サンタの願いと贈り物

紅茶風味

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【淳平編】2話-4

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 女は紙パックを受け取ると、斜め掛けの小さな鞄にしまった。子供が使うような、小物しか入らないポシェットだ。紙パックを入れただけで膨れ上がっている。

「高校生だったんですね、大人っぽいから分かりませんでした。お名前はなんていうんですか?」

 遠慮なく質問を投げかけてくる女に、懐疑心が膨れ上がってくる。薄々感じてはいたが、この人には、自分が不審であるという自覚が無い。

 僕の表情を見て、慌てたように言った。

「あっ、私は日野といいます!」
「日野?」

 半ば叫ぶような声で言った名前に、思考がめぐる。

「ひのりん?」

 僕の言葉に、女が顔を赤らめた。

「それはですね、ちっちゃい子に親しんでもらおうと思って、そう名乗っているんです。でも、その、嘘じゃないといいますか。私、下の名前が『りん』というので、はい」

 日野りん。それが彼女の本名のようだ。なるほど、イントネーションを変えると愛称のような響きになる。

「それで、親しみを覚えさせて、子供に何しようっていうんだ」
「なんだか怒っていますか」

 日野が、おそるおそるといった様子で言う。

「というか、怪しいと思ってる」
「怪しくない、怪しくないですよ。私はただ、試験を受けているだけなんです。子供に何か悪いことをしようだなんて、全く思ってないですよ。あぁ、そうだ、私あなたに言いましたよ、サンタクロースだって」

 おとといの恐怖心が蘇ってきた。やはり会話をしてはいけない類の人かもしれない。先ほど恐ろしい事件の話を聞いたばかりだし、怪しい人間とは極力関わらないほうがいい。葵を連れて早々に帰ろう。

 立ち上がり、ジャングルジムの方へ向かおうとした。すると、すかさず制服を掴まれる。

「待って、説明させてくださいっ」
「今、自ら変質者であると説明してくれました」
「だから、その誤解を解くために説明させてくださいよぉ」

 日野が立ち上がり、更に僕の鞄を空いている方の手で掴んだ。一歩足を踏み出すと、反発して服と鞄をグイグイと引っ張ってくる。いつの間にか喧嘩を終えていた子供達が、意味ありげな笑みでこちらを見ていた。

 葵の様子を確認した。ジャングルジムの一段目に上ったまま、頂上にいる他の子供を見上げている。僕は黙って反転し、ベンチに戻った。掴まれていた手が離れ、二人そろってベンチに腰を下ろすと、日野が安心したように笑みを見せた。

「ありがとうございます」
「あんまり時間無いから」
「分かりました。簡潔に説明します。私、今、サンタクロースになる為の採用試験を受けている最中なんです」
「……簡潔すぎて分からないんだけど」

 当たり前のように出てくるファンタジーな言葉に、眩暈を感じる。僕がおかしいのだろうか。

「その、サンタクロースって本気で言ってんの?」
「もちろんです。サンタさんは本当にいるんですよ」

 日野は視線を下げ、自分の両手を見た。白い手の平が上を向いている。

「小さい頃は、信じてましたよね。それが、ある日突然、真実に気づいてしまいました。プレゼントをくれるのが、サンタさんではなく両親に変わって、それが普通になっていって……。大人になって、もうそんな思い出も忘れてしまった頃、私、おかしな体質になったんです」
「体質?」
「物を生み出す体質です」

 紙パックのジュースが現れた時のことを思い出した。

「あれは、手品か何かじゃあ……」
「違いますよ。私が欲しいと思って、生み出したんです」
「何、それ、本当に? 超能力ってことか?」

 にわかには信じられなかったが、本当かもしれないと思ってしまうのは、実際にその瞬間を見ているせいだ。
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