氷の令嬢は愛されたい

むんず

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3話・日常(2)

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「お嬢様、庭園までご案内します」

メーリスは静かにお辞儀をした。

私はメーリスの後を見失わないように追いながら周りの風景を眺めていた。

季節は春。
小鳥の鳴き声は五月蝿いし、花びら髪や服について鬱陶しい。

「お嬢様、着きました。本日、アンレイン家の皆様はお出掛けに行かれるそうなので、三時間ほど家には誰も居ない予定です」

メーリス父と義母、妹の1日の動きを把握してもらっている。

必ずしも予定通りに動くわけじゃないので、油断できないけど分からないよりマシだ。

別に予定を知ったからと言って何か出来る訳じゃない。
せいぜい顔を合わせないように動くことが出来る程度だ。

私にはそれで充分。

それにしても、案内してもらった庭園は本当に人が通らないのだろうか。
見た感じ、誰でも入れそうな気がするのだが。

まぁ、誰か来たところで私には関係ないが、なるべく面倒ごとには巻き込まれたくない。

私は今一度近くに人が居ないか確認した後、手に持っている片方の本を地面に置き、残っていた方の本を開いた。

「第一章は、家庭魔法。二章は実用魔法、三章は気象魔法……」

目次を読み上げながら、応用魔法のページを探す。

「第四章、応用魔法。これね」

魔法は、主に四種類ある。

1つ目は家庭魔法。
家庭魔法は普通の人でも使えるような簡単な魔法が多い。
そんなに強力な魔法を使わなくていいので魔法を使い始めるときは皆最初にこれを覚える。

実用魔法は家庭魔法を使って、実際に家事をするときに使ういわば強化魔法のようなものだ。

気象魔法は名の通り天気を操る魔法だ。
これは結構テクニックが必要で、ここで躓いてしまう人が多い、らしい。

天気を操ると言っても、魔力によって範囲が決まる。
魔力をあまり使わない気象魔法だと、頭上分の範囲の天候を変えたりする程度である。

最大、一つの村の大きさの天候を変えたり出来るらしいが、私は出来ないし、実際それだけの範囲に魔法を掛けているところも見たことが無い。

いずれにせよ、家庭魔法、実用魔法、応用魔法。気象魔法は全て独学で習得した。
魔法を使えることは、父も義母も知らないだろう。普通なら先生を付けて学ぶのだから。

そして今日やろうと思っている応用魔法は大量な魔力と体力を消費すると共に、危険性が高い魔法だ。
本によって学べる魔法も違い、測り切れないほどの種類がある。

この本には、瞬間魔法、透明魔法、静止魔法、口を止める魔法の四種類が載っていた。

いつかは、この四つ全てを覚えたいとは思うが、今日は一番役に立ちそうな透明魔法を取得することにした。

何日で覚えられるか分からないが、とにかくやってみるしかない。

私は魔力を込めた両手を静かに合わせる。

本に記載されている通りに両手から身体全体に魔力が流れるようなイメージを想像する。
ゆっくり、ゆっくり、水が滴るように。

私は瞼を閉じる。

数分気を集中させていると、魔力が身体中に行き届く前に、稲妻のような鋭い光が体中に走ったような感覚に襲われる。

私は慌てて、目を開けた。
呼吸が乱れて、思うように息が吸えない。

「はぁ、結構体力を消耗した上に上手くいかなかった。応用魔法はどの魔法よりも難しいわね」

たった数十分の話だが、体力を使いすぎてしまった。
今日はここまでだ。これ以上の練習は体に影響が出てしまう。

地面に座り込んで深呼吸をする。

想像以上に難しい。

私はため息をついて本を閉じた。



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