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初配信で喧嘩

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 富田守が殺害されてから2日後の土曜日━━


 俺はゆーちんに呼び出されて学校の最寄り駅に来ていた。

「ごめんアイラお待たせっ」


 少し小走りで向かってきたゆーちんはいつもの制服姿とは違いショートタンクトップにカーデを羽織り、ボトムスはミニスカートにニーハイを組み合わせたコーデと少し大人っぽいイメージのメイクとヘアスタイルだった。


「全然待ってないよ。それより制服姿を見慣れてるから私服だとまた違ったイメージで可愛いな」

「そ...そうかなありがとう...///。アイラもその服似合ってるよ」

「お前......それ嫌味か!? こんな芸人が着るようなジャージに似合うも何も無いんだよ!」


俺が着ているのはアイラになった直後に瑠奈さんに間に合わせで買ってもらった赤いジャージだったのでバカにされているのは明白だった。


「え? 頭にタオル巻いて胸のとこにひらがなで『あいらっく』って書けば完璧じゃん」

 コイツ自分が気合い入れてオシャレしてるからこっちをバカにした目でモノを言いやがる!

「口を慎め盗撮女! そのちっちゃな唇が口裂け女になりたくないだろ?」

「言い方ひどーい、そんなことされたら私生配信で号泣しながらリスナーのみんなに告げ口しちゃうかもなー」

「インフルエンサーの信者ファンネルは流石にズルいぞ! 暴露系iTuberに今の発言をタレコミしてやる!」

「それはやめてぇぇ...」

「ていうかそんな事よりこれからどこ行くの?」

「事務所が持ってる撮影部屋に行ってそこで生配信するの。でもその前にそのダッサいジャージを着替えないとね......とりあえずついて来て」


 俺はゆーちんに連れられ早々に服屋で赤ジャージを脱がされた後着せ替え人形の様に色々な服を着させられた。


「おぉ...どれも似合ってて迷うなぁ......。やっぱルックス良いと何でも様になるね」

「そんなに褒めてもウンコしか出ないよ。あ...ポッケに入ってる食べかけのスルメあげよっか?」

「いらないよそんなモノ! 服買ってあげるから早く撮影部屋に行こう」

「マジかよ買ってくれるの!? バイト始めたらお金返すね」

「いや...お金はいいから今度プライベートでデートしようよ」

「え? 良いけどデートしてるの世間にバレたらそっちはやばくね? 今もほら......みんな見てるし━━」


 周りを見渡すと服屋に来ている客がこっちをチラチラと見てヒソヒソと話している人もいた。
 恐らくゆーちんに対しての反応だろう......。


「あーでも大丈夫、アイラを動画に映せば次からは動画撮影の打ち合わせだと思われるから。さあ行こう」


 俺達は店を後にして周りの目を振り切り撮影部屋に向かった━━。


*       *       *


「ここが撮影部屋なんだ...一見普通の女子部屋って感じだね」


 案内された部屋は可愛いぬいぐるみが置いてあったり棚には化粧品やファッション雑誌などが置いてあるといった生活感あふれる部屋になっていた。


「うん、この部屋なら間取りが仮にバレても本物の住所は特定されないでしょ? まあテレビで言う所のセットと同じだね」

「なるほどね...インフルエンサーも色々大変なわけだ」

「そういうこと。じゃあ早速配信するからそこのモニターの横に座って」


 俺はテーブルの上に置いてあるモニターとカメラに向かって座った。

 しかし有名iTuberの生配信に出演なんてやっぱ緊張するな...。
 てか観にくるのゆーちんのファンだろ? 俺アウェイだし絶対叩かれるよな......?


「じゃあ時間になったからスタートするよー」


 ピコン...


「みんなー! アイラブゆーちんだよー! いっぱい待機してくれてたんだねありがとう!」


 かなりイタい挨拶をゆーちんがするとコメントがまるで川のように流れていく━━。

 》アイラブゆーちん!

 》今日も可愛い!

 》お部屋いつもオシャレだよね

 》いつもとメイク違くない? 気合い入ってる?

 》かわちい! メイク参考にしよっと


「おっ、よく分かったね! 今日は少し大人っぽい感じで仕上げてきました!」

 》イイネ! めっちゃ似合ってる!

 》あれ? 例のイケメンは!?

「ありがとう! じゃあ登場を待ち侘びてる人もいるみたいだし早速紹介するね! この前突撃出演をしてもらったアイラくんですどうぞ!」

「こんにちは、ただいまご紹介に預かりましたアイラです。よろしくお願いします」

 》イケメンキター!

 》この前のがめつい男やwwww

 》忍足の不審者再登場!

 》なんかホストみたいだな

「ちょっとみんな言い過ぎだよ! あの動画で反響が大きかったからせっかく出てもらったのにアイラくん帰っちゃうよ?」

「そうだそうだ! 毎回イタい挨拶から入るゆーちん目当てカスナーのくせに調子乗るなよ!?」

「コラッ! アイラくんも挑発に乗らないの! それと誰がイタい挨拶してるですって......?」


 》カスナーとか散々の言いようで草

 》お前が帰れ! ゆーちんだけ映させろ!

 》ゆーちんがお母さんみたいな怒り方で笑う

 》まぁSでもイケメンだから許される節はある

 》コイツホストになってアイランドとか名乗らねーかな

「誰だ今ロー○ンドみたいな言い方で名前イジった奴は! "ロマネ・コンティ"のボトルで頭かち割って耳元にデカい声でコールしてやろうか!?」

 》早速高いオーダーしてて草

 》おいアイランド! 『日ノ本には2種類の武士しか居ない...拙者か拙者以外か』って言えよwwww

 》早く稼いで海外に学校建ててくれ

 》意外にノリ良くてウケるww


「お前ら拙者のこと舐めてると痛い目見るぞ! 全員のハンドルネーム覚えたから覚悟しとけよ! あと最近夜寒い日が続いてるから暖かくして寝ろよボケ!」

「はいみんなストップストップ落ち着いて! アイラくん......最後のちょっとした優しさは何?」

「いや.......今三月入ったけどまだ寒いから一応呼びかけた方が良いかなと思って━━」


 》途端にツンデレで草

 》ちょっと前にボトルで頭かち割るとか言ってた奴が言って良いセリフじゃないww

 》ゆーちんに指摘されてシュンとしてて草

 》一人称に拙者ちゃんと使ってるしww

 》次もコラボしないの?


「あ...リスナーのみんなが少し認めてくれてる。良かったじゃんアイラくん」

「え! マジ!?」


 》こっちにキラッキラの笑顔見せるなバカww

 》イケメンのくせに気取ってないんだな

 》意外にいじられキャラで草


 気取れる訳が無い......俺本来の顔じゃないから調子に乗るとなんか罪悪感出るんだよ......。


「そうそう、アイラくん全然ルックスを鼻に掛けてないから話しやすいよ? 実は......これからアイラくんには私の下僕として出演することになったから今日みんなに紹介したの」


 下僕!? コイツ一体何言ってんだ!? 頭沸いてんのか!?


「なんだって!? いつから拙者は某の下僕になったんだ!」

「其方の服...誰が買ったと思ってる?」

「くっ......コイツ......!」


 》初配信で下僕扱いwwww

 》初手で下僕は流石に可哀想w  でもちょっとうらやま

 》俺もゆーちんの下僕になりてぇ!

 》イケメンの持ち腐れで草

 》早速尻に敷かれてるやん


「リスナーの皆さん聞きました!? これ拙者に対する人権侵害ですよね? この動画切り取ってソレソレさんに暴露して欲しいで候!」

「じょ...冗談だって! あ、もうそろそろこんな時間だ! じゃあみんな配信する時はまたお知らせするからSNS見てね! この後に彼の反響が大きかったら次回は質問コーナー配信します! そして今日の動画楽しいと思ったら高評価とチャンネル登録お願いしまーす! バイちん♪」


 俺の正式な初出演生動画は騒がしい雰囲気のまま終わりを迎えた。


「くそぉ...アイツら好き放題言いやがって!」

「リスナーなんてそんなもんだよ。でもみんな受け入れてくれて良かったじゃん」

「まあそうだけどさ...でもなんで俺を出演させたんだ? 他に狙いがあるんだろ?」

「うん...私のファンは圧倒的に男性が多いからアイラみたいなイケメンを投入して女性視聴者も増やしたかったんだ。そしてアイラを接しやすいキャラにする事によって男性視聴者もあまり離れないようにしたワケ。普通は突然イケメンが出演するなんてファンからすればあり得ない事態だからね」

「なるほどね...だから下僕か━━」

「そういうこと。それと......多分アイラにはこれから世間での人気が必要になってくると思うから声を掛けたんだよ━━」


 それってどう言う事だ......?


「......なんでそう思った?」

「アイラは何か大きな事を起こそうとしている気がする。でもそれを成し遂げるには目に見えない世間の味方も必要なんじゃないかと思ってさ」


 すげぇ...出会ってからこの短期間でそこまで俺の事を読んでるなんて━━。


「ありがとう。ただ何をするかは誰にも言えないんだ...ごめんね」

「良いよそんなの、でもどうしても一人で抱えきれなくなったら言ってね」

「それは凄い助かる。ゆーちんもアンチとかそれこそストーカーとかに何かされたら頼ってよ」

「うん...ありがと。じゃあギャラはあの口座に振り込むようマネージャーに伝えておくからまたね!」


 そう言うとゆーちんは駅の改札を抜けて帰って行った━━。












「......アイラ......ゆーちん......」
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