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第16話『二人のカエルマニア』
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■ 二人のカエルマニア
地球一家6人は、ホストファミリーに会う前に動物園を歩き回って楽しんだ。
「ねえ、タクの一番好きな動物って、何なの?」
ミサが尋ねると、タクは上着のボタンを外して脱ぎ、Tシャツ姿になりながら答えた。
「やっぱり、僕はカエルが一番かな」
Tシャツには、黄緑色のカエルのキャラクターの絵が大きくプリントされている。
「なんだ、動物園の動物の中から選ぶのかと思ったら、カエル、というより、ケロッパじゃない」
ミサはあきれかえった。ジュンが笑って言う。
「なるほど、確かにタクの一番好きな動物かもしれないな」
その時、一台のマイクロバスが止まり、HF(ホストファーザー)が降りてきた。
「地球の皆さんですね。ようこそ。お迎えにあがりました」
地球一家が乗り込むと、マイクロバスはすぐに発車した。HFのほかに、HM(ホストマザー)、13歳の娘スナサ、10歳の息子スロトが乗っている。HFが父に語り始めた。
「今日は皆さんをお招きできて、我々は実に運がいい。皆さんのプロフィールを読んで、すぐにホストファミリーに応募しました。当選して本当にラッキーです。というのも、僕もご主人と同じで、おもちゃを作る会社で商品開発の仕事をしているんです」
「ほー、あなたも?」
「ご主人のプロフィールに書いてありましたよね。カエルのキャラクター商品を作ったら、大ヒットしたと」
「あ、去年の話ですね。そんなこと書いたかな」
「お忘れですか? ちゃんと持ってきましたよ。母さん、読んで差し上げて」
HMは、バッグから印刷物を取り出して読んだ。
「『私はおもちゃを作る会社で商品開発の仕事をしています。最近、ケロッパというカエルのキャラクターを使って男の子向けの商品をいろいろと作ってみたところ、国内で大ヒットしました。これも息子のおかげです』」
「あー、思い出しました。書きましたよ」
「息子のおかげで、と書かれていますが、どういう意味ですか?」
「あ、これはですね」
父が説明を始めた。
昨年の話である。父がリコのために、カエルの絵の入ったウエストポーチを自宅に持ち帰った。このカエルのキャラクターは、父の会社で新しくデザインしたケロッパだ。このケロッパのキャラクターグッズをいろいろと売り出そうと計画しているのだ。ケロッパは、他社が開発したケロタンやケロロとそっくりだが、大きな前歯が2本出ているのが特徴だ。もっとも、カエルに歯はないのだが。
するとタクが、自分もケロッパのポーチが欲しいと言い出した。まだ試作品なので一個しかなかったが、リコはタクにポーチを譲り、タクはしばらく喜んで身に付けた。父はそれを見て、名案を思い付いた。
その数日後、父は、ケロッパがサッカーをしている図柄の帽子とTシャツを持ち帰り、タクに渡した。タクは大喜びだ。絵のデザインがずいぶん男の子っぽくなった。もともとケロッパは女の子をターゲットとしたキャラクターとして考えられていたのだが、タクが興味を示しているのを見て、むしろ男の子に人気が出ると思って父が提案し、その案が通って、今では男の子向け商品をいろいろと開発中なのである。タクのおかげで、父の会社は絶好調というわけだ。
父はそんな回想話をホストファミリーに話した後、みんなにタクを紹介した。
「そんないい話ばかりではないんですよ」
母が渋い表情でそう言うと、ミサも同意して言った。
「そうそう、その後、我が家は大騒ぎだったんですから」
今度は、ミサがその数日後の出来事をホストファミリーに説明した。
地球一家の自宅では、タクがカエルに夢中になり、タクの部屋はケロッパグッズでいっぱいになったのだ。枕、貯金箱、目覚まし時計、カレンダー、ブックエンド、全部ケロッパなのだ。タクは凝り性だから仕方がないと、ジュンもミサも諦めた。
思い出話がここまで進んだ時、タクと同い年のスロトが叫んだ。
「すごい! 僕と同じだ!」
同じとは? HFが説明を始めた。
「順を追ってお話しましょう。何か月か前のことです。ご主人のプロフィールを読んで、僕もカエルのキャラクター商品を作ってみたくなりました。この星には、もともとカエルのキャラクターなどなかったんです。男の子向けの商品をいろいろと作ったところ、これが大当たりで、飛ぶように売れたんですよ」
「それはよかったですね」
父が心から喜んで言うと、HFはさらに続けた。
「今日は皆さんにそのお礼をしたかったんですよ。貴重なアイデアを提供していただいたお礼に、今晩はごちそうの食べ放題ですよ。確か、リコちゃんのプロフィールには、イチゴが大好きと書いてあったね。イチゴのデザートも食べ放題だよ!」
リコが喜んだ。父が礼を言うと、HFは父に言った。
「いえいえ、この程度のお礼じゃ足りないくらいです。アイデア料をお支払いしなければいけないのかもしれませんが」
「その必要はありませんよ。絵柄までそっくりというわけでなければ」
「もちろん、皆さんのプロフィールを読んだだけですから、絵は僕のオリジナルです。さて、カエルのキャラクター商品を誰よりも気に入ったのが、息子のスロトなんですよ。最初はスロトの部屋だけだったんですけど、その後、彼は家の中の物をどんどんカエルグッズに替えていきました。居間のごみ箱、ティッシュボックスカバー、クッション、蚊取り機、メモ帳、キッチンにはコースター、マグカップ、鍋つかみ、風呂場ではバススポンジ、シャンプーキャップ、足ふきマット、トイレには便座カバー、ロールカバー。我が家は全部カエルです」
HFが列挙する小物の数に、ジュンもミサも圧倒された。HFはタクに言う。
「タクちゃんがカエルマニアだと聞いて、とてもうれしい。我が家をお見せできるのが楽しみだよ」
「はい、僕も楽しみです」
「なにしろ、我が家では、喜んでくれているのがスロトだけですからね」
HF、スロト、父、タクが顔を見合わせて笑った。ほかの6人は渋い表情。母がジュンに小声で言った。
「この家に泊めていただいて、タクは大丈夫かしら」
「いや、危険かもしれない。刺激しすぎると、地球に戻ってから、また夢中になっちゃうかも」
それを聞いていたHMが話に加わった。
「確かに、やめておいたほうがいいわ」
HMは、神妙な面持ちでHFに提言した。
「地球の皆さんには、別の所に泊まっていただきましょう」
「おいおい、今さら、何を言い出すんだ」
「だって、今の我が家を見たら、きっとタクちゃんを興奮させることになるわ。それに、スロトもますますその気になってしまうかも」
「そうだな。そして我が家もまた、カエルグッズでいっぱいにさせられるな」
ジュンがそう言うと、父が反論した。
「別にいいじゃないか。商品としてすばらしいものばかりなんだから」
母は父にあきれながらも、頭数を数えながらひらめいたように言い出した。
「そうだ、多数決で決めませんか? 泊めていただくかどうか」
HMも母に同意した。
「それがいいわ。多数決よ。じゃあ、我が家にお招きするのに賛成の人は?」
HF、スロト、父、タクが手を挙げた。
「じゃあ、別の所に泊まったほうがいいという人は?」
HMは自ら手を挙げ、スナサ、母、ジュン、ミサ、リコも手を挙げた。
「決まったわね。目的地を変更するわよ」
HFは弱った表情を見せた。
ミサが、ふとタクのケロッパのTシャツを見て言い出した。
「待って。私、やっぱり賛成にする」
母が慌てた。父はニヤリと笑った。これで5対5だ。
「リコも賛成にする」とリコ。
「賛成の勝ちだ。よかった。我が家に向かいますよ」とHF。
「リコ、偉いぞ」と父。
「リコ、イチゴに誘惑されちゃ駄目だよ」とジュン。
「ううん、ミサの考えていることがわかった」とリコ。
こうして話しているうちに、家に着いてしまった。車がストップし、真っ先に降りたHFがみんなを中に誘導した。みんなが次々に玄関を通る中、スロトが、すぐ前を歩くタクのTシャツに描かれた絵に気付いた。
「タク君。これ、何?」
「ケロッパだよ。カエルのケロッパ」
「え、これがカエル?」
家の広間に全員が集まると、HFがタクに話しかけた。
「今日はカエルマニアのタクちゃんをここにお招きできてうれしいよ。まずは、よりすぐりのレプリカをお見せしよう」
「レプリカって?」
「本物そっくりの作り物のことだよ。ほら」
HFはカエルの作り物を見せた。ミサが思わずのけぞると、HFはかまわず説明を始めた。
「まずは、これがアカガエルの一種のウシガエル。食用ガエルとして知られているやつ。それから、これがアズマヒキガエル。この色、何とも言えないな、うーん」
「なんかとってもリアルでグロテスク」
ミサがそうつぶやいた時、カエルが突然鳴いて飛び跳ねた。ミサが悲鳴をあげる。
「びっくりしたかい。ちょっとした仕掛けがあってね。そして、最高の自信作がこれ」
HFは、大きなカエルの作り物を取り出した。
「これは、一番大きなカエル、ゴライアスガエルだ。体長30センチもあるんだよ。タクちゃん、どうだい。あれ?」
HFがタクのほうを見ると、タクはぶるぶる震えて目をそらしていた。
「ごめんなさい。僕、無理です」
タクは、怖がりながら走って部屋を出ていった。
「あれ、あれ、タクちゃん、どうしちゃったのかな」
不思議がっているHFに、父が言った。
「やっぱり、そうだったのか。タクは、もう10歳なんだけど、とても怖がりなんです」
「でも、カエルが大好きなんでしょ?」
「タクは都会育ちで、本物のカエルを見たことも触ったこともないんですよ」
二人の会話を聞き、ジュンも言った。
「タクにとって、カエルとはケロッパやケロタンやケロロだからな」
HFはようやく納得した。
「そうだったのか。この付近には本物のカエルがいっぱいいます。僕は、子供の頃からカエルを捕まえて遊ぶのが大好きだったんですよ」
「僕も」
スロトも言った。父がHFに言った。
「地球の都会では、カエルは身近にはほとんどいません。だから、タクだけじゃないんです。『カエルのキャラクターはかわいらしくて大好きだけど、本物のカエルは大嫌い』という人が、地球には大勢いるんですよ」
「それは気付きませんでした。ご主人のプロフィールを読んで、てっきり本物そっくりのカエルを作ればいいのだと思ってしまいました。結果的には、それが流行したんですけどね」
家の中でタクが目にした物は、どれもグロテスクなカエルの絵が入ったものばかり。タクは、恐れおののきながら部屋を飛び出した。
広間では、母がミサに尋ねた。
「さすが、ミサ。こうなることを予想していたのね。どうしてわかったの?」
「だって、ホストの人たち、タクのTシャツを見て全く反応しないんだもの」
「思いどおりになったかもしれないけど、タクには刺激が強すぎたかな。逆にトラウマにならなければいいけど」
タクは、頭を混乱させながらスロトの部屋のドアを開けた。タクが目にした物は、やはりグロテスクなカエルの絵が入った物ばかり。タクは、心の中で叫んだ。
「もう嫌だ。カエルはこりごりだ」
地球一家6人は、ホストファミリーに会う前に動物園を歩き回って楽しんだ。
「ねえ、タクの一番好きな動物って、何なの?」
ミサが尋ねると、タクは上着のボタンを外して脱ぎ、Tシャツ姿になりながら答えた。
「やっぱり、僕はカエルが一番かな」
Tシャツには、黄緑色のカエルのキャラクターの絵が大きくプリントされている。
「なんだ、動物園の動物の中から選ぶのかと思ったら、カエル、というより、ケロッパじゃない」
ミサはあきれかえった。ジュンが笑って言う。
「なるほど、確かにタクの一番好きな動物かもしれないな」
その時、一台のマイクロバスが止まり、HF(ホストファーザー)が降りてきた。
「地球の皆さんですね。ようこそ。お迎えにあがりました」
地球一家が乗り込むと、マイクロバスはすぐに発車した。HFのほかに、HM(ホストマザー)、13歳の娘スナサ、10歳の息子スロトが乗っている。HFが父に語り始めた。
「今日は皆さんをお招きできて、我々は実に運がいい。皆さんのプロフィールを読んで、すぐにホストファミリーに応募しました。当選して本当にラッキーです。というのも、僕もご主人と同じで、おもちゃを作る会社で商品開発の仕事をしているんです」
「ほー、あなたも?」
「ご主人のプロフィールに書いてありましたよね。カエルのキャラクター商品を作ったら、大ヒットしたと」
「あ、去年の話ですね。そんなこと書いたかな」
「お忘れですか? ちゃんと持ってきましたよ。母さん、読んで差し上げて」
HMは、バッグから印刷物を取り出して読んだ。
「『私はおもちゃを作る会社で商品開発の仕事をしています。最近、ケロッパというカエルのキャラクターを使って男の子向けの商品をいろいろと作ってみたところ、国内で大ヒットしました。これも息子のおかげです』」
「あー、思い出しました。書きましたよ」
「息子のおかげで、と書かれていますが、どういう意味ですか?」
「あ、これはですね」
父が説明を始めた。
昨年の話である。父がリコのために、カエルの絵の入ったウエストポーチを自宅に持ち帰った。このカエルのキャラクターは、父の会社で新しくデザインしたケロッパだ。このケロッパのキャラクターグッズをいろいろと売り出そうと計画しているのだ。ケロッパは、他社が開発したケロタンやケロロとそっくりだが、大きな前歯が2本出ているのが特徴だ。もっとも、カエルに歯はないのだが。
するとタクが、自分もケロッパのポーチが欲しいと言い出した。まだ試作品なので一個しかなかったが、リコはタクにポーチを譲り、タクはしばらく喜んで身に付けた。父はそれを見て、名案を思い付いた。
その数日後、父は、ケロッパがサッカーをしている図柄の帽子とTシャツを持ち帰り、タクに渡した。タクは大喜びだ。絵のデザインがずいぶん男の子っぽくなった。もともとケロッパは女の子をターゲットとしたキャラクターとして考えられていたのだが、タクが興味を示しているのを見て、むしろ男の子に人気が出ると思って父が提案し、その案が通って、今では男の子向け商品をいろいろと開発中なのである。タクのおかげで、父の会社は絶好調というわけだ。
父はそんな回想話をホストファミリーに話した後、みんなにタクを紹介した。
「そんないい話ばかりではないんですよ」
母が渋い表情でそう言うと、ミサも同意して言った。
「そうそう、その後、我が家は大騒ぎだったんですから」
今度は、ミサがその数日後の出来事をホストファミリーに説明した。
地球一家の自宅では、タクがカエルに夢中になり、タクの部屋はケロッパグッズでいっぱいになったのだ。枕、貯金箱、目覚まし時計、カレンダー、ブックエンド、全部ケロッパなのだ。タクは凝り性だから仕方がないと、ジュンもミサも諦めた。
思い出話がここまで進んだ時、タクと同い年のスロトが叫んだ。
「すごい! 僕と同じだ!」
同じとは? HFが説明を始めた。
「順を追ってお話しましょう。何か月か前のことです。ご主人のプロフィールを読んで、僕もカエルのキャラクター商品を作ってみたくなりました。この星には、もともとカエルのキャラクターなどなかったんです。男の子向けの商品をいろいろと作ったところ、これが大当たりで、飛ぶように売れたんですよ」
「それはよかったですね」
父が心から喜んで言うと、HFはさらに続けた。
「今日は皆さんにそのお礼をしたかったんですよ。貴重なアイデアを提供していただいたお礼に、今晩はごちそうの食べ放題ですよ。確か、リコちゃんのプロフィールには、イチゴが大好きと書いてあったね。イチゴのデザートも食べ放題だよ!」
リコが喜んだ。父が礼を言うと、HFは父に言った。
「いえいえ、この程度のお礼じゃ足りないくらいです。アイデア料をお支払いしなければいけないのかもしれませんが」
「その必要はありませんよ。絵柄までそっくりというわけでなければ」
「もちろん、皆さんのプロフィールを読んだだけですから、絵は僕のオリジナルです。さて、カエルのキャラクター商品を誰よりも気に入ったのが、息子のスロトなんですよ。最初はスロトの部屋だけだったんですけど、その後、彼は家の中の物をどんどんカエルグッズに替えていきました。居間のごみ箱、ティッシュボックスカバー、クッション、蚊取り機、メモ帳、キッチンにはコースター、マグカップ、鍋つかみ、風呂場ではバススポンジ、シャンプーキャップ、足ふきマット、トイレには便座カバー、ロールカバー。我が家は全部カエルです」
HFが列挙する小物の数に、ジュンもミサも圧倒された。HFはタクに言う。
「タクちゃんがカエルマニアだと聞いて、とてもうれしい。我が家をお見せできるのが楽しみだよ」
「はい、僕も楽しみです」
「なにしろ、我が家では、喜んでくれているのがスロトだけですからね」
HF、スロト、父、タクが顔を見合わせて笑った。ほかの6人は渋い表情。母がジュンに小声で言った。
「この家に泊めていただいて、タクは大丈夫かしら」
「いや、危険かもしれない。刺激しすぎると、地球に戻ってから、また夢中になっちゃうかも」
それを聞いていたHMが話に加わった。
「確かに、やめておいたほうがいいわ」
HMは、神妙な面持ちでHFに提言した。
「地球の皆さんには、別の所に泊まっていただきましょう」
「おいおい、今さら、何を言い出すんだ」
「だって、今の我が家を見たら、きっとタクちゃんを興奮させることになるわ。それに、スロトもますますその気になってしまうかも」
「そうだな。そして我が家もまた、カエルグッズでいっぱいにさせられるな」
ジュンがそう言うと、父が反論した。
「別にいいじゃないか。商品としてすばらしいものばかりなんだから」
母は父にあきれながらも、頭数を数えながらひらめいたように言い出した。
「そうだ、多数決で決めませんか? 泊めていただくかどうか」
HMも母に同意した。
「それがいいわ。多数決よ。じゃあ、我が家にお招きするのに賛成の人は?」
HF、スロト、父、タクが手を挙げた。
「じゃあ、別の所に泊まったほうがいいという人は?」
HMは自ら手を挙げ、スナサ、母、ジュン、ミサ、リコも手を挙げた。
「決まったわね。目的地を変更するわよ」
HFは弱った表情を見せた。
ミサが、ふとタクのケロッパのTシャツを見て言い出した。
「待って。私、やっぱり賛成にする」
母が慌てた。父はニヤリと笑った。これで5対5だ。
「リコも賛成にする」とリコ。
「賛成の勝ちだ。よかった。我が家に向かいますよ」とHF。
「リコ、偉いぞ」と父。
「リコ、イチゴに誘惑されちゃ駄目だよ」とジュン。
「ううん、ミサの考えていることがわかった」とリコ。
こうして話しているうちに、家に着いてしまった。車がストップし、真っ先に降りたHFがみんなを中に誘導した。みんなが次々に玄関を通る中、スロトが、すぐ前を歩くタクのTシャツに描かれた絵に気付いた。
「タク君。これ、何?」
「ケロッパだよ。カエルのケロッパ」
「え、これがカエル?」
家の広間に全員が集まると、HFがタクに話しかけた。
「今日はカエルマニアのタクちゃんをここにお招きできてうれしいよ。まずは、よりすぐりのレプリカをお見せしよう」
「レプリカって?」
「本物そっくりの作り物のことだよ。ほら」
HFはカエルの作り物を見せた。ミサが思わずのけぞると、HFはかまわず説明を始めた。
「まずは、これがアカガエルの一種のウシガエル。食用ガエルとして知られているやつ。それから、これがアズマヒキガエル。この色、何とも言えないな、うーん」
「なんかとってもリアルでグロテスク」
ミサがそうつぶやいた時、カエルが突然鳴いて飛び跳ねた。ミサが悲鳴をあげる。
「びっくりしたかい。ちょっとした仕掛けがあってね。そして、最高の自信作がこれ」
HFは、大きなカエルの作り物を取り出した。
「これは、一番大きなカエル、ゴライアスガエルだ。体長30センチもあるんだよ。タクちゃん、どうだい。あれ?」
HFがタクのほうを見ると、タクはぶるぶる震えて目をそらしていた。
「ごめんなさい。僕、無理です」
タクは、怖がりながら走って部屋を出ていった。
「あれ、あれ、タクちゃん、どうしちゃったのかな」
不思議がっているHFに、父が言った。
「やっぱり、そうだったのか。タクは、もう10歳なんだけど、とても怖がりなんです」
「でも、カエルが大好きなんでしょ?」
「タクは都会育ちで、本物のカエルを見たことも触ったこともないんですよ」
二人の会話を聞き、ジュンも言った。
「タクにとって、カエルとはケロッパやケロタンやケロロだからな」
HFはようやく納得した。
「そうだったのか。この付近には本物のカエルがいっぱいいます。僕は、子供の頃からカエルを捕まえて遊ぶのが大好きだったんですよ」
「僕も」
スロトも言った。父がHFに言った。
「地球の都会では、カエルは身近にはほとんどいません。だから、タクだけじゃないんです。『カエルのキャラクターはかわいらしくて大好きだけど、本物のカエルは大嫌い』という人が、地球には大勢いるんですよ」
「それは気付きませんでした。ご主人のプロフィールを読んで、てっきり本物そっくりのカエルを作ればいいのだと思ってしまいました。結果的には、それが流行したんですけどね」
家の中でタクが目にした物は、どれもグロテスクなカエルの絵が入ったものばかり。タクは、恐れおののきながら部屋を飛び出した。
広間では、母がミサに尋ねた。
「さすが、ミサ。こうなることを予想していたのね。どうしてわかったの?」
「だって、ホストの人たち、タクのTシャツを見て全く反応しないんだもの」
「思いどおりになったかもしれないけど、タクには刺激が強すぎたかな。逆にトラウマにならなければいいけど」
タクは、頭を混乱させながらスロトの部屋のドアを開けた。タクが目にした物は、やはりグロテスクなカエルの絵が入った物ばかり。タクは、心の中で叫んだ。
「もう嫌だ。カエルはこりごりだ」
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