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第15話『愛の花束』
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■ 愛の花束
地球一家6人を迎え入れたホストファミリーは、若い娘モルナとその両親だ。リビングで挨拶すると、若い男性もその場に加わった。モルナが紹介する。
「私のボーイフレンドなんです。知り合ってまだ3日なんですよ」
モルナと男性は緊張し合っている様子である。
しばらくして、地球一家が外出するところを、モルナが呼び止めた。
「皆さん、今から山へハイキングに行くところですよね。一つお願いがあるんですけど。山の頂上に、小さな花屋があります。そこで『愛の花束』というのを買ってきてくれませんか?」
愛の花束? それはどんな物なのだろう? モルナもよく知らないようだ。
「私も見たことがありませんが、新聞に出ていました。最近山で発見された花で、相手に愛情を持って渡すと、花が開くんだそうです。だから、愛情を言葉でうまく伝えられない人たちに人気だと書いてありました」
地球一家は快く引き受け、山へ向かった。
6人が細い山道を登ると、頂上に花屋が見えた。入口に看板が立てかけてある。『愛の花束はいかがですか。愛する人に向けると、花が開く不思議な花束です。新聞でも取り上げられて、人気急上昇中』と書かれていた。地球一家6人が入ると、年配の女性店員が花の手入れをしている。
「すみません、愛の花束を……」
父が店員に声をかけたが、店員は仕事の手を休めずに、独り言のようにつぶやいた。
「愛の形はさまざま。相手のことを深く知りたいと思うのも愛、相手と平穏に過ごしたいと思うのも愛、……」
「あの、すみません。私たちあまり時間がないものですから。愛の花束を一つ下さい」
父がはっきり言うと、店員はようやく手を止めて地球一家のほうを見た。
「わかりました。どなたに渡される花束ですか?」
「あ、それは聞いてなかったな」と父。
「あら、決まってるじゃない。モルナさんがボーイフレンドに渡すのよ。自分の気持ちをうまく伝えられないから、花束を使って表現しようとしているんだわ」とミサ。
「いや、わからないよ。ボーイフレンドからモルナさんに渡してもらうために買おうとしているのかもしれないよ。自分への愛を確かめようとしてね」とジュン。
「どちらでもかまいません。そのお二人は、知り合ってどれくらいなんですか?」
店員に聞かれ、ミサが答えた。
「まだ3日って言ってたわね」
「今すぐ花束を作りますから、少しお待ちください」
店員は、店内にある花を少しずつ取り上げて花束を作った。花は全て閉じている。
店を出た地球一家6人は、山道を歩いて帰り始めた。父が花束を持っている。
「モルナさん、その花束を使って、ボーイフレンドとうまくいくかしら」とミサ。
「僕は疑問を感じるな。こんな道具を使わずに、言葉で気持ちを表すべきだよ」とジュン。
「そういう考え方もあるけど、それがうまくできない人たちもいるからね。口下手や照れ屋で困っている人には、まさに大発明なんじゃないかな」と父。
「発明? 自然界に咲いている花なんだから、発明じゃなくて、発見でしょ」とミサ。
「そうだな。あまりにもこの花が不思議だから、作り物のような気がしてしまってね」
父がそう言った時、山道を歩いてくる20代くらいの女性とすれ違った。
「こんにちは」
「こんにちは」
お互いに挨拶した時、父が持つ花束の花がいっせいに開いた。父がはっとしている間に、女性はすれ違っていった。花束の花は、すぐに元どおりいっせいに閉じた。
「お父さん、今の、何?」と母。
「いや、さあ」と父。
「花が開いたよ。お父さん、今の女の人、好みのタイプなの?」とジュン。
「何を言い出すんだ。さあ、行くぞ」
父は、赤くなりながらそう言って、歩き出した。
次に、30代くらいの女性が対向してくると、父が持つ花束の花がまたいっせいに開いた。地球一家6人は花束に注目したが、女性は気付かずに去っていった。花束の花は、元どおりいっせいに閉じた。
「いや、これは、その……。感度が良すぎるんじゃないか、この花。どこかに調節ボタンはないのかな」
父は、しどろもどろになりながら、花のあちこちをいじり回した。ジュンが父に耳打ちする。
「だから、これは本物の花なんだって」
「あ、そうか。でも、きっと、異性とすれ違うだけで開いてしまうのかもしれないぞ。ちょっと試してみよう」
少し離れた所にベンチがあり、おばあさんが座っている。
「あのおばあさんに近づくだけでも開くよ、きっと」
父はそう言いながらおばあさんに近づき、花を向けて挨拶した。花は全く開かない。父が落ち着かない様子を見せると、おばあさんはきょとんとした。しまった、余計なことをした、と言わんばかりに、父は戻ってきた。ジュンとタクがニヤリと笑い、6人はまた無言で歩き出した。
「僕ばかり持つのは不公平な気がするな。お母さんも、少しは持ちなさい」
父は母に無理やり花束を渡し、母はしぶしぶ花束を受け取った。
次に、20代くらいの男性とすれ違った。お互いに挨拶をした時、母が持つ花束の花がいっせいに開いた。男性は気付かずに通り過ぎ、花は閉じた。母は赤くなっている。
「そうか、お母さん、年下の男性がいいんだ」
タクがずばり言うのを、ジュンが慌てて小声で抑えた。
「ちょっと、タク。駄目だよ、誰もが思っていることを口にしちゃ」
「ごめん。気まずい雰囲気を断ち切ろうと思って」
「確かに、このままじゃ夫婦げんかになっちゃうな。仕方がない。僕が持つよ」
ジュンは、母から花束を奪った。次に、15歳くらいの女子が向こうから来た。挨拶を交わした時、ジュンが持つ花束の花がまたいっせいに開いた。父とタクが、クスッと笑う。
「お父さん! 笑うんだったら、僕、花束持たないよ」
「すまん」
「タクもだよ。今度はタクの番だよ」
「僕、嫌だよ」
タクが走って逃げたので、ジュンが追いかけた。
「タク、自分だけずるいぞ。みんなこんなに恥をかいてるんだから!」
「そうだ、いい方法を思い付いた。みんなで持てばいいんだ。それなら誰だかわからないよ。といっても、6人全員では無理だから、とりあえず男3人で持とうか」
タクの提案に従い、まず父とジュンとタクの3人が花束を抱えるようにして運んだ。40歳くらいの女性がやってきて、花束を指した。
「それ、もしかして、最近話題の『愛の花束』ですか? そんなに重い物なの?」
いや、重くはないのだが。その時、花束の花がまた全部開いた。
「あら嫌だ、恥ずかしい。私、夫も子供もおりますので」
女性は顔を赤らめながら立ち去った。
「ジュンかタクか、どちらか知らないが、お母さんくらいの年の女性が好みなのか、ハハハ」
父は笑ったが、無理がありすぎて余計に気まずい。母は無表情だ。
次は、女性3人の番だ。母、ミサ、リコの3人が花束を運んでいると、15歳くらいの男子とすれ違った。花束の花が開く。ジュンがタクにささやいた。
「これはきっと、ミサだな」
次に、10歳くらいの男子が近づいてきた。花がまた開く。ジュンがまたささやく。
「今度はきっと、リコだな」
「いや、案外、またミサだったりして」とタク。
「ちょっと、ひそひそと犯人探しするの、やめて」とミサ。
「私じゃないよ!」
リコはそう言って手を離した。花は開いたままである。ミサが叫んだ。
「ちょっと、リコ、手を離しちゃ駄目」
男子が通り過ぎると、花が閉じた。
「こんなにすぐ開いちゃう愛の花束って、商品としていかがなものかしら」とミサ。
「うん、それでもここの人たちには人気商品だということは、僕たちが誰彼かまわずほれやすいのが異常なのかもしれないね」とジュン。
「僕たちって? 地球人ってこと? それとも、うちの家族のこと?」とタク。
「タクにしてはいい質問だ」とジュン。
さて、次はまた男3人の番だ。母が花束を父に渡そうとする。それを見て、タクが口走った。
「そういえば、花が開かないね。お母さんがお父さんに花を渡しているのに」
「本当だ。気が付かなかった。というか、タク、なんてこと言うんだ。まずいよ」とジュン。
父は母に花束を返したが、確かに花が開かない。その様子を見て、子供たちは両親の間の愛を疑い始めた。そういえば、二人とも愛していると言っているのを聞いたことがない。
そこへ、モルナが近づいてきた。もうホストハウスの近くまで来ていたことにようやく気付いた。父が花束をモルナに渡すと、花束の花がまたいっせいに開いた。モルナが小さな悲鳴をあげた。父が気まずい表情になったが、モルナは冷静に言った。
「あ、いえ、びっくりしただけです。私は大丈夫です。ありがとうございました」
家に入り、地球一家6人とモルナはリビングに集まった。モルナはテーブルに花束を置き、両親を呼んだ。
「お父さん、お母さん! 来て!」
「え、その花束、ボーイフレンドに渡すんじゃないんですか?」
ジュンが尋ねると、モルナは首を横に振った。
「いえ、違うんです。ちょっと両親の愛を確かめようと思って」
ホスト夫妻が入ってくると、モルナはHF(ホストファーザー)に言った。
「お父さん、その花束をお母さんに渡してみてくれる?」
「これかい?」
HFが花束を持ってHM(ホストマザー)に渡すが、花は開かない。モルナは同じことをHMにも頼んだ。HMは花束を持ってHFに渡したが、花は開かなかった。モルナは言った。
「やっぱり。これ、愛の花束なのよ」
「愛の花束? 何、それ?」とHM。
「愛情があると、花が開くのよ。でも、開かないじゃない。二人とも、ちっとも愛してるって言わないから心配してたけど、やっぱり愛がないのね」とモルナ。
「いや、そんなわけが……」とHM。
「そんなに簡単に開かないんじゃないか、この花?」とHF。
「そんなことないわ。ね、さっき……」
モルナはそう言って父のほうを見た。父は慌てるだけで何も言えなかった。そこへ、モルナのボーイフレンドの男性が入ってきた。モルナは花束を持って男性に差し向けた。
「ちょうどよかった。あなたのご両親にもこの愛の花束、試してみてよ」
その時、花がいっせいに開いた。モルナが慌てて花束をテーブルに置くと、花は閉じた。モルナは照れながら両親に言った。
「ね、こんなふうに開くのよ。でもお父さんとお母さんがやっても開かない」
「ちょっと待って」
父が遮り、花束を持って母に渡した。花は開かない。母が父に花束を返したが、やはり花は開かない。
「ほら、ほら。僕たちがやっても、開かないんですよ」
「え、どうして? まさか、お二人も?」
不思議そうに尋ねるモルナに、父は答えた。
「いえいえ。よく聞いてください。愛にはいろいろな形があります。相手のことを深く知りたいと思うのも愛、相手と平穏に過ごしたいと思うのも愛、……」
父は、花屋の女性店員の独り言を思い浮かべていた。モルナが尋ねる。
「へえ、ほかには?」
「ほかには、あー、ちょっと思い出せません。ただ要するに、おそらく愛の花束にもいろいろあって、これはたぶん、相手をもっと知りたいと思う愛情に反応する花なのでしょう。だから、もう十分知り尽くしている夫婦の場合には反応しないんですよ」
「なるほど、そういうことか。きっと、そうだね」
HFが冷や汗をかきながら、父に同意した。そして、大人全員が笑った。子供は全員、あ然として大人たちをにらんだ。
翌朝、地球一家が4人とお別れする時間が近づいた。モルナは母に、ボーイフレンドの男性が父に、ジュンがHFに、ミサがHMに、偶然にも別々の場所で同じ質問をした。
「最後に質問があるんですけど。もう二度と会うことはないので秘密は守れますから、本当のことを教えてください。あなたは、パートナーのことを愛していますか?」
地球一家6人を迎え入れたホストファミリーは、若い娘モルナとその両親だ。リビングで挨拶すると、若い男性もその場に加わった。モルナが紹介する。
「私のボーイフレンドなんです。知り合ってまだ3日なんですよ」
モルナと男性は緊張し合っている様子である。
しばらくして、地球一家が外出するところを、モルナが呼び止めた。
「皆さん、今から山へハイキングに行くところですよね。一つお願いがあるんですけど。山の頂上に、小さな花屋があります。そこで『愛の花束』というのを買ってきてくれませんか?」
愛の花束? それはどんな物なのだろう? モルナもよく知らないようだ。
「私も見たことがありませんが、新聞に出ていました。最近山で発見された花で、相手に愛情を持って渡すと、花が開くんだそうです。だから、愛情を言葉でうまく伝えられない人たちに人気だと書いてありました」
地球一家は快く引き受け、山へ向かった。
6人が細い山道を登ると、頂上に花屋が見えた。入口に看板が立てかけてある。『愛の花束はいかがですか。愛する人に向けると、花が開く不思議な花束です。新聞でも取り上げられて、人気急上昇中』と書かれていた。地球一家6人が入ると、年配の女性店員が花の手入れをしている。
「すみません、愛の花束を……」
父が店員に声をかけたが、店員は仕事の手を休めずに、独り言のようにつぶやいた。
「愛の形はさまざま。相手のことを深く知りたいと思うのも愛、相手と平穏に過ごしたいと思うのも愛、……」
「あの、すみません。私たちあまり時間がないものですから。愛の花束を一つ下さい」
父がはっきり言うと、店員はようやく手を止めて地球一家のほうを見た。
「わかりました。どなたに渡される花束ですか?」
「あ、それは聞いてなかったな」と父。
「あら、決まってるじゃない。モルナさんがボーイフレンドに渡すのよ。自分の気持ちをうまく伝えられないから、花束を使って表現しようとしているんだわ」とミサ。
「いや、わからないよ。ボーイフレンドからモルナさんに渡してもらうために買おうとしているのかもしれないよ。自分への愛を確かめようとしてね」とジュン。
「どちらでもかまいません。そのお二人は、知り合ってどれくらいなんですか?」
店員に聞かれ、ミサが答えた。
「まだ3日って言ってたわね」
「今すぐ花束を作りますから、少しお待ちください」
店員は、店内にある花を少しずつ取り上げて花束を作った。花は全て閉じている。
店を出た地球一家6人は、山道を歩いて帰り始めた。父が花束を持っている。
「モルナさん、その花束を使って、ボーイフレンドとうまくいくかしら」とミサ。
「僕は疑問を感じるな。こんな道具を使わずに、言葉で気持ちを表すべきだよ」とジュン。
「そういう考え方もあるけど、それがうまくできない人たちもいるからね。口下手や照れ屋で困っている人には、まさに大発明なんじゃないかな」と父。
「発明? 自然界に咲いている花なんだから、発明じゃなくて、発見でしょ」とミサ。
「そうだな。あまりにもこの花が不思議だから、作り物のような気がしてしまってね」
父がそう言った時、山道を歩いてくる20代くらいの女性とすれ違った。
「こんにちは」
「こんにちは」
お互いに挨拶した時、父が持つ花束の花がいっせいに開いた。父がはっとしている間に、女性はすれ違っていった。花束の花は、すぐに元どおりいっせいに閉じた。
「お父さん、今の、何?」と母。
「いや、さあ」と父。
「花が開いたよ。お父さん、今の女の人、好みのタイプなの?」とジュン。
「何を言い出すんだ。さあ、行くぞ」
父は、赤くなりながらそう言って、歩き出した。
次に、30代くらいの女性が対向してくると、父が持つ花束の花がまたいっせいに開いた。地球一家6人は花束に注目したが、女性は気付かずに去っていった。花束の花は、元どおりいっせいに閉じた。
「いや、これは、その……。感度が良すぎるんじゃないか、この花。どこかに調節ボタンはないのかな」
父は、しどろもどろになりながら、花のあちこちをいじり回した。ジュンが父に耳打ちする。
「だから、これは本物の花なんだって」
「あ、そうか。でも、きっと、異性とすれ違うだけで開いてしまうのかもしれないぞ。ちょっと試してみよう」
少し離れた所にベンチがあり、おばあさんが座っている。
「あのおばあさんに近づくだけでも開くよ、きっと」
父はそう言いながらおばあさんに近づき、花を向けて挨拶した。花は全く開かない。父が落ち着かない様子を見せると、おばあさんはきょとんとした。しまった、余計なことをした、と言わんばかりに、父は戻ってきた。ジュンとタクがニヤリと笑い、6人はまた無言で歩き出した。
「僕ばかり持つのは不公平な気がするな。お母さんも、少しは持ちなさい」
父は母に無理やり花束を渡し、母はしぶしぶ花束を受け取った。
次に、20代くらいの男性とすれ違った。お互いに挨拶をした時、母が持つ花束の花がいっせいに開いた。男性は気付かずに通り過ぎ、花は閉じた。母は赤くなっている。
「そうか、お母さん、年下の男性がいいんだ」
タクがずばり言うのを、ジュンが慌てて小声で抑えた。
「ちょっと、タク。駄目だよ、誰もが思っていることを口にしちゃ」
「ごめん。気まずい雰囲気を断ち切ろうと思って」
「確かに、このままじゃ夫婦げんかになっちゃうな。仕方がない。僕が持つよ」
ジュンは、母から花束を奪った。次に、15歳くらいの女子が向こうから来た。挨拶を交わした時、ジュンが持つ花束の花がまたいっせいに開いた。父とタクが、クスッと笑う。
「お父さん! 笑うんだったら、僕、花束持たないよ」
「すまん」
「タクもだよ。今度はタクの番だよ」
「僕、嫌だよ」
タクが走って逃げたので、ジュンが追いかけた。
「タク、自分だけずるいぞ。みんなこんなに恥をかいてるんだから!」
「そうだ、いい方法を思い付いた。みんなで持てばいいんだ。それなら誰だかわからないよ。といっても、6人全員では無理だから、とりあえず男3人で持とうか」
タクの提案に従い、まず父とジュンとタクの3人が花束を抱えるようにして運んだ。40歳くらいの女性がやってきて、花束を指した。
「それ、もしかして、最近話題の『愛の花束』ですか? そんなに重い物なの?」
いや、重くはないのだが。その時、花束の花がまた全部開いた。
「あら嫌だ、恥ずかしい。私、夫も子供もおりますので」
女性は顔を赤らめながら立ち去った。
「ジュンかタクか、どちらか知らないが、お母さんくらいの年の女性が好みなのか、ハハハ」
父は笑ったが、無理がありすぎて余計に気まずい。母は無表情だ。
次は、女性3人の番だ。母、ミサ、リコの3人が花束を運んでいると、15歳くらいの男子とすれ違った。花束の花が開く。ジュンがタクにささやいた。
「これはきっと、ミサだな」
次に、10歳くらいの男子が近づいてきた。花がまた開く。ジュンがまたささやく。
「今度はきっと、リコだな」
「いや、案外、またミサだったりして」とタク。
「ちょっと、ひそひそと犯人探しするの、やめて」とミサ。
「私じゃないよ!」
リコはそう言って手を離した。花は開いたままである。ミサが叫んだ。
「ちょっと、リコ、手を離しちゃ駄目」
男子が通り過ぎると、花が閉じた。
「こんなにすぐ開いちゃう愛の花束って、商品としていかがなものかしら」とミサ。
「うん、それでもここの人たちには人気商品だということは、僕たちが誰彼かまわずほれやすいのが異常なのかもしれないね」とジュン。
「僕たちって? 地球人ってこと? それとも、うちの家族のこと?」とタク。
「タクにしてはいい質問だ」とジュン。
さて、次はまた男3人の番だ。母が花束を父に渡そうとする。それを見て、タクが口走った。
「そういえば、花が開かないね。お母さんがお父さんに花を渡しているのに」
「本当だ。気が付かなかった。というか、タク、なんてこと言うんだ。まずいよ」とジュン。
父は母に花束を返したが、確かに花が開かない。その様子を見て、子供たちは両親の間の愛を疑い始めた。そういえば、二人とも愛していると言っているのを聞いたことがない。
そこへ、モルナが近づいてきた。もうホストハウスの近くまで来ていたことにようやく気付いた。父が花束をモルナに渡すと、花束の花がまたいっせいに開いた。モルナが小さな悲鳴をあげた。父が気まずい表情になったが、モルナは冷静に言った。
「あ、いえ、びっくりしただけです。私は大丈夫です。ありがとうございました」
家に入り、地球一家6人とモルナはリビングに集まった。モルナはテーブルに花束を置き、両親を呼んだ。
「お父さん、お母さん! 来て!」
「え、その花束、ボーイフレンドに渡すんじゃないんですか?」
ジュンが尋ねると、モルナは首を横に振った。
「いえ、違うんです。ちょっと両親の愛を確かめようと思って」
ホスト夫妻が入ってくると、モルナはHF(ホストファーザー)に言った。
「お父さん、その花束をお母さんに渡してみてくれる?」
「これかい?」
HFが花束を持ってHM(ホストマザー)に渡すが、花は開かない。モルナは同じことをHMにも頼んだ。HMは花束を持ってHFに渡したが、花は開かなかった。モルナは言った。
「やっぱり。これ、愛の花束なのよ」
「愛の花束? 何、それ?」とHM。
「愛情があると、花が開くのよ。でも、開かないじゃない。二人とも、ちっとも愛してるって言わないから心配してたけど、やっぱり愛がないのね」とモルナ。
「いや、そんなわけが……」とHM。
「そんなに簡単に開かないんじゃないか、この花?」とHF。
「そんなことないわ。ね、さっき……」
モルナはそう言って父のほうを見た。父は慌てるだけで何も言えなかった。そこへ、モルナのボーイフレンドの男性が入ってきた。モルナは花束を持って男性に差し向けた。
「ちょうどよかった。あなたのご両親にもこの愛の花束、試してみてよ」
その時、花がいっせいに開いた。モルナが慌てて花束をテーブルに置くと、花は閉じた。モルナは照れながら両親に言った。
「ね、こんなふうに開くのよ。でもお父さんとお母さんがやっても開かない」
「ちょっと待って」
父が遮り、花束を持って母に渡した。花は開かない。母が父に花束を返したが、やはり花は開かない。
「ほら、ほら。僕たちがやっても、開かないんですよ」
「え、どうして? まさか、お二人も?」
不思議そうに尋ねるモルナに、父は答えた。
「いえいえ。よく聞いてください。愛にはいろいろな形があります。相手のことを深く知りたいと思うのも愛、相手と平穏に過ごしたいと思うのも愛、……」
父は、花屋の女性店員の独り言を思い浮かべていた。モルナが尋ねる。
「へえ、ほかには?」
「ほかには、あー、ちょっと思い出せません。ただ要するに、おそらく愛の花束にもいろいろあって、これはたぶん、相手をもっと知りたいと思う愛情に反応する花なのでしょう。だから、もう十分知り尽くしている夫婦の場合には反応しないんですよ」
「なるほど、そういうことか。きっと、そうだね」
HFが冷や汗をかきながら、父に同意した。そして、大人全員が笑った。子供は全員、あ然として大人たちをにらんだ。
翌朝、地球一家が4人とお別れする時間が近づいた。モルナは母に、ボーイフレンドの男性が父に、ジュンがHFに、ミサがHMに、偶然にも別々の場所で同じ質問をした。
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