サンタの願いと贈り物

紅茶風味

文字の大きさ
上 下
47 / 53

【葵編】4話-4

しおりを挟む

 十一月半ばになり、冬の気配が近づいてきた。テレビでは今年の冬の気候が予測され、例年よりも暖かい、と何度も聞いたような台詞が聞こえてくる。

「もうすぐでクリスマスだなぁ」

 リビングのソファでくつろいでいると、父が両手にマグカップを持ってきた。片方を渡され、コーヒーの匂いを嗅ぎながらありがとう、と言う。

「今年はどうしようか」

 それは、クリスマスにどこかへ行こうだとか、パーティーをしようだとか、そんな提案ではない。兄の誕生日プレゼントは何にしようか、という相談だ。

「なんでもいいんじゃない」

 投げやりに言って、コーヒーを啜った。熱い液体が唇に当たり、すぐに離す。

「え、喧嘩してる?」
「してないけど、ずっと口きいてない」
「してるじゃないか……」

 喧嘩ではない。そう思いながらも、心の中に少し後悔が生まれていた。自分が子供っぽいことでむっとなり、一方的に文句を言うことはたまにある。そういう時、兄はいつも反論してはくるものの、後になって歩み寄ってくれるのだ。

 しかし、今回はそれがない。あの日以来、会ってもいなければ連絡すら寄こさないのだ。これは、もしかしたら本気で怒らせてしまったのかもしれない。

「どおりで最近、ちゃんと帰ってくると思った」
「父さんとこの家が大好きだから帰ってきてるだけだよ」
「くっ、こんな時ばっかり、騙されないぞ……! ありがとう!」

 ズボンのポケットに入れていた携帯電話が、震えて着信を知らせた。見ると、そこには福本の名前があった。電話だ。

「もしもし」
「あれ、もう終わり?」

 父を無視して通話ボタンを押した。耳に当てれば、すぐに声が聞こえてくる。

『休みに悪いな。なんかお前、急いでるっぽかったからさ』
「何?」
『前川って人の連絡先、分かったぞ』

 聞こえてきた言葉に、ソファへ預けていた背中を勢いよく起こした。

「ま、まじ」
『送ったほうがいいか? 電話番号、今言えるけど』
「ちょ、待って。メモする」

 慌てて立ち上がり、テーブルに置いてあるペン立てから適当に一本と、小さなメモ帳を引き寄せた。電話口で伝えられる番号を、間違えないように真剣に聞きながらメモ帳に書いていく。

「ありがとう、助かった」
『いや、俺の方こそありがとな。ばあちゃん喜んでたよ』

 そう言う福本の声も嬉しそうで、少し気恥しくなり、そう、と小さく返した。

「え、なに、彼女?」

 通話を切り、すぐにメモ帳を見ながら電話番号を押していると、父が興味津々とばかりに覗きこんできた。隠すつもりもないが、通話内容を聞かれて余計な気を使わせるのも嫌なので、立ち上がって足早にリビングを出た。

 自室に入り、ドアを閉めてすぐに番号を押す手を再開させる。通話ボタンを押す直前、少し緊張して躊躇い、勢いに任せて指先で触れる。

 里美先生と話すのはあの事件の日以来だ。俺が病院で検査入院している間、自主退職してしまったらしい。責任を感じてとか、鬱になってしまったとか、色々と噂話は飛び交っていたようだけど、本当のところは分からない。

 コール音が鳴り、しばらく待っていると、留守電に切り替わった。緊張して止まっていた息が、落胆とともに盛大に吐かれる。

「あの、お久しぶりです。葵です。あ、篠原、葵です。昔、保育園でお世話になった……。突然すみません、少しだけ聞きたいことがあって、お電話しました。時間ある時に話せませ」

 切れてしまった。短くないか。普段から留守電にメッセージを残すなんてことをしないから、完結にまとめることが出来ずに中途半端なところで終わってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

四月の忘れ事

佐武ろく
ライト文芸
九十三 蓮はたまに変な夢を見ていた。そこには知らない少年と少女がいて一緒に楽しそうに遊んでる。かと思えば真っ黒な手が現れその二人を連れ去ってしまう。そして最後には決まって少女がこう言う。「助けて――蓮」 ある日、蓮は幼稚園からの付き合いである莉緒と夕晴と共に子どもの頃に作った秘密基地へ向かった。そこには錆びたお菓子の缶がありそこには子どもの頃に入れた物が詰まっていた。だがそこにあった見知らぬ懐中時計。それを手に取った瞬間、蓮の頭に知らない記憶が蘇る。しかもそこには夢で見るあの少年の姿があった。莉緒と夕晴はそんな蓮に首を傾げるが、蓮から夢の話を聞いた次の日。二人も同じ夢を見たと口を揃えた。 それから三人は、その知らない少年と少女の事を調べ始めるが……。 ※この物語はフィクションです。実在の団体や人物と一切関係はありません。また心霊関係の情報は創作であり、心霊現象の検証および心霊スポット等へ行くことは危険ですので絶対に真似しないでください。

優しい微笑をください~上司の誤解をとく方法

栗原さとみ
恋愛
仕事のできる上司に、誤解され嫌われている私。どうやら会長の愛人でコネ入社だと思われているらしい…。その上浮気っぽいと思われているようで。上司はイケメンだし、仕事ぶりは素敵過ぎて、片想いを拗らせていくばかり。甘々オフィスラブ、王道のほっこり系恋愛話。

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

朧咲夜2-貫くは禁忌の桜と月-【完】

桜月真澄
ライト文芸
第一話『偽モノ婚約者は先生』の続編です。 +++ 朧咲夜 Oborosakuya 第二話 +++ 順調に(?)偽モノ婚約者を続ける咲桜と流夜。 そんな中、流夜に訪れた変化。 更に、笑満は逃げ出し、頼は目を覚ます── 通常運転で咲桜は泡喰って吹雪は毒舌。 ……遙音の過去も明らかにされ。 順調に偽モノだけではいられないようです…。 +++ 教師×生徒 警察官の娘の見合い相手は同じ学校の先生で、その正体は犯罪学者⁉ 笑った顔など見たことない、怜悧冷徹と評される流夜になぜか溺甘される咲桜は、いつも心臓が大変です……。 ――想いはいつ重なる?―― +++ 華取咲桜 Katori Sao 特技は家事全般。 正義感強し。 黒髪の大人びた容姿。出生に秘密を抱える。   神宮流夜 Zingu Ryuya 穏やかで優しい神宮先生。 素の顔は危ないことにくびを突っ込んでいる人でした。 眼鏡で素顔を隠してます。 結構頓珍漢。 夏島遙音 Natusima Haruoto 咲桜たちの一個先輩で、流夜たちと面識あり。 藤城学園の首席。 松生笑満 Matsuo Emi 咲桜、頼とは小学校からの友達。 遙音に片想い中。 日義頼 Hiyoshi Rai 年中寝ている一年首席。 咲桜にはやけに執着しているよう。 春芽吹雪 Kasuga Fuyuki 流夜の幼馴染の一人。 愛子の甥で、美人系な男性。 腹黒。 雲居降渡 Kumoi Furuto 流夜の幼馴染の一人。 流夜と吹雪曰く、不良探偵。 華取在義 Katori Ariyoshi 咲桜の父。男手ひとつで咲桜を育てている。 異端の刑事にして県警本部長。 春芽愛子 Kasuga Manako 在義の元部下。警視庁キャリア組。 色々と企む。先輩の在義は常に被害者。 2022.3.10~3.23 Sakuragi presents

君が笑うから僕も笑う

神谷レイン
ライト文芸
神様に選ばれた善人だけが、死んだ命日から四年後、四日だけこの世に帰ってくる。 それは友人や家族、恋人、大切な人に会いに様々な想いを抱えて。 これはそんなお話が詰まった五作の短編集。 亡くなった人たちが残された人達に語りかける言葉とは?

やり直し令嬢ですが、私を殺したお義兄様がなぜか溺愛してきます

氷雨そら
恋愛
 人生をやり直していると気がついたのは、庶子の私を親族に紹介するためのお披露目式の直前だった。  しかし私はやり直していることよりもこのあと訪れるはずの義兄との出会いに困惑していた。  ――なぜなら、私を殺したのは義兄だからだ。  それなのに、やり直し前は私に一切興味を示さなかったはずの義兄が、出会った直後から溺愛してきて!?  これは、ワケあり義兄とやり直し令嬢の距離がバグった溺愛ファンタジー 小説家になろう様にも投稿しています

続く三代の手仕事に込めた饅頭の味

しらかわからし
ライト文芸
二〇二二年八月六日の原爆の日が祖母の祥月命日で奇しくもこの日念願だった「心平饅頭」が完成した。 そして七十七年前(一九四五年)に広島に原爆が投下された日で、雲母坂 心平(きららざか しんぺい)十八歳の祖母はそれによって他界した。平和公園では毎年、慰霊祭が行われ、広島県市民の多くは、職場や学校でも原爆が投下された時間の八時十五分になると全員で黙とうをする。  三代続きの和菓子店である「桔平」は売上が低迷していて、三代目の店主の心平は店が倒産するのではないかと心配で眠れない毎日を過ごしていた。 両親を連れて初めて組合の旅行に行った先で、美味しい饅頭に出会う。 それからというもの寝ても覚めてもその饅頭の店の前で並ぶ行列と味が脳裏から離れず、一品で勝負できることに憧れを持ち、その味を追求し完成させる。 しかし根っからの職人故、販売方法がわからず、前途多難となる。それでも誠実な性格だった心平の周りに人が集まっていき、店に客が来るようになっていく。 「じいちゃんが拵えた“粒餡(つぶあん)”と、わしが編み出した“生地”を使い『旨うなれ! 旨うなれ!』と続く三代の手仕事に込めた饅頭の味をご賞味あれ」と心平。 この物語は以前に公開させて頂きましたが、改稿して再度公開させて頂きました。

処理中です...