氷の令嬢は愛されたい

16話・紅茶

お屋敷に戻ると、不機嫌そうな妹が何やら義母と言い合っているのが見えた。

「お母様、殿下はちっとも私の事を見てくれなかったのよ！？聞いてる話と違います！」

妹はワンピースを強く握りしめながら、義母に文句を吐いていた。
義母は妹の言葉に押されている。

「セキラちゃん、落ち着いて。ちゃんと可愛かったわよ？きっと殿下も忙しかったのよ」

今にはアーニバルト公爵がいるのに、他の男の人も狙おうだなんて、痴がましいにも程がある。

私は妹を横目で眺めながら、部屋に戻ろうと足を踏み出すとい血相を変えた妹が私に突っかかってくる。

「お姉様も私の事を馬鹿にするの？なんて可哀想な私」

妹は私の前に立ち手を強く掴む。

一人で悲劇の自分を演じてればいいのに、どうして私にいつも突っかかってくるのだろうか？

そもそも、王太子が妹のことを好きになる訳がないのだ。
王太子とうのは産まれた瞬間から婚約者が決まっているのだから。

それを知っても尚、自分は好きになってもらえると勘違いしている妹は哀れというか、ただの馬鹿というか。

私は妹に聞こえるように大きなため息をつく。

「馬鹿になんてしてないわ、ね？ソフィー？こんな可愛いキセラちゃんを誰が放っておくものですか。きっとすぐお誘いのお手紙が届くわ」

私に詰め寄る妹を義母が宥める。

ハッキリ言ってどうでもいい。

勝手に喚いてればいいんじゃないかと思う。

私は妹に掴まれた手を叩き、早足で自分の部屋に戻る。

あんな我儘な妹に付き合ってあげる義母も凄いと思う。

「おかえりなさいませ、お嬢様」

部屋に入るとメーリスが紅茶を入れて待っていた。

「ただいま」

私は少しため息を吐き椅子に腰掛ける。

「お散歩はどうでしたか？」

メーリスは紅茶を机の上に置きながら尋ねる。

「どうも無かったわよ」

私は先程の出来事を思い出し、少し咳払いをして誤魔化す。

「あら、楽しめたようで良かったです。本日のお菓子は紅茶クッキーと、チョコチップクッキーです」

私はお皿に盛られたクッキーに手をつける。

チョコチップクッキーを一枚手に取り口に入れると、チョコレートの甘さが口の中に広がる。

やっぱり疲れた時は甘いものだと改めて思った。

「美味しい」

私はメーリスと視線を合わせて少し微笑んだ。

メーリスはニッコリ笑う。

「いい笑顔ですね、お嬢様」

変なことを言うメーリスを下がらせて私はティータイムを再開した。