俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

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男女混☆合サッカー大会

025 心の声漏れてますよ

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 マグマが火口付近までせり上がった麻里火山は、入山規制を敷かなければならない程ひっ迫した状況だ。山肌に立っているだけで、理不尽に蒸発させられた水蒸気に覆われる。

 脊髄反射でこの場を立ち去りたい気持ちはやまやまだが、それでは何をしに来たのか分からない。

 ……これは、真実を意図的に隠してたな……。

 一手先を読める未来予知師の悠奈だからこそ成しえた技だ。マグマだまりから吹き出す生まれたてマグマの量を調整して、破局噴火が発生しないよう注意を心掛けているのがよく伝わってくる。

 麻里は、何処が故障でショートしたかは知らないが、健介に執着する傾向にある。いついかなる時も、電柱やブロック塀を隠れ蓑にしながらついてきていても不思議ではない。

「先生の誰かが見つけてくれた、って話してたのに……」
「特に何もないけど……?」
「なるほど……、多田さん、一目で気付かない場所に罠を仕込んだな……」

 疑心暗鬼の沼が止まらない。両足で踏みしめているはずの大地なのだが、麻里にはそう思えていない。液状化現象で、体が地底へ飲み込まれていく幻覚に囚われていそうだ。

 疑いの心は、本人が負の鎖を切断するまで続く。抱擁して正気に戻そうとしようが、放置療法で月日を流れさせようが、疑念の呪いを自身が解くまで終わらない。

 麻里が、何の前触れも無しに目を虚ろにしてリフティングを始めた。上下に振れる長髪は、綺麗なグラフを生成できるのではと思わさせる規則正しさだ。

 頂点から股の中央にかけて、鉄の棒が突き刺さっている。小刻みにサッカーボールが打ち上げられても、軸が折れ曲がる様子は見られない。

 ……自分で『サッカーなら負けない』って豪語するだけはあるな……。

 サッカー無名校に突如出現した、稀代のスター。地元新聞に取り上げられる時の二つ名は、これで決定だ。麻里は嫌がるだろうが、サッカー部が弱小なのだから仕方ない。

「……きっと、あんなことやこんなことを……」
「麻里―? 悠奈に構ったら、思うつぼだぞー」

 波風を立たせないスタイルを貫いてきた健介も、幻を追い求めて先細りの洞窟に潜りこんでいく麻里に鼻息を漏らしてしまった。笑い顔は作るまいと唇を締めたが、感情察知AIと同等の機能を手にした彼女は騙せていなさそうだ。

 この場にいないのを良しとして、悠奈をエサに麻里を操縦する。漫画をぶら下げておけば、男子小学生が網にかかるのと同じ原理である。

 ……麻里が復活してくれないと、ここに来た意味が無くなるんだよ……。

 ゲームを進展させる重要な時間を消費して、この公園まではるばる近場出張してきた健介。サッカーの基本を叩き込む指導者が棒立ちでは、打つ手がない。

「……思うツボ……? ……そうだ、私の目的は、今度のクラス対抗で活躍すること。健介くんにも頑張ってもらうこと。不確定因子の多田さんをベンチに幽閉すること……」
「……本音、漏れてるぞ……。いつもの調子になったようでなによりだけど」

 麻里の顔に、血色が復活した。迷えるヴァンパイアから、高貴な人の子へと戻ってきた。理不尽な決断を下すワンパク女子が、再び顔を見せた。

 彼女の闇は、いつものこと。敵視した人物を、完膚なきまでに叩きのめそうとする。部下は薄々劣勢を感づいているだろうが、独自規則に反する行為をして除名されたくないが故に挙手しない。

 独裁政権となって、一年は経った。春の大一番であるクラス替えが存在しないこの高校は、一度支配権を握られると為されるがままになる。横割り社会で、階級を一つ上げることも至難の業になった。

 五所川原麻里政権の下で、一切の人権は保障されない。暗黙の了解が法を縛り付け、一切の反論は許されないのだ。

 ……男子は、悪影響を受けてないから支持寄りだし……。

 女子のカーストが強固になった反面、男子へは無関与。混沌とした戦国時代に逆戻りするよりはマシだ、と一定数の支持基盤がある。

「……悠奈のこと、敬語で呼んでるよな。何か意図でも?」
「……悠奈ちゃん、って呼ぶと同レベルに落ちそうで……」

 麻里のリフティングは、危うさを見せない。大会が雨天中止になった日には、彼女のパフォーマンスで両ベンチが騒ぎ立てる事だろう。

 名前がカタコトでない分、悠奈よりも優れている。

 ……悠奈なんか、未だに英語なのか日本語なのか区別出来てないし……。

 正義感あふれる少女は、言語のお勉強に励まれたほうが良さそうだ。

 サッカーボールを一定の空間にとどめて、麻里は銀色の光沢を放つ腕時計をじっと見つめた。

「集合時間まで、あと一分だね。もし時間を一秒でもオーバーしたら、シュートの練習台になってもらっちゃおうかな……」
「随分楽しそうですね、お嬢様……」
「その呼び方はしない約束だったよね?」

 巨大権力を握る麻里の対抗になりえると、悠奈を陰ながら応援する勢力が存在する。表立って支援しないところに、狡猾さが見え隠れしているが。

 悠奈にサッカーボールの跡がついているとなれば、彼女らが黙っていない。次期女王に悠奈を担ぎたて、天下分け目の決戦が起こる。秩序は崩壊し、入学直後の灰色世界に帰すのだ。

 ……悠奈も麻里も、無意味な派閥争いが無かったらただの女の子なんだけど……。

 三国志の曹操も、乱世で無ければ覇を唱えなかったと予言されていた。パズルのピースが一片でも変形していれば、和気あいあいとサッカーに勤しむ二人になっていたのだろうか。

「ご、よん、さーん……」

 猶予の一分は、授業のそれより流れが早い。

 麻里のリフティングが、ヘディングに切り替わった。自由落下するボールを斜め下から打ち、地面と直角に飛び上がらせる。職人の技に、健介は魅了されていた。

「にーい、いーち……」

 歓喜の瞬間を見逃すまいと、麻里は我を忘れて腕時計に目を奪われている。
体幹の強化で一直線だった彼女の軸が、一センチよれた。

「ぜー……」
「そのボール、もらったぁ!」

 スケボーの運動エネルギーを余さず身体で受け取って、陸上少女が大空へ飛び立った。背中がお留守で、麻里お得意のブロックは発動していない。

 よりどころを失って左右に揺れ始めたサッカーボールを、股を全開にした幼馴染のつま先が捉えていた。
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