サンタの願いと贈り物

紅茶風味

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【葵編】4話-4

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 十一月半ばになり、冬の気配が近づいてきた。テレビでは今年の冬の気候が予測され、例年よりも暖かい、と何度も聞いたような台詞が聞こえてくる。

「もうすぐでクリスマスだなぁ」

 リビングのソファでくつろいでいると、父が両手にマグカップを持ってきた。片方を渡され、コーヒーの匂いを嗅ぎながらありがとう、と言う。

「今年はどうしようか」

 それは、クリスマスにどこかへ行こうだとか、パーティーをしようだとか、そんな提案ではない。兄の誕生日プレゼントは何にしようか、という相談だ。

「なんでもいいんじゃない」

 投げやりに言って、コーヒーを啜った。熱い液体が唇に当たり、すぐに離す。

「え、喧嘩してる?」
「してないけど、ずっと口きいてない」
「してるじゃないか……」

 喧嘩ではない。そう思いながらも、心の中に少し後悔が生まれていた。自分が子供っぽいことでむっとなり、一方的に文句を言うことはたまにある。そういう時、兄はいつも反論してはくるものの、後になって歩み寄ってくれるのだ。

 しかし、今回はそれがない。あの日以来、会ってもいなければ連絡すら寄こさないのだ。これは、もしかしたら本気で怒らせてしまったのかもしれない。

「どおりで最近、ちゃんと帰ってくると思った」
「父さんとこの家が大好きだから帰ってきてるだけだよ」
「くっ、こんな時ばっかり、騙されないぞ……! ありがとう!」

 ズボンのポケットに入れていた携帯電話が、震えて着信を知らせた。見ると、そこには福本の名前があった。電話だ。

「もしもし」
「あれ、もう終わり?」

 父を無視して通話ボタンを押した。耳に当てれば、すぐに声が聞こえてくる。

『休みに悪いな。なんかお前、急いでるっぽかったからさ』
「何?」
『前川って人の連絡先、分かったぞ』

 聞こえてきた言葉に、ソファへ預けていた背中を勢いよく起こした。

「ま、まじ」
『送ったほうがいいか? 電話番号、今言えるけど』
「ちょ、待って。メモする」

 慌てて立ち上がり、テーブルに置いてあるペン立てから適当に一本と、小さなメモ帳を引き寄せた。電話口で伝えられる番号を、間違えないように真剣に聞きながらメモ帳に書いていく。

「ありがとう、助かった」
『いや、俺の方こそありがとな。ばあちゃん喜んでたよ』

 そう言う福本の声も嬉しそうで、少し気恥しくなり、そう、と小さく返した。

「え、なに、彼女?」

 通話を切り、すぐにメモ帳を見ながら電話番号を押していると、父が興味津々とばかりに覗きこんできた。隠すつもりもないが、通話内容を聞かれて余計な気を使わせるのも嫌なので、立ち上がって足早にリビングを出た。

 自室に入り、ドアを閉めてすぐに番号を押す手を再開させる。通話ボタンを押す直前、少し緊張して躊躇い、勢いに任せて指先で触れる。

 里美先生と話すのはあの事件の日以来だ。俺が病院で検査入院している間、自主退職してしまったらしい。責任を感じてとか、鬱になってしまったとか、色々と噂話は飛び交っていたようだけど、本当のところは分からない。

 コール音が鳴り、しばらく待っていると、留守電に切り替わった。緊張して止まっていた息が、落胆とともに盛大に吐かれる。

「あの、お久しぶりです。葵です。あ、篠原、葵です。昔、保育園でお世話になった……。突然すみません、少しだけ聞きたいことがあって、お電話しました。時間ある時に話せませ」

 切れてしまった。短くないか。普段から留守電にメッセージを残すなんてことをしないから、完結にまとめることが出来ずに中途半端なところで終わってしまった。
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