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終章 未来へと続く道へ……
純 CHAPTER12
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----------純視点(純 CHAPTER11のつづき)----------
「っ……。あれ、ここって……」
ゆっくりと目を開いた純。恭平や白い空間は消え失せ、代わりに入院している病院の病室の風景が目に入った。
(現実……? 死んじゃったと思ったけど……)
あの状況であのシチュエーション。最後に襲った激痛。どう考えても、『自分はもう死んでしまってる』と考える方が自然なのではないだろうか。
そう思っていたからこそ、純は恭平に想いを伝えたのである。『もう会えない』という圧倒的な絶望が、そうさせたのである。
「永島さん、大丈夫ですか?」
看護師の人が純に心配そうに問いかけた。
「はい、今のところは……。ところで、私に何があったんですか? いきなり激しい頭痛がして、意識が吹き飛んで……」
その質問に、看護師の人は少し間を開けてから、口を開いた。
「あのね、永島さん。あなたは昨日の夕方ぐらいに意識が無くなったでしょう? あの時、事故の衝撃で後発的に脳内出血が起こっていたの」
(脳内出血!?)
思わず、純は心の中で復唱してしまった。
(痛みで気絶するまで、そんな気配全く感じなかったのに……)
そうなのだ。昨日の夕方、恭平が見舞いに来てくれていたことを知った純は、ただ空想に浸っていた。とても、脳内出血が起こると思えないのだ。
「緊急で手術をして、それで今の状態ってわけ。本当は近いうちに退院できる予定だったけど、もう少し入院期間が延びることになったから、そこは覚えておいてね」
退院が延びるのは辛い。だが、死ななかっただけよかったと思える自分もいた。
「あの、手術は成功したんですか?」
「……失敗してたら、今永島さんはこうやって話していると思う?」
逆に質問をされ、『あっ』と気付いた。
(そっか。手術が失敗してたとしたら、今頃ここにはいないか。何言ってるんだろう、私)
「後遺症の心配はないらしいから、そこは安心してね」
肩の力が抜けたような気がした。『脳に障害が残りました』などと言われたら、恭平になんと言ったらいいのか分からない。
「また気分が悪くなったりしたら緊急用のヒモを引っ張ってくださいね。それでは」
そう言い残すと、看護師の人は病室から出て行った。
病室内は少し静かになった。中には当然純一人だけ、ポツンといる。
腹筋に力を入れて、上半身を上に持ち上げた。特に体を動かすことには違和感はない。無論、脳にも違和感は感じなかった。
病室内の時計は、三時を指していた。外が明るいので、午後三時だろう。純は、ほぼ丸一日気絶していたことになる。
(そういえば、さっきまで見てた夢って、本当に恭くんかな……?)
さっきまで純が見ていた白い謎の空間の夢。あそこにいた恭平は、現実世界の恭平と同じだったのだろうか。普通はそんなことはあり得ないのだが、不思議と同一人物のように思えてしまう。言動があまりにも恭平そのものに似すぎていた。
(まあ、次恭くんに会った時に聞けばいいよね。『違う』って言われたらそれで終わりでいいし)
その時、病室の扉が開いた。扉を開けたであろう人影は、そのまま真っすぐ純の方に向かってきた。
思い浮かべた人が目の前に来るというのは、こういうことを言うのだろうか。入ってきたのは、その恭平だった。
「純ちゃん、大丈夫なの!?」
開口一番、恭平から飛び出したのは、純のことを心配するものだった。
「一応大丈夫、なのかな。うん」
「よかった……。死んじゃわないかって不安で不安で……」
恭平がその場に崩れ落ちた。表情は入ってきた時の緊迫した表情ではなく、和らいでいた。
「でも、退院までは延びちゃうって看護師の人は言ってたから、また元通りになるのはもう少し先なんだ」
「生きてくれてただけで、良いよ。いきなり『私は死ぬかもしれない』って言われて、それで消えちゃうんだから……」
(『私は死ぬかもしれない』?)
現実世界では、純はそんなことは言っていない。夢の中で出会った恭平に伝えただけだ。そして、確かに夢の中で、純は体ごと空に消えた。
本来純しか知り得ようのないことを、恭平が知っている理由。答えは、一つしかない。
「恭くん……。昨日の夜、夢で私が出てこなかった?」
外れれば恥ずかしい。でも、あっている自信はあった。
「……出てきたよ。白い空間を歩いてたら純ちゃんが遠くに見えて、それから……」
目を驚いたように見開いた恭平を見て、純には『夢の中に出てきた恭平がリアルそのままだった』という事が分かった。
(恭くんの言ってること全部、私が見たこと話したことと一緒だ……)
「……本当だったんだ。昨日の夢」
純が言いたかったことを恭平に先に言われた。
「……純ちゃん自身が『死んじゃうかもしれない』って言って、その後に純ちゃんが跡形もなく消えちゃって……」
(そう。その時は、私も『これは死んだな』って思っちゃったもん。シチュエーション的にそう思っちゃうと思うよ)
純自身が夢をコントロール出来ていたわけではない。迷惑な夢の覚め方をされたものだ。
それにしても、他人と全く同じ夢を見て、しかもそれが一言一句同じだというのは、聞いたことがない。お互いの夢が重なったのだとしか思えない。もしそれが本当だとするのならば、奇跡が起きたとしか考えられない。
(でも、その奇跡が、私と恭くんをつないでくれたってことだよね)
願い事は強く願えば叶う。その言葉が正にあっていた。純は意識を失う前、『どうせ死ぬのならせめて一度だけでも恭平に会いたい』と心の中で強く願った。前提が成り立っていないのは置いておいて、本物の恭平と本当に会う確率はほんの小さなものだろう。
「……純ちゃんが生きてくれてたってだけで、今はとても嬉しい」
まぎれもない恭平の本心から出たであろうその言葉は、純の深部にまで届き、響いた。
(誰かに本気で自分のことを心配されるのって、こんなに暖かいんだ……)
直接触れられてはいないものの、純は感覚で恭平の中にある何か暖かいものを感じ取っていた。
「っ……。あれ、ここって……」
ゆっくりと目を開いた純。恭平や白い空間は消え失せ、代わりに入院している病院の病室の風景が目に入った。
(現実……? 死んじゃったと思ったけど……)
あの状況であのシチュエーション。最後に襲った激痛。どう考えても、『自分はもう死んでしまってる』と考える方が自然なのではないだろうか。
そう思っていたからこそ、純は恭平に想いを伝えたのである。『もう会えない』という圧倒的な絶望が、そうさせたのである。
「永島さん、大丈夫ですか?」
看護師の人が純に心配そうに問いかけた。
「はい、今のところは……。ところで、私に何があったんですか? いきなり激しい頭痛がして、意識が吹き飛んで……」
その質問に、看護師の人は少し間を開けてから、口を開いた。
「あのね、永島さん。あなたは昨日の夕方ぐらいに意識が無くなったでしょう? あの時、事故の衝撃で後発的に脳内出血が起こっていたの」
(脳内出血!?)
思わず、純は心の中で復唱してしまった。
(痛みで気絶するまで、そんな気配全く感じなかったのに……)
そうなのだ。昨日の夕方、恭平が見舞いに来てくれていたことを知った純は、ただ空想に浸っていた。とても、脳内出血が起こると思えないのだ。
「緊急で手術をして、それで今の状態ってわけ。本当は近いうちに退院できる予定だったけど、もう少し入院期間が延びることになったから、そこは覚えておいてね」
退院が延びるのは辛い。だが、死ななかっただけよかったと思える自分もいた。
「あの、手術は成功したんですか?」
「……失敗してたら、今永島さんはこうやって話していると思う?」
逆に質問をされ、『あっ』と気付いた。
(そっか。手術が失敗してたとしたら、今頃ここにはいないか。何言ってるんだろう、私)
「後遺症の心配はないらしいから、そこは安心してね」
肩の力が抜けたような気がした。『脳に障害が残りました』などと言われたら、恭平になんと言ったらいいのか分からない。
「また気分が悪くなったりしたら緊急用のヒモを引っ張ってくださいね。それでは」
そう言い残すと、看護師の人は病室から出て行った。
病室内は少し静かになった。中には当然純一人だけ、ポツンといる。
腹筋に力を入れて、上半身を上に持ち上げた。特に体を動かすことには違和感はない。無論、脳にも違和感は感じなかった。
病室内の時計は、三時を指していた。外が明るいので、午後三時だろう。純は、ほぼ丸一日気絶していたことになる。
(そういえば、さっきまで見てた夢って、本当に恭くんかな……?)
さっきまで純が見ていた白い謎の空間の夢。あそこにいた恭平は、現実世界の恭平と同じだったのだろうか。普通はそんなことはあり得ないのだが、不思議と同一人物のように思えてしまう。言動があまりにも恭平そのものに似すぎていた。
(まあ、次恭くんに会った時に聞けばいいよね。『違う』って言われたらそれで終わりでいいし)
その時、病室の扉が開いた。扉を開けたであろう人影は、そのまま真っすぐ純の方に向かってきた。
思い浮かべた人が目の前に来るというのは、こういうことを言うのだろうか。入ってきたのは、その恭平だった。
「純ちゃん、大丈夫なの!?」
開口一番、恭平から飛び出したのは、純のことを心配するものだった。
「一応大丈夫、なのかな。うん」
「よかった……。死んじゃわないかって不安で不安で……」
恭平がその場に崩れ落ちた。表情は入ってきた時の緊迫した表情ではなく、和らいでいた。
「でも、退院までは延びちゃうって看護師の人は言ってたから、また元通りになるのはもう少し先なんだ」
「生きてくれてただけで、良いよ。いきなり『私は死ぬかもしれない』って言われて、それで消えちゃうんだから……」
(『私は死ぬかもしれない』?)
現実世界では、純はそんなことは言っていない。夢の中で出会った恭平に伝えただけだ。そして、確かに夢の中で、純は体ごと空に消えた。
本来純しか知り得ようのないことを、恭平が知っている理由。答えは、一つしかない。
「恭くん……。昨日の夜、夢で私が出てこなかった?」
外れれば恥ずかしい。でも、あっている自信はあった。
「……出てきたよ。白い空間を歩いてたら純ちゃんが遠くに見えて、それから……」
目を驚いたように見開いた恭平を見て、純には『夢の中に出てきた恭平がリアルそのままだった』という事が分かった。
(恭くんの言ってること全部、私が見たこと話したことと一緒だ……)
「……本当だったんだ。昨日の夢」
純が言いたかったことを恭平に先に言われた。
「……純ちゃん自身が『死んじゃうかもしれない』って言って、その後に純ちゃんが跡形もなく消えちゃって……」
(そう。その時は、私も『これは死んだな』って思っちゃったもん。シチュエーション的にそう思っちゃうと思うよ)
純自身が夢をコントロール出来ていたわけではない。迷惑な夢の覚め方をされたものだ。
それにしても、他人と全く同じ夢を見て、しかもそれが一言一句同じだというのは、聞いたことがない。お互いの夢が重なったのだとしか思えない。もしそれが本当だとするのならば、奇跡が起きたとしか考えられない。
(でも、その奇跡が、私と恭くんをつないでくれたってことだよね)
願い事は強く願えば叶う。その言葉が正にあっていた。純は意識を失う前、『どうせ死ぬのならせめて一度だけでも恭平に会いたい』と心の中で強く願った。前提が成り立っていないのは置いておいて、本物の恭平と本当に会う確率はほんの小さなものだろう。
「……純ちゃんが生きてくれてたってだけで、今はとても嬉しい」
まぎれもない恭平の本心から出たであろうその言葉は、純の深部にまで届き、響いた。
(誰かに本気で自分のことを心配されるのって、こんなに暖かいんだ……)
直接触れられてはいないものの、純は感覚で恭平の中にある何か暖かいものを感じ取っていた。
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