俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

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034 電波少女

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 駅で自撮り棒を使用する輩は、自己の命と引き換えに遺影を取っているようなもの。列車の接近に気付かず、頭の回らない愚者として翌日のトップニュースを飾る。

 そうでなくとも、歩きスマホは印象が良くない。前方に障害物や通行人がいないことを確認していたとしても、傘を差した自転車の中年から咎められるのだ。雨が降っていても、傘を差しながらの運転はお勧めしない。

 ついに、明日からは大型連休に突入する。新幹線の座席は、転売ヤーの台風が襲来したかのようにバツマークが並んでいた。仮に売れなかった時、転売ヤーはようも無しに東京へ出向くのだろうか。

 朝のニュースで、行楽地情報が報道されてはホテルの予約が埋まっていく。今からでも遅くない、健介もマンションを借りに行けばお小遣い程度にはなる。

 サッカーで情けない姿を女子二人に冷ややかな目で見つめられていたこともあり、滅多に外出しない健介は太陽の光を浴びている。殺風景な住宅街を抜け、木々が風に揺られる大通りに差し掛かったところだ。

 ……歩きスマホ、撲滅すべきなのか……。

 横断歩道を赤信号で渡る馬鹿者は塵となって掃除機に吸い込まれるのが良いが、安全を確保しているのなら問題ない。これが、健介の意見だ。

 そうでもしないと、今の状況を否定してしまうことになる。

「……ここら辺、誰も通らないし……」

 ショッピングモールとは反対方向に進む道は、人間より飼い主とはぐれた犬猫と多く遭遇する。下校ルートが被る麻里や悠奈を人間カウントするのはおこがましい。下界の住人と天才少女を同列に見るアホどもは、硫酸風呂で永久の安らぎを得させよう。

 あてもなく、健介は無駄に長いメインストリートを歩いていく。赤錆でまともに使えない元看板が、個人商店の凋落を物語っている。

 ……誰か、いないのか……。

 進めども、話し声の一つも響いてこない。シャコタン車が大音量を鳴らして走り去っていくが、苦情を訴える民家の住人は誰一人として出てこなかった。

 麻里が抱えている孤独の心には、案外廃れた主要街道が無限に続いているのかもしれない。

 健介は引き返して安全地帯に生還できるが、麻里は一心不乱に歩むだけ。ゴールテープの見えないマラソンを、目覚ましを止めてから夢の世界に落ちるまでの間走るのだ。

 独裁者とは、そうなる運命。知識として把握していても、残酷な結末に涙を禁じ得ない。彼女なりに脱出路を模索して、健介におんぶ抱っこされるのも納得できる。

 脇道から、健介よりは背の低いストレートヘアーの女子が飛び出してきた。
ながらスマホと瞑想に意識をふらつかせていた健介。背中にぶつかる寸前で非常用ブレーキを作動させたが間に合わない。歩きスマホ禁止の条例が施行されるのも、一理ある。

 これが正面衝突ではないので、首の皮一枚繋がった。手を触れるとセクハラで処分される世の中では、危うい挙動は厳禁なのだ。

「すみません! ……あれ、健介?」

 脇道から出現した謎の少女が振り返った時、健介はしりもちをついていた。屈強でなくとも一応男の健介が、ドッヂボールに当たるとよろけそうな華奢少女に弾き返されたのである。体を天然ゴムに作り替えられたとしか思えない。

 彼女は、現在解明されていない怪奇現象が一斉に集まってきた奇妙な仕草をした。クレーンから垂らされた透明の糸で操られていないのなら、異常者として警察に突き出してしまいたい。

 ……何やってるんだ……?

 わき見運転で事故を起こしたことには目もくれず、スマホを天高く振り回している。雨乞いの儀式は、何としてでもここで止める。

「……悠奈……だよな? 砲丸投げでスマホを練習台に使うなんて、流石鋼メンタルだな……」
「見て分からない、健介? 電波、探してるんだよ?」

 至って真顔で答える天才幼馴染、悠奈。健介が住む世界は、電波が見えるようになったのだろうか。スマホの周辺を一通り見まわしてみたが、電波らしき線は目視出来ない。強弱を知らせるマークは、最も外側まで点灯している。

 ……電波に操られたのか、今までの悠奈は……?

 悠奈には、やる気スイッチが何処かに設置されている。学校や登下校は正義をこよなく会うする一般市民なのだが、家に帰ると怠惰な少女へ大変身するのだ。忘れ物を届けに彼女の家を訪れて、そのギャップに魂を抜かされた。

 彼女を設計した技術者は、名乗り出ない。世界の軍事バランスを著しく崩す恐れのあるロボットが野に放たれて、音沙汰一つないのだ。

 設計図があれば、健介も操縦可能になる。他人の感情を吹きださせて奴隷にするシステムを掌握し、悠奈を手中に収められる。もちろん、恋愛感情をいじくって惚れさせるのも可能だ。

「電波、どこかな……。なるべく美味しい電波が欲しいんだけど……」
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