サンタの願いと贈り物

紅茶風味

文字の大きさ
上 下
32 / 53

【淳平編】5話-5

しおりを挟む

 時折小走りになりながら、公園のある道を戻る。ビニールシートの周辺は、先ほどと様子は変わっていない。数人の野次馬が、少し離れた場所から眺めている。

 保育園の手前で道を曲がった。携帯画面を覗いても小さくてよく見えないので、黙って父について行く。さらに角を曲がり、しばらく歩いてから父が立ち止まった。

「この辺りみたいだけど」

 狭い路地だ。車が一台、ぎりぎり通れるほどの道幅を挟み、家々が並んでいる。暗い夜道を街灯が照らしているが、人影はない。

「まさか、家の中か?」
「ちょっと見せて」

 携帯を奪うようにして父の手から取った。GPSで現在位置を表示させながら歩いてきたようだ。居場所を示す二つの点が重なっている。携帯を返し、今度は自分の携帯を取り出す。何度もかけた日野の発信履歴から、電話をかけた。静かな空間に、どこからか電子音が聞こえてくる。

「どこだ?」

 父が周囲を見回した。コールは鳴り止まず、やはり出ない。携帯を耳から外して、ゆっくりと歩き出した。音の聞こえてくる暗闇へ、一歩一歩と進んでいく。

 数メートル先で、小さい光が見えた。音のリズムと連動するその点滅は、携帯電話の着信を知らせるものだ。街灯から外れた横道に落ちている。

 慌てて駆け寄って拾い上げた。画面には僕の名前が表示されている。発信を止めて周囲を見たが、日野の姿は無かった。

「友達の携帯か?」
「うん。なんで、こんなところに……」

 父が手に何かを持っている。紙袋だ。膨らみで中に何かが入っているのが分かるが、それ以上に嫌でも目に付くのは、表面に付いた赤黒い染みだ。

「そっちに落ちてた」

 道の反対側を指差した。

「あいつのだ」

 血に染まったキャラクターの絵柄に、思わず顔を俯かせた。父が何かを言ったが、よく聞き取れなかった。

 なんでこんなことになったのだろう。ただいつも通りの一日になるはずだったのに。誕生日に何かを望んだわけでもない。悪いことをしたわけでもない。なのに、なんでこんな仕打ちを受けなければならないのだ。

「しっかりしろ」

 肩を大きく揺さぶられた。

「まだ分からないだろ」
「何が? 二人がどうなったか? その血、誰のだよ、そんなふざけた紙袋、あいつしか持たないよ。葵を探して、そんな怪我をしたなら、葵だってどうなってるか分からないだろ」

 肩に痛みを感じた。父の手に力が入り、食い込んでいる。

「絶対助ける。俺が何とかする。葵も、お前の友達も」

 僕に向けられた必死な顔は、すぐに背けられた。どこかに電話を掛け、強い口調で話している。

 全身から力が抜け、ただ呆然と立ち尽くした。手から携帯が落ちそうになり、そういえば持っていたのだと握りなおす。使い慣れていない彼女の携帯はとても綺麗だったのに、地面に落ちたせいか、ところどころが割れていた。

 父の大声を聞きながら、暗闇の先を見た。頼りない街灯の光が、奥へと連なっている。

 手前の街灯に照らされた地面に、何かがあった。紙くずかと思ったが、近づいて見るとそれは飴玉だった。包装フィルムの両端を捻って止める、可愛らしいタイプの飴玉だ。以前、日野が出して見せたものに似ている気がする。

 しゃがんで拾うと、すぐ先にもまた落ちているのに気づいた。数歩進んだ先で拾い、また先に落ちているのを見つける。吸い寄せられるように飴玉を拾って歩き、暗闇の中を進んで行った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

ナツキス -ずっとこうしていたかった-

帆希和華
ライト文芸
 紫陽花が咲き始める頃、笹井絽薫のクラスにひとりの転校生がやってきた。名前は葵百彩、一目惚れをした。  嫉妬したり、キュンキュンしたり、切なくなったり、目一杯な片思いをしていた。  ある日、百彩が同じ部活に入りたいといい、思わぬところでふたりの恋が加速していく。  大会の合宿だったり、夏祭りに、誕生日会、一緒に過ごす時間が、二人の距離を縮めていく。  そんな中、絽薫は思い出せないというか、なんだかおかしな感覚があった。フラッシュバックとでも言えばいいのか、毎回、同じような光景が突然目の前に広がる。  なんだろうと、考えれば考えるほど答えが遠くなっていく。  夏の終わりも近づいてきたある日の夕方、絽薫と百彩が二人でコンビニで買い物をした帰り道、公園へ寄ろうと入り口を通った瞬間、またフラッシュバックが起きた。  ただいつもと違うのは、その中に百彩がいた。  高校二年の夏、たしかにあった恋模様、それは現実だったのか、夢だったのか……。      17才の心に何を描いていくのだろう?  あの夏のキスのようにのリメイクです。  細かなところ修正しています。ぜひ読んでください。  選択しなくちゃいけなかったので男性向けにしてありますが、女性の方にも読んでもらいたいです。   よろしくお願いします!  

初恋の呪縛

泉南佳那
恋愛
久保朱利(くぼ あかり)27歳 アパレルメーカーのプランナー × 都築 匡(つづき きょう)27歳 デザイナー ふたりは同じ専門学校の出身。 現在も同じアパレルメーカーで働いている。 朱利と都築は男女を超えた親友同士。 回りだけでなく、本人たちもそう思っていた。 いや、思いこもうとしていた。 互いに本心を隠して。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

"わたし"が死んで、"私"が生まれた日。

青花美来
ライト文芸
目が覚めたら、病院のベッドの上だった。 大怪我を負っていた私は、その時全ての記憶を失っていた。 私はどうしてこんな怪我をしているのだろう。 私は一体、どんな人生を歩んできたのだろう。 忘れたままなんて、怖いから。 それがどんなに辛い記憶だったとしても、全てを思い出したい。 第5回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。ありがとうございました。

処理中です...