何を知りたいのでしょう?

 どちらにせよ。
 あの場には俺の家族がいました。
 俺の敵としても認識してもいいのでしょうか?」

 公爵とノアは互いに顔を見合わせ苦笑した。

「まず、ニコライを狙ったのかバートを狙ったのか・・・・。
 想像するに両方であろう。
 我らポーレット公爵家は王室の信任が厚い。
 王室に取り入りたい下級貴族がすり寄ってくる事もしばしばだ。

 バートの場合はアーベルよりも隙があると思ったかもしれぬ。

 何より恐れているのがイオリが狙われているのかもしれないと言う事だ。
 政治で守ってやれる事もあれど、イオリが旅に出さえすれば家族だけで守り合わねばならない。

 そこで今こそ聞いておきたい。」

 公爵は一呼吸入れてイオリを真剣な顔で見つめると震える唇を抑えるように固くなった声を出した。

「イオリは“神の愛し子”と言われる者ではないか?」

「!!!!!!」

 イオリは驚いた顔を隠す事も出来ずに公爵を見つめた。
 
『それを知ってどうするの?』

 ゼンが威嚇するでもなく公爵に綺麗な青い目を向けた。

「・・・私の師が言っていたのだ。
 時代の流れの中に稀に神の使徒や愛し子が現れると

 神は何を思って使徒や愛し子をこの世に贈られるかは分からないが強い影響力持っていて時代によっては教会に囲われたり権力者の庇護の元に遣わされる。

 使徒ならば神の考えの元に協力し、愛し子ならば慈愛をもって愛しめと・・・。」

 公爵の目は恐怖でも、怒りでもない澄んだ瞳をしていた。

「師は、ご自分の若き時に使徒様にお会いし考え方に多大な影響を受けたという。
 初めて会った時に、もしやと思っていたが口するのも憚れる。

 イオリから伝えてくるわけは無いと分かっていたがラモンがイオリを狙っているのだとしたら私は・・・。」

 イオリは思わず公爵の元にいき跪いた。

「許して下さい。ご心配をお掛けしていたんですね。」

 イオリはゼンを見るとお互い笑って頷いた。

「俺が愛し子と言われる人物なのかは分かりません。

 ただ俺はリュオン様からゼンと家族になって自由に生きてほしいと、この世界に送り込まれただけなんです。

 今思えば、魔の森でクロムスを助けヴァルトさん達と出会ったのもリュオン様のかもしれませんね。」

 そうイオリが言うと公爵はイオリの肩を掴み抱きしめた。

「そうか!そうかイオリは、やはり愛し子なのだな?」

 イオリの肩越しにゼンと目を合わせると頷くゼンに公爵は微笑んだ。

「自由とは意外に難しいですな。」

 そんな中、冷静なノアはイオリとゼンに話しかけた。

「使命があった方が時には楽でしょうに。」

 イオリはそんなノアに笑った。

「フフフ。俺も最近そう思うようになりました。
 だから、俺は身近な家族や仲間を守る事に決めたんです。

 世界を救うのは難しい。
 それでも、せめて自分の手が届く人くらいは守りたい。」

 言い切るイオリにノアは微笑み頭を下げた。

「そうですか・・・。お手伝いいたしましょう。」

 へへへ。と照れるイオリをゼンは誇らしく見え近づくとペロペロと顔を舐めた。
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