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第81話『誕生日プレゼントの店』

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■ 誕生日プレゼントの店

 この日の地球一家のホスト役として出迎えてくれたのは、3人の若い女性だった。
「長女のザレナです」
「次女のマレナです」
「三女のアレナです」
 外見がよく似ている3人は独立心をもっており、同じ団地の別々の低層マンションの部屋で一人暮らしをしていた。
 今回は三姉妹が公平にホストの機会をもてるように、地球一家6人は3グループに別れることにした。父とタクは長女ザレナ、母とリコは次女マレナ、ジュンとミサは三女アレナが世話役を務めることに決まった。
 父は、地球一家全員に対して一つの課題を出した。
「別行動といういい機会だから、今日だけの特別ルールを設けよう。この星のことで不思議に思ったことがあっても、すぐに質問したり教え合ったりせず、自分で考えて仮説を立ててみるんだ。そして、あとでみんなで集まった時に答え合わせをしよう」
 これを聞いて、ザレナがほほえんだ。
「面白いですね。では私たち3人も、地球の皆さんを見て首をかしげることがあっても、質問しないでおきますね」
 夕方5時に団地の中央広場に全員集合することに決め、各グループは別行動をとった。

 タクは、長女ザレナに言った。
「足が少し痛いので、僕は部屋で休んでいようと思います」
「部屋でもいいけど、つまらないわ。あそこのベンチに座っていたらどうかしら。いろいろな人が通るから、みんなの動きを見ていると面白いかも」
 ザレナは、団地のほぼ中央にある広場のベンチを指した。タクがうなずくと、父は心配して付き添った。
「お父さんも、タクの近くに座っていることにするよ」
 その時、広場のほぼ中央の小さな店のすぐ外でクラッカーが鳴る音が聞こえた。父とタクが見ると、若い男性がホストの三女アレナにプレゼントを渡しているところだった。
「いつも君にはお世話になっているね」
 そして、店員の女性が叫んだ。
「お誕生日おめでとうございます!」
 クラッカーの音があまりにも大きかったので、広場にいた大勢の人が注目した。マンションの各部屋の窓から見ている人も多数いた。
「あの店は、間違いなくギフトショップだ。きっと今日はアレナさんの誕生日なのだろう」
 父がそう言うと、タクはベンチから立ち上がって店のほうに進んだ。
「ちょっと見に行ってみよう」

 父とタクが店のショーケースをのぞき込むと、アクセサリーやキーホルダーなどの小物がずらりと並んでいた。女性店員は、タクに話しかけた。
「ここは、誕生日プレゼントの専門店なのよ」
「へえ。そんな専門店があるんですか。どれも安くて、僕のお小遣いで買えそうな物ばかりだ」
「プレゼントは、もちろん買って帰って家で渡すこともできるけど、ほとんどの人は渡す相手と一緒にここに来て、店のすぐ外にあるライトの下で渡します。そして、私はクラッカーを鳴らして大きな声でお祝いの言葉をかける。これがこの団地の儀式になっているわ。ただし、その日が誕生日であることが条件よ。誕生日の前日とか一週間前にプレゼントを買って渡すことは絶対にしません」
 店員の説明には、少し驚かされた。誕生日よりも前に誕生会を開いたり、プレゼントを渡したりすることは地球では普通だが、この星ではあり得そうにない。それにしても、さっきの男性はアレナさんとどういう関係なのだろう。恋人だろうか。
 タクの足が再び痛み始めたので、父と二人でベンチに戻った。
「僕は、足が治るまでしばらくここに座っているよ。あのお店を見ているだけでも退屈しなくて楽しそうだ」
 タクは、誕生日プレゼント専門店を指して父にそう言うと、父も気分を高揚させた。
「お父さんもタクと同じで、あのお店を見ていると楽しい気分になってくるよ。ここでずっと様子を見ていよう」

 店には何組かの二人組が次々にやってきて、プレゼントが渡されるたびにクラッカーの音が団地に響いた。そのつど、団地中の人々の注目の的となっていた。
 しばらくすると、ジュンとアレナが店に来た。そして、ジュンは手っ取り早くプレゼントを選ぶと店員にお金を渡し、ライトの下でアレナに渡した。
 同じように、店員はクラッカーを鳴らして叫んだ。
「お誕生日おめでとう!」
 アレナは頭を下げた。軽く頭を下げるのもこの星の習慣なのだろう。父はタクに言った。
「ジュンは隅に置けない性格だからね。今日がアレナさんの誕生日だと知って、自分もプレゼントを渡したくなったのだろう」
 タクが引き続き見ていると、今度はジュンとホストの次女マレナがギフトショップに来た。
「あれ、どういうことだろう」
 タクが不思議に思っているうちに、マレナはキーホルダーを選んで代金を支払い、ジュンに渡した。女性店員は、またクラッカーを鳴らして叫んだ。
「お誕生日おめでとう!」
 ジュンは、プレゼントを受け取りながら、少しとまどっている様子だった。それを見ていたタクは、不思議そうな顔をして父に言った。
「今日は兄さんの誕生日じゃないのに、どうしてプレゼントを渡されたんだろう? 何かの勘違いかな」

 そして次にやってきたのは、ミサとマレナだった。今度はミサがプレゼントを買い、マレナに渡した。
 例のごとく、店員はクラッカーを鳴らして大声で叫んだ。
「お誕生日おめでとう!」
 タクは首をひねりながら父に言った。
「マレナさんも、今日が誕生日なのかな? 二人が同じ誕生日なんて偶然があるのかな?」
「三姉妹は顔がよく似ていて、歳も同じくらいだから、三つ子なのかな。それならば、同じ誕生日というのも当然だ」
 しばらくすると、次にミサとホストの長女ザレナがギフトショップを訪れた。そして今度は、ザレナがプレゼントを買ってミサに渡した。店員はクラッカーを鳴らした。
「お誕生日おめでとう!」
 タクはますます不思議になって、父のほうを向いた。
「どういうこと? 今日はミサの誕生日でもないよね」
「うん。今日はうちの家族の誰の誕生日でもないよ」
 謎は深まるばかりだ。

 タクと父が引き続きギフトショップを観察していると、しばらくして、リコが母に連れられてギフトショップを訪れ、ザレナも一緒だった。リコは財布を持っていないので、母が代わりに支払い、リコはプレゼントを受け取ってライトの前でザレナに手渡した。例によって、店員のクラッカーが鳴らされた。
「お誕生日おめでとう!」

 そして、タクがなんとなく予想したとおり、次に訪れたのはリコと三女アレナだった。アレナはプレゼントを買うと、リコに手渡した。店員のクラッカーが鳴らされた。
「お誕生日おめでとう!」
「ますます訳がわからない」
 タクが父に言うと、父はニヤリと笑った。
「いや、わかったぞ。謎が解けた。5時にみんなが集まる時にタクにも教えてあげよう」
「お父さん、そんなこと言わないで。待ちきれないよ。今すぐ教えて」
「仕方ない、教えるよ。この星では地球とは逆に、今日が誕生日の人がプレゼントをあげる側になるんだ」
「そうか。だから三姉妹はやっぱり三つ子で、今日が誕生日で、それでうちの家族にプレゼントをくれたというわけか。でも、逆にうちの家族がプレゼントを渡していたのはどうしてだろう」
「それは、地球の習慣に従ったんじゃないかな。言うまでもないが、地球では誕生日の人はプレゼントをもらう側に立つからね」
「なるほど。お父さん、すごい。よくわかった」
「それから、タクは知らないかもしれないが、地球でも一部の人の間では、誕生日にプレゼントをあげる習慣を持っているんだよ。地球ではこれを、逆プレゼントと言うんだ」
「逆プレゼント?」
「実はお父さんも、自分の20歳の誕生日に、今まで育ててくれてありがとうと言って、両親にプレゼントを渡したよ」
「へえ。逆プレゼント、僕もいつかやってみたいな」
「ただ、この星の習慣の話はあくまでもお父さんの推測だ。もうすぐ5時になる。みんなで集まる時間だ。聞いてみよう」

 しばらくして時計は5時を指し、地球一家6人とホストの三姉妹は団地の中央広場に集合した。長女ザレナは、口火を切って話し始めた。
「皆さん、いかがお過ごしですか? タク君は、お父さんとずっとギフトショップの前のベンチにいたようだけど、どうだった?」
「はい、誕生日プレゼントの店ですよね。そのことで、一つ教えてください。この星では、誕生日の人が誕生日プレゼントを誰かに渡す習慣があると思うんですけど、合っていますか?」
 タクが確認すると三姉妹はうなずき、マレナが言った。
「そして、地球ではこの星とは逆に、誕生日プレゼントは誕生日の人がもらう習慣がありますよね。私たち三姉妹は、前からそれを知っていました。なぜ知っていたかというと、以前送られてきた皆さんのプロフィールの中のリコちゃんの自己紹介文に、『この間の誕生日にイチゴのケーキをもらったのがうれしかった』と書いてあったからです」
 これを聞いてリコがほほえむと、次に父がみんなに言った。
「つまり、この星と地球ではプレゼントをあげる人ともらう人が逆だということですね。ここまでは、はっきりしました。では、今日が誕生日の人、挙手をお願いします」
 すると、9人誰も手を挙げなかった。そして、それを見て9人全員が驚きの表情を示した。どういうことだろうか?
「誕生日の人は一人もいないのに、どうしてプレゼントを渡し合っていたのでしょうか。順番に説明してもらいましょう」
 父の指示に従い、まずジュンがアレナにプレゼントを渡した理由を説明した。
「僕は、アレナさんが男の人からプレゼントをもらっているのを見て、てっきり今日はアレナさんの誕生日だと思って、僕もプレゼントを渡したくなったんです」
 次は、マレナがジュンにプレゼントを渡した経緯を話した。
「私は、ジュンさんがアレナにプレゼントを渡しているのを見て、今日はアレナの誕生日ではないので、ジュンさんの誕生日なのだと思い込みました。ジュンさんがこの星の習慣に合わせてプレゼントを渡してくれたのだと思ったんです。そこで、私は逆に地球の習慣に合わせて、ジュンさんに誕生日プレゼントを渡そうと考えました」
 次に、ミサが説明した。
「私は、マレナさんがジュンにプレゼントしているのを目撃しました。今日はジュンの誕生日ではないのにおかしいな、と思った時、逆プレゼントのことを思い出したんです。地球でも逆プレゼントをする人をたまに見かけますけど、この星ではきっと逆プレゼントが当たり前で、今日はマレナさんの誕生日だと思い込みました。私もせっかくなのでプレゼントを買いたくなって、地球の習慣に従って、マレナさんにプレゼントを贈ることに決めました」
 次のザレナの説明も、同じようなものだった。ミサがマレナにプレゼントしているのを見て、今日がミサの誕生日だと思い、地球の習慣を知っていたザレナは、ミサに喜んでもらおうとプレゼントを渡した。
 そして、それを見ていた母は、リコからザレナにプレゼントを渡させた。さらに、それを見たアレナは、リコにプレゼントを渡した。
 全員のあっけない勘違いとわかり、みんなで笑い合った。

 そして翌日、地球一家が出発する前に、父はホストの三姉妹をギフトショップに招き、3人にプレゼントを渡した。店員女性は、いつものとおりクラッカーを鳴らして叫んだ。
「お誕生日、おめでとう!」
 ザレナは、三姉妹を代表して父に礼を述べた。
「ありがとうございます。これは、地球の習慣に合わせたプレゼントですね。今日が私たち3人の誕生日だって、どうして知っていたんですか?」
 すると、父は本気で驚いた。
「え、今日は君たち三姉妹の誕生日なの? それは知らなかったよ。実は、今日は僕の誕生日なんだ。僕は、この星の習慣に合わせてプレゼントを贈ろうと昨日から決めていたんだよ」
 三姉妹は顔を見合わせて驚いた。地球一家はこの会話を聞いて、意外な偶然にとまどいながらも、父を含めた4人の誕生日を拍手で祝福した。
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