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命とまでは言わない、その手足2,3本ほど、叩き折らせていただきます!②
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通りにコツコツと響いていた勤め帰りのハイヒールの音がぴたっと途絶えた。
その静けさを待ち侘びたように春の夜風が高瀬川の川面を揺らす。
怪しまれないように川べりの縁石に腰をおろし何気にスマホを弄ってる、そんな所在なげな女を装う。いくら不夜城の木屋町通リとはいえ日付が変わって夜も深まるとさすがに顔をさすようになってくる。
酒真流紳。街灯の灯りの下でスマホの中の写真を今一度確認する。闇夜に浮かび上がるその面はふてぶてしくて苦々しくて眺めているだけで苛ついた。肌は白くて目は狐のような切れ長。全体的にシュッとはしているけど妙に尖った顎と鼻が内なる本性をさらけ出しているように思えた。
ただ周りの評価は見ようによってはなかなかのイケメンらしかった。
「ふんふん、あの事件のドンなのでござるか」
ある日稽古終わりの昼下がりの部室で3流メディアが報じた顔写真入りのネットニュースに反応したのは1年生の朱雀胡夏だった。
「されども、なかなかのイケメンでござるよな」
朱雀胡夏。小さい頃からるろ剣の氷室剣心に嵌り、好き憧れを通り越し
その生き方生き様全人格まで真似るようになったという。もちろんその喋り方まで。
剣道の腕前も確かで中学最後の地区大会では抜き胴一本で優勝した強者。
「この顔が?どこがよ?」って私が言うと胡夏は親指と人差し指でスマホの画面をズームした。
「目でござる。死んでる目はイケメンの象徴でござるよ」と二カッと笑った。
その笑窪の横に糸を引くような刀傷が浮かびあがる。
もちろんその傷は本物じゃなくて特殊ペインティング、顔を洗っても1週間ほどは持つらしい。
そんなことを思い出しながら改めてその特徴を写真で確認する。色の白さと特異な目、亜語の尖ったラインさえ抑えておけば街灯の照らさない暗がりの中でも見間違う事はないだろう。
時刻は午前1時をもうすぐ回る。幕末の世なら丑の刻。
夢の中の死に番では相手が寝静まってから御用改をかけることが多かった。
俗に言う草木も眠る丑三つ時の頃。
静まり返った木屋町通り。四条通りから流れくる人並みももうほとんど無くなった
時折カラスが物欲し気にカァと鳴いて高瀬川の川面をその羽音で揺らした。
四条小橋、先斗町、木屋町通りに高瀬川。
新撰組の夜の見回りのルーティングスポット
総さんならどう言うだろう。ふとそんな考えが浮かんだ。
躊躇わず切れ? 迷わず踏み込め?
いやいや、総さんなら、ここはそんな精神論は吐かないだろう。
極めて技術的なリアルな助言をかけてくれるだろう。
「例えば?」
自問時問してみる。例えば、力を抜く、変に気負わない、仕留める時は一撃で。
沖田総司という人はそういう人。無駄な言葉は使わないし無駄な労力は推奨しない。彼の剣の有り様は至ってシンプル。最小リスクで効率的に人を死に至らしめる。だから彼は幕末最強の剣士として存在できた。
「ふふっ、まるで傍にいるように思えてきたやん」
夢の中と同じ感覚に浸る。沖田総司は間違いなく傍らにいる
死に番お凛が今まさにこの身に舞い降りてる。
そうこの感覚。死地の間際まで足を踏み入れて剣を研ぎ澄ますこの感覚。
ふふふっ
笑えてる自分が可笑しかった。身も心もあの夢に見る死に番お凛がここにいるんだ。
胸が高鳴った。もう怖さなど微塵もなかった。夜も深まり辺りを覆う晩春の空気は少し冷たくて重いけれど私の中の滾る体温は明らかに上昇していた。
腕時計に目をやると、この瞬間には似つかわしくないミッフィーの人差指の針が午前1時を指していた。
3階の照明が消える。窓の上部をなぞる様に走るラ・ラ・ランドネオンサインだけが闇夜に浮かび上がる。
「出てくる」
喉が大きくなって鳴って思わずツバをゴクンと飲み込んだ。先程リップを塗ったばかりの唇ももうカサカサに乾いてる。大きく息を吸い込んでお腹にいっぱい空気をためる。
(切り込むときは息を止めて。最初の一撃までは息を吐き出さない)
新撰組の死に番マニュアルを今1度口の中で反芻した。
その静けさを待ち侘びたように春の夜風が高瀬川の川面を揺らす。
怪しまれないように川べりの縁石に腰をおろし何気にスマホを弄ってる、そんな所在なげな女を装う。いくら不夜城の木屋町通リとはいえ日付が変わって夜も深まるとさすがに顔をさすようになってくる。
酒真流紳。街灯の灯りの下でスマホの中の写真を今一度確認する。闇夜に浮かび上がるその面はふてぶてしくて苦々しくて眺めているだけで苛ついた。肌は白くて目は狐のような切れ長。全体的にシュッとはしているけど妙に尖った顎と鼻が内なる本性をさらけ出しているように思えた。
ただ周りの評価は見ようによってはなかなかのイケメンらしかった。
「ふんふん、あの事件のドンなのでござるか」
ある日稽古終わりの昼下がりの部室で3流メディアが報じた顔写真入りのネットニュースに反応したのは1年生の朱雀胡夏だった。
「されども、なかなかのイケメンでござるよな」
朱雀胡夏。小さい頃からるろ剣の氷室剣心に嵌り、好き憧れを通り越し
その生き方生き様全人格まで真似るようになったという。もちろんその喋り方まで。
剣道の腕前も確かで中学最後の地区大会では抜き胴一本で優勝した強者。
「この顔が?どこがよ?」って私が言うと胡夏は親指と人差し指でスマホの画面をズームした。
「目でござる。死んでる目はイケメンの象徴でござるよ」と二カッと笑った。
その笑窪の横に糸を引くような刀傷が浮かびあがる。
もちろんその傷は本物じゃなくて特殊ペインティング、顔を洗っても1週間ほどは持つらしい。
そんなことを思い出しながら改めてその特徴を写真で確認する。色の白さと特異な目、亜語の尖ったラインさえ抑えておけば街灯の照らさない暗がりの中でも見間違う事はないだろう。
時刻は午前1時をもうすぐ回る。幕末の世なら丑の刻。
夢の中の死に番では相手が寝静まってから御用改をかけることが多かった。
俗に言う草木も眠る丑三つ時の頃。
静まり返った木屋町通り。四条通りから流れくる人並みももうほとんど無くなった
時折カラスが物欲し気にカァと鳴いて高瀬川の川面をその羽音で揺らした。
四条小橋、先斗町、木屋町通りに高瀬川。
新撰組の夜の見回りのルーティングスポット
総さんならどう言うだろう。ふとそんな考えが浮かんだ。
躊躇わず切れ? 迷わず踏み込め?
いやいや、総さんなら、ここはそんな精神論は吐かないだろう。
極めて技術的なリアルな助言をかけてくれるだろう。
「例えば?」
自問時問してみる。例えば、力を抜く、変に気負わない、仕留める時は一撃で。
沖田総司という人はそういう人。無駄な言葉は使わないし無駄な労力は推奨しない。彼の剣の有り様は至ってシンプル。最小リスクで効率的に人を死に至らしめる。だから彼は幕末最強の剣士として存在できた。
「ふふっ、まるで傍にいるように思えてきたやん」
夢の中と同じ感覚に浸る。沖田総司は間違いなく傍らにいる
死に番お凛が今まさにこの身に舞い降りてる。
そうこの感覚。死地の間際まで足を踏み入れて剣を研ぎ澄ますこの感覚。
ふふふっ
笑えてる自分が可笑しかった。身も心もあの夢に見る死に番お凛がここにいるんだ。
胸が高鳴った。もう怖さなど微塵もなかった。夜も深まり辺りを覆う晩春の空気は少し冷たくて重いけれど私の中の滾る体温は明らかに上昇していた。
腕時計に目をやると、この瞬間には似つかわしくないミッフィーの人差指の針が午前1時を指していた。
3階の照明が消える。窓の上部をなぞる様に走るラ・ラ・ランドネオンサインだけが闇夜に浮かび上がる。
「出てくる」
喉が大きくなって鳴って思わずツバをゴクンと飲み込んだ。先程リップを塗ったばかりの唇ももうカサカサに乾いてる。大きく息を吸い込んでお腹にいっぱい空気をためる。
(切り込むときは息を止めて。最初の一撃までは息を吐き出さない)
新撰組の死に番マニュアルを今1度口の中で反芻した。
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