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一章 何か、おかしい
純 CHAPTER2
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「永島、起きろー」
「んんっ・・・・・・」
純は、何者かの呼びかけで意識を取り戻した。
(あれ・・・・・・。確か、トラックに跳ね飛ばされて・・・・・・)
寝ぼけ眼を指でこすりながら周りを見渡すが、そこはいつも純がいる学校の教室だった。前にある黒板、自分の机の上に載っている教科書類とノート、普段となんら変わらない住宅街が見える外の風景……。正真正銘、いつもの純のクラスの教室だ。
体の痛みがあるかどうかも一応確認するが、やっぱりというべきか、どこにも痛みはない。頬っぺたをつねってみるも、やはりなにも変わらない。
「どうしたんだよ。授業中に居眠りなんて、永島らしくもない」
(てことは、つまり、さっきのは)
純の居眠り中に見た夢ということになる。まったくもって迷惑な夢というものもあるものだ。授業中に居眠りしといて何様だとは思ってしまうが。
「指名、当たってるぞ。永島」
「えっ」
教卓のほうに目を向けると、教師が純のほうを向いて若干目を細めて、というかにらんでいた。
黒板に書かれている白い文字の数々は、純視点だと授業を聞いていないと解けなさそうな問題がズラリと並んでいる。居眠りしていた純に解けるはずもなく、教室に沈黙が流れる。
気まずい、非常に気まずい。
その後、純は居眠りしてしまっていた旨を隠さず報告し、とりあえず注意だけで済まされることとなった。この授業がすでに三時間目で、四時間で帰る予定になっているはずの今日はあと一時間しかない。
純が目覚めてからほどなくしてチャイムが鳴ったのは、幸か不幸か。
----------
「授業中眠っちゃってたみたいだけど、何かあったの?」
チャイムが鳴ってすぐ、恭平は純に先ほどの居眠りの件について質問してきた。
ただ、なぜ居眠りしていたのかは、純にはわからない。
思い返せば、今日の登校中ぐらいからの記憶が全て吹っ飛んでしまっている。同じように眠かったのか、それとも授業がつまらなかったのかもわからない。目を覚ましたときに涙が目にたまっていたので、眠気に負けた説が濃厚だが、確定はできない。
そもそも純は今までに『授業中に寝る』といった行為を一度もしたことがないので、だいたいは眠いから寝ているのではないか、というあいまいなイメージしか持っていない。
「なんで寝てたのか、私にも分からない。眠気にやられたかも」
純は正直に自分の率直な感想を返す。
「眠気にやられた……。純ちゃんに限って、授業中に眠気に襲われることなんてある?」
(ないわけがないでしょ!逆に人生で一回も授業中に眠気が来なかったひとは超希少価値高いと思うけど)
確かに純は授業中に寝たことはない。『寝たこと』、は。眠気が来るだけなら何回も経験がある。
理由も多岐にわたり、徹夜で何かをしていた、単なる寝坊、授業が退屈……。人間なら一度ならず何度も経験するはずの現象である。
「へえ、永島が寝てたのか。かなり珍しいな」
周りから野次馬が数人やってくる。授業中に寝ているのが珍しくない人は、それはそれで問題児だと思う。
「にしてもよ、『純ちゃん』と『恭くん』はやっぱり呼び方としてはどうなのよ?」
「こんな時期になってまで言わなくていいでしょ」
(また呼び名の話をされちゃうか……)
純と恭平の相互の呼び名の話に、純は定型文で言葉を返した。何回その言葉を聞いたかはわからない。最近は言われていなかったはずだ。
呼び名の話についてだが、そもそも野次馬もとい同級生たちに純が恭平を呼ぶときの『恭くん』や恭平が純を呼ぶときの『純ちゃん』を聞かれることは、全くといえば嘘になるがあまり気にしない。それ以前に、みんなもう聞きなれている。
ほぼ全員がすでに純と恭平の互いの呼び方を熟知している今の時期ですらいじられることがあるのだから、中学校の入学式後はかなり周りからとやかく言われた。
ラブラブだとか冷やかしてくる人、単刀直入に『気持ち悪い』と訴えてくる人、あからさまに敬遠してくる人……。他の小学校から合流した人たちとは、最初はほとんどコミュニケーションができなかった。
あまりにも呼び名のことを周りから強く言われたので、何度かは『恭平』や『浦前くん』と呼んでみたりもした。しかし、全然しっくりこなかったのでやめた。一学期が終わるころには、呼び方については周りからもあまり言われなくなった。途中で転入してきた転校生の子を除くが。
人の呼び方なんて、母親の呼び方も『お母さん』『ママ』『母』『オカン』などとたくさんあるのだから、別に友達の呼び方もいろいろあっていいのではないかと思う。純と恭平は、小学校の一年生からずっとその呼び方で過ごしてきたのだから。
「いやー、ごめん、ごめん。やっぱり、なんかこう、その呼び方を聞くとどうしてもいじりたくなっちゃう体質でさぁ……」
「……どんな体質だよ。それにお前、お前は小学校からずっと同じだろう? いつまで呼び名のことを言ってるんだよ」
恭平の一言で野次馬の男子生徒が沈黙し、バツの悪そうにそそくさと周辺から逃げ出した。他の野次馬たちも、口を閉じた。
「ところで、なんで明日卒業するのにまだ授業やってるんだろうな、学校は?」
恭平が別の話題を振ったことで、話の内容は呼び名問題からしょうもないことに移り、そのまま三時間目と四時間目の間の休憩時間ギリギリまで話が盛り上がった。
そのしょうもない話の続きになるが、純の記憶では、小学校のときはたしか卒業式の前日はすでに習うべきことはもう習い終わっていたので、単純に授業日数が足りていなかったのだと推測している。
チャイムが鳴るころには全員席に着席し、中学校で最後になる授業が始まった。教科は数学。純の中で一番眠たくなることが多い教科になる。
(居眠りだけはしないようにしよう……)
純はそう心構えた。
「んんっ・・・・・・」
純は、何者かの呼びかけで意識を取り戻した。
(あれ・・・・・・。確か、トラックに跳ね飛ばされて・・・・・・)
寝ぼけ眼を指でこすりながら周りを見渡すが、そこはいつも純がいる学校の教室だった。前にある黒板、自分の机の上に載っている教科書類とノート、普段となんら変わらない住宅街が見える外の風景……。正真正銘、いつもの純のクラスの教室だ。
体の痛みがあるかどうかも一応確認するが、やっぱりというべきか、どこにも痛みはない。頬っぺたをつねってみるも、やはりなにも変わらない。
「どうしたんだよ。授業中に居眠りなんて、永島らしくもない」
(てことは、つまり、さっきのは)
純の居眠り中に見た夢ということになる。まったくもって迷惑な夢というものもあるものだ。授業中に居眠りしといて何様だとは思ってしまうが。
「指名、当たってるぞ。永島」
「えっ」
教卓のほうに目を向けると、教師が純のほうを向いて若干目を細めて、というかにらんでいた。
黒板に書かれている白い文字の数々は、純視点だと授業を聞いていないと解けなさそうな問題がズラリと並んでいる。居眠りしていた純に解けるはずもなく、教室に沈黙が流れる。
気まずい、非常に気まずい。
その後、純は居眠りしてしまっていた旨を隠さず報告し、とりあえず注意だけで済まされることとなった。この授業がすでに三時間目で、四時間で帰る予定になっているはずの今日はあと一時間しかない。
純が目覚めてからほどなくしてチャイムが鳴ったのは、幸か不幸か。
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「授業中眠っちゃってたみたいだけど、何かあったの?」
チャイムが鳴ってすぐ、恭平は純に先ほどの居眠りの件について質問してきた。
ただ、なぜ居眠りしていたのかは、純にはわからない。
思い返せば、今日の登校中ぐらいからの記憶が全て吹っ飛んでしまっている。同じように眠かったのか、それとも授業がつまらなかったのかもわからない。目を覚ましたときに涙が目にたまっていたので、眠気に負けた説が濃厚だが、確定はできない。
そもそも純は今までに『授業中に寝る』といった行為を一度もしたことがないので、だいたいは眠いから寝ているのではないか、というあいまいなイメージしか持っていない。
「なんで寝てたのか、私にも分からない。眠気にやられたかも」
純は正直に自分の率直な感想を返す。
「眠気にやられた……。純ちゃんに限って、授業中に眠気に襲われることなんてある?」
(ないわけがないでしょ!逆に人生で一回も授業中に眠気が来なかったひとは超希少価値高いと思うけど)
確かに純は授業中に寝たことはない。『寝たこと』、は。眠気が来るだけなら何回も経験がある。
理由も多岐にわたり、徹夜で何かをしていた、単なる寝坊、授業が退屈……。人間なら一度ならず何度も経験するはずの現象である。
「へえ、永島が寝てたのか。かなり珍しいな」
周りから野次馬が数人やってくる。授業中に寝ているのが珍しくない人は、それはそれで問題児だと思う。
「にしてもよ、『純ちゃん』と『恭くん』はやっぱり呼び方としてはどうなのよ?」
「こんな時期になってまで言わなくていいでしょ」
(また呼び名の話をされちゃうか……)
純と恭平の相互の呼び名の話に、純は定型文で言葉を返した。何回その言葉を聞いたかはわからない。最近は言われていなかったはずだ。
呼び名の話についてだが、そもそも野次馬もとい同級生たちに純が恭平を呼ぶときの『恭くん』や恭平が純を呼ぶときの『純ちゃん』を聞かれることは、全くといえば嘘になるがあまり気にしない。それ以前に、みんなもう聞きなれている。
ほぼ全員がすでに純と恭平の互いの呼び方を熟知している今の時期ですらいじられることがあるのだから、中学校の入学式後はかなり周りからとやかく言われた。
ラブラブだとか冷やかしてくる人、単刀直入に『気持ち悪い』と訴えてくる人、あからさまに敬遠してくる人……。他の小学校から合流した人たちとは、最初はほとんどコミュニケーションができなかった。
あまりにも呼び名のことを周りから強く言われたので、何度かは『恭平』や『浦前くん』と呼んでみたりもした。しかし、全然しっくりこなかったのでやめた。一学期が終わるころには、呼び方については周りからもあまり言われなくなった。途中で転入してきた転校生の子を除くが。
人の呼び方なんて、母親の呼び方も『お母さん』『ママ』『母』『オカン』などとたくさんあるのだから、別に友達の呼び方もいろいろあっていいのではないかと思う。純と恭平は、小学校の一年生からずっとその呼び方で過ごしてきたのだから。
「いやー、ごめん、ごめん。やっぱり、なんかこう、その呼び方を聞くとどうしてもいじりたくなっちゃう体質でさぁ……」
「……どんな体質だよ。それにお前、お前は小学校からずっと同じだろう? いつまで呼び名のことを言ってるんだよ」
恭平の一言で野次馬の男子生徒が沈黙し、バツの悪そうにそそくさと周辺から逃げ出した。他の野次馬たちも、口を閉じた。
「ところで、なんで明日卒業するのにまだ授業やってるんだろうな、学校は?」
恭平が別の話題を振ったことで、話の内容は呼び名問題からしょうもないことに移り、そのまま三時間目と四時間目の間の休憩時間ギリギリまで話が盛り上がった。
そのしょうもない話の続きになるが、純の記憶では、小学校のときはたしか卒業式の前日はすでに習うべきことはもう習い終わっていたので、単純に授業日数が足りていなかったのだと推測している。
チャイムが鳴るころには全員席に着席し、中学校で最後になる授業が始まった。教科は数学。純の中で一番眠たくなることが多い教科になる。
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純はそう心構えた。
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