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男女混☆合サッカー大会
022 施し
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頭が、弾力性のある繊維に支えられている。寝返り用の枕を使っていないので、寝坊を舌のではない。
熱気が、体の内部を循環して体温を上昇させる。血流に乗って運搬される熱分子と、外側を旋回する熱風との二重暖房だ。
……ここ、どこだ……?
足先の感覚が、忽然と消えている。ギロチンで切り落とされたようだ。切断直後の脚は、重しを解放されて飛び跳ねたのだろうか。死刑執行人に尋ねてみたいものだ。
腕に、柔らかい何かが押し付けられた。末端から中央部に向かって、詰まっていた血栓が押し出されていく。
「……! ……たかな?」
途切れ途切れで、正確には聞き取れない。脳もやられたようで、鼓膜が仕事をサボっている。社長である脳から指令を贈れないのが、体という会社の重大な欠陥だ。
うっすらと、真っ白な霧が晴れていく。天井に取り付けられている巨大な蛍光灯が眩しく、傍で付き添っている影しか映らない。
……そうだ、上階に放置されて……。
半分以上を眠気に支配されて、顎を硬いタイルに打ち付けたところまでは記憶に残っている。強打したからには苦痛も感じていて良さそうだが、その時は既に瞼を閉じていたらしい。
巡回にした教師が、両手両足を縛られて気を失っている健介を救助したのだろう。今頃職員室では、誘拐犯に対する施策で頭を悩ませているのだ。
犯人を知っているのは、健介だけ。自白する気はさらさらない。ヘドロで汚れた悪意が伝わってこなかった。
家に帰されていないとなると、ここは保健室。お世話になりたくない教室ナンバーワンを毎年受賞している。
「……健介―、健介―……」
やや曇りがちなその声の持ち主は、十年前から何も変化していない精神の女子であった。健介がベッドに安置される間接的な原因となった加害者でもある。
手首と足首に圧迫感が残存しているが、それ以外の機能は一定水準で保持されていた。充電器に繋がれているスマホが故障しても、コンセントの給電まで停止はしない。
ぼやけていた視界が、ようやく鮮明な映像へと切り替わった。網膜在住の画家が、一億種類の絵の具を使ってくっきりとした視界を作り出しているようだ。
ベッドの左手はカーテンで仕切られていて、最低限はプライバシーに配慮してくれている。至る所から腐乱臭がする高校にしては、健全に運営されている教室ともいえてしまう。
手足を拘束バンドで固定されてはいなかった。血流が一時間阻害されていたくらいでは音を上げない身体構造なのだろう。
「……もう起きないかと思ったよ……。呼びかけても、手を握っても、反応のひとつすら示してくれなかったし……」
「俺は瀕死の病人かよ……」
「……保健室の先生からは『寝てるだけだから大丈夫』って言われたけど……」
悠奈の指圧が、ひとしお力を増す。リンゴを貫通してしまうほど狭い面積に圧力がかかっているのだが、不思議と痛みは伝わってこない。
だらんと垂れた腕に、活気がみなぎってくる。いつになく血流量が増加して、コンクリートの壁も撃ち抜ける気がしてきた。
マッサージ師の弟子になって修行したのでも無いだろうに、悠奈のマッサージは不快感を生み出さない。感覚を偽装する麻酔を注入されたのでなければ、今すぐにでも整体を開業すべきである。
「……悠奈、どこでマッサージなんか覚えたんだよ……」
「……別に、私だって、どこを押せば体がほぐれるのかは分かってないよ」
「それにしては、痛いツボを押さないな……」
適当に刺激しているのなら、腕を分離させたくなる電撃が体中を駆けめぐる。子供の肩たたきと一緒に見えて、高度な技術が隠れているに違いない。
悠奈が、ふっと笑みをこぼした。作為的でない唇のたるみに、つい見とれてしまう。
「……男の人でも制圧できるように、押すと痛いツボは全部網羅してるんだ。だから、反対の事をしたらいいんじゃないかなー、って」
「……それ、俺を生かすも殺すも悠奈次第じゃないかよ……」
「そういうことになるかな?」
隠れ武闘派の女子高生は、暗記する内容も一般生徒とはかけ離れている。小学校で、彼女一人だけが暗殺術や忍術を学んでいたのかと疑念を抱かせるのには十分だ。
時折、ほぐされている腕が海に打ち上げられた魚になる。情熱を注ぎ込まれて、用もないのに跳ねるのだ。
闇医者として食って行けるだけの技術を、悠奈は弱冠高校生にして習得している。末恐ろしい幼馴染である。
竜巻で荒らされた脳内の整理が進みだし、これまでの視覚情報と合わせて全体像が形成されていく。
……何か、引っかかるな……。
ピースが、一枚欠けている。ベッドの下に潜りこんでいるのでなければ、このジグソーパズルを完成させられない。
「……俺を上の階に連れてきた張本人は、今どこに……?」
熱気が、体の内部を循環して体温を上昇させる。血流に乗って運搬される熱分子と、外側を旋回する熱風との二重暖房だ。
……ここ、どこだ……?
足先の感覚が、忽然と消えている。ギロチンで切り落とされたようだ。切断直後の脚は、重しを解放されて飛び跳ねたのだろうか。死刑執行人に尋ねてみたいものだ。
腕に、柔らかい何かが押し付けられた。末端から中央部に向かって、詰まっていた血栓が押し出されていく。
「……! ……たかな?」
途切れ途切れで、正確には聞き取れない。脳もやられたようで、鼓膜が仕事をサボっている。社長である脳から指令を贈れないのが、体という会社の重大な欠陥だ。
うっすらと、真っ白な霧が晴れていく。天井に取り付けられている巨大な蛍光灯が眩しく、傍で付き添っている影しか映らない。
……そうだ、上階に放置されて……。
半分以上を眠気に支配されて、顎を硬いタイルに打ち付けたところまでは記憶に残っている。強打したからには苦痛も感じていて良さそうだが、その時は既に瞼を閉じていたらしい。
巡回にした教師が、両手両足を縛られて気を失っている健介を救助したのだろう。今頃職員室では、誘拐犯に対する施策で頭を悩ませているのだ。
犯人を知っているのは、健介だけ。自白する気はさらさらない。ヘドロで汚れた悪意が伝わってこなかった。
家に帰されていないとなると、ここは保健室。お世話になりたくない教室ナンバーワンを毎年受賞している。
「……健介―、健介―……」
やや曇りがちなその声の持ち主は、十年前から何も変化していない精神の女子であった。健介がベッドに安置される間接的な原因となった加害者でもある。
手首と足首に圧迫感が残存しているが、それ以外の機能は一定水準で保持されていた。充電器に繋がれているスマホが故障しても、コンセントの給電まで停止はしない。
ぼやけていた視界が、ようやく鮮明な映像へと切り替わった。網膜在住の画家が、一億種類の絵の具を使ってくっきりとした視界を作り出しているようだ。
ベッドの左手はカーテンで仕切られていて、最低限はプライバシーに配慮してくれている。至る所から腐乱臭がする高校にしては、健全に運営されている教室ともいえてしまう。
手足を拘束バンドで固定されてはいなかった。血流が一時間阻害されていたくらいでは音を上げない身体構造なのだろう。
「……もう起きないかと思ったよ……。呼びかけても、手を握っても、反応のひとつすら示してくれなかったし……」
「俺は瀕死の病人かよ……」
「……保健室の先生からは『寝てるだけだから大丈夫』って言われたけど……」
悠奈の指圧が、ひとしお力を増す。リンゴを貫通してしまうほど狭い面積に圧力がかかっているのだが、不思議と痛みは伝わってこない。
だらんと垂れた腕に、活気がみなぎってくる。いつになく血流量が増加して、コンクリートの壁も撃ち抜ける気がしてきた。
マッサージ師の弟子になって修行したのでも無いだろうに、悠奈のマッサージは不快感を生み出さない。感覚を偽装する麻酔を注入されたのでなければ、今すぐにでも整体を開業すべきである。
「……悠奈、どこでマッサージなんか覚えたんだよ……」
「……別に、私だって、どこを押せば体がほぐれるのかは分かってないよ」
「それにしては、痛いツボを押さないな……」
適当に刺激しているのなら、腕を分離させたくなる電撃が体中を駆けめぐる。子供の肩たたきと一緒に見えて、高度な技術が隠れているに違いない。
悠奈が、ふっと笑みをこぼした。作為的でない唇のたるみに、つい見とれてしまう。
「……男の人でも制圧できるように、押すと痛いツボは全部網羅してるんだ。だから、反対の事をしたらいいんじゃないかなー、って」
「……それ、俺を生かすも殺すも悠奈次第じゃないかよ……」
「そういうことになるかな?」
隠れ武闘派の女子高生は、暗記する内容も一般生徒とはかけ離れている。小学校で、彼女一人だけが暗殺術や忍術を学んでいたのかと疑念を抱かせるのには十分だ。
時折、ほぐされている腕が海に打ち上げられた魚になる。情熱を注ぎ込まれて、用もないのに跳ねるのだ。
闇医者として食って行けるだけの技術を、悠奈は弱冠高校生にして習得している。末恐ろしい幼馴染である。
竜巻で荒らされた脳内の整理が進みだし、これまでの視覚情報と合わせて全体像が形成されていく。
……何か、引っかかるな……。
ピースが、一枚欠けている。ベッドの下に潜りこんでいるのでなければ、このジグソーパズルを完成させられない。
「……俺を上の階に連れてきた張本人は、今どこに……?」
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