サンタの願いと贈り物

紅茶風味

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【葵編】3話-1

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 昼休み、いつものように購買でパンとジュースを買い、いつものように自分の席に広げて食べる。ただ、今日はいつもと違うことがある。

「進路希望、もう出した?」
「出してねぇ」
「だよねー」

 目の前で平然と交わされる会話に、眉を寄せた。小木と福本は当然のように俺の机に弁当箱を広げ、我が物顔でそれを口に運んでいる。

「篠原もまだでしょ」
「いや、おかしくない?」
「え。もう出したの、さっすがぁ」
「そうじゃなくて」
「出してないの?」
「出したよ」
「さっすがぁ」

 ふざけているのか素なのか、小木は「イケメンは何でもやることが早いんだ」と言いながら卵焼きを箸で突いた。

「なんでここで食ってんだよ」
「駄目?」
「駄目じゃないけどさ……」
「篠原は彼女の手作り弁当じゃないんだね」

 まるで話を聞いていないかのような態度に、呆れて言葉を失った。俺もマイペースな方だが、彼女はまた違うベクトルで自分の速度を保っている。この独特な感覚によくついていけるものだと福本の顔を見れば、その目が合って瞬きをした。

「お前、彼女いんの」
「いない」

 えー、とさして驚いたようにも聞こえない声音で、小木が驚いた顔をする。

「うっそだ。こないだ朝帰りしてたじゃん」
「は?」
「駅の向こう側で会ったじゃん。制服着てたんだから言い逃れはできないよ」
「……あぁ、あれか」

 金曜日に兄の家に泊まり、次の日の帰りに小木に会った。普段なら兄の服を適当に借りているが、あの時は約束をすっぽかされて帰宅するだけだったから制服を着てしまったのだ。

「兄貴の家だよ」
「ドラマとかでやる言い訳のやつだ。これは浮気だ」
「よくそのワードを俺に言えるな」
「ごめんて」

 こっそり福本の様子を覗った。もう怒っている様子はない。

「本当に兄貴の家なんだよ。一人暮らししてんの」
「なぁんだ。つまんないの。浮気しろよぉ」
「……お前これ怒れよ」

 何も言わない福本に言えば、「言っても治んねぇから無駄」と素っ気なく返された。こんな軽口ばかり叩く奴のせいで殴られたのかと思うと悲しくなってくる。

「お兄ちゃんは何してんの? 大学生? イケメン?」
「社会人。刑事」
「まじ? かっこいいね」
「かっこいいよ」
「え、それ顔のこと? 刑事だから? どっち?」

 パンを齧り、咀嚼しながら小木の言葉を聞き流す。黙って話を聞いているだけだった福本が、そういえば、と口を開いた。

「この辺って、昔けっこうエグい事件あったよな」
「急になんの話?」
「刑事って言葉で思い出した」

 小木がご飯を一口頬張り、昔の記憶を辿るかのようにあらぬ方向を見て唸る。

「昔って、ちっちゃい頃?」
「たぶん三、四歳くらい」
「じゃあ知らないや。こっちに住んでないもん」
「俺も隣町だったけど、ばあちゃんがこの辺で働いてて後になってから聞いたんだよ」

 子供が誘拐され、殺害されるという事件だった。見つかった遺体はどれも血を抜かれ、化粧がされ、人形のように釘と針金で固定された状態で発見されていた。

 淡々と話す福本の話を聞きながら、小木の顔が徐々に曇っていった。

「なんでごはん時にそんな話するかな」
「刑事って言うから」
「じゃあ篠原が悪いな」
「そうだな」

 なんでだよ。そう返しながらも、内心では動揺していた。事件のことを知っているかと聞かれたが、知らない、と短く言った。

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