地球一家がおじゃまします

トナミゲン

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第30話『7色の花火』

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■ 7色の花火

 新しい星に到着した地球一家6人は、小走りに道を歩いた。すっかり遅くなってしまった。『夜7時までにホストハウスに到着してください』と書いてあるのに、もうすぐ7時だ。ぎりぎり間に合うか?
 渡された資料によると、今日のホストファミリーは高齢の男性が一人だけのようだ。また、この星は生まれる子供の数が多いため、人口が急激に増え続けており、最近、百万人を超えたと書かれている。世界人口が百万人とは、地球よりはるかに少ない。

 6人がホストハウスの玄関に着くと、すぐ脇に地下に続く階段があり、下から男性の声がした。
「地球の皆さんですね。よかった、7時に間に合った。これから、花火が始まります。ご説明しますから、下りてきてください」

 6人が階段を下りると、そこは地下室になっており、HF(ホストファーザー)と対面した。
「この星の家には全て地下室があります。この機械を地下室に置くためです」
 HFは、赤いボタンが付いているだけの機械を両手で持ち上げて見せた。
「この星の住民は、生まれるとすぐに政府からこの機械をもらうのです。だから一人一台必ず持っています。生まれたばかりの赤ちゃんでも、このボタンを押すだけならできます。おっと、そろそろ7時だ。ボタンを押す時間です。皆さんは、外に出て空を見上げていてください」
 訳がわからない。きょとんとしている地球一家を、HFがせかした。
「もう時間がない。説明はあとでします。早く外に出て」
 6人は慌てて階段を上り、ドアから外に出た。

 時計の針が7時ちょうどを指した。見上げると、空一面に花火の模様が広がった。きれいな花火が広がっては消える。赤、だいだい、黄、緑、青、紫。全部で6色だ。
 しばらく続いた花火はやがて全部消え、暗い夜空に戻った。

 家に入ると、HFが話し始めた。
「花火、きれいだったでしょう? 正確に言えば本物ではなく、花火の映像を機械的に作り、映し出しているのです。花火が遠くの空まで果てしなく広がっていることに気付かれましたか? もっとも、陸地があるのはこの辺りだけなので、その上空だけですけど」
 確かに、星の裏側は、今は昼間に違いない。
「7時に花火を打ち上げるためにボタンを押す当番が、10日に一回まわってくるんです。私の住民番号の末尾の数字は3です。今日は、末尾が3の人たちの当番の日なのです」
「じゃあ、当番じゃない日は外に出て花火が見られるんですね。でも、どうしてあの機械は地下室に置いてあるんですか?」
 ミサが尋ねると、HFは答えた。
「どういう訳か、星の光が少しでもあると、作動しないらしいんですよ。そのせいで、当番の日は花火を見られません」
「こうやって当番を決めて花火を打ち上げる習慣って、いつから始まったんですか?」と父。
「私が生まれるずっと前、この星の人口が10万人を超えた頃からですよ。それ以来、花火を見ることは、全住民の生きがいなのです。もっともその当時は、花火の色は5色でした」
「今日の花火は6色でしたね。花火の色の数と人口が関係するのですか?」とジュン。
「そのとおりです。何人がボタンを押すかによって色の数が決まります。一人が押せば1色。十人が押せば2色。百人が押せば3色。千人が押せば4色。一万人が押せば5色。そして十万人が押せば6色です。この星の人口は、最近百万人を超えました。つまり、毎日の当番が十万人を超えたということです。だから、6色の花火になったのはつい最近なんですよ」

 HFの説明のおかげで、花火の仕組みがよくわかった。ということは、7色の花火が見られるのは人口が一千万人を超えた時か。まだまだ先のことと思いきや、HFはこう言った。
「でも、皆さん驚くなかれ。実は、今日は特別な日なんです。この星の神様の誕生日ということになっています。そして、人口が百万人を超えた初めての誕生日ということで、今夜、7色の花火を作るように、政府から命令が出ました」
 そうか。当番に関係なく住民全員がボタンを押せば、今でも7色の花火自体は作れるということだ。母がHFに言った。
「でも、それじゃ誰も見られませんね」
「そうなんです。7色の花火は、今日の8時に作ることになっています。その花火は、あくまでも神様にささげる花火ということで、誰も見ることができません」
 神様のための花火か。
「8時には、また地下室に行かなければなりません。今のうちに、食べ物を買い出しに行きましょう」

 HFと地球一家6人が外出すると、人通りがかなり少なくなっていた。全住民が、8時までに家に戻って地下室に籠もらなければならないためだ。
 テレビカメラを持った男性と、マイクを持った女性が目に入った。テレビ局の生中継だ。
 女性アナウンサーがマイクで話し始めた。
「まもなく歴史的イベントの時間がやってきます。8時ちょうどに、住民全員で7色の花火を作るのです! 全員が地下室に入って待機しますので、人通りがほとんどなくなりました。そしてこの私もまもなく、中継を終わらせて自宅に戻ります。その間、テレビ番組はしばらく放送を中断します」

 アナウンサーは、地球一家と目が合った。
「あそこに家族がいらっしゃいますね。ちょっとインタビューしてみましょう」
 アナウンサーは、まずHFにマイクを向けた。
「まもなく8時ですよ。早く戻って地下室に入らないと」
「私の家はすぐそこですから、間に合いますよ」
 アナウンサーは、次にジュンにマイクを向けた。
「皆さんは?」
「実は、僕たちは地球からの旅行者なんです」
「地球からの旅行者? ということは、8時にボタンを押さなくてもいいんですね?」
「そうみたいですね」
「ということは、皆さんは、7色の花火を見ることができるのですか?」
「確かに、僕たちは7色の花火を外で見られますね。これはラッキーだな」
 HFが慌ててジュンに駆け寄った。
「ジュンさん、あまりそういうことを言わないほうが……。テレビを見ている人に妬まれますから」
「あ、ごめんなさい」
「花火は、私たちにとって特別のイベントです。そのことで、住民たちを刺激するのは良いことではありません。さあ、行きましょう」
 HFは、地球一家6人をアナウンサーから引き離すようにして立ち去った。

 HFと地球一家6人は、家に戻った。
「まもなく8時ですから、私は地下室に行きます。皆さんはここで、花火を見てください」
「この星の住民は誰も見ることができない花火ですよ。私たちだけ見ていいんですか?」
「せっかくこの特別な日に旅行にいらっしゃったんですから、見ていってくださいよ。そうだ、一つお願いがあります。花火が7色になることで、何の色が増えたのか、あとで教えてくれるとうれしいです」
 それくらいお安い御用だ。快く了承すると、HFは家の中に入っていった。

 地球一家6人が夜空を見上げて立った。8時まであと2分だ。何の色が増えるだろうか。7色だから、虹の色になるのか? ということは、増えるのはきっと藍色?

 その時、HFがドアを開けて出てきた。ボタンを押さなくていいのだろうか? もうすぐ8時だ。HFは言った。
「やっぱり、私も7色の花火を見たくなりました」
「そんなこと許されるんですか?」とジュン。
「人口はもう百万人を超えているんです。私一人くらいボタンを押さなくたって、7色の花火を作れますよ。ご覧のとおり、私はもう、いい歳です。今日見ておかないと、もう7色の花火を見られることはないかもしれません。そう考えれば、今日見てもバチは当たらないでしょう」
 地球一家が沈黙すると、HFはさらに説明を続けた。
「もっとも、ついさっきまでは、ちゃんと地下室でボタンを押すつもりでした」
「どうして気が変わったんですか?」とミサ。
「地球の皆さんが、7色の花火を見られると気付いたからです。神様だけが見られる花火というのなら諦めがつきますが、神様ではない皆さんが見られるのなら、私だって見てみたい」
「そうか。我々も、見るのをやめましょうか」と父。
「いや、せっかくの記念です。私と一緒に見てください」

 HFは腕時計を見た。そろそろ時間だ。8時まであと20秒。
「僕、ある物語を教科書で読んだことがあるんだけど。自分一人くらいと思っていたら、全員が同じことを考えてしまうという話で……」
 タクが小声で言うと、ミサも小声で答えた。
「その話、知ってる。私も教科書で読んだ」

 時計が8時ちょうどをさす。夜空が、暗いまま何も変化がない。HFと地球一家6人は、黙ったまま空を眺めた。花火が上がらない。一色も上がらなかった。やはり、みんな同じことを考えてしまったのだ。しかし、まさか一人もボタンを押さないなんて。
「僕が、テレビカメラの前で、余計なことを言ったせいで」
 ジュンはそう言って恐縮していたが、HFは気にする様子もなく全員に声をかけた。
「さあ、寒くなります。部屋に入りましょう」

 翌朝になり、HFはテレビを見ながら地球一家に声をかけた。
「おはようございます。昨日の花火の件について、ちょうどニュースをやっていますよ」

 テレビには、高齢の女性が映っている。この星の最高権力者である女帝の記者会見らしい。記者の男性が女帝に話を向けた。
「昨日の8時の花火は大失敗に終わりましたね、女帝」
「そういうあなたも、ボタンを押さなかったのでしょう?」
「いやー、昨日は、あの地球から来たという少年のテレビでの発言を聞いて、どうしても自分も花火が見たくなってしまい……」
「私も同じですよ」
 HFと地球一家がジュンのほうを見ると、ジュンは気まずい表情になった。

 記者はさらに女帝に尋ねた。
「であれば、もう一度、別の日に計画しますか?」
「いや、何回やっても同じでしょう。自分一人くらいボタンを押さなくてもと考える人が一定の人数いることがわかってしまいました。どんなにがんばっても、花火は6色でしょう。やはり、当番制にして、人口が増えるのを待つしかありません」
「とすると、人口が一千万人を超えるまで待たなきゃいけないのか。何十年かかることか」
「では、こうしましょう。当番制でも、ボタンを押す人と見る人の数を逆にするのです。つまり、末尾が1番の人が花火を見る日は、それ以外の人がボタンを押す当番というように」
「なるほど、その方法なら……」
 記者は、電卓をたたいた。
「人口が1111111人に達すれば、当番は百万人。7色の花火になりますよ」
 女帝はうなずいた。HFがテレビの前で地球一家に言った。
「いいことを聞きました。その方法ならば、私の生きているうちに、7色の花火がきっと打ち上がる。むしろ、生きる望みができて、長生きする気力が出てきましたよ。これも、皆さんのおかげです」
 HFと地球一家6人は、笑顔になった。
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