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第74話『歴史の勉強と偉人伝』
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■ 歴史の勉強と偉人伝
地球一家6人がホストハウスに到着すると、HM(ホストマザー)が玄関で出迎えた。
「地球の皆さん、ようこそ」
リビングに案内された地球一家は二人の子供と対面し、互いに自己紹介した。長女のナプサは11歳、長男のナギトは10歳とのことだ。
「お願いです。二人に勉強を教えてやってくれない?」
HMにそう頼まれて、ミサがジュンに言った。
「ジュン、出番よ」
「いつも僕が算数や理科を教えているから、たまにはミサが社会科でも教えたらいいんじゃないか」
「理数系科目のほうが教えやすいじゃない。社会を教えるといっても、例えばこの星の歴史は地球の歴史とは違うだろうし」
ミサはそう言いながら、ナプサに頼んだ。
「そういえば、この星にはどんな歴史があるのかしら。ねえ、歴史の教科書を見せて」
「歴史なんて学校で習いませんよ」
「まだ習ってないの? もっと上の学年に行ってから習うのかしら」
ナプサは答えられず、代わりにHMが説明した。
「この星では、学校で歴史を習うことはありません。私たち大人でさえ、星の歴史のことなんて何も知らないんです」
「そうなんですか。意外ですね。でも言われてみれば、地球で私たちが歴史を勉強するのは何のためなのかしら? お母さんはどう思う?」
ミサがそう言って母に話を振ると、母は少しかしこまって答えた。
「歴史の勉強は、過去と現在の対話だと言われているわ。今の世の中のことをよく知るためには、過去のことを知る必要がある。例えば、歴史の勉強で一番重要なのは政治の歴史だけど、現在のような形の議会があって内閣があって裁判所があるのは、全て人間の歴史の積み重ねなのよ」
「でも、今の政治制度が残っているわけだから、成り立ちまで知らなくていいと思うけど」
「そんなことないわ。例えば、今の議会制度に不満を抱いて、新しい議会制度を提案した人がいたとする。でも、その提案のような制度は、実は何十年も前に存在していて、その欠点が明らかになったために今の制度に変更された。その事実を知らなかったとしたらどう?」
「確かに、今残されている制度というのは、先人たちの知恵の積み重ねだということを知る必要があるわけね」
「そのとおり。政治の歴史、科学の歴史、文化の歴史、どれも同じこと。過去に先人たちが考えてきた過程を知らなければ、同じ過ちを繰り返す。今まで築き上げてきたことを壊してしまって、また一から考え直すとすると、世の中が進歩していかない」
「地球が発展してきたのは、常に歴史を勉強してきたからなのね。そう考えると、この星の人たちが歴史を知らないのは残念なことね、お母さん」
「学校では教わっていなくても、図書館に行ってみれば歴史関係の本が見つかるかもよ」
「行ってみましょう。歴史の自由研究って、きっと面白いわ」
ミサは、ナプサとナギトを連れて近所の図書館を訪問し、司書の女性に尋ねた。
「歴史の本を借りたいんですけど」
「歴史の本というのはありません。そもそもこの星には、歴史学者や歴史研究家がいませんから。この星の歴史について執筆できる人なんていないんですよ」
「やはり、そうですか」
「強いて言えば、すぐそこの棚に伝記の本があります」
「偉人伝ということですか?」
「偉人といっても、歴史家が書いた文章ではなく、その人の子孫が親や祖父母から聞いた話を書いているだけです。全てが事実とは限りません。伝聞の過程で間違うこともあるでしょう」
「それでも、何もないよりましです。さあ、二人とも一冊ずつ選んで」
ミサはホストの子供たちの背中を押しながら、さらに司書に尋ねた。
「おすすめの本はありますか?」
司書は棚から2冊の本を選んで、ミサに見せた。
「こっちが男性科学者の伝記で、こっちは男性政治家の伝記です。この2冊は、内容的におすすめというわけではありませんが、裏表紙に書いてある著者の名前と住所を見ると、二人ともこの近所に住んでいることがわかります。何か質問があれば、すぐに聞きに行けると思って」
「確かに、それは自由研究としてちょうどいいですね。この2冊を借りて行きましょう」
家に戻ると、ナプサとナギトはさっそく一冊ずつ取って読み始めた。
ナプサが一冊読み終わるのを見計らい、ミサが尋ねた。
「ナプサさん、どう? 科学者の伝記、読み終わった?」
「はい。これを書いた人はその科学者のひ孫です。ひいおじいさんは、世紀の大発明をした人のようです」
「何を発明したの?」
「テレポーテーション、つまり人間が瞬間移動できるようになる飲み薬です。子供の頃からテレポーテーションに興味を持って、寝食を忘れて研究に没頭したらしいです」
「それはすごい!」
ナギトも一冊読み終わったようである。ミサが質問した。
「こっちの政治家は? 何をした人?」
「百年前に、我が国の首相だったらしいです。この本の著者のひいおじいさんです。それまで続いていた独裁政治をやめて、民主的な政治制度を初めて取り入れた人だと書いてあります」
「独裁政治というのは、首相が何もかも一人で決めてしまう政治のことでしょ。それに対して、民主政治というのは、国民投票などで国民の意見を幅広く聞いて、いろいろなことを決めていく政治のことね。その人の功績もすごいわ。でもやっぱり、テレポーテーションのほうがすごいわね。地球ではまだ発明されていないもの」
ミサは、ナプサの顔を見て目を輝かせた。
「ナプサさん、テレポーテーションを今やって見せてよ。できるんでしょ」
「いいえ、できません」
「できないの? その薬、高すぎて買えないのかしら」
「いや、そもそもテレポーテーションできる人の話なんて聞いたことがありません」
「そんな。やっぱり、歴史を学ばないとこうなってしまうのよ。百年が過ぎる間に忘れ去られて、風化してしまったんだわ。残念」
「もっと手がかりはないかしら」
「じゃあ、この住所まで行って、著者に会おうよ」
ミサの提案に従い、母、ミサ、ナプサの3人は本に書かれている住所に行き、著書である高齢女性と面会した。
3人を部屋に通すと、女性は語った。
「この本を書いたのは、確かに私よ。でも、テレポーテーションの薬が現代に残っていない理由まではわからないのよ」
ミサは、女性に尋ねた。
「この本に書かれていることは、どのようにして知ったんですか?」
「ひいおじいさんに直接会ったことはないけど、母から何度も聞かされていた話だから。母は子供の頃、ひいおじいさんがテレポーテーションの薬を発明したということを直接はっきり聞いている」
「もっと手がかりはないかしら。歴史を探求する方法って、何があるかしら」
ミサが悩むと、母がアイデアを出した。
「一番手がかりになるのは、日記ね。ひいおじいさんの日記なんて残ってないですか?」
「それがあればいいんだけど、残っていないわ。全て母親から聞いた話です。そうだ、手がかりといえば、はとこが一人、この近所に住んでいるので、聞いてみましょうか」
ミサが女性に聞き返した。
「はとこ? いとこじゃなくて?」
「同じ祖父母を持つ人同士が、いとこでしょ。同じ曽祖父母を持つのが、はとこ」
「つまり、この発明家のひ孫がもう一人、この近所にいらっしゃるということですよね。ぜひ会いに行きましょう」
女性は、3人を連れて近所のマンションの一室を訪れた。玄関を開けると、高齢の男性がすぐに出てきた。
「おー、久しぶり。お入りください。ちょうど今、ほかのお客さんも来ているところだ」
高齢男性の背後から顔を出したのは、ジュン、タク、ナギトの3人だった。
「どうしてここに?」とミサ。
「ナギト君が借りた伝記の本の著者に会いに行こうという話になって。それが、こちらの男性なんだ」とジュン。
「ということは、あなたのひいおじいさんは、独裁政治を廃止して民主政治を始めた首相ということですね?」とミサ。
「実は、そのことなんですけど……」
高齢男性が話し始める前に、まずナギトが説明を始めた。
「僕は知らなかったんですけど、さっき母さんに聞いたら、今この国では独裁政治なんだって」
「え、独裁政治に戻ってるの? やっぱり歴史の勉強をしないと後戻りしちゃうのかしら」
ミサがそう言うと、男性は腕を組んだ。
「その辺の事情は、実は僕にもわからなくて。ひいじいさんのことは、子供の頃から父に聞かされていた話をまとめただけなんで」
「ちょっと待って。今気が付いた。この2冊の本、偉人の名前が全く同じだわ!」とミサ。
「そしてお二人は、はとこ同士。ということは、この二人の偉人は同一人物……」とジュン。
「それはあり得ないでしょ。生涯を研究に費やして大発明を成し遂げた人が、同時に一国の首相でもあったなんて。少なくともどちらかが作り話ですよ。もう手がかりは何もないですか?」
ミサがそう言うと、母が援護射撃をするように男性に尋ねた。
「ひいおじいさんの日記なんて、残ってないですよね?」
「ありますよ」
え、あるの? みんなが不思議がる中、男性は押し入れから古びた本を一冊取り出した。
「これが日記? 読みましたか?」とミサ。
「いや、読んだことはない。表紙に『絶対に読むな』と書いてあるから」と男性。
「そりゃ、日記を他人に読まれたくなかっただろうな」とジュン。
「いいえ、故人にプライバシーなんてありません。読んじゃいましょう」とミサ。
日記を開くと、一同は目が点になった。ミサがつぶやく。
「何、これ? 文字は同じでも、意味不明だわ。現代の言葉ではないわね」
「いや、これはもしかして暗号かも。他人に読まれないための……」
タクが初めて口を開いてそう言った。みんなに注目されて、タクはさらに説明した。
「ほら、『バナナ』と書きたい時に、一文字ずつずらして『ビニニ』と書く暗号ですよ」
みんなで最初のページを確認すると、確かに一文字ずらすと意味をなす文章になっている。一同は、すぐさま暗号の解読にとりかかった。
そして数時間後、ナギトとナプサは地球一家と一緒に家に戻った。
「お帰りなさい。偉人の正体はつかめたかしら?」
出迎えたHMの質問に、母が代表して答えた。
「正体がつかめました。二人の偉人は同一人物で、科学者でも政治家でもなく、役者でした」
「役者?」
「百年以上前の舞台俳優です。そして、SFの科学者や架空の首相の役も演じたことがあるのでしょう。自宅で台本を読んで役作りの練習しているところをお孫さんが見て、それが代々言い伝えられたというのが、事の真相のようです」
「偉人伝なんて、そんなものなのね。半日もかけたのに、何も勉強できなかったわね」
ミサがそう言って子供たちに謝ると、ナギトは逆に目を輝かせた。
「そんなことありません。歴史の研究って面白いですね。僕、将来はこの星で初めての歴史学者になりたいです」
「私も。日記を解読するのも、とても楽しかった」
ナプサもそう言った。ミサは、ほほえみながらも冷静につぶやいた。
「暗号を解くのは、歴史の探究とはちょっと違うかもしれないわね」
地球一家6人がホストハウスに到着すると、HM(ホストマザー)が玄関で出迎えた。
「地球の皆さん、ようこそ」
リビングに案内された地球一家は二人の子供と対面し、互いに自己紹介した。長女のナプサは11歳、長男のナギトは10歳とのことだ。
「お願いです。二人に勉強を教えてやってくれない?」
HMにそう頼まれて、ミサがジュンに言った。
「ジュン、出番よ」
「いつも僕が算数や理科を教えているから、たまにはミサが社会科でも教えたらいいんじゃないか」
「理数系科目のほうが教えやすいじゃない。社会を教えるといっても、例えばこの星の歴史は地球の歴史とは違うだろうし」
ミサはそう言いながら、ナプサに頼んだ。
「そういえば、この星にはどんな歴史があるのかしら。ねえ、歴史の教科書を見せて」
「歴史なんて学校で習いませんよ」
「まだ習ってないの? もっと上の学年に行ってから習うのかしら」
ナプサは答えられず、代わりにHMが説明した。
「この星では、学校で歴史を習うことはありません。私たち大人でさえ、星の歴史のことなんて何も知らないんです」
「そうなんですか。意外ですね。でも言われてみれば、地球で私たちが歴史を勉強するのは何のためなのかしら? お母さんはどう思う?」
ミサがそう言って母に話を振ると、母は少しかしこまって答えた。
「歴史の勉強は、過去と現在の対話だと言われているわ。今の世の中のことをよく知るためには、過去のことを知る必要がある。例えば、歴史の勉強で一番重要なのは政治の歴史だけど、現在のような形の議会があって内閣があって裁判所があるのは、全て人間の歴史の積み重ねなのよ」
「でも、今の政治制度が残っているわけだから、成り立ちまで知らなくていいと思うけど」
「そんなことないわ。例えば、今の議会制度に不満を抱いて、新しい議会制度を提案した人がいたとする。でも、その提案のような制度は、実は何十年も前に存在していて、その欠点が明らかになったために今の制度に変更された。その事実を知らなかったとしたらどう?」
「確かに、今残されている制度というのは、先人たちの知恵の積み重ねだということを知る必要があるわけね」
「そのとおり。政治の歴史、科学の歴史、文化の歴史、どれも同じこと。過去に先人たちが考えてきた過程を知らなければ、同じ過ちを繰り返す。今まで築き上げてきたことを壊してしまって、また一から考え直すとすると、世の中が進歩していかない」
「地球が発展してきたのは、常に歴史を勉強してきたからなのね。そう考えると、この星の人たちが歴史を知らないのは残念なことね、お母さん」
「学校では教わっていなくても、図書館に行ってみれば歴史関係の本が見つかるかもよ」
「行ってみましょう。歴史の自由研究って、きっと面白いわ」
ミサは、ナプサとナギトを連れて近所の図書館を訪問し、司書の女性に尋ねた。
「歴史の本を借りたいんですけど」
「歴史の本というのはありません。そもそもこの星には、歴史学者や歴史研究家がいませんから。この星の歴史について執筆できる人なんていないんですよ」
「やはり、そうですか」
「強いて言えば、すぐそこの棚に伝記の本があります」
「偉人伝ということですか?」
「偉人といっても、歴史家が書いた文章ではなく、その人の子孫が親や祖父母から聞いた話を書いているだけです。全てが事実とは限りません。伝聞の過程で間違うこともあるでしょう」
「それでも、何もないよりましです。さあ、二人とも一冊ずつ選んで」
ミサはホストの子供たちの背中を押しながら、さらに司書に尋ねた。
「おすすめの本はありますか?」
司書は棚から2冊の本を選んで、ミサに見せた。
「こっちが男性科学者の伝記で、こっちは男性政治家の伝記です。この2冊は、内容的におすすめというわけではありませんが、裏表紙に書いてある著者の名前と住所を見ると、二人ともこの近所に住んでいることがわかります。何か質問があれば、すぐに聞きに行けると思って」
「確かに、それは自由研究としてちょうどいいですね。この2冊を借りて行きましょう」
家に戻ると、ナプサとナギトはさっそく一冊ずつ取って読み始めた。
ナプサが一冊読み終わるのを見計らい、ミサが尋ねた。
「ナプサさん、どう? 科学者の伝記、読み終わった?」
「はい。これを書いた人はその科学者のひ孫です。ひいおじいさんは、世紀の大発明をした人のようです」
「何を発明したの?」
「テレポーテーション、つまり人間が瞬間移動できるようになる飲み薬です。子供の頃からテレポーテーションに興味を持って、寝食を忘れて研究に没頭したらしいです」
「それはすごい!」
ナギトも一冊読み終わったようである。ミサが質問した。
「こっちの政治家は? 何をした人?」
「百年前に、我が国の首相だったらしいです。この本の著者のひいおじいさんです。それまで続いていた独裁政治をやめて、民主的な政治制度を初めて取り入れた人だと書いてあります」
「独裁政治というのは、首相が何もかも一人で決めてしまう政治のことでしょ。それに対して、民主政治というのは、国民投票などで国民の意見を幅広く聞いて、いろいろなことを決めていく政治のことね。その人の功績もすごいわ。でもやっぱり、テレポーテーションのほうがすごいわね。地球ではまだ発明されていないもの」
ミサは、ナプサの顔を見て目を輝かせた。
「ナプサさん、テレポーテーションを今やって見せてよ。できるんでしょ」
「いいえ、できません」
「できないの? その薬、高すぎて買えないのかしら」
「いや、そもそもテレポーテーションできる人の話なんて聞いたことがありません」
「そんな。やっぱり、歴史を学ばないとこうなってしまうのよ。百年が過ぎる間に忘れ去られて、風化してしまったんだわ。残念」
「もっと手がかりはないかしら」
「じゃあ、この住所まで行って、著者に会おうよ」
ミサの提案に従い、母、ミサ、ナプサの3人は本に書かれている住所に行き、著書である高齢女性と面会した。
3人を部屋に通すと、女性は語った。
「この本を書いたのは、確かに私よ。でも、テレポーテーションの薬が現代に残っていない理由まではわからないのよ」
ミサは、女性に尋ねた。
「この本に書かれていることは、どのようにして知ったんですか?」
「ひいおじいさんに直接会ったことはないけど、母から何度も聞かされていた話だから。母は子供の頃、ひいおじいさんがテレポーテーションの薬を発明したということを直接はっきり聞いている」
「もっと手がかりはないかしら。歴史を探求する方法って、何があるかしら」
ミサが悩むと、母がアイデアを出した。
「一番手がかりになるのは、日記ね。ひいおじいさんの日記なんて残ってないですか?」
「それがあればいいんだけど、残っていないわ。全て母親から聞いた話です。そうだ、手がかりといえば、はとこが一人、この近所に住んでいるので、聞いてみましょうか」
ミサが女性に聞き返した。
「はとこ? いとこじゃなくて?」
「同じ祖父母を持つ人同士が、いとこでしょ。同じ曽祖父母を持つのが、はとこ」
「つまり、この発明家のひ孫がもう一人、この近所にいらっしゃるということですよね。ぜひ会いに行きましょう」
女性は、3人を連れて近所のマンションの一室を訪れた。玄関を開けると、高齢の男性がすぐに出てきた。
「おー、久しぶり。お入りください。ちょうど今、ほかのお客さんも来ているところだ」
高齢男性の背後から顔を出したのは、ジュン、タク、ナギトの3人だった。
「どうしてここに?」とミサ。
「ナギト君が借りた伝記の本の著者に会いに行こうという話になって。それが、こちらの男性なんだ」とジュン。
「ということは、あなたのひいおじいさんは、独裁政治を廃止して民主政治を始めた首相ということですね?」とミサ。
「実は、そのことなんですけど……」
高齢男性が話し始める前に、まずナギトが説明を始めた。
「僕は知らなかったんですけど、さっき母さんに聞いたら、今この国では独裁政治なんだって」
「え、独裁政治に戻ってるの? やっぱり歴史の勉強をしないと後戻りしちゃうのかしら」
ミサがそう言うと、男性は腕を組んだ。
「その辺の事情は、実は僕にもわからなくて。ひいじいさんのことは、子供の頃から父に聞かされていた話をまとめただけなんで」
「ちょっと待って。今気が付いた。この2冊の本、偉人の名前が全く同じだわ!」とミサ。
「そしてお二人は、はとこ同士。ということは、この二人の偉人は同一人物……」とジュン。
「それはあり得ないでしょ。生涯を研究に費やして大発明を成し遂げた人が、同時に一国の首相でもあったなんて。少なくともどちらかが作り話ですよ。もう手がかりは何もないですか?」
ミサがそう言うと、母が援護射撃をするように男性に尋ねた。
「ひいおじいさんの日記なんて、残ってないですよね?」
「ありますよ」
え、あるの? みんなが不思議がる中、男性は押し入れから古びた本を一冊取り出した。
「これが日記? 読みましたか?」とミサ。
「いや、読んだことはない。表紙に『絶対に読むな』と書いてあるから」と男性。
「そりゃ、日記を他人に読まれたくなかっただろうな」とジュン。
「いいえ、故人にプライバシーなんてありません。読んじゃいましょう」とミサ。
日記を開くと、一同は目が点になった。ミサがつぶやく。
「何、これ? 文字は同じでも、意味不明だわ。現代の言葉ではないわね」
「いや、これはもしかして暗号かも。他人に読まれないための……」
タクが初めて口を開いてそう言った。みんなに注目されて、タクはさらに説明した。
「ほら、『バナナ』と書きたい時に、一文字ずつずらして『ビニニ』と書く暗号ですよ」
みんなで最初のページを確認すると、確かに一文字ずらすと意味をなす文章になっている。一同は、すぐさま暗号の解読にとりかかった。
そして数時間後、ナギトとナプサは地球一家と一緒に家に戻った。
「お帰りなさい。偉人の正体はつかめたかしら?」
出迎えたHMの質問に、母が代表して答えた。
「正体がつかめました。二人の偉人は同一人物で、科学者でも政治家でもなく、役者でした」
「役者?」
「百年以上前の舞台俳優です。そして、SFの科学者や架空の首相の役も演じたことがあるのでしょう。自宅で台本を読んで役作りの練習しているところをお孫さんが見て、それが代々言い伝えられたというのが、事の真相のようです」
「偉人伝なんて、そんなものなのね。半日もかけたのに、何も勉強できなかったわね」
ミサがそう言って子供たちに謝ると、ナギトは逆に目を輝かせた。
「そんなことありません。歴史の研究って面白いですね。僕、将来はこの星で初めての歴史学者になりたいです」
「私も。日記を解読するのも、とても楽しかった」
ナプサもそう言った。ミサは、ほほえみながらも冷静につぶやいた。
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