8 / 11
第一章 祓魔師見習い飛鳥井久仁彦の平穏ではない日常
008 蛇血石 いざ決戦の地へ
しおりを挟む
千葉県某所 百々宅 飛鳥井久仁彦
四角形がいくつか集まったようなモダンな現代建築の家。
それが百々さんのお宅だった。
外観だけ見たら民家というよりはカフェ的なイメージだ。
お母さんの趣味だといっていたローズガーデンが見える。
こぢんまりとしているけど、しっかり手入れされているみたいだ。
時刻は午前中。
お昼には少し早いといった時間帯である。
日の光をうけてバラがキラキラとして見えた。
バラって春のイメージだったけど、秋にも咲く品種があるのか。
なんて思っていると、付き添いできている師匠が歩を進めていた。
「飛鳥井くん、今日はわざわざありがとう」
百々さんが庭のところで待っていてくれた。
そして師匠を見て、少しだけ目を見開いている。
今日の師匠は黒いスキニーパンツに、同色の革ジャンとブーツというロックなスタイルだ。
金髪ツーブロックの髪型とあわせてミュージシャンに見えてもおかしくない。
「え、と。そちらの方は?」
”師匠です”と言いそうになったところで鈴の鳴るような声がした。
「巳輪朔夜。くにっ……飛鳥井くんの知り合い、しがない祓魔師さ」
先日、師匠に相談したあとのことだ。
協会からの電話よりも、先に六道家から連絡があった。
どうにも六林家では手に負えそうにないとのことで、六道家に相談があったのだ。
本家である六道家がきっちり尻を拭くというのが、この業界では当然のこととも言える。
しかし六道家からは師匠に協力して欲しいと連絡があったのだ。
その要請を師匠は快諾した。
「百々若叶さんだったよね。六道家の人はもう到着しているのかな?」
「あ、はい。先ほどこられまして客室でお待ちいただいています。初めまして、百々若叶と申します。本日はよろしくお願いいたします」
きれいな所作で頭を下げる百々さんは、良家のお嬢さんって感じだ。
今日もクラシカルなロリータ服を着ているだけあって雰囲気がばっちりあっている。
「じゃ案内してくれるかな?」
師匠の言葉に百々さんは頷いた。
そして一瞬だけ、オレの方を見る。
”聞いてないわよ”とでも言いたげな表情だ。
オレも目で謝意を示すと、百々さんが師匠を案内し始める。
ローズガーデンに目をやっていると、すぐに玄関にとおされてしまった。
「久仁彦くん、あとでお茶でもさせてもらおうか」
小声で師匠が言う。
「いいですね」
と返してから気がついた。
師匠はなんだか余裕綽々だ。
今日は付き添いだって言ってたのに。
師匠がサクッと解決してくれるのか?
オレはなんにもできないぞ。
「失礼します」
玄関からほど近い部屋にノックしてから百々さんが入っていく。
「巳輪様が到着されました」
部屋の中には初老の男性が高そうな椅子に腰掛けていた。
白髪交じりの頭髪が目立つものの、ビシッとしたスーツ姿である。
黒縁のメガネの奥に光る目の力がやけに強い。
「御大自らが出張ってくるとは。お久しぶりですね」
「朔夜姫とその秘蔵っ子がくると聞いてはな」
低音で腹に響くような渋い声だった。
祓魔師ってのは見た目と声がよくないとダメな職業なのか。
師匠といい、この男性といい、なんなんだ。
「こちらは六道妙印さん、六道家のご当主だよ。で、こっちにいるのが飛鳥井久仁彦くん」
師匠に紹介されたので頭を下げて挨拶する。
オレが名のると”ほう”と渋い声が聞こえた。
「これが噂の」
ジロジロと見られる。
そして”かか”と六道さんが声をあげて笑う。
「姫の手に負えるのか?」
「姫という年齢ではないですけどね」
師匠が苦笑しながら続ける。
「御大の手には負えませんよ。いえ正確にはわたし以外は無理でしょうね」
”そこまでか”と呟いて、六道さんが珈琲カップを手にした。
「六道妙印と言う。以後はよしなに頼む」
とオレに向けて頭を下げてくる。
「いやいや、こちらこそ色々とご指導ご鞭撻いただくことになると思います」
慌ててオレも頭を下げた。
「立ち話もなんですから」
百々さんが勧めてくれた椅子に座る。
そのタイミングで百々さんは飲み物をお持ちしますと退室した。
「御大はどう見ておられるのですか?」
「十中八九、蛇血石であろうな」
にぃっと師匠が笑顔を見せた。
それは同じ考えだったということだろう。
「うちの久仁彦くんにお任せいただいても?」
「かまわんのか?」
「一級呪物が増えたとしても……面倒でしょう? うちの久仁彦くんならさっさと終わらせられます」
「姫にそこまで言わしめるとはな」
師匠が頷く一方でオレはまったく話についていけない。
たぶん詳しい話は百々さんにもするはずだ。
そのときに聞けばいいか。
”譲りませんよ”と師匠が言う。
二人の視線がバチバチと火花を立てているみたいだ。
でもオレの取り合いしてるってことだよな。
そう思うと気分は悪くない。
もっとやってくれたまえ。
まぁ師匠の元を離れる気はまったくないけどね。
そこでドアがノックされた。
百々さんとそのお母さんだろうか。
若いときは美人でしたって感じの品のいい女性が姿を見せた。
「百々直美と申します。このたびは主人のことでお世話になります」
百々さんが珈琲カップを置いていく。
そして全員が席についたところで改めて話し合いが始まった。
四角形がいくつか集まったようなモダンな現代建築の家。
それが百々さんのお宅だった。
外観だけ見たら民家というよりはカフェ的なイメージだ。
お母さんの趣味だといっていたローズガーデンが見える。
こぢんまりとしているけど、しっかり手入れされているみたいだ。
時刻は午前中。
お昼には少し早いといった時間帯である。
日の光をうけてバラがキラキラとして見えた。
バラって春のイメージだったけど、秋にも咲く品種があるのか。
なんて思っていると、付き添いできている師匠が歩を進めていた。
「飛鳥井くん、今日はわざわざありがとう」
百々さんが庭のところで待っていてくれた。
そして師匠を見て、少しだけ目を見開いている。
今日の師匠は黒いスキニーパンツに、同色の革ジャンとブーツというロックなスタイルだ。
金髪ツーブロックの髪型とあわせてミュージシャンに見えてもおかしくない。
「え、と。そちらの方は?」
”師匠です”と言いそうになったところで鈴の鳴るような声がした。
「巳輪朔夜。くにっ……飛鳥井くんの知り合い、しがない祓魔師さ」
先日、師匠に相談したあとのことだ。
協会からの電話よりも、先に六道家から連絡があった。
どうにも六林家では手に負えそうにないとのことで、六道家に相談があったのだ。
本家である六道家がきっちり尻を拭くというのが、この業界では当然のこととも言える。
しかし六道家からは師匠に協力して欲しいと連絡があったのだ。
その要請を師匠は快諾した。
「百々若叶さんだったよね。六道家の人はもう到着しているのかな?」
「あ、はい。先ほどこられまして客室でお待ちいただいています。初めまして、百々若叶と申します。本日はよろしくお願いいたします」
きれいな所作で頭を下げる百々さんは、良家のお嬢さんって感じだ。
今日もクラシカルなロリータ服を着ているだけあって雰囲気がばっちりあっている。
「じゃ案内してくれるかな?」
師匠の言葉に百々さんは頷いた。
そして一瞬だけ、オレの方を見る。
”聞いてないわよ”とでも言いたげな表情だ。
オレも目で謝意を示すと、百々さんが師匠を案内し始める。
ローズガーデンに目をやっていると、すぐに玄関にとおされてしまった。
「久仁彦くん、あとでお茶でもさせてもらおうか」
小声で師匠が言う。
「いいですね」
と返してから気がついた。
師匠はなんだか余裕綽々だ。
今日は付き添いだって言ってたのに。
師匠がサクッと解決してくれるのか?
オレはなんにもできないぞ。
「失礼します」
玄関からほど近い部屋にノックしてから百々さんが入っていく。
「巳輪様が到着されました」
部屋の中には初老の男性が高そうな椅子に腰掛けていた。
白髪交じりの頭髪が目立つものの、ビシッとしたスーツ姿である。
黒縁のメガネの奥に光る目の力がやけに強い。
「御大自らが出張ってくるとは。お久しぶりですね」
「朔夜姫とその秘蔵っ子がくると聞いてはな」
低音で腹に響くような渋い声だった。
祓魔師ってのは見た目と声がよくないとダメな職業なのか。
師匠といい、この男性といい、なんなんだ。
「こちらは六道妙印さん、六道家のご当主だよ。で、こっちにいるのが飛鳥井久仁彦くん」
師匠に紹介されたので頭を下げて挨拶する。
オレが名のると”ほう”と渋い声が聞こえた。
「これが噂の」
ジロジロと見られる。
そして”かか”と六道さんが声をあげて笑う。
「姫の手に負えるのか?」
「姫という年齢ではないですけどね」
師匠が苦笑しながら続ける。
「御大の手には負えませんよ。いえ正確にはわたし以外は無理でしょうね」
”そこまでか”と呟いて、六道さんが珈琲カップを手にした。
「六道妙印と言う。以後はよしなに頼む」
とオレに向けて頭を下げてくる。
「いやいや、こちらこそ色々とご指導ご鞭撻いただくことになると思います」
慌ててオレも頭を下げた。
「立ち話もなんですから」
百々さんが勧めてくれた椅子に座る。
そのタイミングで百々さんは飲み物をお持ちしますと退室した。
「御大はどう見ておられるのですか?」
「十中八九、蛇血石であろうな」
にぃっと師匠が笑顔を見せた。
それは同じ考えだったということだろう。
「うちの久仁彦くんにお任せいただいても?」
「かまわんのか?」
「一級呪物が増えたとしても……面倒でしょう? うちの久仁彦くんならさっさと終わらせられます」
「姫にそこまで言わしめるとはな」
師匠が頷く一方でオレはまったく話についていけない。
たぶん詳しい話は百々さんにもするはずだ。
そのときに聞けばいいか。
”譲りませんよ”と師匠が言う。
二人の視線がバチバチと火花を立てているみたいだ。
でもオレの取り合いしてるってことだよな。
そう思うと気分は悪くない。
もっとやってくれたまえ。
まぁ師匠の元を離れる気はまったくないけどね。
そこでドアがノックされた。
百々さんとそのお母さんだろうか。
若いときは美人でしたって感じの品のいい女性が姿を見せた。
「百々直美と申します。このたびは主人のことでお世話になります」
百々さんが珈琲カップを置いていく。
そして全員が席についたところで改めて話し合いが始まった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
腐女子探偵は見ました!
ガルバンゾウ
キャラ文芸
男子に萌えつつ推理をする腐女子探偵!
真婦留ハンナは16歳の高校生。腐女子ライフを満喫していた彼女は、人には言えない秘密の趣味が、それは<気になる男子達の関係を影ながら観察する事!>あまりに没頭する余り、毎回事件に巻き込まれ成り行きで探偵のフリをする事になる、BLドタバタミステリです。肩の力を抜いてごゆるりとご覧下さい。。
推理、ミステリー、サスペンス、腐女子、BL、妄想、現代、女子高生、探偵、コメディ、謎、ボーイズラブ
2年死ィ組 カイモン先生
有
キャラ文芸
先生vs現代教育、先生vsイジメ問題、先生vs理事長、先生vsPTA……
現代の悪化をたどる腐りきった教育問題をボクらの担任の先生がさらに悪化させる、衝撃の問題作がここに登場。
担任の先生の名は海電悶次郎、ひと呼んでカイモン先生!
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
薔薇と少年
白亜凛
キャラ文芸
路地裏のレストランバー『執事のシャルール』に、非日常の夜が訪れた。
夕べ、店の近くで男が刺されたという。
警察官が示すふたつのキーワードは、薔薇と少年。
常連客のなかにはその条件にマッチする少年も、夕べ薔薇を手にしていた女性もいる。
ふたりの常連客は事件と関係があるのだろうか。
アルバイトのアキラとバーのマスターの亮一のふたりは、心を揺らしながら店を開ける。
事件の全容が見えた時、日付が変わり、別の秘密が顔を出した。
性的イジメ
ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。
作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。
全二話 毎週日曜日正午にUPされます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる