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第35話『デートの組み合わせ』
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■ デートの組み合わせ
今日のホストファミリーが経営するペンションに到着した地球一家6人は、さっそくレストランに案内された。ホストは6人家族で、HM(ホストマザー)、HF(ホストファーザー)、長男のイルト、長女のマラサ、次男のブルト、それにおばあちゃんだ。HMは、携帯端末を地球一家6人全員に手渡した。
「皆さん、滞在する間は、ずっとこれを持っていてください。電話としても使えるけど、もっと便利よ。例えば、このレストランの注文は、この機械でできます。ちょっと貸してみて」
HMは、リコの機械を手に取った。
「リコちゃんは、パスタが食べたいって言ったわね。このボタンを押してパスタを選んで、このボタンを押します。はい、注文、完了」
HMは、リコに機械を返した。地球一家は、めいめい機械を操作した。
「私は、この『数量限定・スペシャルオムライス』がいいな」
ミサがそう言ってボタンを押すと、タクが興味を示した。
「あ、僕もそれにしようかな。いや、やっぱりやめようかな……」
「おいしそうよ。タクも決めちゃいなよ」
タクもボタンを押したが、ピピッという音が鳴った。HMが言う。
「あら、ごめんなさい。赤いランプが点灯したわね。品切れだわ。ミサさんが注文したのが最後の一個だったみたい」
タクが、やられたという表情をすると、ジュンがホスト一家に向かって話した。
「ミサとタクの性格がそのまま表れたな。いつもこんな感じなんですよ。ミサはいつも決断が早くて、狙った物をパッと手に入れるんですけど、タクはちゅうちょして逃しちゃうんです」
全員が笑うと、ミサはタクに心の中で謝った。
「タク、ごめんね、いつも私が先に取っちゃって。次はきっと、譲ってあげるからね」
HMが再び携帯端末を見せた。
「この端末には、もっと便利な使い方があるわよ。スケジューラー機能があるの。つまり、カレンダーに予定を入れたり、誰かを選んで、予定に誘ったりできるのよ。ちょっとやってみましょうか。今日の夕食は7時からですが、その後8時から、皆さん予定は空いていますか?」
「空いていますよ。何か面白いイベントでもあるんですか?」と父。
「ちょうどここの裏に、ホタルの丘という公園があって、8時からホタルを見るナイトツアーがあるんですよ。みんなで一緒にと言いたいところなんですが、そこはデートスポットになっていて、二人乗りの自動運転の車に乗って周るんです。だから、二人ずつのペアを作らないと……。ブルト、その機械を使って、リコちゃんを誘ってみてくれる?」
ブルトは、機械をゆっくり操作して見せた。地球一家の顔写真が画面上に次々と現れ、リコの顔になった時、ブルトはボタンを押した。HMが言う。
「はい、リコちゃんの機械に、ブルトからの招待が出たわね」
リコが機械の画面を見ると、ブルトの顔写真が現れた。
「リコちゃん、招待を受ける時は青いボタンを押してちょうだい」
HMの指示に従い、リコは青いボタンを押した。
「はい、めでたく二人の予定が入ったわ。予定表を見て確認してみて」
リコは、HMの言うとおりにスケジュール画面に移動した。8時に色がついている。
HMは、父をナイトツアーに誘おうと自分の機械のボタンを押そうとしたが、その前に、母が入り込み、すかさず自分のボタンを押した。
「私たちは夫婦で行きますから」
「あ、そうですか。じゃあ、私たちも夫婦で周りましょうか」
HMはつまらなそうにHFに向けてボタンを押し、HFもボタンを押した。
「私、ジュンさんを誘っちゃおう」
マラサがボタンを押した。ジュンは、うれしそうにこれに応じてボタンを押した。
「これで4組成立だな。イルトはミサさんを誘いたいんじゃないかな」
HFがそう言うと、HMが困った顔になった。
「それだと、タクちゃんが一人余っちゃうわね」
「おばあちゃんがいるじゃないか」
「あら、それじゃ、タクちゃんがかわいそう」
気が付くと、その場にイルトとおばあちゃんがいない。
その頃、レストランの柱の陰で、イルトが一人でもじもじしながら立っていた。
「あー、面と向かって誘うなんて僕にはできないや。この機械はボタン一つでデートに誘えるから、便利だ。ミサさん、僕と一緒にナイトツアーに行ってください」
イルトは一人でそうつぶやき、目を閉じてボタンを押した。
ミサの機械が青く光ったが、ミサは気付かずHMに尋ねた。
「この機械、ここに来ているほかのお客さんを誘うことはできますか? 私、あそこに座っている男の子が気になっているんですけど。ほら、あのかっこいい人」
ミサの指差す先の家族には、かっこいい男子とかわいい女子がいる。
「あ、あの兄妹はうちの常連さんよ。男の子がアズモ君で、女の子がアズナちゃん。大丈夫よ。誘っちゃいなさい」
ミサは、タクの肩をつついた。
「ねえ、タク。アズナちゃん、かわいいじゃない。誘いなさいよ。私が話してあげるから」
「え、恥ずかしいよ」
「大丈夫、一緒に行こう」
立ち上がるミサに、HMが声をかけた。
「恥ずかしければ、直接話さずにその機械で誘えばいいのよ。そのための機械なんだから」
「え、でも、会ったことのない人をいきなり機械で誘うなんて、私にはできないから」
ミサはタクの手を引っ張り、アズモとアズナのほうへ向かった。
一方、レストランのトイレの前では、HFとおばあちゃんが鉢合わせた。
「おばあちゃん、ここにいたんですか。タクちゃんをナイトツアーに誘ってあげてくださいよ」
「えー、私が誘ったんじゃ、タクちゃんがかわいそうですよ」
「そんなことないですよ。おばあちゃんが誘わないと、タクちゃんの相手がいなくて、それこそ気の毒だから」
おばあちゃんはうなずき、機械をポケットから取り出した。
その頃、ミサとタクはアズナの前に立った。ミサは、タクの頭を押した。
「ほら、恥ずかしがらないで誘いなさい」
「あ、あの、今晩8時から、僕とナイトツアーに行きませんか? お願いします」
タクが照れながらアズナに言うと、アズナはタクの機械を指してそっけなく答えた。
「デートに誘う時は、みんなその機械を使うのよ」
「は、はい」
タクは、機械を操作しながら、ミサに小声で聞いた。
「ねえ、今の返事は何なんだろう。オーケーかな、駄目なのかな?」
「さあ、こっちの習慣はよくわからないから、とにかく機械を使って誘うしかないわ」
タクは、ボタンを押した。アズナもすぐに自分の機械のボタンを押す。タクの機械に黄色いランプが光る。これは何だろう? 動揺しているタクに、アズナが教えた。
「黄色は保留の印よ。つまり、私は今すぐには、あなたに返事ができないの」
「どうして?」
「私、さっき別の人をナイトツアーに誘ったんだけど、返事が返ってこないのよ。もしもそれがオーケーならば、あなたのお誘いは受けられないし、もしも駄目だったら受けられるんだけど、返事が来るまでは答えられないから、もう少し待ってくれない?」
「うん、わかった」
その時、タクの機械のランプが光る。画面におばあちゃんの顔が映る。
「あ、おばあちゃんからナイトツアーの誘いが来た……。とりあえず、僕も保留にするしかないな。アズナさんから断られたら受けられるけど、今はまだはっきりしないから」
タクは、黄色い保留ボタンを押した。
「そうだ、私もお誘いしなきゃ」
ミサは、アズモの所に行く。
「お願いします」
ミサがボタンを押すと、アズモもすかさず押した。ミサの機械に黄色いランプが光る。
「え、私も保留?」
「ごめん、たった今、別の人をナイトツアーに誘っていて返事待ちなんだ。その結果が出たら、返事するよ。それより、さっきから、君の機械に青いランプがついてるよ」
ミサが機械を操作すると、イルトの顔が映った。
「しまった。イルトさんから誘いが来ていたんだ」
「そういうのは、ほかの人を誘う前にまず返事をしておかなきゃ」
アズモがそう言うと、横にいたアズナが話に入ってきた。
「どうしよう。イルトさんはあなたを誘っていたのね」
「え?」
「私が誘って返事が来ない相手というのは、イルトさんなのよ」
「イルトさんとデートしたいなんて、アズナも物好きだな」
アズモがつぶやいた。ミサは頭が混乱させながら言う。
「なんだか、複雑になってきた。整理すると、おばあちゃんがタクを誘って、タクがアズナさんを誘って、アズナさんがイルトさんを誘って、イルトさんが私を誘って、私がアズモさんを誘っている、全員が返事待ちの宙ぶらりん。そういう状態なわけね。いずれにしても、アズモさんが誘った相手からの返事が来れば、順番に全部解決するわ」
「それは無理だな。実は、僕が誘った相手というのは、おばあちゃんなんだ」
アズモがそう言ったので、アズナ、ミサ、タクの3人は驚きの声をあげた。
「おばあちゃんとは仲がいいんだ。ナイトツアーに一緒に行きたいとかねがね思っていて」
「アズモ、あなたこそ、物好きじゃない」とアズナ。
「ということは、なんというか、グルグル状態になったんだわ。6人のうち、誰かが諦めないと、決まらないわね」
ミサがそう言うと、ジュンが近づいてきた。
「ミサ、どうしたの? 何か問題でも?」
「うん、私はアズモさんを誘ったんだけど、同時にイルトさんから誘われて……」
「三角関係ってわけか」
「違うよ。六角関係だよ」とタク。
タクとミサは、二人で客室に入った。ミサは、紙に6人の顔の絵の入った六角形の図を描いてタクに見せた。
「誰が諦めるかによって、組み合わせが変わるのよ。私とアズモさんがデートできるとすると、おばあちゃんとタク、アズナさんとイルトさんの組み合わせになるわね」
「僕とアズナさんがデートできる場合は、ミサとイルトさん、アズモさんとおばあちゃんという組み合わせか。僕たち二人とも夢がかなうのは無理なんだね。ミサはアズモさんとデートしたいよね。僕がキャンセルしようか?」
タクは、機械を操作しようしたが、ミサがその手を止めた。
「ちょっと待って。二人ともうまく行くかもしれないわ。その場合は、イルトさんとおばあちゃんが余ることになるけど。とにかく、ほかの誰かが先に諦めるかもしれないから、それを待ってみようよ。まだ8時まで時間はあるんだから」
その日の夕食時、レストランでミサはアズモのいるテーブルに行った。
「誰も諦めないままだわ。8時まであと10分よ」
「そりゃ、無理だよ。この星の習慣では、一度送った誘いを自分からキャンセルするなんてあり得ないんだよ」
「じゃあ、今回みたいな場合はどうなるの? 誰かがキャンセルしないと、全員の予定がパーになっちゃうじゃない」
「そもそもこんなグルグル状態にはなるはずないからね。みんな、自分が受けた誘いの返事を先にするものだから」
「そうか、私がイルトさんから誘われているのに気付かずにあなたを誘ってしまったのが、そもそもの原因だったのね」
「あと5分だよ。どうする? この星の人は、絶対に自分から諦めることはしないから、ミサさんか、それともタク君か、二人のうちどちらかが諦めない限り、ナイトツアーには誰も行けなくなるよ」
「え、そんな。いつも私ばかりいい思いをしているから、今回はタクに譲るわ」
ミサが取り消しのボタンを押そうとした時、青いランプが光った。アズモの機械の青いランプも光る。ミサは不思議そうな顔でアズモに言う。
「あれ、まだ押してないのに。どういうことかしら?」
「タク君が先に諦めたんだよ。ほら、スケジュールに入った。僕たち、一緒に行けるね」
ミサは、地球一家のテーブルに座っていたタクのもとへと向かった。
「タク、どうして諦めちゃったの?」
「今、ホストの皆さんから聞いたんだ。僕かミサか、二人のどっちかが諦めるしかないって。ミサは、狙った物は絶対に最後まで諦めない性格だって、僕は知ってるからね」
8時を過ぎ、ホタルの丘に二人乗りの車が次々に進んでいく。父と母の車、リコとブルトの車、HFとHMの車、ジュンとマラサの車、アズナとイルトの車。そして、ミサとアズモの車。
ミサが後ろを振り返り、心の中でつぶやいた。
「タク、ごめんね。この次こそ、きっと譲ってあげるから」
さらにその後ろを走るのは、タクとおばあちゃんの車。
今日のホストファミリーが経営するペンションに到着した地球一家6人は、さっそくレストランに案内された。ホストは6人家族で、HM(ホストマザー)、HF(ホストファーザー)、長男のイルト、長女のマラサ、次男のブルト、それにおばあちゃんだ。HMは、携帯端末を地球一家6人全員に手渡した。
「皆さん、滞在する間は、ずっとこれを持っていてください。電話としても使えるけど、もっと便利よ。例えば、このレストランの注文は、この機械でできます。ちょっと貸してみて」
HMは、リコの機械を手に取った。
「リコちゃんは、パスタが食べたいって言ったわね。このボタンを押してパスタを選んで、このボタンを押します。はい、注文、完了」
HMは、リコに機械を返した。地球一家は、めいめい機械を操作した。
「私は、この『数量限定・スペシャルオムライス』がいいな」
ミサがそう言ってボタンを押すと、タクが興味を示した。
「あ、僕もそれにしようかな。いや、やっぱりやめようかな……」
「おいしそうよ。タクも決めちゃいなよ」
タクもボタンを押したが、ピピッという音が鳴った。HMが言う。
「あら、ごめんなさい。赤いランプが点灯したわね。品切れだわ。ミサさんが注文したのが最後の一個だったみたい」
タクが、やられたという表情をすると、ジュンがホスト一家に向かって話した。
「ミサとタクの性格がそのまま表れたな。いつもこんな感じなんですよ。ミサはいつも決断が早くて、狙った物をパッと手に入れるんですけど、タクはちゅうちょして逃しちゃうんです」
全員が笑うと、ミサはタクに心の中で謝った。
「タク、ごめんね、いつも私が先に取っちゃって。次はきっと、譲ってあげるからね」
HMが再び携帯端末を見せた。
「この端末には、もっと便利な使い方があるわよ。スケジューラー機能があるの。つまり、カレンダーに予定を入れたり、誰かを選んで、予定に誘ったりできるのよ。ちょっとやってみましょうか。今日の夕食は7時からですが、その後8時から、皆さん予定は空いていますか?」
「空いていますよ。何か面白いイベントでもあるんですか?」と父。
「ちょうどここの裏に、ホタルの丘という公園があって、8時からホタルを見るナイトツアーがあるんですよ。みんなで一緒にと言いたいところなんですが、そこはデートスポットになっていて、二人乗りの自動運転の車に乗って周るんです。だから、二人ずつのペアを作らないと……。ブルト、その機械を使って、リコちゃんを誘ってみてくれる?」
ブルトは、機械をゆっくり操作して見せた。地球一家の顔写真が画面上に次々と現れ、リコの顔になった時、ブルトはボタンを押した。HMが言う。
「はい、リコちゃんの機械に、ブルトからの招待が出たわね」
リコが機械の画面を見ると、ブルトの顔写真が現れた。
「リコちゃん、招待を受ける時は青いボタンを押してちょうだい」
HMの指示に従い、リコは青いボタンを押した。
「はい、めでたく二人の予定が入ったわ。予定表を見て確認してみて」
リコは、HMの言うとおりにスケジュール画面に移動した。8時に色がついている。
HMは、父をナイトツアーに誘おうと自分の機械のボタンを押そうとしたが、その前に、母が入り込み、すかさず自分のボタンを押した。
「私たちは夫婦で行きますから」
「あ、そうですか。じゃあ、私たちも夫婦で周りましょうか」
HMはつまらなそうにHFに向けてボタンを押し、HFもボタンを押した。
「私、ジュンさんを誘っちゃおう」
マラサがボタンを押した。ジュンは、うれしそうにこれに応じてボタンを押した。
「これで4組成立だな。イルトはミサさんを誘いたいんじゃないかな」
HFがそう言うと、HMが困った顔になった。
「それだと、タクちゃんが一人余っちゃうわね」
「おばあちゃんがいるじゃないか」
「あら、それじゃ、タクちゃんがかわいそう」
気が付くと、その場にイルトとおばあちゃんがいない。
その頃、レストランの柱の陰で、イルトが一人でもじもじしながら立っていた。
「あー、面と向かって誘うなんて僕にはできないや。この機械はボタン一つでデートに誘えるから、便利だ。ミサさん、僕と一緒にナイトツアーに行ってください」
イルトは一人でそうつぶやき、目を閉じてボタンを押した。
ミサの機械が青く光ったが、ミサは気付かずHMに尋ねた。
「この機械、ここに来ているほかのお客さんを誘うことはできますか? 私、あそこに座っている男の子が気になっているんですけど。ほら、あのかっこいい人」
ミサの指差す先の家族には、かっこいい男子とかわいい女子がいる。
「あ、あの兄妹はうちの常連さんよ。男の子がアズモ君で、女の子がアズナちゃん。大丈夫よ。誘っちゃいなさい」
ミサは、タクの肩をつついた。
「ねえ、タク。アズナちゃん、かわいいじゃない。誘いなさいよ。私が話してあげるから」
「え、恥ずかしいよ」
「大丈夫、一緒に行こう」
立ち上がるミサに、HMが声をかけた。
「恥ずかしければ、直接話さずにその機械で誘えばいいのよ。そのための機械なんだから」
「え、でも、会ったことのない人をいきなり機械で誘うなんて、私にはできないから」
ミサはタクの手を引っ張り、アズモとアズナのほうへ向かった。
一方、レストランのトイレの前では、HFとおばあちゃんが鉢合わせた。
「おばあちゃん、ここにいたんですか。タクちゃんをナイトツアーに誘ってあげてくださいよ」
「えー、私が誘ったんじゃ、タクちゃんがかわいそうですよ」
「そんなことないですよ。おばあちゃんが誘わないと、タクちゃんの相手がいなくて、それこそ気の毒だから」
おばあちゃんはうなずき、機械をポケットから取り出した。
その頃、ミサとタクはアズナの前に立った。ミサは、タクの頭を押した。
「ほら、恥ずかしがらないで誘いなさい」
「あ、あの、今晩8時から、僕とナイトツアーに行きませんか? お願いします」
タクが照れながらアズナに言うと、アズナはタクの機械を指してそっけなく答えた。
「デートに誘う時は、みんなその機械を使うのよ」
「は、はい」
タクは、機械を操作しながら、ミサに小声で聞いた。
「ねえ、今の返事は何なんだろう。オーケーかな、駄目なのかな?」
「さあ、こっちの習慣はよくわからないから、とにかく機械を使って誘うしかないわ」
タクは、ボタンを押した。アズナもすぐに自分の機械のボタンを押す。タクの機械に黄色いランプが光る。これは何だろう? 動揺しているタクに、アズナが教えた。
「黄色は保留の印よ。つまり、私は今すぐには、あなたに返事ができないの」
「どうして?」
「私、さっき別の人をナイトツアーに誘ったんだけど、返事が返ってこないのよ。もしもそれがオーケーならば、あなたのお誘いは受けられないし、もしも駄目だったら受けられるんだけど、返事が来るまでは答えられないから、もう少し待ってくれない?」
「うん、わかった」
その時、タクの機械のランプが光る。画面におばあちゃんの顔が映る。
「あ、おばあちゃんからナイトツアーの誘いが来た……。とりあえず、僕も保留にするしかないな。アズナさんから断られたら受けられるけど、今はまだはっきりしないから」
タクは、黄色い保留ボタンを押した。
「そうだ、私もお誘いしなきゃ」
ミサは、アズモの所に行く。
「お願いします」
ミサがボタンを押すと、アズモもすかさず押した。ミサの機械に黄色いランプが光る。
「え、私も保留?」
「ごめん、たった今、別の人をナイトツアーに誘っていて返事待ちなんだ。その結果が出たら、返事するよ。それより、さっきから、君の機械に青いランプがついてるよ」
ミサが機械を操作すると、イルトの顔が映った。
「しまった。イルトさんから誘いが来ていたんだ」
「そういうのは、ほかの人を誘う前にまず返事をしておかなきゃ」
アズモがそう言うと、横にいたアズナが話に入ってきた。
「どうしよう。イルトさんはあなたを誘っていたのね」
「え?」
「私が誘って返事が来ない相手というのは、イルトさんなのよ」
「イルトさんとデートしたいなんて、アズナも物好きだな」
アズモがつぶやいた。ミサは頭が混乱させながら言う。
「なんだか、複雑になってきた。整理すると、おばあちゃんがタクを誘って、タクがアズナさんを誘って、アズナさんがイルトさんを誘って、イルトさんが私を誘って、私がアズモさんを誘っている、全員が返事待ちの宙ぶらりん。そういう状態なわけね。いずれにしても、アズモさんが誘った相手からの返事が来れば、順番に全部解決するわ」
「それは無理だな。実は、僕が誘った相手というのは、おばあちゃんなんだ」
アズモがそう言ったので、アズナ、ミサ、タクの3人は驚きの声をあげた。
「おばあちゃんとは仲がいいんだ。ナイトツアーに一緒に行きたいとかねがね思っていて」
「アズモ、あなたこそ、物好きじゃない」とアズナ。
「ということは、なんというか、グルグル状態になったんだわ。6人のうち、誰かが諦めないと、決まらないわね」
ミサがそう言うと、ジュンが近づいてきた。
「ミサ、どうしたの? 何か問題でも?」
「うん、私はアズモさんを誘ったんだけど、同時にイルトさんから誘われて……」
「三角関係ってわけか」
「違うよ。六角関係だよ」とタク。
タクとミサは、二人で客室に入った。ミサは、紙に6人の顔の絵の入った六角形の図を描いてタクに見せた。
「誰が諦めるかによって、組み合わせが変わるのよ。私とアズモさんがデートできるとすると、おばあちゃんとタク、アズナさんとイルトさんの組み合わせになるわね」
「僕とアズナさんがデートできる場合は、ミサとイルトさん、アズモさんとおばあちゃんという組み合わせか。僕たち二人とも夢がかなうのは無理なんだね。ミサはアズモさんとデートしたいよね。僕がキャンセルしようか?」
タクは、機械を操作しようしたが、ミサがその手を止めた。
「ちょっと待って。二人ともうまく行くかもしれないわ。その場合は、イルトさんとおばあちゃんが余ることになるけど。とにかく、ほかの誰かが先に諦めるかもしれないから、それを待ってみようよ。まだ8時まで時間はあるんだから」
その日の夕食時、レストランでミサはアズモのいるテーブルに行った。
「誰も諦めないままだわ。8時まであと10分よ」
「そりゃ、無理だよ。この星の習慣では、一度送った誘いを自分からキャンセルするなんてあり得ないんだよ」
「じゃあ、今回みたいな場合はどうなるの? 誰かがキャンセルしないと、全員の予定がパーになっちゃうじゃない」
「そもそもこんなグルグル状態にはなるはずないからね。みんな、自分が受けた誘いの返事を先にするものだから」
「そうか、私がイルトさんから誘われているのに気付かずにあなたを誘ってしまったのが、そもそもの原因だったのね」
「あと5分だよ。どうする? この星の人は、絶対に自分から諦めることはしないから、ミサさんか、それともタク君か、二人のうちどちらかが諦めない限り、ナイトツアーには誰も行けなくなるよ」
「え、そんな。いつも私ばかりいい思いをしているから、今回はタクに譲るわ」
ミサが取り消しのボタンを押そうとした時、青いランプが光った。アズモの機械の青いランプも光る。ミサは不思議そうな顔でアズモに言う。
「あれ、まだ押してないのに。どういうことかしら?」
「タク君が先に諦めたんだよ。ほら、スケジュールに入った。僕たち、一緒に行けるね」
ミサは、地球一家のテーブルに座っていたタクのもとへと向かった。
「タク、どうして諦めちゃったの?」
「今、ホストの皆さんから聞いたんだ。僕かミサか、二人のどっちかが諦めるしかないって。ミサは、狙った物は絶対に最後まで諦めない性格だって、僕は知ってるからね」
8時を過ぎ、ホタルの丘に二人乗りの車が次々に進んでいく。父と母の車、リコとブルトの車、HFとHMの車、ジュンとマラサの車、アズナとイルトの車。そして、ミサとアズモの車。
ミサが後ろを振り返り、心の中でつぶやいた。
「タク、ごめんね。この次こそ、きっと譲ってあげるから」
さらにその後ろを走るのは、タクとおばあちゃんの車。
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