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第28話 男と女

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 真由美の自宅は一軒家の借家だった。二人分の布団が二階の畳の部屋に敷かれてあり、そこで一晩を共にしたことになる。

 窓から突然、何かが飛び込んできた。

 猫である。それもシャム猫だった。私でも知っている種類の猫だった。色は白いボディに鼻先と耳先だけが黒かった。

 「モンクっていうの。チョコレート・ポイントのシャム猫よ。もうおじいちゃんだけれどね。」

 生まれて4ヶ月目で女友達から譲り受けたというその猫は日差しが当たっている敷布団の端にデンと飛び移って居座り、居眠りを始めようとしていた。 口から舌をちょっとだけ出したまま、しまい忘れて目を瞑った。

 「あれ、背中に傷がある。血も出ているよ。」

傷の長さは10cmを超えていたが深くはなかった。

 「まただ、いっつもこうなの。近所の野良猫と喧嘩ばかりして負けて帰ってくるの。メスを奪い合っているんだと思う。」

 真由美の飼っているモンクは一見すると大人しそうな老猫だが、やはりサカリの時期だけは男を取り戻すようだ。

 「去勢していないの?」と私が聞くと真由美の答えは女の欲望そのものを言葉にした。

 「遼ちゃんだってチョッキンされたら嫌でしょう。同じよ、人も猫もね。男も女も、欲しい時は欲しいって言えばいいの。したい時はしたいって、ちゃんと言えばいいのに。遼ちゃんも、もう1回したいんだったらしてあげる。」

 ほんの少し前に萎えていた男の欲望に火を付ける言葉をあっさりと、それに見透かされているような錯覚に落とされてしまったが、このあと仕事が待っている事を思うと素直に受け止められる事ではなさそうだった。

 「あの猫、なんでモンクっていう名前なの?」と話をはぐらかせてみた。

 「もらってきたばかりの頃よ。まだ赤ちゃんで小さかった時からずっと文句ばっかり言っていたの。だからモンクって名前にしたの、良い名前でしょう。」

 「性格をそのまんま名前にしただけなんだ。」と口に出すのを抑えたかわりに真由美の右の内腿を右手でさすってみた。

 「遼ちゃんは若いんだから、このあとの事なんて考えちゃあダメよ、もったいない。」

なにがもったいないのか私には理解できなかったが、収まりつつあった欲情が再びイキリ始めている事にも同時に気がついた。

 「遼ちゃんってさぁ、初めてでしょう。勝手にドンドン進んじゃって。でもまぁいいや。ちゃんと教えてあげるね。」

 真由美の右腕が伸びてきて私の左肩を掴んだ。そのまま、うしろに押されるように身体同士が密着しながら倒されていく。 真由美の胸の膨らみが私の胸に押し付けられとき、腰に右腕を回し込んでバランスを無くした。

 「遼ちゃん、ねえ、遼ちゃん」

 上に乗られている私の身体に自由はない。 真由美の舌が下に下にと這っていった。
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