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思い込みと押し付け
しおりを挟むアイラとゆーちんが生配信している同時刻━━
「はぁ......休日出勤はおじさんの身体に堪えるねぇ」
俺は先日起きた事件の捜査で土曜にも関わらず署で資料を作成していた。
「鷲野さんは一体何言ってるんですか......昨日夜遅くまで捜査してるからです。しっかり寝ないといけませんよ」
オジサンの俺に説教垂れてるのはこの間現場で話した刑事の《東海林紗蘭》26歳。
若いのに優秀で1年前から正式に俺の相勤者として様々な事件を一緒に捜査している。
今回起きた富田親子殺害事件も俺達は2人で捜査を担当していた。
「わかってるよぉ、でもこの歳になると寝ても夜中目が覚めるわ疲れは取れないわでいろいろ大変なんだって」
「なるほど、それを聞くと年はとりたくないなぁ......。それより例の遺体と凶器に付着していた指紋の照合結果が出ました」
「......結果は?」
「それが......あの現場で採取された指紋は警察のデータベース上に現在は上がっていませんでした」
「現在はってことはまさか━━」
東海林は少し信じられないような表情で徐に話し始めた。
「そのまさかです、あの指紋は既にこの世を去った人物の指紋でした━━」
「......それは一体誰なんだ?」
「......その正体は 《黒羽真央》。
3週間ほど前電車飛び込んで自殺した人物であの富田守と同じ高校の生徒です━━」
「なるほど...あの炙って書かれた《M.K》ってのは黒羽真央の頭文字だったのか━━。しかし何故黒羽だとすぐ分かったんだ?」
「それが......以前彼の母親が自宅で殺された事件があって彼はその第一発見者だったそうです。そしてその家からは薬物が発見され、彼はそれも含めた事情聴取を受けた時に指紋とDNAを━━」
「その事件なら少し知ってるよ、上からの命令で強制的に捜査が打ち切りになった事件だ」
「そうなんですか? でも何故打ち切りに?」
「それは分からない......俺は打ち切り後も気になって独自に調べていたが捜査資料は気持ち悪いくらい綺麗さっぱり破棄されていた。ただこの間捕まえた富田綾乃が所持してた覚醒剤がその事件で押収されたモノと成分が一緒だった。果たしてこれは偶然か......?」
「どうでしょう......今の段階では偶然な気もしますが━━」
「そうかな、とりあえず話を戻そう。黒羽はその後亡くなったからデータベース上では削除されたと......」
「その通りです。それと現場で発見された毛髪も黒羽真央と一致しました。ただ...死んだ人間の痕跡をわざわざ残して犯行を行うなんて私は聞いたことありません」
「俺もだよ。恐らく犯人は黒羽真央が死んだことを知っている且つ警察を嘲笑っている人間だ。敢えて分かりやすい痕跡を残してるなんて余程捕まらない自信がある奴なんだろう。もしくは━━」
「もしくは......何でしょうか?」
「黒羽真央本人かもしれないな......」
「そんなバカな......彼は既に亡くなってるんですよ? そんなゾンビみたいなことを━━」
「だが被害者の殺され方が余りにも不可解すぎるだろ? 正に悪魔か亡霊の仕業だ。これは俺の勘だが恐らく事件はまだまだ続くぞ━━」
「刑事の勘ってやつですか......。とりあえず月曜になったら富田守の件と黒羽真央の件を改めて学校へ聞き込みに行きましょう」
「そうだな、それと黒羽真央の親族関係も洗っておいてくれ」
「分かりました。では資料の作成に戻りますのでオジサンはコーヒーでも飲んでゆっくり休んでください」
「あのなぁ......自分からオジサンって言うのは良いんだが相手から言われるのは嫌いなんだよ。オジサンてのは見た目とは裏腹に案外繊細な生き物なんだ」
「ふふっ...意外と可愛いんですねオジサンは。では失礼します━━」
東海林はニヤニヤしながら部屋を出ていった。
「全く、近頃の若い奴は生意気で困るよ。それよりこの事件......もしかすると腐りきったこの警察組織を破壊する始まりになるかもしれないな━━」
* * *
生配信撮影後━━
私はアイラと別れ暗い道の中自宅に向かっていた。
「撮影楽しかったなー。やっぱり1人でやり続けるより誰か居た方が新しい企画とか考えが思いつくなぁ」
さっきまで本当に楽しかった。
男の子とあんなふうに買い物した事なんて無かったし彼は私の事を色眼鏡で見ないで遠慮せずに接してくれる。
そしてこの前出会ったばかりのはずなのにどこか懐かしくて温かい雰囲気だけと彼が時折見せる氷のような正反対の表情━━。
見た目とか関係無く私は彼の事が気になって仕方なかった。
「明星亜依羅......か......」
「それがアイラって奴の本名なのか......?」
「誰っ!?」
私が振り返るとそこには━━
「あんなイケメンと共演なんて許せないよ俺は......今まで君に幾らつぎ込んだと思ってる? ねぇゆーちん?」
黒いパーカーにフードを被った知らない男だった━━。
* * *
「あなた......一体誰ですか......?」
「酷いなぁ、俺のこと覚えてないの? いつもゆーちんに赤スパ投げてる 《レッドモンキー》だよ」
この男目が完全にイッちゃってる......。
スマホの緊急通報のやり方は覚えてるから今は何とかしてこの場を切り抜けないと!
「あー、いつもコメントくれるレッドモンキーさんね? こんばんは! こんな所でどうしたんですか?」
「挨拶なんてどーでも良い! 今日ゆーちんの隣にいたあの男はなんなんだよ! もしかして実は前から居たゆーちんの彼氏なのか!?」
ガチ恋パターンか......一番面倒な奴だ。
下手に刺激するとヤバいから今はなだめてやり過ごそう━━。
「違いますよ、あの人とは本当に駅で会っただけです。それに私に彼氏は居ませんから」
「嘘だ! あんなに長い時間ベタベタしてただろ! じゃあ聞くが付き合ってないならその男の出演を何故了承したんだ? この俺の許可無しに! まさか奴に脅されたのか!?」
なんで事務所の人間でもないアンタの許可が必要なのよ! バカじゃない!?
「そんな事ないですよ......彼に出演を依頼したのは私からです」
「ならもっと許せねぇ! どうせイケメンだからそばに居るのを許したんだろ!? 俺の方が可愛い可愛いゆーちんを幸せにできるんだ!」
は? 何言ってんだコイツ...!
私はイライラしながらスマホの緊急通報ボタンを押して逃げる準備に入った。
「すみませんけど私の幸せは私が決めるので貴方に幸せにしてもらう必要なんてありません。警察を呼びます」
「何だと! ならここで殺すしかない......ゆーちんを殺して俺も死ぬ! そうすれば天国て君と永遠に結ばれるんだ......はははは!」
「冗談じゃない! それ以上こっちに来ないでっ!」
男は狂気の表情でポッケからナイフを取り出して私に襲いかかってきたので全力で逃げる。
しかし履いていたブーツのせいで速く走れず逃げ切ることが出来ない。
「待てよゆーちん!」
「はぁ...はぁ...もう...何なの...! 早く警察来てよ!」
「逃がさないよゆーちん...こう見えて俺は走るのが得意なんだ」
一体なんなのよコイツ! ブーツのせいで足が......!
「きゃっ!」
ドサッ━━!
「そんな所で躓くなんてゆーちんはドジっ子だね。鬼ごっこはこれでおしまいだ......こんな路地裏じゃ誰も助けに来ない━━」
「ふざけんな! もう警察は呼んだから! アンタが殺人未遂で捕まるのも時間の問題よ!」
「うるせぇ! なら今すぐ殺して俺も死ぬ! あの世で一緒になろうね......ゆーちん」
嫌......こんな所でこんな奴に殺されたくない!
「誰か...誰か助けて......!」
「泣き顔も可愛いね。バイバイゆーちん......!」
ドスッ━━!
「ぐぇっ......!」
男はその衝撃音と共にその場に気絶するように倒れた。
「何!? 今度は誰!?」
「いやぁ探したよゆーちん。だからさっき言ったじゃんアンチやストーカーには気をつけなよってさ━━」
「なんなんだ......お前......!」
「僕? 僕はゆーちんの下僕兼ホストのアイランドだよ。1セット終了のお時間なのでカスナーさんはお会計の方お願いしまーす」
倒れた男の後ろから姿を現したのは月明かりに照らされた白髪をかき上げ、氷のような目で男を見つめるアイラだった━━。
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