サンタの願いと贈り物

紅茶風味

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【淳平編】4話-6

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 家に着いたのは、七時を過ぎた頃だった。外はすでに明るくなり、白色の空に照らされながら、通行人が行き交っていた。雨は夜のうちに止んでいたようで、傘を持っているのは僕だけだった。

 玄関のドアを開けると、待ち構えていた父が両手を広げて近づいてきた。こんな時にも怒らないのか、と呆れながら避ける。葵は寝室で静かに眠っていた。どうやら、うまく誤魔化してくれたようだ。

 シャワーを浴びて出てくると、いつもなら出かけているはずの父がまだいた。事件が解決するまでは土日返上で出勤するはずだ。落ち着かない様子で僕の行動を窺っているので、なんなのだと聞くと、今日は病欠にしたと言った。

「息子が泣いて帰ってきて、病気にならない父親はいない」

 そんなに泣き腫らしたわけではないのだが、父には分かってしまったようだ。恥ずかしくて言い訳を考えていると、「葵の話をしよう」と呟いて、リビングに消えていった。僕の涙が父の背中を押したらしい。

 少し疲れていたし、日野との会話で精神力を消耗していたので、頭が重たく感じた。ぼんやりとした状態で話す僕の言葉を、一語一句漏らすまいと真剣な眼差しで父は聞いた。逃げ腰だった時とは別人だ。

 葵に母の死を説明する前に、自分達が変わらなければいけない。葵が死を理解できていないのは、僕たちが現実を受け入れきれず、歪んだ状態のまま葵と接しているせいだ。そのようなことを言うと、ショックを受けたように父は固まったが、やがて俯き、悲しそうに頷いた。



 母の部屋を片付けることにした。物を処分するほど心が強くなったわけではないので、ダンボール箱に詰め込まれている荷物を再度綺麗にまとめ、部屋の片隅に寄せた。掃除をして埃を拭き取り、空いたスペースに後日、仏壇を買って置くことにした。

 リビングのテーブルにある写真はダンボール箱の中にしまった。母の分の食事を用意することも、やめることにした。とりあえず思いついたことを実行し、さて葵にはどう説明しようか、と話し始めたところで寝室のドアが開いた。

「お兄ちゃん、おかえり。お友だちのいえ、たのしかった?」

 父が黙って僕に頷く。

「あぁ、うん、楽しかったよ。急にごめんな」
「いいよ」

 葵がいつも通りにダイニングテーブルの椅子に座るので、とりあえず朝食をとることにした。

 食材は買い置きしてあるものが冷蔵庫の中にあるが、気だるさに気持ちが負けた。食パンを三枚焼き、それぞれ皿に乗せてテーブルへ運んだ。更に、冷蔵庫からマーガリンとジャムを出して持っていくと、葵が椅子に正座した格好で、食パンを見つめていた。

「ごめん、今日はちょっと手抜きしちゃったんだ」
「いいよ」

 空腹感はなかったけれど、食パンを一口かじると、そのまま一気に食べきってしまった。そういえば、昨日の夕飯は菓子パン一個だけだ。

 葵は小さく頬張り、咀嚼をし、また小さく頬張り、と繰り返しながら、不思議そうな顔で母の席を見ていた。いつもそこにあるはずのものがない。きっとそう思っているのだろう。

 口にだして聞かないのは、迷っているのだろうか。僕と父の様子を見て、聞いていいものかどうか、考えているのだろうか。

 そうやって、今までずっと、僕達の顔色を窺いながら過ごしてきたのかもしれない。そう思うと途端に心苦しくなる。なんて情けない兄なのだろう。

「お母さんの写真は、もう置かないことにしたんだ」

 葵に言った。父が驚いて僕を見る。

「どうして?」
「葵とちゃんと、おはなしするため」
「おはなしするの?」
「そう。それ食べ終わったらな」

 葵は頷き、心なしか食べるスピードが速くなった。
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