41 / 82
41話・王太子の思い
しおりを挟む「私は、私にはそんな権利……」
王太子は首を振る。
「人には自分の気持ちを表に出す権利がある。それは、ソフィーも一緒だよ。我慢することが、ソフィーは上手かも知れない。だけど私の前ではせめて本音を吐いて、吐き出しちゃって良いから」
眩しいくらいの存在を眺め、ふと思う。
どうして、王太子はそこまで私を気にかけてくれるのだろうか。
私の疑問に応えるように、王太子が口を開いた。
「ソフィーの事を知ったのは、舞踏会の時。どこか人を寄せ付けない瞳に好奇心が沸いたんだ。最初は興味本位だった。ある日、散歩ルートを歩いていたら、窓から外を覗いている可憐なソフィーの姿が見えた。ほぼ毎日ソフィーは外を見ていて、俺が一通り散歩し終わって戻ってきた時もまだ同じ姿で外を眺めていた」
あぁ、それはお仕置きをされて外出出来なかった時のことだろう。
まさか、その姿を誰かに見られてるなんて、思いもしなかったけれど。
王太子は話を続ける。
「そんなソフィーの姿に、一目惚れした。それから、君が外に出た時を見計らい、お茶会に招待した。もっと君を知りたいと思った。だけど」
だけど……。
「私が来なかった」
私は真っ直ぐ王太子を見る。
一目惚れ、なんて信じられる訳がないけれど、嘘でも嬉しかった。
まさか、そんな気持ちで私をお茶会に招待してくれていたなんて。
「それから、どうしても君と二人きりで話してみたくて、君が毎日眺めている、あの場所に向かってみた。そしたら案の定君がいて、散歩に誘ったら、一緒に来てくれた」
王太子は少し恥ずかしそうに下を向く。
私はどれほど、彼の好意を踏みにじっていたのだろう。
きっと、王太子は私をマークしようなんて微塵も考えてなかったに違いない。
今なら断言できる。
だって、こんなにもお人好しで、優しい人だもの。
「君と街を歩きながら、会話していてもっと君を、ソフィーを好きになった。舞踏会にいた氷のように冷たい表情をしているソフィーも、あの時のように、笑顔が多いソフィーも私は好きになってしまった。だから君があの炎を消すと言った時も、適当な事を言う人じゃない事を知っていたから許可した」
私は、いつのまにか潤んでいる瞳で頷く。
「ねぇ、ソフィー。君は優しいから、他人に迷惑が掛からないようにと、感情を押し込めるかも知れない、だけど、それじゃあ君が壊れてしまうよ」
私は涙を流しながら、ゆっくり笑った。
王太子の言葉は嘘なんかじゃない。
こういう時に嘘なんて、つく人じゃない。
そんなの、最初から分かってた。
自分に自信がないから、違うと思い込んでいただけ。
私が、もっと他の家で生まれていたら、私はこの宝石のように輝いていて、キラキラしているこの人の手を取れたのだろうか。
少なくとも、私はここで王太子を受け入れては行けない。
それは、私が、ラスラーニャ家に生まれた時からの変わりようにない事実だった。
王太子は私の家の事情を知らない。
巻き込みたくない。絶対に。
巻き込んではいけない。
「殿下、いえ、リエラーヌ。ありがとう。スッキリしました」
私はまた、嘘をついた。
0
お気に入りに追加
205
あなたにおすすめの小説
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。
yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~)
パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。
この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。
しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。
もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。
「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。
「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」
そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。
竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。
後半、シリアス風味のハピエン。
3章からルート分岐します。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。
https://waifulabs.com/
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
辺境伯へ嫁ぎます。
アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。
隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。
私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。
辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。
本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。
辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。
辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。
それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか?
そんな望みを抱いてしまいます。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 設定はゆるいです。
(言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)
❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。
(出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)
【完結】夫は王太子妃の愛人
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵家長女であるローゼミリアは、侯爵家を継ぐはずだったのに、女ったらしの幼馴染みの公爵から求婚され、急遽結婚することになった。
しかし、持参金不要、式まで1ヶ月。
これは愛人多数?など訳ありの結婚に違いないと悟る。
案の定、初夜すら屋敷に戻らず、
3ヶ月以上も放置されーー。
そんな時に、驚きの手紙が届いた。
ーー公爵は、王太子妃と毎日ベッドを共にしている、と。
ローゼは、王宮に乗り込むのだがそこで驚きの光景を目撃してしまいーー。
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる