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一章 何か、おかしい
純 CHAPTER6
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「解散!」
今日の日直の少し涙で湿った声が教室に響き、純たちの中学校生活最後の日のSHRが終わった。
終わった瞬間に教室をダッシュで出ていく人、放心してボーっとしている人、友達の元へ向かう人……。全員、行動はバラバラだ。
すでに学級での記念写真は撮ってあるので、わざわざ教室に残っておく必要はない。学年の写真も同様だ。
純はといえば、既に通学用カバンを背負って教室から出ようとしていた恭平を引き留めていた。
「もう。卒業式が始まる前に、『私の話を聞く』っていう話だったんじゃないの?」
「あ」
恭平の顔がポカーンとなり、すぐに元の顔に戻る。
「忘れてた。でもまあ、いいか」
「いいか、って……。人の話を忘れておきながら……」
滅多にないことに思わず口から責めの言葉が出てしまったが、今日の本題は恭平のおかしい部分を見つけることではない。
(恭くん、何か変だな……。普段怒らなそうなところで怒るし、まだ言ってないはずの私の受験先の高校の名前まで知ってたし……)
恭平は確かに違和感を覚える部分が何か所かあるが、それはひとまず置いておくことにする。今日のメインは、恭平に気持ちを全てぶつけることだ。
「予定が無いならとにかくついてきて、恭くん!」
純はそういうと、恭平の腕を持ち、ぐいぐい引っ張った。恭平は抵抗することなく、純に続けてついてきた。
(何も言わずについてくるってことは、つまりそういうことだよね)
恭平が純に何かしらマイナスな気持ちを持っているとすれば、少なくとも今のように抵抗がないはずがない。
「連れてく、ってどこに?」
「学校の裏の人気のないところ!」
「……ふーん。まあ、理由は後で聞くことにするね」
これだと、純がよからぬことを考えているような感じになってしまっている。
「べ、別に変なこと考えてるわけじゃないからね!」
「純ちゃんこそ、なんで俺がそう考えると思うの? その口調からして、本当のことを言ってるとは思うけど」
(念を押しただけだから!)
恭平に考えられたらいやなことをまず消去しようとしたが、かえって逆効果になってしまっている。
「それより、周りの目が若干痛いんだけど……。誰もかれも白々しい目でこっちを見てくるの、何回も体験はしてるけど、やっぱり精神に来るものが……」
「今だけ我慢して!」
恭平が『何回も経験している』と言っているのは、中学校に入りたての頃の話だ。お互いの呼び名のせいで、周りからヤジが飛んでいたときの話である。
純も平気なわけではないが、中学校で同級生全員と会うのは今日が最後。つまり、『次の日に顔を合わせる』という可能性が限りなく低いのだ。今日さえ辛抱してしまえば、あとはどうにでもなる。
学校の昇降口を出ると、すでにたくさんの同級生で校庭が埋まっていた。家族と一緒に写真を撮っていたり、友達と雑談していたり、人の波にのまれていたり・・・・・・。
「ほら、こっち、こっち」
純は恭平を、そのまま日陰になっている学校裏へと移動させた。学校裏には桜の木が生えており、ちょうど今の時期に満開になっている。
どうして誰も来ない学校裏にわざわざ桜を植えたのだろう、と考えてしまうときがある。過去に使われたらしき話も聞いたことがないので、見栄えのためだとは思われる。誰も使わない割に掃除場所には当たっているので、春に『なんで桜が……』と思った人は少なからずいる。
「ここまで連れてきて、『なにもない』じゃ流石に、ね?」
「大丈夫だって。ちゃーんと話したいことはあるから」
純は、動悸を感じるようになった。胸の中から、心臓の音がバックン、バックンと伝わってくる。
「えーっと、こんな日陰の場所で悪いんだけど……。まず、私と恭くんは小学校からの仲だよね?」
「そりゃ」
「それで、恭くんはいっつも私のことをかばってくれて……。何回もほかの人から精神的にいじめられたときも、真っ先に中に入ってくれて、それで『大丈夫?』って声をかけてくれて……」
「そんなこともあったね……」
恭平が過去のことを覚えてくれていた。純は少しほっとした。
「そういう恭くんの力強いところとか、優しいところが……」
(ううっ)
本当はもっと良い言葉があったのだろうが、見つからない。事前に考えていた言葉など、一つも出てこない。純の頬が、ほのかに熱くなる。緊張も最大限に達した。
「そういう優しいところが、好きだよ……。別に『幼馴染だから』とか『友達だから』とかじゃなくて、純粋に異性として……」
(恥ずかしい!)
純はそこまで口に出すと、思わず顔を地面に向け目をつぶってしまっていた。純と恭平がいる場には、金縛り状態になった空気が支配している。
「……」
しばらく沈黙状態が続く。恭平は何も言わない。表情がいつもと変わらず冷静なのが、純にとっての不安要素だ。
(恭くん、どうなの……?)
純がそう心で恭平に問いかけたとき、ようやく恭平が口を開いた。
「はぁー」
それは、純が期待していた言葉とは大きく異なる、ため息のような声だった。
今日の日直の少し涙で湿った声が教室に響き、純たちの中学校生活最後の日のSHRが終わった。
終わった瞬間に教室をダッシュで出ていく人、放心してボーっとしている人、友達の元へ向かう人……。全員、行動はバラバラだ。
すでに学級での記念写真は撮ってあるので、わざわざ教室に残っておく必要はない。学年の写真も同様だ。
純はといえば、既に通学用カバンを背負って教室から出ようとしていた恭平を引き留めていた。
「もう。卒業式が始まる前に、『私の話を聞く』っていう話だったんじゃないの?」
「あ」
恭平の顔がポカーンとなり、すぐに元の顔に戻る。
「忘れてた。でもまあ、いいか」
「いいか、って……。人の話を忘れておきながら……」
滅多にないことに思わず口から責めの言葉が出てしまったが、今日の本題は恭平のおかしい部分を見つけることではない。
(恭くん、何か変だな……。普段怒らなそうなところで怒るし、まだ言ってないはずの私の受験先の高校の名前まで知ってたし……)
恭平は確かに違和感を覚える部分が何か所かあるが、それはひとまず置いておくことにする。今日のメインは、恭平に気持ちを全てぶつけることだ。
「予定が無いならとにかくついてきて、恭くん!」
純はそういうと、恭平の腕を持ち、ぐいぐい引っ張った。恭平は抵抗することなく、純に続けてついてきた。
(何も言わずについてくるってことは、つまりそういうことだよね)
恭平が純に何かしらマイナスな気持ちを持っているとすれば、少なくとも今のように抵抗がないはずがない。
「連れてく、ってどこに?」
「学校の裏の人気のないところ!」
「……ふーん。まあ、理由は後で聞くことにするね」
これだと、純がよからぬことを考えているような感じになってしまっている。
「べ、別に変なこと考えてるわけじゃないからね!」
「純ちゃんこそ、なんで俺がそう考えると思うの? その口調からして、本当のことを言ってるとは思うけど」
(念を押しただけだから!)
恭平に考えられたらいやなことをまず消去しようとしたが、かえって逆効果になってしまっている。
「それより、周りの目が若干痛いんだけど……。誰もかれも白々しい目でこっちを見てくるの、何回も体験はしてるけど、やっぱり精神に来るものが……」
「今だけ我慢して!」
恭平が『何回も経験している』と言っているのは、中学校に入りたての頃の話だ。お互いの呼び名のせいで、周りからヤジが飛んでいたときの話である。
純も平気なわけではないが、中学校で同級生全員と会うのは今日が最後。つまり、『次の日に顔を合わせる』という可能性が限りなく低いのだ。今日さえ辛抱してしまえば、あとはどうにでもなる。
学校の昇降口を出ると、すでにたくさんの同級生で校庭が埋まっていた。家族と一緒に写真を撮っていたり、友達と雑談していたり、人の波にのまれていたり・・・・・・。
「ほら、こっち、こっち」
純は恭平を、そのまま日陰になっている学校裏へと移動させた。学校裏には桜の木が生えており、ちょうど今の時期に満開になっている。
どうして誰も来ない学校裏にわざわざ桜を植えたのだろう、と考えてしまうときがある。過去に使われたらしき話も聞いたことがないので、見栄えのためだとは思われる。誰も使わない割に掃除場所には当たっているので、春に『なんで桜が……』と思った人は少なからずいる。
「ここまで連れてきて、『なにもない』じゃ流石に、ね?」
「大丈夫だって。ちゃーんと話したいことはあるから」
純は、動悸を感じるようになった。胸の中から、心臓の音がバックン、バックンと伝わってくる。
「えーっと、こんな日陰の場所で悪いんだけど……。まず、私と恭くんは小学校からの仲だよね?」
「そりゃ」
「それで、恭くんはいっつも私のことをかばってくれて……。何回もほかの人から精神的にいじめられたときも、真っ先に中に入ってくれて、それで『大丈夫?』って声をかけてくれて……」
「そんなこともあったね……」
恭平が過去のことを覚えてくれていた。純は少しほっとした。
「そういう恭くんの力強いところとか、優しいところが……」
(ううっ)
本当はもっと良い言葉があったのだろうが、見つからない。事前に考えていた言葉など、一つも出てこない。純の頬が、ほのかに熱くなる。緊張も最大限に達した。
「そういう優しいところが、好きだよ……。別に『幼馴染だから』とか『友達だから』とかじゃなくて、純粋に異性として……」
(恥ずかしい!)
純はそこまで口に出すと、思わず顔を地面に向け目をつぶってしまっていた。純と恭平がいる場には、金縛り状態になった空気が支配している。
「……」
しばらく沈黙状態が続く。恭平は何も言わない。表情がいつもと変わらず冷静なのが、純にとっての不安要素だ。
(恭くん、どうなの……?)
純がそう心で恭平に問いかけたとき、ようやく恭平が口を開いた。
「はぁー」
それは、純が期待していた言葉とは大きく異なる、ため息のような声だった。
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