異世界でネコとして人生を謳歌します。

4異世界でネコになりましたが、魔法使いにお家へ返されました。

4-12異世界でネコになりましたが、ついに魔法をかけられました。

「……カナさん、今さら逃げないでくださいよ」


（逃げないでと言われても、嫌なものは嫌なのー）


後ろから追いかけてくる足音に急かされるように、カナは走る。
今さらこれが無意味な行動だと言うことを理解している上で走る。

無意味でも、身体が勝手に動いてしまうのだから仕方がない。

扉をくぐり抜けて廊下に逃げてしまえば、ルーシュもさすがに一旦カナを追いかけるのを諦めるだろう。


（あと少し）


「縛」


もう扉が目前に迫るというところで、低く短い言霊が鼓膜を揺らした。と同時に、ころりとカナの身体が床に転がる。


（え？）


「……捕縛完了。まったく、余計な手間をかけさせないでほしいですね」


そう言いながら、ゆっくりとルーシュがカナに近づいてくる気配がする。


（……魔法を使ったのか）


突如として自由を奪われたカナは、目だけをキッとルーシュに向ける。
手も足もピクリとも動かない。


（この鬼畜魔法使い。嫌がってるの絶対分かっててやってるなー）


ひょいと抱え上げてきたルーシュの手に噛みつくこともできず、カナはされるがままにぶらんと宙に浮く。


（せめてちゃんと後ろ足を持って運んでよね！）


その思いが通じたのか、両親の手前一応気を遣ったのかはわからないが「よいしょ」と丁寧に抱き直される。

ただしそれは、安心と絶望がセットになったようなものだった。


「この者に言語スキルの付与を行う。汝我に従い、瞼を閉じよ」


ルーシュはこれ以上カナが抵抗をする隙を与える気がないらしい。
そう、すぐに物騒な言霊を紡ぎ出してしまったのだから。


（嫌だー。誰が瞼を閉じるものかー）


抗議を込めてルーシュをにらみつけるが、にらんだ先にいるルーシュ自身が目を閉じている。


なんてこった。


唯一動く目で抗議できなければ、カナにできることなどなにもない。

駄目もとで「ぐぐっ」と手足に力を入れても未だにぴくりとも動かず、口も開けないのでは鳴き声すらあげられない。

すっと静かにルーシュの瞼が開く。

カナのにらみは黙殺され、ついっとルーシュの指がカナの額に触れて何かの紋様をなぞっていく。

あれほど閉じるものかと思っていた瞼が、引っ張られるように強制的に閉じていく。

瞼に力を入れても、開く気配は全くない。


「……スキル付与」


ルーシュの言霊とともに、ぱぁぁぁぁっと瞼越しに白く淡い光が見えた。