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美食の旦那さん

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「さぁ、どうぞ。」

 カッチェの兄スヴェンの妻ミラがホットミルクを出してくれた。

「「「いただきまーす」」」

 元気よく飲み出しだ子供達を乳屋の家族は嬉しそうに見ていた。

「本当によく来て下さいました。
 初めて親父と弟の話を聞いた時は信じらなかった。」

 しみじみと話すスヴェンにミラが微笑んだ。

「今ではグラトニー商会のホワイトキャビンを通じて公爵家から人材を集めて下さいましたし護衛も配備して下さいました。」

「この牧場はポーレットにとって経済の要になる。
 必要な人材は投入するべきだ。」

 ニコライは真剣な顔で言った。

「それでは、仕事の話を終えてしまいましょう。」

 バートが仕切りに入った。

「以前お伺いした件は考えていただけたでしょうか?」

 親父は息子達を見ると2人は頷いた。

「正直私らは商売には向いてません。
 牛を育てて乳を搾り、チーズを作って過ごすのが本来の私らの生活です。
 旦那が信頼しているグラトニー商会に一手に扱って貰えたら生活も安定して過ごせます。
 お任せします。」

「旦那?」

 イオリが首を傾けると親父はガハハと笑い出した。

「イオリの旦那が俺達の生活を変えてくれたんだ。
 アンタは俺たちの旦那だよ。」

 ニコライやバートがニヤニヤとイオリ見ていれば、イオリは徐々に顔を赤くして手振り身振りで否定した。

「いやいやいやいや!
 やめて下さいよ!恥ずかしい!
 俺、旦那何て言われるような・・・・。」

「いや。
 アンタは旦那だよ。
 俺の人生を変えてくれたんだ。」

「諦めろ。人が人に惚れるとはコントロール出来るものではない。」
 
 ニコライはイオリの肩に手を置き頷いた。

「すでに、乳屋の皆さんにはグラトニー商会におけるホワイトキャビンのあり方を説明しているのです。
 それもご了承の上で我々にお任せいただくんです。
 イオリさんがいるからですよ。
 良いではないですか。」

 にこやかに話すバートに乳屋の家族は頷いた。

「俺達は牧場を守れる。
 家族を守る事に頑張るよ。
 旦那も色々頑張れよ。」

 カッチェの笑顔がイオリを黙らせた。

「・・・。旦那ね・・・旦那。」

 それでもブツブツ言うイオリにその場は笑顔に包まれた。


「それで旦那さん。私達のシチューを食べてもらえますかね?」

 奥さんの言葉に覚醒したイオリはニッコリ頷き

「是非!」

 と答えた。

 出されたシチューはイオリがカッチェに教えたベーシックのシチューとチーズがたっぷりと使用された物が出された。

「では、早速・・・。」

 匂いを嗅ぎ口に入れるイオリを乳屋の家族のみならずニコライ、従者にバート、子供達も真剣な顔をして見ていた。

「・・・うん。美味しい。優しい味です。
 道中来るのに疲れた旅人が食べるのに丁度良いとお思います。
 チーズが入ってる方ですが、此方もとても美味しく出来ています。
 シチューは基本的に甘みのある食べ物なのでアクセントを付けたければお好みで胡椒を砕いた物をトッピングさせても良いと思いますよ。」

 イオリの批評にホッとすると共に、新たな提案を忘れないようにカッチェは頷いた。

「胡椒ですか?」

 ミラは不思議そうに首を傾げると奥さんと顔を見合わせた。

「女性や子供はそのままで良いと思うんですけど、男性など甘いだけでは物足りない人も出てくると思うんですよ。
 試してみましょう。」

 イオリは腰バックから粒胡椒とすり鉢を出した。
 ゴロゴロと粒胡椒を潰して新たに出されたシチューに振りかけて差し出した。

 みんなが食べ始めると各々の反応が返ってきた。

「あら本当・・・全然違くなったわ。
 胡椒を食べるなんて考えたこともなかった。」

「そうですね。
 コレなら簡単に味を変えられるしお客さんに選んでもらえればいいわけだわ。」

「うん。俺はこっちの方が好きだな。」

「俺は半分くらい食べたらかけたい感じだな。」

「「美味しい!!」」

「ナギは入れないがいい。」

「うん。美味い。素晴らしい。」

「これは王都でも売れます。」

 シチューの出来の良さと胡椒のトッピングにはニコライとバートも納得していた。

「欲張るとこれ付けたらどうかな。」

 イオリは腰バックから、まん丸のパンを取り出した。

「パンですね。確かにシチューにパンは合いますね。」

 バートはイオリの提案に納得した。

「これには秘密があるんです。
 是非お召し上がりください。」

 イオリの勧めでそれぞれが手に取ると一様に驚いた顔をして固まった。

「イオリ・・・これは?」

 ニコライが堪らずに聞くとイオリはニッコリして答えた。

「パンですよ。これにも牛の乳を使用してます。何度も調整して何とか出来あがりました。
 さぁ、試して下さい。」

 いつも通りに子供達が口にして蕩ける顔を見てから大人達は食べ始めた。

「「「「おぉぉぉぉ。」」」」

「凄いね!これ!イオリが作ったの?」

 興奮してスコルがイオリに抱きつくとナギも抱きついてきた。
 パティはニコニコと食べるのを止めない、ゼンと一緒に頬張り続けていた。

「そうだよ。
 いやー。完成するまで時間かかっちゃった。」

 イオリが頭をクシャクシャと掻くのを大人達は黙って見ているしかなかった。

「相変わらず、旦那はメチャクチャだな。
 パンなんて硬くて当たり前だろーに」

 親父の言葉にイオリは苦笑して答えた。

「ナギが食べ辛そうにしてたんですよ。
 それなら他の子も食べ辛いんだろうな。歯が弱くなったお年寄りも大変だろうなって。」

 バートはイオリの考え方を好んでいた。
 自分よりも若いこの不思議な青年に振り回されるのも悪くない
 イオリにはそう思わせる何かがあった。
 
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