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第26話『貴重品リュックサック』
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■ 貴重品リュックサック
地球一家6人は山の上にある空港に降り立ち、町へ向かう下りのリフトに乗った。登山客でにぎわっており、よく見ると全員が同じ灰色のリュックサックを背負っている。同じ登山グループなのだろうか。
リフトを降りて町の入口に着くと、今日お世話になるHF(ホストファーザー)が話しかけた。
「地球の皆さんですね。お迎えに来ました」
HFも灰色のリュックサックを背負っている。ジュンが触った。
「みんなこれを背負っていますね」
「これは、非常用のリュックサックです。中に貴重品が入っています」
「非常事態って、どんな?」
「水害ですよ。どの家も、大雨が降ると流される危険性がとても高いんです。だからこうして、貴重品は常に持ち歩いています。このリュックは政府から支給された物ですから、全員同じなんです」
「へえ。でも、ずっと背負ってるのは大変ですね。なんだか重そう」とミサ。
「このリュックの耐荷重はちょうど20キログラムです。僕は、結構めいっぱい入れているんですよ」
ホストハウスに到着し、地球一家とHFは床に腰を下ろした。HFがリュックを背負ったままでいるのを見て、ミサが不思議そうに尋ねた。
「家の中でもリュックを下ろさないんですか?」
「さすがに、ずっと背負ってると疲れますね」
HFはリュックを下ろして、すぐ手元に置いた。
「何かあった時にすぐに背負えるように、手の届く所に置いておきます」
「リュックの中身は、貴重品とおっしゃいましたよね。見せてもらってもいいですか?」
ジュンが頼んだが、HFは恥ずかしがった。
「いや、見せるなんて、とてもそんな」
「教えてもらうだけでも。全部、札束ですか?」
「いえ、違います。お話しするような物ではありません。もっとも、僕だけが特別なわけではなく、誰でも中身は似たような物ですよ」
ますます気になるところだが、まだ外は明るいので、6人で外出することにした。
6人が川に沿って遊歩道を歩いていると、リュックを背負った何人もの人たちとすれ違った。みんな似たような物が入っているとHFは言っていたが、お金ではないとしたら、何だろう? 非常用持ち出し袋といえば、普通は非常食や毛布や簡易トイレなどだ。しかし、彼は見せるのを恥ずかしがっていたから、それとも違うのだろう。
10歳くらいの女子二人と男子二人が、同じリュックを背負って木の切り株に座っていた。地球一家は、子供たちと軽く挨拶を交わした。
「みんな、同じリュックね。何が入っているの?」
ミサが女子の一人に尋ねた。
「貴重品です」
「貴重品って何?」
「大切な物です」
「貴重品っていうと、普通はお金なんだけど、お金じゃないのよね」
「お金は貴重品じゃありません。お父さんやお母さんのリュックにも、お金は入っていません」
「どうして?」
「水害でお金が流されてしまっても、届け出ればその金額を政府からもらえることになってるからです」
「へえ、そういう仕組みなんだ。宝石とかは? 子供だったら、時計とかカメラとかゲーム機とか」
「それも貴重品じゃありません。いくらの物をなくしたかを届け出れば、その金額を補償してもらえるんです。買い直すことができる物は、貴重じゃないんです」
「確かに、それは貴重品とはいえないわね。じゃあ、みんなにとっての貴重品って何?」
「お金では買えない物ですよ。見ますか?」
女子は、リュックのファスナーを開けて中身を取り出した。学校のノートが何冊かと、採点されたテストが何枚か出てくる。男子の一人も、中身を見せてくれた。やはり同じく学校のノートやテストだ。ほかの二人のリュックも、同じような中身だった。
「誰に聞いても、中身は同じですよ」
女子が言った。確かに、お金がいくらあっても失ったら取り戻せないという点では貴重品だ。また、子供たちによると、教科書は貴重品ではないらしい。被災して紛失した場合は、代金が支給されるので、買い直せばいいのだという。本は、図書館に行けばコピーすることもできる。
ジュンがポケットからデジタルカメラを取り出して、男子の一人に見せた。
「ねえ、これ、デジタルカメラっていうんだけど、見たことある? ノートやテストをこれで写真に撮ると、いちいち紙を持ち歩かなくて済むんだけど」
「へえ、すごいな。初めて見ました。便利ですね」
デジタルの技術はまだ開発されていないようだ。紙がかさばって、持ち運ぶのがさぞかし大変だろう。女子は言った。
「確かにリュックは重いけど、両親やお姉ちゃんのは、もっと重いから。リュックには20キロまでの物を入れられるんです。私はまだその半分も入っていません」
「僕も」と男子。
これからどんどん重くなるから大変だろうな。
地球一家が家に戻ると、HFはテーブルに座って作業中で、リュックがそばに置いてあった。そして、テーブルの上には手紙が散乱している。
「しまった。もうこんな時間か」
HFがそう言うと、ジュンがさっそくHFに確認した。
「リュックの中身、わかりましたよ。学校のテストとかノートが入っているんですよね。確かに、見られると恥ずかしいかもしれません」
「いや、違いますよ」
「そうですか。誰でも同じって言ってたけど」
「それは、子供に聞いたんじゃないですか? 大人の場合は違います。子供時代のテストやノートをいつまでも取っておいたりしません」
「それもそうですね。失礼しました。じゃあ、大人の貴重品って……」
「これですよ」
HFは、机の上に散らかった手紙を指し示した。
「手紙です。もらった手紙は、なくしてしまったらもう二度と読めません。手紙は誰にとっても、この上ない貴重品なんです」
それにしても、かなり多くの手紙がある。
「ちょうど今、リュックの中身を整理していたんです。20キロまでしか入らないので、時々整理しないと新しい手紙を入れられなくて。整理しながら、つい、なつかしくて読み返してしまいます。時間がたつのを忘れてしまって、皆さんが戻られる前にリュックに戻そうと思っていたのに間に合いませんでした。手紙を見られたくなかったのに」
手紙の中身までは読んでいないので、恥ずかしがるほどでもない気がするが……。
HFが話を続けた。
「僕は特に、手紙を書くのが好きなので、もらうことも多いんです。あ、そうだ、皆さんにも、さっき手紙を書いたんですよ。お部屋に置いておきましたので、読んでください」
客間に入った地球一家6人は、HFが置いてくれていた手紙をかわるがわる読んだ。母がしみじみと言う。
「うれしいわね。こうやって心温まる手紙を頂くと」
「ねえ、私たちもお返事を書かない?」とミサ。
「そうだね。僕たちも手紙を書いて渡そう」とタク。
「珍しいわね。いつもタクは手紙を書きたいなんて言わないのに」
ミサに言われて、タクが答えた。
「いつもは、どうせ手紙を書いても読んでもらえないんじゃないかと思って。でも、ここのおじさんなら、手紙を渡せばずっと取っておいてくれるような気がするんだ」
「確かに。貴重品としてリュックに入れてくれるかも」
しばらくして、客間を離れていたミサが、戻ってくるなり地球一家に一枚の便箋を見せた。
「お返事を書いていいかどうか聞いたら、この便箋一枚だけにしてほしいって」
手紙をたくさん受け取るらしいから、なるべく軽くしておきたいのだろう。それでも、手紙を受け取ってもらえるだけでもうれしい。父がみんなに指示した。
「言われたとおり、一枚に6人で書こう。まず、リコから書くか」
「うん」
HF宛ての一枚の手紙が出来上がった。一面にリコが不器用な文字で大きく書いてしまい、照れ笑いをしている。リコはおとなしいのに、こんなところで変な存在感を出したものだ。仕方がないので、裏面を使って残りの5人が書いた。
翌朝、地球一家はHFと一緒に上りのリフトに乗った。ジュン、ミサ、HFの3人が横並びで座り、HFは例のリュックを背負っている。その前に父母とタク、リコが乗っている。
ミサが横にいるHFに話しかけた。
「まもなくお別れですね。お世話になりました」
「あっという間でしたね」
「あ、いけない。私たち6人で手紙を書いたんですけど、まだ渡していませんでした。こんな所で渡したら、危ないかしら」
「大丈夫ですよ。あとでじっくり読ませていただきます。リュックに入れてください」
HFは、ミサに背を向けてリュックを突き出した。便箋を入れようと、ミサはリュックのファスナーを少しだけ開けた。ジュンが慌てて声をかける。
「ミサ、そのまま入れたら、紙がクシャクシャになっちゃうよ」
ジュンはミサに封筒を手渡した。ミサは封筒に素早く便箋を入れ、HFのリュックに入れた。その時、リュックがガサゴソと音を立て始めた。
「ん?」
HFが背中に違和感を覚えた次の瞬間、リュックの底にピリピリと亀裂が入り、破れた。ちょうどその時、強風が突然吹いた。ミサとジュンが叫び、父、母、タク、リコが振り向いた。底が完全に破れたリュックから、たくさんの手紙がいっせいに飛び散り、風に乗って舞う。みんなは、山の上で舞い散っている手紙をあっけにとられながら見た。
アナウンスの声がする。
「リフトは、まもなく山頂に到着します」
7人はリフトを降りた。HFは、空になったリュックを背負ってぼう然と立っている。
「重量オーバーです。20キロを超えたんですよ。入れたのは、便箋一枚だけでしたか?」
「はい。あ、でも、封筒も……」とミサ。
「それですよ。封筒の重さが加わって、20キロを超えたんです」
「軽い封筒がたった一枚ですよ」
「それでも僕は、便箋を入れた時のリュックの中身が19・999キロになるように計算していましたから、ぎりぎり超えたんです」
ジュンとミサは、頭を下げてHFに謝った。ジュンが手紙を拾いに行くそぶりを見せたが、HFが引き止めた。
「風がさらに強くなってきましたから、もう無理です。諦めます。これでよかったんです。なつかしがり屋の僕は、手紙を読み直すことで時間がどんどん過ぎていくので困っていたんです。文字どおり重荷が下りたようで、すっきりしました。もし紙を持っていらっしゃったら、今もう一度、手紙を書いていただけませんか? 地球人から頂いた手紙なんて、超がつく貴重品ですから」
地球一家全員は、ほっとしてほほえんだ。もう一度、手紙を書こう。リュックはまたすぐにいっぱいになるだろうから、やはり一枚だけにしておこう。そして今回は、リコが最後に書こう。
地球一家6人は山の上にある空港に降り立ち、町へ向かう下りのリフトに乗った。登山客でにぎわっており、よく見ると全員が同じ灰色のリュックサックを背負っている。同じ登山グループなのだろうか。
リフトを降りて町の入口に着くと、今日お世話になるHF(ホストファーザー)が話しかけた。
「地球の皆さんですね。お迎えに来ました」
HFも灰色のリュックサックを背負っている。ジュンが触った。
「みんなこれを背負っていますね」
「これは、非常用のリュックサックです。中に貴重品が入っています」
「非常事態って、どんな?」
「水害ですよ。どの家も、大雨が降ると流される危険性がとても高いんです。だからこうして、貴重品は常に持ち歩いています。このリュックは政府から支給された物ですから、全員同じなんです」
「へえ。でも、ずっと背負ってるのは大変ですね。なんだか重そう」とミサ。
「このリュックの耐荷重はちょうど20キログラムです。僕は、結構めいっぱい入れているんですよ」
ホストハウスに到着し、地球一家とHFは床に腰を下ろした。HFがリュックを背負ったままでいるのを見て、ミサが不思議そうに尋ねた。
「家の中でもリュックを下ろさないんですか?」
「さすがに、ずっと背負ってると疲れますね」
HFはリュックを下ろして、すぐ手元に置いた。
「何かあった時にすぐに背負えるように、手の届く所に置いておきます」
「リュックの中身は、貴重品とおっしゃいましたよね。見せてもらってもいいですか?」
ジュンが頼んだが、HFは恥ずかしがった。
「いや、見せるなんて、とてもそんな」
「教えてもらうだけでも。全部、札束ですか?」
「いえ、違います。お話しするような物ではありません。もっとも、僕だけが特別なわけではなく、誰でも中身は似たような物ですよ」
ますます気になるところだが、まだ外は明るいので、6人で外出することにした。
6人が川に沿って遊歩道を歩いていると、リュックを背負った何人もの人たちとすれ違った。みんな似たような物が入っているとHFは言っていたが、お金ではないとしたら、何だろう? 非常用持ち出し袋といえば、普通は非常食や毛布や簡易トイレなどだ。しかし、彼は見せるのを恥ずかしがっていたから、それとも違うのだろう。
10歳くらいの女子二人と男子二人が、同じリュックを背負って木の切り株に座っていた。地球一家は、子供たちと軽く挨拶を交わした。
「みんな、同じリュックね。何が入っているの?」
ミサが女子の一人に尋ねた。
「貴重品です」
「貴重品って何?」
「大切な物です」
「貴重品っていうと、普通はお金なんだけど、お金じゃないのよね」
「お金は貴重品じゃありません。お父さんやお母さんのリュックにも、お金は入っていません」
「どうして?」
「水害でお金が流されてしまっても、届け出ればその金額を政府からもらえることになってるからです」
「へえ、そういう仕組みなんだ。宝石とかは? 子供だったら、時計とかカメラとかゲーム機とか」
「それも貴重品じゃありません。いくらの物をなくしたかを届け出れば、その金額を補償してもらえるんです。買い直すことができる物は、貴重じゃないんです」
「確かに、それは貴重品とはいえないわね。じゃあ、みんなにとっての貴重品って何?」
「お金では買えない物ですよ。見ますか?」
女子は、リュックのファスナーを開けて中身を取り出した。学校のノートが何冊かと、採点されたテストが何枚か出てくる。男子の一人も、中身を見せてくれた。やはり同じく学校のノートやテストだ。ほかの二人のリュックも、同じような中身だった。
「誰に聞いても、中身は同じですよ」
女子が言った。確かに、お金がいくらあっても失ったら取り戻せないという点では貴重品だ。また、子供たちによると、教科書は貴重品ではないらしい。被災して紛失した場合は、代金が支給されるので、買い直せばいいのだという。本は、図書館に行けばコピーすることもできる。
ジュンがポケットからデジタルカメラを取り出して、男子の一人に見せた。
「ねえ、これ、デジタルカメラっていうんだけど、見たことある? ノートやテストをこれで写真に撮ると、いちいち紙を持ち歩かなくて済むんだけど」
「へえ、すごいな。初めて見ました。便利ですね」
デジタルの技術はまだ開発されていないようだ。紙がかさばって、持ち運ぶのがさぞかし大変だろう。女子は言った。
「確かにリュックは重いけど、両親やお姉ちゃんのは、もっと重いから。リュックには20キロまでの物を入れられるんです。私はまだその半分も入っていません」
「僕も」と男子。
これからどんどん重くなるから大変だろうな。
地球一家が家に戻ると、HFはテーブルに座って作業中で、リュックがそばに置いてあった。そして、テーブルの上には手紙が散乱している。
「しまった。もうこんな時間か」
HFがそう言うと、ジュンがさっそくHFに確認した。
「リュックの中身、わかりましたよ。学校のテストとかノートが入っているんですよね。確かに、見られると恥ずかしいかもしれません」
「いや、違いますよ」
「そうですか。誰でも同じって言ってたけど」
「それは、子供に聞いたんじゃないですか? 大人の場合は違います。子供時代のテストやノートをいつまでも取っておいたりしません」
「それもそうですね。失礼しました。じゃあ、大人の貴重品って……」
「これですよ」
HFは、机の上に散らかった手紙を指し示した。
「手紙です。もらった手紙は、なくしてしまったらもう二度と読めません。手紙は誰にとっても、この上ない貴重品なんです」
それにしても、かなり多くの手紙がある。
「ちょうど今、リュックの中身を整理していたんです。20キロまでしか入らないので、時々整理しないと新しい手紙を入れられなくて。整理しながら、つい、なつかしくて読み返してしまいます。時間がたつのを忘れてしまって、皆さんが戻られる前にリュックに戻そうと思っていたのに間に合いませんでした。手紙を見られたくなかったのに」
手紙の中身までは読んでいないので、恥ずかしがるほどでもない気がするが……。
HFが話を続けた。
「僕は特に、手紙を書くのが好きなので、もらうことも多いんです。あ、そうだ、皆さんにも、さっき手紙を書いたんですよ。お部屋に置いておきましたので、読んでください」
客間に入った地球一家6人は、HFが置いてくれていた手紙をかわるがわる読んだ。母がしみじみと言う。
「うれしいわね。こうやって心温まる手紙を頂くと」
「ねえ、私たちもお返事を書かない?」とミサ。
「そうだね。僕たちも手紙を書いて渡そう」とタク。
「珍しいわね。いつもタクは手紙を書きたいなんて言わないのに」
ミサに言われて、タクが答えた。
「いつもは、どうせ手紙を書いても読んでもらえないんじゃないかと思って。でも、ここのおじさんなら、手紙を渡せばずっと取っておいてくれるような気がするんだ」
「確かに。貴重品としてリュックに入れてくれるかも」
しばらくして、客間を離れていたミサが、戻ってくるなり地球一家に一枚の便箋を見せた。
「お返事を書いていいかどうか聞いたら、この便箋一枚だけにしてほしいって」
手紙をたくさん受け取るらしいから、なるべく軽くしておきたいのだろう。それでも、手紙を受け取ってもらえるだけでもうれしい。父がみんなに指示した。
「言われたとおり、一枚に6人で書こう。まず、リコから書くか」
「うん」
HF宛ての一枚の手紙が出来上がった。一面にリコが不器用な文字で大きく書いてしまい、照れ笑いをしている。リコはおとなしいのに、こんなところで変な存在感を出したものだ。仕方がないので、裏面を使って残りの5人が書いた。
翌朝、地球一家はHFと一緒に上りのリフトに乗った。ジュン、ミサ、HFの3人が横並びで座り、HFは例のリュックを背負っている。その前に父母とタク、リコが乗っている。
ミサが横にいるHFに話しかけた。
「まもなくお別れですね。お世話になりました」
「あっという間でしたね」
「あ、いけない。私たち6人で手紙を書いたんですけど、まだ渡していませんでした。こんな所で渡したら、危ないかしら」
「大丈夫ですよ。あとでじっくり読ませていただきます。リュックに入れてください」
HFは、ミサに背を向けてリュックを突き出した。便箋を入れようと、ミサはリュックのファスナーを少しだけ開けた。ジュンが慌てて声をかける。
「ミサ、そのまま入れたら、紙がクシャクシャになっちゃうよ」
ジュンはミサに封筒を手渡した。ミサは封筒に素早く便箋を入れ、HFのリュックに入れた。その時、リュックがガサゴソと音を立て始めた。
「ん?」
HFが背中に違和感を覚えた次の瞬間、リュックの底にピリピリと亀裂が入り、破れた。ちょうどその時、強風が突然吹いた。ミサとジュンが叫び、父、母、タク、リコが振り向いた。底が完全に破れたリュックから、たくさんの手紙がいっせいに飛び散り、風に乗って舞う。みんなは、山の上で舞い散っている手紙をあっけにとられながら見た。
アナウンスの声がする。
「リフトは、まもなく山頂に到着します」
7人はリフトを降りた。HFは、空になったリュックを背負ってぼう然と立っている。
「重量オーバーです。20キロを超えたんですよ。入れたのは、便箋一枚だけでしたか?」
「はい。あ、でも、封筒も……」とミサ。
「それですよ。封筒の重さが加わって、20キロを超えたんです」
「軽い封筒がたった一枚ですよ」
「それでも僕は、便箋を入れた時のリュックの中身が19・999キロになるように計算していましたから、ぎりぎり超えたんです」
ジュンとミサは、頭を下げてHFに謝った。ジュンが手紙を拾いに行くそぶりを見せたが、HFが引き止めた。
「風がさらに強くなってきましたから、もう無理です。諦めます。これでよかったんです。なつかしがり屋の僕は、手紙を読み直すことで時間がどんどん過ぎていくので困っていたんです。文字どおり重荷が下りたようで、すっきりしました。もし紙を持っていらっしゃったら、今もう一度、手紙を書いていただけませんか? 地球人から頂いた手紙なんて、超がつく貴重品ですから」
地球一家全員は、ほっとしてほほえんだ。もう一度、手紙を書こう。リュックはまたすぐにいっぱいになるだろうから、やはり一枚だけにしておこう。そして今回は、リコが最後に書こう。
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