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15話・高鳴り
しおりを挟む「私には、そんな……」
“権利無いのです”
言いかけた言葉を飲み込む。
だめだ、此処で事実を伝えたところで誰も得をしない。
別に、私は助けて貰いたいわけじゃない。
しっかりしろ、私。
普段なら正常な判断ができるのに、どうしても王太子の前だと気持ちが揺さぶられてしまう。
深呼吸をした後、少し顔を上げて静かに笑う。
「いえ、今日はお茶会の気分ではなかったので、申し訳ございません」
王太子は私の言葉を聞くなり、少し首を傾げた。
何か言いたげだったが、私の“これ以上追求しないで”という気持ちを込めた言葉にに気づいたのか、納得してくれたような素振りを見せてくれた。
「そうか、気紛れなお嬢様だ。今度はソフィーが楽しめそうなのを誘うね」
まだ、私の事を誘うつもりみたいだ。
そんなに私をマークしておきたいのだろうか?
私は王太子と視線を合わせないように他の方向を向きながら、口を開く。
「お気持ちは嬉しいですが、私は…………」
その先は告げてはいけない。
私の本能がそう告げていた。
ネモフィラが咲いている方向を向くと、花の中に蜂がいるのが見えた。
羨ましい。
私には、自由がないから。
小さい頃から愛情を注いで貰って、自由もあって、しなければ行けない仕事もあるなんて、贅沢ね。
不意に反対側向くと私の髪を触っている王太子が視界に入る。
思わず、私は立ち上がった。
「殿下、何を……」
私は悪びれもない様子の王太子を前に言葉が詰まる。
「ごめんね、良い香りがして。綺麗な黒髪だね」
王太子は柔和な笑顔で立ち上がった。
顔が熱っている。
なんでそんな笑顔で笑うの?
太陽を包み込むような、温かい笑顔。
王太子の笑顔を見ると、呪いが掛かったように目が離せなくなってしまう。
心臓がうるさい。
こんなに心臓が高鳴ったのは、初めてだった。
そばに立っていられなくなり、王太子に背を向けて走り出す。
今すぐ屋敷に戻って、落ち着きたい。
心を落ち着かせようと思って散歩に来たのに、逆効果になってしまった。
「また、会おう」
後ろから王太子の声が聞こえたが、振り返る余裕もなく、胸元に手を添えながら屋敷を目指して走った。
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