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第51話『食べ物の好き嫌い』
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■ 食べ物の好き嫌い
「おじゃまします」
地球一家6人がホストハウスに到着すると、リコが元気よくドアを開けた。出迎えてくれたホストファミリーは、HF(ホストファーザー)、HM(ホストマザー)、娘、息子の4人だ。
地球一家をリビングまで案内した後、HFが言った。
「地球の皆さん。突然ですが、明日放送されるテレビのトークショーに出演することが決まりました。到着早々すみませんが、この後すぐ収録に行っていただきたいんです」
テレビのトークショー?
「皆さんの自己紹介と、地球での生活について話してもらえれば十分ですから、緊張しないでください」
次に、HMがメモを片手に地球一家全員と目を合わせながら言った。
「トークショーの後、お弁当が支給されます。お一人ずつ好きな食べ物を教えてください」
母が迷いながら答えた。
「そうね。好きな食べ物と言ってもいろいろあるから……」
「好きな食べ物がいろいろあるんですね。では、絞り込みましょう。好きな野菜を教えてください」
今度は、父が答えた。
「みんな特別に好きな野菜があるわけじゃないけれど、逆に食べられない野菜はないですね。でも、リコだけは好き嫌いがあるかな」
「リコはイチゴが好き」とリコ。
「イチゴは野菜じゃなくて、果物だよ」とタク。
「この星では、イチゴは野菜ですよ。地球ではイチゴは果物なんですか?」とHM。
「あら、イチゴは本当は野菜だって学校で習ったわ」とミサ。
「そうか、地球でもイチゴは野菜なんだね」とタク。
これを聞いて、HMがメモをとった。
「リコちゃんの好きな野菜は、イチゴですね。ほかの方は、私が適当に見繕っておきますからお任せください。ところで、さっきリコちゃんには好き嫌いがあると言っていましたけど、好き嫌いとはどういう意味ですか? この星にはない言葉です」
今度は、ジュンが説明した。
「好き嫌いがあるというのは、嫌いで食べられない物があるという意味です。逆に、好き嫌いがないというのは、嫌いな物がなくて、何でも食べられるという意味ですよ」
「へえ。じゃあ、リコちゃんを除く皆さんは、何でも食べられるんですね。虫も食べるんですね」
HMの想定外の切り返しに、ジュンは驚いて言い返した。
「いや、虫なんて食べませんよ。どう説明すればいいのかな。確かに地球には虫を食べる民族もいます。でも、それはごく少数の人たちです。少数の人しか食べない物を食べられなくても、好き嫌いがあるとは言わないんです」
「なるほど、よくわかりました。その定義に当てはめて考えると、私たちは好き嫌いがありません。この星の住民は、全員好き嫌いがないと思います」
へえ、そうなのか。地球の多くの子供たちも見習うべきだな。
その時、玄関のドアが開き、男性の声がした。
「ごめんください。テレビ局の者です。地球の皆さんをお迎えにあがりました」
この声を聞いて、HMが地球一家に言った。
「ちょうどテレビ局の車が来ましたから、皆さん、収録に行ってください」
「テレビに出るなんて、緊張するな。何か気を付けなければいけないことはありますか?」
ジュンがそう尋ねると、HMは少し考え込んでから話し始めた。
「ごく常識的な話をしてくだされば、特に気を付けることなんてありませんよ。ただ一つ気になったんですが、ジュンさん。さっき、『虫なんて食べませんよ』と言いましたよね」
「はい。まずかったですか?」
「『虫なんて食べない』という言い方は、虫を食べる人を見下すか差別する表現だと思うんです」
「あー。そんなつもりはなかったんですけど、言われてみればそうかもしれません」
「虫を食べる人は、ごく少数だとおっしゃいましたよね。マイナーな趣味を持つ人を見下したり、大多数の人が好きでない物を好きだと主張する人のことを差別したりするのは、この星のテレビではタブーです。どうぞお気を付けください」
HMの老婆心に対して、父が胸を張って答えた。
「大丈夫ですよ。我々一家は、そのような差別心は基本的に持っていませんから。では、行ってまいります」
「私たちも後で収録を見学に行きますから。楽しみにしています」
地球一家を乗せた車がテレビ局に到着すると、担当の若い女性がすぐに出迎えた。
「今日は皆さんの番組収録を担当させていただきます。よろしくお願いします」
互いに挨拶を交わすと、女性は困った表情で話した。
「ところで、皆さんのホストファミリーの方々と連絡をとりたいのですが、もうお家を出てしまっているようで、連絡がつかなくて」
「何かお困りですか?」
母が尋ねると、女性はこう答えた。
「地球の皆さん6人分のお弁当はもう手配しているんですけど、実は、見学されるホストファミリー4人の方のお弁当も支給されるんですよ。でも、私は4人の方の食べ物の好みをまだ聞いていなかったんです」
「なるほど。それならば、私たちが選びますよ。メニューを見せてもらえますか」
「はい。お弁当は、この中から選んでください」
女性が母にメニューを手渡すと、ミサが心配そうに母に尋ねた。
「お母さん、大丈夫? 選べるの?」
「ホストファミリーの皆さん、好き嫌いは何もないと言っていたじゃない。適当に選びましょう」
しかし、メニューを開くと同時に、地球一家は驚いた。写真を見ると、パンだけが入ったお弁当、鶏肉だけが入ったお弁当、トマトだけが入ったお弁当のように、どれも食べ物が一種類ずつしか入っていないのだ。母はミサにアイデアを求めた。
「どうやって選べばいいのかしら?」
「不思議なお弁当ね。でも4人分選ぶわけだから、パン一つ、鶏肉一つ、サーモン一つ、トマト一つでいいんじゃない。そうすれば、4人で分け合って食べられるでしょ」
「それはいい考えね」
母は賛成し、すぐに係の女性を呼んでメニューを指しながら頼んだ。
「すみません。これと、これと、これと、これをお願いします」
いよいよ番組の収録が始まった。地球一家は一人ずつ、自己紹介や地球での生活、旅の思い出などを語った。
5人の紹介が終わり、最後はリコの番だ。リコは一人で話すのに慣れていないため、父がリコを紹介しながら話をする形式をとった。
「この子の特技は物を覚えることで、とにかく記憶力がすごいんですよ。それから、えーと、ほかに何があったかな?」
父がリコに話題を促すと、リコはすぐにはっきりと答えた。
「私はイチゴが好きです」
「そう、そう。リコはイチゴが大好物だな。野菜を食べずにイチゴばっかり食べることもあるもんね。リコは少し好き嫌いがあることが欠点だな」
こうして、番組の収録がひとまず終わった。女性が父に声をかけた。
「お疲れ様でした」
「あれ? ホストファミリーの皆さんはどこへ行ったかな?」
「見学者たちは、今から大ホールのテーブル席で食事をとるところですよ」
「よし、感想を聞きに行くか」
大ホールに着くと、ホストファミリー4人がお弁当を受け取ってとまどっている様子だった。
「どうかしましたか?」と母。
「はい。私たち4人とも、このお弁当が食べられないんです」とHM。
「どういうことですか?」とジュン。
「私が食べられる食べ物は、ジャガイモだけなんです」とHM。
「僕は牛肉しか食べられないんです」とホストの息子。
「私はブロッコリーしか食べられないんです」とホストの娘。
「僕はエビしか食べられないんです」とHF。
「うそでしょ? 皆さん、好き嫌いは何もないって……」とミサ。
すると、HMが理解の違いがわかるように説明した。
「好き嫌いという言葉の意味をお聞きした時、少数の人しか食べない物を食べられない場合は好き嫌いには該当しないって説明してくれましたよね。私の場合はジャガイモしか食べませんから、パンも鶏肉もサーモンもトマトも食べられません。でも、この星ではパンを食べる人も、鶏肉を食べる人も、サーモンを食べる人も、トマトを食べる人も、ごく少数なんです。だから、好き嫌いにはならないということですよね?」
ホストのほかの3人も、全く同じ主旨の説明をした。地球一家は、納得はしたもののぼう然としていると、係の女性が話しかけた。
「地球の皆さん。皆さんのお弁当は楽屋に届いていますから、お召し上がりください」
女性は6人を楽屋まで案内し、テーブルの上に6つの弁当を並べた。
「これがリコちゃんのイチゴ弁当です」
箱の中にイチゴだけがぎっしり詰まっている。
「ほかの5人の方の弁当はこちらです」
え、まさか!
嫌な予感がしたとおり、ほかの5個の弁当の中身は、生のニンジンだけだった。
「なんでこうなるの?」とタク。
「そうか、僕たち、野菜は何でも食べられると言ったからか」とジュン。
その後、地球一家はホストファミリーと一緒に帰宅し、客間で睡眠をとった。
そして、翌朝。目を覚ました一家は、食べ物について話し合った。
「おはよう。ニンジンが夢に出てきたよ」とタク。
「昨日、一生分のニンジンを食べ尽くしたからな」とジュン。
「一生分は大げさよ。でも、しばらく食べたくないわね」とミサ。
「皆さん、朝ご飯の準備ができましたよ」
HMの声を聞いてダイニングに向かうと、並べられた食材は全てニンジンだった。しまった、もうたくさんだと言っておけばよかった。
「さあ、昨日収録したトークショーが始まりますよ。テレビをつけましょう」
HMは、そう言ってテレビのスイッチを入れた。トークショーが始まり、全員でテレビにかじりついた。地球一家と司会者のトークは問題なく進んだように思えたが、最後に異変が生じた。リコの紹介部分が完全にカットされていたのだ。タクが不思議そうに叫ぶ。
「あれ、リコが放送されないまま終わっちゃったぞ」
その時、玄関のドアが開くと同時に、前日と同じテレビ局の係の女性が入ってきた。
「ごめんください。昨日はありがとうございました。これを直接お渡ししたくて。この番組が録画されたディスクです。地球のデッキでも再生できると思いますよ」
父は、ディスクを受け取りながら女性に言った。
「ありがとうございます。それはそうと、リコの部分がカットされていたんですけれど」
「ごめんなさい。不適切な発言があって、放送できなかったんですよ」
「不適切な発言なんてありましたか?」
「お父様がリコちゃんを紹介する時に、『好き嫌いがあるのが欠点だ』と言いましたよね」
「それの何がいけなかったんですか?」
「好き嫌いという言葉の意味が私にはわからなくて、ホストの方に尋ねたんです」
女性がHMのほうを向くと、HMが代わって説明を続けた。
「はい。私は、地球の皆さんに教わったとおりの意味をお伝えしました。つまり、好き嫌いとは、嫌いで食べられない物があるという意味。ただし、虫のように、ごく少数の人しか食べない物を食べられなくても、それは好き嫌いにはならないと」
これを受けて、女性が父に向かって説明した。
「つまり、マイナーな食べ物が好きな人がメジャーな食べ物を食べられない場合には好き嫌いになるけれど、その逆の場合は好き嫌いにならないんですよね。そして、好き嫌いがあることが欠点だとおっしゃった。これは、マイナー志向の人を見下す発言に該当すると判断いたしました」
「いや、けっしてそんなつもりでは……。でも、そうなってしまうのか。リコ、こんなことになってしまって、お父さんが悪かった」
「いいよ。イチゴがたくさん食べられたから」
リコは、テレビに出られなくても十分満足そうだった。
「おじゃまします」
地球一家6人がホストハウスに到着すると、リコが元気よくドアを開けた。出迎えてくれたホストファミリーは、HF(ホストファーザー)、HM(ホストマザー)、娘、息子の4人だ。
地球一家をリビングまで案内した後、HFが言った。
「地球の皆さん。突然ですが、明日放送されるテレビのトークショーに出演することが決まりました。到着早々すみませんが、この後すぐ収録に行っていただきたいんです」
テレビのトークショー?
「皆さんの自己紹介と、地球での生活について話してもらえれば十分ですから、緊張しないでください」
次に、HMがメモを片手に地球一家全員と目を合わせながら言った。
「トークショーの後、お弁当が支給されます。お一人ずつ好きな食べ物を教えてください」
母が迷いながら答えた。
「そうね。好きな食べ物と言ってもいろいろあるから……」
「好きな食べ物がいろいろあるんですね。では、絞り込みましょう。好きな野菜を教えてください」
今度は、父が答えた。
「みんな特別に好きな野菜があるわけじゃないけれど、逆に食べられない野菜はないですね。でも、リコだけは好き嫌いがあるかな」
「リコはイチゴが好き」とリコ。
「イチゴは野菜じゃなくて、果物だよ」とタク。
「この星では、イチゴは野菜ですよ。地球ではイチゴは果物なんですか?」とHM。
「あら、イチゴは本当は野菜だって学校で習ったわ」とミサ。
「そうか、地球でもイチゴは野菜なんだね」とタク。
これを聞いて、HMがメモをとった。
「リコちゃんの好きな野菜は、イチゴですね。ほかの方は、私が適当に見繕っておきますからお任せください。ところで、さっきリコちゃんには好き嫌いがあると言っていましたけど、好き嫌いとはどういう意味ですか? この星にはない言葉です」
今度は、ジュンが説明した。
「好き嫌いがあるというのは、嫌いで食べられない物があるという意味です。逆に、好き嫌いがないというのは、嫌いな物がなくて、何でも食べられるという意味ですよ」
「へえ。じゃあ、リコちゃんを除く皆さんは、何でも食べられるんですね。虫も食べるんですね」
HMの想定外の切り返しに、ジュンは驚いて言い返した。
「いや、虫なんて食べませんよ。どう説明すればいいのかな。確かに地球には虫を食べる民族もいます。でも、それはごく少数の人たちです。少数の人しか食べない物を食べられなくても、好き嫌いがあるとは言わないんです」
「なるほど、よくわかりました。その定義に当てはめて考えると、私たちは好き嫌いがありません。この星の住民は、全員好き嫌いがないと思います」
へえ、そうなのか。地球の多くの子供たちも見習うべきだな。
その時、玄関のドアが開き、男性の声がした。
「ごめんください。テレビ局の者です。地球の皆さんをお迎えにあがりました」
この声を聞いて、HMが地球一家に言った。
「ちょうどテレビ局の車が来ましたから、皆さん、収録に行ってください」
「テレビに出るなんて、緊張するな。何か気を付けなければいけないことはありますか?」
ジュンがそう尋ねると、HMは少し考え込んでから話し始めた。
「ごく常識的な話をしてくだされば、特に気を付けることなんてありませんよ。ただ一つ気になったんですが、ジュンさん。さっき、『虫なんて食べませんよ』と言いましたよね」
「はい。まずかったですか?」
「『虫なんて食べない』という言い方は、虫を食べる人を見下すか差別する表現だと思うんです」
「あー。そんなつもりはなかったんですけど、言われてみればそうかもしれません」
「虫を食べる人は、ごく少数だとおっしゃいましたよね。マイナーな趣味を持つ人を見下したり、大多数の人が好きでない物を好きだと主張する人のことを差別したりするのは、この星のテレビではタブーです。どうぞお気を付けください」
HMの老婆心に対して、父が胸を張って答えた。
「大丈夫ですよ。我々一家は、そのような差別心は基本的に持っていませんから。では、行ってまいります」
「私たちも後で収録を見学に行きますから。楽しみにしています」
地球一家を乗せた車がテレビ局に到着すると、担当の若い女性がすぐに出迎えた。
「今日は皆さんの番組収録を担当させていただきます。よろしくお願いします」
互いに挨拶を交わすと、女性は困った表情で話した。
「ところで、皆さんのホストファミリーの方々と連絡をとりたいのですが、もうお家を出てしまっているようで、連絡がつかなくて」
「何かお困りですか?」
母が尋ねると、女性はこう答えた。
「地球の皆さん6人分のお弁当はもう手配しているんですけど、実は、見学されるホストファミリー4人の方のお弁当も支給されるんですよ。でも、私は4人の方の食べ物の好みをまだ聞いていなかったんです」
「なるほど。それならば、私たちが選びますよ。メニューを見せてもらえますか」
「はい。お弁当は、この中から選んでください」
女性が母にメニューを手渡すと、ミサが心配そうに母に尋ねた。
「お母さん、大丈夫? 選べるの?」
「ホストファミリーの皆さん、好き嫌いは何もないと言っていたじゃない。適当に選びましょう」
しかし、メニューを開くと同時に、地球一家は驚いた。写真を見ると、パンだけが入ったお弁当、鶏肉だけが入ったお弁当、トマトだけが入ったお弁当のように、どれも食べ物が一種類ずつしか入っていないのだ。母はミサにアイデアを求めた。
「どうやって選べばいいのかしら?」
「不思議なお弁当ね。でも4人分選ぶわけだから、パン一つ、鶏肉一つ、サーモン一つ、トマト一つでいいんじゃない。そうすれば、4人で分け合って食べられるでしょ」
「それはいい考えね」
母は賛成し、すぐに係の女性を呼んでメニューを指しながら頼んだ。
「すみません。これと、これと、これと、これをお願いします」
いよいよ番組の収録が始まった。地球一家は一人ずつ、自己紹介や地球での生活、旅の思い出などを語った。
5人の紹介が終わり、最後はリコの番だ。リコは一人で話すのに慣れていないため、父がリコを紹介しながら話をする形式をとった。
「この子の特技は物を覚えることで、とにかく記憶力がすごいんですよ。それから、えーと、ほかに何があったかな?」
父がリコに話題を促すと、リコはすぐにはっきりと答えた。
「私はイチゴが好きです」
「そう、そう。リコはイチゴが大好物だな。野菜を食べずにイチゴばっかり食べることもあるもんね。リコは少し好き嫌いがあることが欠点だな」
こうして、番組の収録がひとまず終わった。女性が父に声をかけた。
「お疲れ様でした」
「あれ? ホストファミリーの皆さんはどこへ行ったかな?」
「見学者たちは、今から大ホールのテーブル席で食事をとるところですよ」
「よし、感想を聞きに行くか」
大ホールに着くと、ホストファミリー4人がお弁当を受け取ってとまどっている様子だった。
「どうかしましたか?」と母。
「はい。私たち4人とも、このお弁当が食べられないんです」とHM。
「どういうことですか?」とジュン。
「私が食べられる食べ物は、ジャガイモだけなんです」とHM。
「僕は牛肉しか食べられないんです」とホストの息子。
「私はブロッコリーしか食べられないんです」とホストの娘。
「僕はエビしか食べられないんです」とHF。
「うそでしょ? 皆さん、好き嫌いは何もないって……」とミサ。
すると、HMが理解の違いがわかるように説明した。
「好き嫌いという言葉の意味をお聞きした時、少数の人しか食べない物を食べられない場合は好き嫌いには該当しないって説明してくれましたよね。私の場合はジャガイモしか食べませんから、パンも鶏肉もサーモンもトマトも食べられません。でも、この星ではパンを食べる人も、鶏肉を食べる人も、サーモンを食べる人も、トマトを食べる人も、ごく少数なんです。だから、好き嫌いにはならないということですよね?」
ホストのほかの3人も、全く同じ主旨の説明をした。地球一家は、納得はしたもののぼう然としていると、係の女性が話しかけた。
「地球の皆さん。皆さんのお弁当は楽屋に届いていますから、お召し上がりください」
女性は6人を楽屋まで案内し、テーブルの上に6つの弁当を並べた。
「これがリコちゃんのイチゴ弁当です」
箱の中にイチゴだけがぎっしり詰まっている。
「ほかの5人の方の弁当はこちらです」
え、まさか!
嫌な予感がしたとおり、ほかの5個の弁当の中身は、生のニンジンだけだった。
「なんでこうなるの?」とタク。
「そうか、僕たち、野菜は何でも食べられると言ったからか」とジュン。
その後、地球一家はホストファミリーと一緒に帰宅し、客間で睡眠をとった。
そして、翌朝。目を覚ました一家は、食べ物について話し合った。
「おはよう。ニンジンが夢に出てきたよ」とタク。
「昨日、一生分のニンジンを食べ尽くしたからな」とジュン。
「一生分は大げさよ。でも、しばらく食べたくないわね」とミサ。
「皆さん、朝ご飯の準備ができましたよ」
HMの声を聞いてダイニングに向かうと、並べられた食材は全てニンジンだった。しまった、もうたくさんだと言っておけばよかった。
「さあ、昨日収録したトークショーが始まりますよ。テレビをつけましょう」
HMは、そう言ってテレビのスイッチを入れた。トークショーが始まり、全員でテレビにかじりついた。地球一家と司会者のトークは問題なく進んだように思えたが、最後に異変が生じた。リコの紹介部分が完全にカットされていたのだ。タクが不思議そうに叫ぶ。
「あれ、リコが放送されないまま終わっちゃったぞ」
その時、玄関のドアが開くと同時に、前日と同じテレビ局の係の女性が入ってきた。
「ごめんください。昨日はありがとうございました。これを直接お渡ししたくて。この番組が録画されたディスクです。地球のデッキでも再生できると思いますよ」
父は、ディスクを受け取りながら女性に言った。
「ありがとうございます。それはそうと、リコの部分がカットされていたんですけれど」
「ごめんなさい。不適切な発言があって、放送できなかったんですよ」
「不適切な発言なんてありましたか?」
「お父様がリコちゃんを紹介する時に、『好き嫌いがあるのが欠点だ』と言いましたよね」
「それの何がいけなかったんですか?」
「好き嫌いという言葉の意味が私にはわからなくて、ホストの方に尋ねたんです」
女性がHMのほうを向くと、HMが代わって説明を続けた。
「はい。私は、地球の皆さんに教わったとおりの意味をお伝えしました。つまり、好き嫌いとは、嫌いで食べられない物があるという意味。ただし、虫のように、ごく少数の人しか食べない物を食べられなくても、それは好き嫌いにはならないと」
これを受けて、女性が父に向かって説明した。
「つまり、マイナーな食べ物が好きな人がメジャーな食べ物を食べられない場合には好き嫌いになるけれど、その逆の場合は好き嫌いにならないんですよね。そして、好き嫌いがあることが欠点だとおっしゃった。これは、マイナー志向の人を見下す発言に該当すると判断いたしました」
「いや、けっしてそんなつもりでは……。でも、そうなってしまうのか。リコ、こんなことになってしまって、お父さんが悪かった」
「いいよ。イチゴがたくさん食べられたから」
リコは、テレビに出られなくても十分満足そうだった。
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