異世界でネコとして人生を謳歌します。

5異世界でネコになりましたが、意思疎通ができるようになってしまいました。

5-9異世界でネコになりましたが、魔法使いに脅されました。

（いやーだー。逃げたいなー。
逃げさせてくれないかなー）


ルーシュが滞在している客室へと連れてこられたカナは、それはもう逃げたい欲求にかられていた。

ルーシュの手が離れたら速攻で逃げてやると思っているのだけれど、ルーシュは部屋についても離してくれない。

べしべしとルーシュの手を攻撃するも、状況は変わらない。

今までの行動を見ればルーシュの立場からは当然だろう。
もう少し大人しくしていればよかったと思っても後の祭りだ。

それでも駄目もとで攻撃し続けていると、上からため息がふってきた。


「……カナさん、せっかく話せるようになったんですから無言で攻撃するの止めませんか？
別に痛くはないんですけど、正直うっとうしいです」


（もう少し言い方ってものがあるんじゃないですかー）


と思えど、まぁ確かにルーシュの言うことにも一理ある。

今はもうカナも話せるのだ。
口撃ができるようになったのだから、そう思われても仕方ないかもしれない。

けれど、相手がうっとうしいと思っているのならば続けるのも悪くないとも思ってしまうわけで。


「離してくれたら、攻撃を止めます」


べしべしと攻撃を続けながら、「どうよ？」とルーシュを見上げてやる。

我ながら性格が悪いと思うが、ルーシュに対してなら許される気がするから不思議だ。


（離してくれたら、すたこらさっさと逃げてやろー）


ぱたぱたと尻尾を揺らしながらルーシュの回答を待つが、降ってきたのは言葉ではなく、またしてもため息だった。
しかも、さっきよりも深い深いため息だ。


「離したら逃げる気でしょう？
あなたと追いかけっこする気はないので、お断りします。
別にボクは、さっきみたいに魔法で拘束してもいいんですよ？」


ため息に続けて、ルーシュがそう淡々とカナに告げてきた。
牽制と脅迫を同時に突きつけられ、うぅとカナは口をつぐんだ。


「……サイテーですね」


渋々攻撃の手を止めて、カナはそう負け惜しみにしか聞こえないであろう言葉をつぶやいた。


「お褒めに与り光栄です。
逃げないのでしたら、離しましょう。
逃げるのなら、さっきみたいに強制的に逃げられなくしますよ」


「……逃げません」


「はじめからそう言えばいいんですよ」


さっき実際に魔法で拘束された身としては、ここはそう言うしかなかった。

上機嫌なルーシュにようやく床におろされたカナは、不服ながらも身体の自由を取り戻したことに安堵した。