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第8話 祖母との再会

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 父の実家は西武池袋線の東久留米にあった。

あの頃のあの場所はまだのどかであり、空高く雲雀が歌を歌うように飛んでいたし、神社の境内で土堀りをして遊んでいると一銭とか十銭の硬貨が容易に見つけられた。ヨモギの緑も美しく香っていたし、ススキの穂も私の背丈より大きく生い茂り、秋の色を漂わせることができた。

 その実家も人手に渡り、逃げるように仙台に移り、そこで祖父は亡くなった。

 私の記憶にある祖父も祖母も威厳と清楚さを持ち得た人柄であったが、金が底をつくと人格さえも変えてしまう。

 この仙台の物件もたった3年余りで競売に掛けられて、逃げるように北海道の僻地に移り住んでいった。

  祖母を父の葬儀に参列させないと言う頑なな母。

 母の気持ちも解るが祖母の寂しい余生もまた気に留めていた。

 私が当時、使っていた手帳にはなぜか、祖母の自宅の電話番号が残されていた。

 「婆ちゃん、おれ遼平、わかる?」

 懐かしい声が受話器を通して耳に沁みた。

 「遼ちゃんだね、わかるよ。うん、わかる。」

 「婆ちゃん、あのね、父ちゃんがね、きのうね、死んじゃったんだよ。」

 通夜にも告別式にも北海道の婆ちゃんの姿はなかった。

 「お義母さん、やっぱり来なかったねぇ。」

 母の薄い言葉に「うん、でも来るって言っていた。」とだけ答えた私だったが「間に合わなかったか。」という思いがひしひしと込み上げてきた。

 産みの親も育ての親も我が子の死というものを思えばきっと来てくれるだろうと思っていたし、祖母も「すぐに向かいます。」と電話では言ってくれた。

 来てくれるのであれば、せめて父の肉体が荼毘に府される前であってほしいと願っていたが、祖母が我が家に到着したのは火葬場から戻ってきて、既に白い布に小さく包み込まれた箱の中と化してからだった。

 「こんなになっちゃって、まさか私より先に逝くなんて・・・」

 祖母の取って付けたような言葉は虚しさしか伝わってこなかったけれど、10年以上の時を隔てた再会にも関わらずその容姿は私の記憶の中にある優しさをそのままにしていた。

 祖母の言葉によると北海道から電車を乗り継ぎ青函トンネルを抜けて盛岡駅まで相当な時間を要したそうだ。

 翌日には天皇家のご成婚の儀がおこなわれ日本中がお祝いムードに浸っていたが我が家ではさらなる事態が起きていた。祖母が「北海道にはもう帰りたくない。」と言い出したのである。 金がないという事がどれほど惨めであるかを語り始めた祖母の口を制したのも母であった。

 「お義母さんはうちのひとにもっと酷いことをしてきたのよ。何故、3人兄弟を同じように扱ってあげなかったの。あの兄弟ふたりがどれほど苦しい思いをしてきたかわかって言っているの?自分のお腹を痛めて産んだ子供が可愛いのは当然よ。でもね、お義母さんのしたことは許されるものじゃあない。今だから言えるのよ。主人は愚痴ひとつ言わないで黙っていたけれどお義父さんが亡くなった時だってそうだったでしょう。」
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