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2話-5
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兄の住んでいるマンションは、学校から駅を挟んで反対側にある。住宅地の中にある比較的立派な建物で、セキュリティも整っている。
持っている合い鍵を使って一階の共同玄関を開け、エレベーターで上階へ上がった。部屋を通り過ぎようとする宮丘さんを止め、インターホンを押してから鍵を開けた。
「お邪魔します」
「どうぞ」
ドアを開けて中に促すと、部屋の奥から大きな物音がした。すでに片付けを始めているようで、廊下に畳まれたままの段ボール箱や荷物が散乱している。バタバタと足音が近づいてきたと思えば、リビングから兄が顔を覗かせた。
「きたよ」
「は……?」
間抜けな声を出して固まっているのは、隣にいる宮丘さんを見てだろう。当然だ、事前に伝えていたのは、男友達なのだから。こんにちは、と頭を下げる姿を見て、俺を見て、視線を交互に移しながら近づいてくる。
目の前まで来ると、目がすっと細められて低い声で言われた。
「葵」
「なに」
「ちょっと来なさい」
まぁ、そうなるだろう。ここで待ってて、と一言告げて、部屋の中へ上がった。リビングは廊下以上に散乱していて、足の踏み場も無いほどだ。整理整頓は苦手ではないはずなのに、こういう作業は進みが遅い。
「誰だあの人」
咎めるようにじとりと見られるが、いつものことだ。
「悠希のお母さんの親戚」
「ゆうきって誰……」
「学童クラブの子」
そう言った途端、目がカッと開いた。漫画のようだ。
「学童の人がなんでうちに来るんだよ!?」
「だって、先に言ったら兄ちゃん駄目だって言うだろ」
「当たり前だ……! って、そうじゃなくて、理由は」
「えーと、友達が予定入っちゃって、それで代わり探して、あの人がオッケーしてくれた」
明らかに嘘だし、それもバレている。仕方がない、まさか自分の兄に「あの人が好きだから」なんて恥ずかしいことを言えるわけがないのだから。
「帰ってもらいなさい」
「嫌だよ。ここまで来てくれたのに、今更帰れなんて失礼だろ」
「そんなこと言ったって……。あの人若そうだし、男の一人暮らしの荷物詰めさせる方が失礼な気が」
「大丈夫だって」
だんだんと絆されているのを見計らって、背を向けた。玄関に一人待たせている彼女が気になる。あ、と思い立ち、兄を振り向いた。
「あの人に手出したら駄目だからな」
「お前なぁ……」
廊下に出ると、宮丘さんが弾かれたように顔を上げた。心配そうに眉を歪めている。
「あの……」
「大丈夫だから、上がって」
「もしかして、お兄さん知らなかったんじゃ」
「男だって勘違いしてたんだよ。今、見られたくないもの片づけたからへいき、痛って!」
突然後ろから頭を叩かれた。リビングにいると思っていたのに、いつの間にか付いて来ていたらしい。睨まれ、その顔が優しい笑みに代わって宮丘さんを見る。
「すみませんお待たせして。上がってください」
「いいんですか?」
「もちろんです、助かります。あ、スリッパ出しますね。急なお願いだったのに来てくださって本当に」
接待スイッチが入った兄を見て、一先ず安心した。そこそこな勢いで怒られたから、本当に追い出されるのではないかと冷や冷やした。
宮丘さんは丁寧に一礼すると、スリッパを履いて中に入った。乱雑としたリビングを一目見ると、無意識なのか、「うわぁ」と小さく言葉を漏らした。
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