1 / 3
吊るされた女〜栞里①
しおりを挟む
フッと目が覚めた。視界に飛び込んできたのはガラスだ。温室のような…わたしは透明なガラスの箱の中にいた。
手首が痛い。両腕が上に引っ張られている。見上げたら、両手首に黒いリストバンドのような物が巻かれ、それが金属製の頑丈なチェーンに繋がっており、立ったまま上から吊るされていた。
両脇には太い頑丈な柱が立っていて、鳥居のように、その上に同じ太さの柱が渡されている。
手首から繋がっているチェーンの端は、頭上でその横に渡された柱に打ち込まれるようにしっかり留められていた。長さは踵を床に下ろして立てるぐらい。
足首にも手首と同じバンドが巻かれ、やはり同じようなチェーンが床を這って柱に繋がっている。見上げた時に、首輪のようなものが巻かれていることが分かった。自分で見ることはできないが、その感触から、おそらく犬を繋ぐような革の首輪らしい。
通勤用のローヒールを履いていたはずなのに裸足だった。ストッキングも履いていない。
見下ろすと、白い裸が目に入った。むき出しの肩と乳房、お腹とおへそ、白い太もも。それらが明るい日差しを浴びている。
着ていたはずのジャケットもスカートもブラウスも、それどころか下着まで全部脱がされて何も着ていない。わたしは生まれたままの姿でYの字の格好で吊るされていた。
いったい何が起きたの…
急にパニックに襲われた。身体が熱くなってすぐに凍えるほど寒くなる。恐怖でブルブル震えてしまい、歯がカチカチと鳴った。
必死でもがいてみても、チェーンがチャリンと冷たい金属音を立てるだけで動けない。どうして自分がこんな格好でこんな場所にいるのかわからない。
「ううっ」
漏れ出た声はしわがれ、自分のものじゃないみたいだった。暴れたせいで部屋の空気が動いた。むき出しの肌にかすかな風を感じ、丸裸であることを嫌でも認識させられる。
急に心細くなり、ぴったり閉じた太ももをよじり合わせた。
ああああ、と叫びながらめちゃくちゃに暴れてチェーンを力いっぱい引っ張ってみる。しかし自分の手と足が痛くなっただけだ。首輪に繋がれているチェーンは短くて、暴れると首が上に引っ張られて喉を圧迫した。窒息しかけたわたしは、こんなことをしてもどうにもならないと自分に言い聞かせ、暴れるのをやめた。
落ち着くのよ。まず自分が置かれた状況を見定めないと…。
自分にそう言い聞かせ、深呼吸して荒くなった息を鎮める。ソロソロと首を回して周囲を観察する。
部屋を取り囲んでいるのはガラスの壁だ。一辺が5mくらいの大きなガラスの箱。四隅に柱を建て、その間を大きく透明なガラスが連なっている温室のような部屋だ。床はフローリングのような板張り。四方と天井が透明なので、そこに入れられているわたしは、まるで水族館の魚のようだった。
ガラスの外は、おかしなことにどう見ても普通の住宅街だった。住宅街の2車線の道路の交差点の真ん中に、わたしが入れられている箱が置かれている。そして舞台のように周囲から高くなっていた。
外に見える家々は、どれも建ったばかりの新しい建物に見えた。窓にはカーテンも無い。どの家も人の気配が感じられない。
今の時刻はわからないが、青空に雲が浮かび陽の光が差している。初冬の厳しい寒さはこの部屋の中には及んでいない。ガラスの部屋の中は太陽の光が差し込んで、裸でもポカポカと暖かだった。
夢を見ているのかもしれないと思った。住宅地の真ん中で裸で拘束されてるなんて、どう考えても非現実的だから。だが手首を拘束しているバンドの感触と腕の痺れは本物だし、晒された肌に触れる空気の動きも本物だ。
なぜこんな所にいるんだろう…。
その疑問が繰り返しわたしの頭の中をぐるぐると駆け巡る。今朝、通勤で駅に向かう途中で後ろから呼び止められ、振り返りかけたところで急に記憶が途切れている。
ここでどれぐらい、こんな格好でいたかな。
手の痺れから数時間は経っているようだ。手首に巻かれたバンドは内側に柔らかい素材が使われているようで、吊るされていても擦れたりせず痛くはなかった。だがそれは、このガラスケースの構造も含めて予め計画してあったことということを示している。
鎮まった筈の恐怖と心細さが押し寄せてきて涙がこぼれた。認めたくはなかったが、わたしは通勤の途中で何者かに拉致されたのだ。
誰も来ない。ガラスの向こうの街にも人影は見えない。でも、もし通りかかる人がいたら…。わたしのみじめな姿は外から全部丸見えだ。それを想像すると、恥ずかしさのあまり身体が熱くなった。
もしかしたら、この透明に見えるガラスはマジックミラーかもしれない。外から見たら鏡のようになっているとか。もしもそうであれば、外の方が明るい今は、ガラスの部屋の中は見えないはずだけど。
しかし、目を凝らしても、フィルムが貼ってあるようにも、マジックミラーガラスのようにも見えない。
仕事でパソコンを使い続けているせいで学生の頃よりは視力は落ちたが、それでも眼鏡やコンタクトレンズを使うほど不自由はしていないから、わたしを取り囲んでいるこのガラスは、見た目どおり透明なのだ。
こんな部屋が住宅街の交差点の真ん中に置かれていたら車は通行できない。歩いている人だって変に思うに違いない。正体を確かめようとするはずだ。でも、意識が戻ってから車はおろか誰の姿も見ていない。
わたしはどうなるんだろう。いきなり殺されたりはしないと思う。命を奪うことが目的なら、こんな風にさらし者にする手間など必要ない。
そう。そうだ。考えたくなかったけれど、目的は身体に決まっている。裸にしたのは慰み者にするため。吊るされて抵抗できない状態で何をされるのかは想像がついた。
手首が痛い。両腕が上に引っ張られている。見上げたら、両手首に黒いリストバンドのような物が巻かれ、それが金属製の頑丈なチェーンに繋がっており、立ったまま上から吊るされていた。
両脇には太い頑丈な柱が立っていて、鳥居のように、その上に同じ太さの柱が渡されている。
手首から繋がっているチェーンの端は、頭上でその横に渡された柱に打ち込まれるようにしっかり留められていた。長さは踵を床に下ろして立てるぐらい。
足首にも手首と同じバンドが巻かれ、やはり同じようなチェーンが床を這って柱に繋がっている。見上げた時に、首輪のようなものが巻かれていることが分かった。自分で見ることはできないが、その感触から、おそらく犬を繋ぐような革の首輪らしい。
通勤用のローヒールを履いていたはずなのに裸足だった。ストッキングも履いていない。
見下ろすと、白い裸が目に入った。むき出しの肩と乳房、お腹とおへそ、白い太もも。それらが明るい日差しを浴びている。
着ていたはずのジャケットもスカートもブラウスも、それどころか下着まで全部脱がされて何も着ていない。わたしは生まれたままの姿でYの字の格好で吊るされていた。
いったい何が起きたの…
急にパニックに襲われた。身体が熱くなってすぐに凍えるほど寒くなる。恐怖でブルブル震えてしまい、歯がカチカチと鳴った。
必死でもがいてみても、チェーンがチャリンと冷たい金属音を立てるだけで動けない。どうして自分がこんな格好でこんな場所にいるのかわからない。
「ううっ」
漏れ出た声はしわがれ、自分のものじゃないみたいだった。暴れたせいで部屋の空気が動いた。むき出しの肌にかすかな風を感じ、丸裸であることを嫌でも認識させられる。
急に心細くなり、ぴったり閉じた太ももをよじり合わせた。
ああああ、と叫びながらめちゃくちゃに暴れてチェーンを力いっぱい引っ張ってみる。しかし自分の手と足が痛くなっただけだ。首輪に繋がれているチェーンは短くて、暴れると首が上に引っ張られて喉を圧迫した。窒息しかけたわたしは、こんなことをしてもどうにもならないと自分に言い聞かせ、暴れるのをやめた。
落ち着くのよ。まず自分が置かれた状況を見定めないと…。
自分にそう言い聞かせ、深呼吸して荒くなった息を鎮める。ソロソロと首を回して周囲を観察する。
部屋を取り囲んでいるのはガラスの壁だ。一辺が5mくらいの大きなガラスの箱。四隅に柱を建て、その間を大きく透明なガラスが連なっている温室のような部屋だ。床はフローリングのような板張り。四方と天井が透明なので、そこに入れられているわたしは、まるで水族館の魚のようだった。
ガラスの外は、おかしなことにどう見ても普通の住宅街だった。住宅街の2車線の道路の交差点の真ん中に、わたしが入れられている箱が置かれている。そして舞台のように周囲から高くなっていた。
外に見える家々は、どれも建ったばかりの新しい建物に見えた。窓にはカーテンも無い。どの家も人の気配が感じられない。
今の時刻はわからないが、青空に雲が浮かび陽の光が差している。初冬の厳しい寒さはこの部屋の中には及んでいない。ガラスの部屋の中は太陽の光が差し込んで、裸でもポカポカと暖かだった。
夢を見ているのかもしれないと思った。住宅地の真ん中で裸で拘束されてるなんて、どう考えても非現実的だから。だが手首を拘束しているバンドの感触と腕の痺れは本物だし、晒された肌に触れる空気の動きも本物だ。
なぜこんな所にいるんだろう…。
その疑問が繰り返しわたしの頭の中をぐるぐると駆け巡る。今朝、通勤で駅に向かう途中で後ろから呼び止められ、振り返りかけたところで急に記憶が途切れている。
ここでどれぐらい、こんな格好でいたかな。
手の痺れから数時間は経っているようだ。手首に巻かれたバンドは内側に柔らかい素材が使われているようで、吊るされていても擦れたりせず痛くはなかった。だがそれは、このガラスケースの構造も含めて予め計画してあったことということを示している。
鎮まった筈の恐怖と心細さが押し寄せてきて涙がこぼれた。認めたくはなかったが、わたしは通勤の途中で何者かに拉致されたのだ。
誰も来ない。ガラスの向こうの街にも人影は見えない。でも、もし通りかかる人がいたら…。わたしのみじめな姿は外から全部丸見えだ。それを想像すると、恥ずかしさのあまり身体が熱くなった。
もしかしたら、この透明に見えるガラスはマジックミラーかもしれない。外から見たら鏡のようになっているとか。もしもそうであれば、外の方が明るい今は、ガラスの部屋の中は見えないはずだけど。
しかし、目を凝らしても、フィルムが貼ってあるようにも、マジックミラーガラスのようにも見えない。
仕事でパソコンを使い続けているせいで学生の頃よりは視力は落ちたが、それでも眼鏡やコンタクトレンズを使うほど不自由はしていないから、わたしを取り囲んでいるこのガラスは、見た目どおり透明なのだ。
こんな部屋が住宅街の交差点の真ん中に置かれていたら車は通行できない。歩いている人だって変に思うに違いない。正体を確かめようとするはずだ。でも、意識が戻ってから車はおろか誰の姿も見ていない。
わたしはどうなるんだろう。いきなり殺されたりはしないと思う。命を奪うことが目的なら、こんな風にさらし者にする手間など必要ない。
そう。そうだ。考えたくなかったけれど、目的は身体に決まっている。裸にしたのは慰み者にするため。吊るされて抵抗できない状態で何をされるのかは想像がついた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
女子切腹同好会 ~2有香と女子大生四人の“切腹”編・3樹神奉寧団編~
しんいち
ホラー
学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れ、私立の女子高に入学した新瀬有香。彼女はひょんなことから“内臓フェチ”に目覚めてしまい、憧れの生徒会長から直接誘われて“女子切腹同好会”という怪しい秘密会へ入会してしまった。その生徒会長の美しい切腹に感動した彼女、自らも切腹することを決意し、同好会の会長職を引き継いだのだった・・・というのが前編『女子切腹同好会』でのお話。この話の後日談となります。切腹したいと願う有香、はたして如何になることになるのでありましょうか。いきなり切腹してしまうのか?! それでは話がそこで終わってしまうんですけど・・・。
(他サイトでは「3」として別に投稿している「樹神奉寧団編」も続けて投稿します)
この話は、切腹場面等々、流血を含む残酷・グロシーンがあります。前編よりも酷いので、R18指定とします。グロシーンが苦手な人は、決して読まないでください。
また・・・。登場人物は、皆、イカレテいます。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかもしれません。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、・・・多々、存在してしまうものなのですよ!!
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる