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第5章 夏祭り編
061 お互い様
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「いやー……。やっと終わった……」
オレンジの光を放っている太陽がかなり西に傾きかけていたころ、ようやく射的の的を作る作業が終わった。
なぜこれだけの時間がかかったのかというと、大体の時間をサボって漫画を読んだりゲームをしていたりしたからだ。何回か未帆に『的作らなくていいの?』と問いかけられたが、すべてうまく流したと思う。
「『やっと』って、そんなに時間かかるもの? かかってもせいぜい一時間ぐらいだと思ってたから、手伝ってもらおうかなと考えてたんだけど……」
「未帆の方こそ、どうなの? 流石にそっちも終わったんじゃない?」
未帆は、机の上に散乱している画用紙やらを片付け始めた。ちょうどイラストが描いてある紙が下になっているため、見えない。
「終わらないとでも思ってた? ……実は終わった後、ちょっと眠くなっちゃって……。地べたに寝転んでたら、そのまま寝ちゃって……」
未帆が眠たそうに目のあたりを手でこすった。涙の跡がまだ残っている。
亮平がゲームなどで音量を消し忘れて焦った時に未帆が気付かないかヒヤヒヤしたが、あのとき部屋に入ってこなかったのは寝ていたからだったらしい。
「しっかし、ほんとに疲れたぜ……。何か物を作る時って、こんなに疲れるんだな」
(いや、横岳。それは違うだろ!)
確かに疲れてはいる。疲れてはいるが、それはゲームのやりすぎのせいで目が疲れているのである。九割ゲーム、一割的作りといった時間配分になっていたので、疲れるのは当然だ。そもそも、ただ厚紙をカッターだのハサミだので切り取っていくだけの作業がどれだけ辛くなれるのか。
「そういっても、たいして何もしてないだろ? 的作るだけじゃ暇だから、その後……」
「……その後?」
(しまった!)
失言に気付いたものの、もう遅かった。亮平は、背中に強烈な寒気を感じた。
「いや、今のは別に……」
「ふぅーーーん。人には何も言わずに、何をしてたの?途中から部屋移動したのはどういう事?」
未帆の笑顔が怖い。殺気すら感じる。
「い、いや、西森さん……。これには、深い理由がありまして……」
横岳も顔が引きつっている。冷や汗が顔に浮かんでいた。
「じゃあ、何やってたの?」
未帆は横岳が制止するのも聞かずに、亮平と横岳が『広いところで作業したい』と言って移動した部屋の扉を開けた。
部屋の中には、漫画やら携帯ゲーム機やらが床に散乱していた。スナック菓子を食べた形跡もまだ残っている。
「私は頑張ってたのに、当の本人たちがサボってるとはねぇ……」
亮平と横岳は、何も言い返せなかった。事実、未帆が作業してるのを知っていながらゲームやら漫画やらを別室でしていたのだから。弁解の余地がない。
(どうやってこの場を収めようか? 弁解しても無駄そうだし……)
言い訳をしてしまうと、火に油を注ぎかねない。となると、手段は一つしかない。
「サボっていて、すみませんでした!」
つまり、謝ることだ。亮平は、大きな動作で頭を下に垂れさせた。
「……じゃあ、次回からはどうするの?」
「はい! 真面目に作業させていただきます!」
王とその臣下の会話であるかのような敬語が咄嗟に出てきた。亮平は、かしこまった感じでものを言おうとすると、勝手に堅苦しい敬語に変換されてしまうのだ。
「いや、そうじゃなくて」
未帆が、右手を左右に振った。
「次から私も入れてくれないと、本気でもう手伝いに来ないからね?」
(いや、そっちかよ! 何か焦点がズレてるよなあ……)
未帆は怒り心頭としていた。なにがそうさせているのかは分からない。自分だけが外されていたことか、はたまた自分も寝てしまっていたことを棚に上げたいのか……。
この言葉だけを聞くと、真面目なのかどうか分からない。未帆は比較的真面目の方で、結構律儀なタイプなのだが。
亮平は、横岳に目で今の正直な気持ちを伝えた。横岳とは、目だけでもだいたいのことは伝わる。
(あれ、西森さんってこんなタイプだったか、霧嶋?)
(違うと思う。きっと自分だけ真面目に作業してるのが馬鹿らしくなったからだとは思うけども)
横岳も未帆に虚を突かれた格好になっていたらしい。
「……『サボるのは次からやめて』じゃなくて?」
「私もサボってたみたいな感じだから、それは私にも言えない。そもそも、時間のわりにやることの量が少なすぎると思うんだけど、どう思う?」
サボったことについては言えないが、ゲームをしていたことについては異議があるらしい。どういうことなんだか。
「ようするに、次から全員で作業すればいいだけの話じゃない? そうすれば、別に俺達がサボったり、逆に西森さんがサボったりするようなことも起こりにくいと思うけど」
未帆はしばらく、下を向いて何か考えていた。そして、
「賛成する」
と、そう一言だけ口にした。
亮平もこれに賛成し、これでひとまず気まずい話題を終わらることができた。
----------
「ところで、西森さん。どんなイラストを描いたの?」
話題は、未帆が描いたイラストのことへと移った。
「最初は人のイラストとか、景品のイラストとかでも迷ったんだけど……。やっぱり、射的と言えばこれじゃない?」
未帆はそう言って、さっき机の上にひとまとまりに積んだ画用紙の下の方から、一枚の画用紙を引っ張り出した。
「一応事前に調べたから、こんな感じのイラストで合ってると思うんだけど……。何か間違ってるところ、ある?」
その画用紙には、運動会で使うようなピストル程度の大きさの銃のイラストが描いてあった。
オレンジの光を放っている太陽がかなり西に傾きかけていたころ、ようやく射的の的を作る作業が終わった。
なぜこれだけの時間がかかったのかというと、大体の時間をサボって漫画を読んだりゲームをしていたりしたからだ。何回か未帆に『的作らなくていいの?』と問いかけられたが、すべてうまく流したと思う。
「『やっと』って、そんなに時間かかるもの? かかってもせいぜい一時間ぐらいだと思ってたから、手伝ってもらおうかなと考えてたんだけど……」
「未帆の方こそ、どうなの? 流石にそっちも終わったんじゃない?」
未帆は、机の上に散乱している画用紙やらを片付け始めた。ちょうどイラストが描いてある紙が下になっているため、見えない。
「終わらないとでも思ってた? ……実は終わった後、ちょっと眠くなっちゃって……。地べたに寝転んでたら、そのまま寝ちゃって……」
未帆が眠たそうに目のあたりを手でこすった。涙の跡がまだ残っている。
亮平がゲームなどで音量を消し忘れて焦った時に未帆が気付かないかヒヤヒヤしたが、あのとき部屋に入ってこなかったのは寝ていたからだったらしい。
「しっかし、ほんとに疲れたぜ……。何か物を作る時って、こんなに疲れるんだな」
(いや、横岳。それは違うだろ!)
確かに疲れてはいる。疲れてはいるが、それはゲームのやりすぎのせいで目が疲れているのである。九割ゲーム、一割的作りといった時間配分になっていたので、疲れるのは当然だ。そもそも、ただ厚紙をカッターだのハサミだので切り取っていくだけの作業がどれだけ辛くなれるのか。
「そういっても、たいして何もしてないだろ? 的作るだけじゃ暇だから、その後……」
「……その後?」
(しまった!)
失言に気付いたものの、もう遅かった。亮平は、背中に強烈な寒気を感じた。
「いや、今のは別に……」
「ふぅーーーん。人には何も言わずに、何をしてたの?途中から部屋移動したのはどういう事?」
未帆の笑顔が怖い。殺気すら感じる。
「い、いや、西森さん……。これには、深い理由がありまして……」
横岳も顔が引きつっている。冷や汗が顔に浮かんでいた。
「じゃあ、何やってたの?」
未帆は横岳が制止するのも聞かずに、亮平と横岳が『広いところで作業したい』と言って移動した部屋の扉を開けた。
部屋の中には、漫画やら携帯ゲーム機やらが床に散乱していた。スナック菓子を食べた形跡もまだ残っている。
「私は頑張ってたのに、当の本人たちがサボってるとはねぇ……」
亮平と横岳は、何も言い返せなかった。事実、未帆が作業してるのを知っていながらゲームやら漫画やらを別室でしていたのだから。弁解の余地がない。
(どうやってこの場を収めようか? 弁解しても無駄そうだし……)
言い訳をしてしまうと、火に油を注ぎかねない。となると、手段は一つしかない。
「サボっていて、すみませんでした!」
つまり、謝ることだ。亮平は、大きな動作で頭を下に垂れさせた。
「……じゃあ、次回からはどうするの?」
「はい! 真面目に作業させていただきます!」
王とその臣下の会話であるかのような敬語が咄嗟に出てきた。亮平は、かしこまった感じでものを言おうとすると、勝手に堅苦しい敬語に変換されてしまうのだ。
「いや、そうじゃなくて」
未帆が、右手を左右に振った。
「次から私も入れてくれないと、本気でもう手伝いに来ないからね?」
(いや、そっちかよ! 何か焦点がズレてるよなあ……)
未帆は怒り心頭としていた。なにがそうさせているのかは分からない。自分だけが外されていたことか、はたまた自分も寝てしまっていたことを棚に上げたいのか……。
この言葉だけを聞くと、真面目なのかどうか分からない。未帆は比較的真面目の方で、結構律儀なタイプなのだが。
亮平は、横岳に目で今の正直な気持ちを伝えた。横岳とは、目だけでもだいたいのことは伝わる。
(あれ、西森さんってこんなタイプだったか、霧嶋?)
(違うと思う。きっと自分だけ真面目に作業してるのが馬鹿らしくなったからだとは思うけども)
横岳も未帆に虚を突かれた格好になっていたらしい。
「……『サボるのは次からやめて』じゃなくて?」
「私もサボってたみたいな感じだから、それは私にも言えない。そもそも、時間のわりにやることの量が少なすぎると思うんだけど、どう思う?」
サボったことについては言えないが、ゲームをしていたことについては異議があるらしい。どういうことなんだか。
「ようするに、次から全員で作業すればいいだけの話じゃない? そうすれば、別に俺達がサボったり、逆に西森さんがサボったりするようなことも起こりにくいと思うけど」
未帆はしばらく、下を向いて何か考えていた。そして、
「賛成する」
と、そう一言だけ口にした。
亮平もこれに賛成し、これでひとまず気まずい話題を終わらることができた。
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「ところで、西森さん。どんなイラストを描いたの?」
話題は、未帆が描いたイラストのことへと移った。
「最初は人のイラストとか、景品のイラストとかでも迷ったんだけど……。やっぱり、射的と言えばこれじゃない?」
未帆はそう言って、さっき机の上にひとまとまりに積んだ画用紙の下の方から、一枚の画用紙を引っ張り出した。
「一応事前に調べたから、こんな感じのイラストで合ってると思うんだけど……。何か間違ってるところ、ある?」
その画用紙には、運動会で使うようなピストル程度の大きさの銃のイラストが描いてあった。
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