上 下
12 / 23

12真っ赤なドラゴンの秘密 キレイな夕日

しおりを挟む
お昼を食べてから四時間くらい経ったころだろうか。


少しずつ陽が落ち始める時間帯。

小さく開けた場所を見つけた私は、今日の登山を切り上げて野営の準備を始めていた。

テントをなんとか張り終えたところで、それは、本当にとつぜん始まった。


「ピリリ、ピリリ」

「ポーポー、ポーポー」

「チュチョッ、チュチョッ」

「キーコ、キーコ」

「チチチチチ、チチチチチ」

今私がいる場所よりも下の方で、鳥たちがいっせいに鳴き声をあげ始めたのだ。

あまりにもとつぜんの大合唱に何事かと思って辺りを見渡した私の目の前に、鳥たちの鳴き声の答えが映し出された。


「……」


言葉が出てこなかった。

けれど、私の目は、空に釘付けになっていた。


「……これは、たしかに人に教えたくもなるな」


地元の人たちが教えてくれた夕日。

本当にきれいだからと言っていたことがよく分かる。
赤に近い濃いオレンジ色が空と雲をしっかりと染め上げていた。


ずっと見ていたい景色。


そう思えるような光景だ。

しかし、それは長く見させてくれるものではなかったらしい。

ほんの少し目を離しただけだったのだが、次に見た時にはもう真っ赤に染まる夕日はそこにはなかった。

あるのは、よく見るオレンジ色の空に、ややオレンジに染まった雲だけ。

鳥の鳴き声もぴたりと止み、風が草木を揺らす音しか聞こえなくなっていた。


「……まぼろしの、夕日か」


私はぼぅっと空をながめていた。

けれど待ってみても、さっきのような赤い夕日に空と雲は染まってくれない。

そのままどんどんとオレンジ色が夜の色にのみこまれ、ついには星がまたたき始めた。

それでも空から目をはなすことが出来ずにいると、ぐぅーっとお腹が鳴る音があたりに響いた。


「……夜ご飯するか」


ついつい空から目がはなせずにいたことに苦笑いがこぼれた。

お昼ごはんは予定の半分しか食べていない。

お腹がぺこぺこなことに、お腹が鳴るまで気づかないなんて、よっぽどあの夕日に気持ちを奪われていたらしい。
 

「そうだよな、お腹へるよな」


自分のお腹の鳴き声にせかされながら、私は急いで夜ご飯の支度にとりかかった。

明日はドラゴンの取材の日だ。

しっかりと食べて寝て、明日にそなえないといけない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

声優召喚!

白川ちさと
児童書・童話
 星崎夢乃はいま売り出し中の、女性声優。  仕事があるって言うのに、妖精のエルメラによって精霊たちが暴れる異世界に召喚されてしまった。しかも十二歳の姿に若返っている。  ユメノは精霊使いの巫女として、暴れる精霊を鎮めることに。――それには声に魂を込めることが重要。声優である彼女には精霊使いの素質が十二分にあった。次々に精霊たちを使役していくユメノ。しかし、彼女にとっては仕事が一番。アニメもない異世界にいるわけにはいかない。  ユメノは元の世界に帰るため、精霊の四人の王ウンディーネ、シルフ、サラマンダー、ノームに会いに妖精エルメラと旅に出る。

隠れ家レストラン

冲田
児童書・童話
夢叶えて自分の店を持った料理人のもとに、サラリーマンになった幼なじみがお祝いに訪れた。 久しぶりの再開に酒を飲みかわしながら、少年の日の不思議な体験を懐かしく思い出す。 誰に話したって信じてもらえない、二人だけの秘密の思い出だ。

子猫マムの冒険

杉 孝子
児童書・童話
 ある小さな町に住む元気な子猫、マムは、家族や友達と幸せに暮らしていました。  しかしある日、偶然見つけた不思議な地図がマムの冒険心をかきたてます。地図には「星の谷」と呼ばれる場所が描かれており、そこには願いをかなえる「星のしずく」があると言われていました。  マムは友達のフクロウのグリムと一緒に、星の谷を目指す旅に出ることを決意します。

GREATEST BOONS+

丹斗大巴
児童書・童話
 幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。  異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)を生みだし、規格外のインベントリ&ものづくりスキルを使いこなす! ユニークスキルのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅する、ほのぼの異世界珍道中。  便利な「しおり」機能、「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です!

桃岡駅の忘れ物センターは、今日も皆さん騒がしい。

桜乃
児童書・童話
桃岡駅(とうおかえき)の忘れ物センターに連れてこられたピンクの傘の物語。 ※この物語に出てくる、駅、路線などはフィクションです。 ※7000文字程度の短編です。1ページの文字数は少な目です。   2/8に完結予定です。 お読みいただきありがとうございました。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

マサオの三輪車

よん
児童書・童話
Angel meets Boy. ゾゾとマサオと……もう一人の物語。

ビワ湖の底からこんにちわ

あとくルリ介
児童書・童話
遠い未来の世界で、お爺さんと孫娘、学校の友達や先生が活躍するコメディです。 地獄でエンマ大王に怒られたり、吸血鬼に吸われたり、幽霊船で嵐の島を目指したりします。終盤、いろんなことを伏線的に回収します。 (ジャンル選択で男性向け女性向けを選ばなければならなかったのですが、どっち向けとかないです。しいて言えば高学年向け?)

処理中です...