不可触の神に愛されて

鳶丸

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第一章 祓魔師見習い飛鳥井久仁彦の平穏ではない日常

008 蛇血石 いざ決戦の地へ

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千葉県某所 百々宅 飛鳥井久仁彦


 四角形がいくつか集まったようなモダンな現代建築の家。
 それが百々さんのお宅だった。
 外観だけ見たら民家というよりはカフェ的なイメージだ。
 お母さんの趣味だといっていたローズガーデンが見える。
 こぢんまりとしているけど、しっかり手入れされているみたいだ。

 時刻は午前中。
 お昼には少し早いといった時間帯である。
 日の光をうけてバラがキラキラとして見えた。

 バラって春のイメージだったけど、秋にも咲く品種があるのか。
 なんて思っていると、付き添いできている師匠が歩を進めていた。

飛鳥井あすかいくん、今日はわざわざありがとう」

 百々さんが庭のところで待っていてくれた。
 そして師匠を見て、少しだけ目を見開いている。
 今日の師匠は黒いスキニーパンツに、同色の革ジャンとブーツというロックなスタイルだ。
 金髪ツーブロックの髪型とあわせてミュージシャンに見えてもおかしくない。

「え、と。そちらの方は?」

 ”師匠です”と言いそうになったところで鈴の鳴るような声がした。

巳輪朔夜みわさくや。くにっ……飛鳥井くんの知り合い、しがない祓魔師さ」

 先日、師匠に相談したあとのことだ。
 協会からの電話よりも、先に六道家から連絡があった。
 どうにも六林家では手に負えそうにないとのことで、六道家に相談があったのだ。
 
 本家である六道家がきっちり尻を拭くというのが、この業界では当然のこととも言える。
 しかし六道家からは師匠に協力して欲しいと連絡があったのだ。
 その要請を師匠は快諾した。

「百々若叶さんだったよね。六道家の人はもう到着しているのかな?」

「あ、はい。先ほどこられまして客室でお待ちいただいています。初めまして、百々若叶と申します。本日はよろしくお願いいたします」

 きれいな所作で頭を下げる百々さんは、良家のお嬢さんって感じだ。
 今日もクラシカルなロリータ服を着ているだけあって雰囲気がばっちりあっている。
 
「じゃ案内してくれるかな?」

 師匠の言葉に百々さんは頷いた。
 そして一瞬だけ、オレの方を見る。
 ”聞いてないわよ”とでも言いたげな表情だ。

 オレも目で謝意を示すと、百々さんが師匠を案内し始める。
 ローズガーデンに目をやっていると、すぐに玄関にとおされてしまった。

「久仁彦くん、あとでお茶でもさせてもらおうか」

 小声で師匠が言う。

「いいですね」

 と返してから気がついた。
 師匠はなんだか余裕綽々だ。
 今日は付き添いだって言ってたのに。
 師匠がサクッと解決してくれるのか?
 オレはなんにもできないぞ。
 
「失礼します」

 玄関からほど近い部屋にノックしてから百々さんが入っていく。

「巳輪様が到着されました」

 部屋の中には初老の男性が高そうな椅子に腰掛けていた。
 白髪交じりの頭髪が目立つものの、ビシッとしたスーツ姿である。
 黒縁のメガネの奥に光る目の力がやけに強い。

「御大自らが出張ってくるとは。お久しぶりですね」

「朔夜姫とその秘蔵っ子がくると聞いてはな」

 低音で腹に響くような渋い声だった。
 祓魔師ってのは見た目と声がよくないとダメな職業なのか。
 師匠といい、この男性といい、なんなんだ。

「こちらは六道妙印りくどうみょういんさん、六道家のご当主だよ。で、こっちにいるのが飛鳥井久仁彦くん」

 師匠に紹介されたので頭を下げて挨拶する。
 オレが名のると”ほう”と渋い声が聞こえた。

「これが噂の」

 ジロジロと見られる。
 そして”かか”と六道さんが声をあげて笑う。

「姫の手に負えるのか?」

「姫という年齢ではないですけどね」

 師匠が苦笑しながら続ける。

「御大の手には負えませんよ。いえ正確にはわたし以外は無理でしょうね」

 ”そこまでか”と呟いて、六道さんが珈琲カップを手にした。

「六道妙印と言う。以後はよしなに頼む」

 とオレに向けて頭を下げてくる。

「いやいや、こちらこそ色々とご指導ご鞭撻いただくことになると思います」

 慌ててオレも頭を下げた。

「立ち話もなんですから」

 百々さんが勧めてくれた椅子に座る。
 そのタイミングで百々さんは飲み物をお持ちしますと退室した。

「御大はどう見ておられるのですか?」

「十中八九、蛇血石であろうな」

 にぃっと師匠が笑顔を見せた。
 それは同じ考えだったということだろう。

「うちの久仁彦くんにお任せいただいても?」

「かまわんのか?」

「一級呪物が増えたとしても……面倒でしょう? うちの久仁彦くんならさっさと終わらせられます」

「姫にそこまで言わしめるとはな」

 師匠が頷く一方でオレはまったく話についていけない。
 たぶん詳しい話は百々さんにもするはずだ。
 そのときに聞けばいいか。

 ”譲りませんよ”と師匠が言う。
 二人の視線がバチバチと火花を立てているみたいだ。
 でもオレの取り合いしてるってことだよな。
 そう思うと気分は悪くない。
 もっとやってくれたまえ。
 まぁ師匠の元を離れる気はまったくないけどね。

 そこでドアがノックされた。
 百々さんとそのお母さんだろうか。
 若いときは美人でしたって感じの品のいい女性が姿を見せた。

百々直美どうどうなおみと申します。このたびは主人のことでお世話になります」

 百々さんが珈琲カップを置いていく。
 そして全員が席についたところで改めて話し合いが始まった。

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