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美食の旦那さん

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「ひろいねー。」

 イオリに抱き上げられたナギが思わず呟く。

 ゼンがナギの足を舐めるとキャッキャと笑った。

「「牛さんどこー?」」

 双子のキラキラした目にスヴェンは笑いながら大きなベルを持って鳴らし始めた。

 ガランッガランッ!

 大きな音に耳を押さえる双子にスヴェンは小高い山を指差した。

 緑の小山の山肌に黒い線が浮かび上がりワサワサと動いていた。
 よく見れば大量の牛でベルの音に反応してノソノソと近づいてきた。

「「うわぁぁぁぁ。沢山いる~!」」

 興奮する双子は柵によじ登り手を振っていた。
 イオリは、ナギは怯えるだろうと思っていたがイオリの胸をしっかり掴んで目をキラキラさせて牛達を見ていた。

「一体何匹いるんです?」

「分からないです。
 種類も分からずに旦那に乳と生クリームが用途が違うって教えてもらったくらいですから。
 昔なんかは混ぜちまう事もあったんですよ。」

 スヴェンの言葉にイオリは笑った。

「一度調べた方が良さそうですね。
 安定して供給できた方がいいですもんね。」

 バートはイオリと目を合わせ頷いた。

「叔父さんに鑑定してもらえばすぐですね。」

「あれ?アーベルさんは鑑定眼持ちなんですか?」

「ん?鑑定眼なんて初めて聞きました。
 叔父は鑑定のスキルを持っているんです。」

 イオリはしまった事を口にしたと苦笑したがバートは追求しなかった。

 いよいよ牛の大群が柵まで近づくと大人しかったアウラとゼンが存在感を出すためか吠えた。

「バウ!」

「ヒンッ!」

 一瞬にして牛の視線を集めた2匹は挨拶のためかスンスンと牛達と会話を始めた。

「にしても凄い迫力だな。
 こんなに沢山は見た事がない。」

 ニコライの言葉に親父は嬉しそうに説明した。

「初めは3頭の牛から始まった牧場なんですよ。
 いつのまにか増えちまって、4人では大変だったけど公爵様が人手を紹介してくださって今は助かってます。」

「そうか・・・。
 何事も継続だな。」

 スヴェンは牛達を放牧しているという。

「良いかいスコル・パティ・ナギ。
 これが命の恵みだよ。
 本来、牛の乳は何の為に出ると思う?」

 イオリの質問に子供達は考えた。

「美味しい為!」
 
 食いしん坊のパティにイオリは首を横に振った。

「それも良いね。でも、ちゃんと理由があるんだよ。」

「赤ちゃんの為。」

 スコルの言葉にイオリは頷いた。

「そう。
 本来、乳は赤ちゃん牛の為に出るものだ。
 それを人は分けてもらって口にしているんだよ。
 牛さんに感謝だね。」

「ありがとう。」

 ナギはイオリの言葉を理解し牛に手を伸ばし囁いた。
 通じたのか牛はナギの手をベロンと舐めると鼻息を吹きかけた。

「本当にイオリ君の側にいると考えさせられます。
 私達は意識した事があるのでしょうか。
 牛から分けてもらった乳で作られたチーズの食べ方を自分達で考えもせずに不味いと切り捨ててきた。
 子供達を通して彼の考え方を学んでいる。
 そんな気がします。」

 エドガーの言葉にニコライは深く頷いた。

「いつか、イオリさんが王都に行く事があれば驚くでしょうね。
 いかに不味いものに湯水の如く金を払う貴族がいる事に・・・。」

「まずはポーレットから変わろう。
 食材に携わる全てに感謝しようと・・・。」

 ニコライの考えが浸透するまでに年月は要した。
 しかし確実に勿体無いの精神や素材、作り手への感謝はポーレットで広まっていったのであった。

「イタダキマス。」「ゴチソウサン。」

 何故かこの言葉が流行ったのもポーレットが最初であった。

 その影には1人の青年の言葉に心が動かされた貴族がいた事は間違いなかった。
 
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