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第一章 祓魔師見習い飛鳥井久仁彦の平穏ではない日常
007 蛇血石 食いしんぼう
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副皇都中野区 飛鳥井久仁彦
陰通門を使って帰宅する。
師匠にお土産のロールケーキを渡すと、ものスゴくいい笑顔を見せてくれた。
夕食後のデザートにしたいそうだ。
ちょっとした雑用をこなしてから、夕食の準備に取りかかる。
メインにブロッコリーと豚肉をニンニクで炒めたものを用意した。
副菜は作り置きの豆苗のごま和えと、レンコンのきんぴらだ。
今日は遅くなったから手抜きだけどな。
ちなみに家守は食事をしないので、師匠の意向もあって姿を消している。
一緒にご飯を食べない人がいると落ちつかないそうだ。
その気持ちはオレもよくわかる。
食後のお茶を飲みながら、師匠に二人から相談されたことを話す。
話を聞いてるのかってくらい師匠はロールケーキに夢中だ。
かなり気に入ったみたいである。
おかわりが続いて、ほぼ三分の二をぺろりと平らげたからだ。
そんな師匠がお茶を啜りながら言った。
「大陸の鶏血石か……久仁彦くん、そのお友だち、確か百々さんって言ったね」
はい、と返事をする。
「三徳商会のはずだから、担当は六林だね。うん、久仁彦くん。先に相談してくれてよかったよ」
「ええと、訳ありで?」
「そうじゃなくてね、うん。いい機会だから協会のことを説明しておこうか」
「はい?」
師匠のいう協会とは祓魔師協会のことだ。
正確には国家祓魔師協会という。
国家と名がつくだけあって、宮内省に所属する機関だ。
平たくいうと皇国内の祓魔師は全員が協会に所属する義務がある。
つまり建前として、この国には野良の祓魔師はいないのだ。
それだけ長くあやかしと戦ってきた組織でもある。
宮内省管轄なんだけど、実質的には国を『あやかし』から守護してきたやんごとない御方の直属になる。
そのくらいは知っているんだけど、あまり詳しくは説明されていない。
なにせ祓魔師見習いになったのは山姫の件に同行する少し前だからだ。
当然オレだって協会員になっている。
「協会には理事っていって九つの家があるんだ。この国の祓魔師はいずれかの家に所属しているんだよ。うちの場合は実家の巳輪家ね。で、理事の中から選出されるのが理事長。協会のトップだと思ってくれていい。今代の理事長は土御門家だね」
訳がわからず”はぁ”と生返事をしてしまう。
そんなオレにかまわず師匠は話を続ける。
「北海道・東北・甲信越・関東・中部・関西・中国・四国・九州沖縄って感じでブロックごとに大まかな地域ごとに担当理事がいるんだよ。で関東は六道家の管轄なんだけど、千葉県は分家の六林家が担当なんだ。つまり百々さんの実家が経営している三徳商会は六林家の管轄ってわけだね。十中八九、その倒れた拝み屋ってのが六林家に所属する祓魔師だよ」
「ってことは勝手にうちが手出しできないってことでいいんですか?」
「うちの実家は関西担当だからそうなるね。ただ厳密にってわけでもないんだよ」
「どういうことです?」
「今から協会経由で六林に連絡してみるよ。それでどうするか対応が決まるから。古美術商なんてうちの業界とはしっかり繋がってるから、もし久仁彦くんが百々さんちにお邪魔してたら面倒なことになったかもしれないね」
師匠が言うには祓魔師にも面子ってものがあるらしい。
それを軽視するのはよくないんだと。
協会経由での仕事なら問題はないけれど、勝手に営業をするとうちの縄張りでなにしとるんじゃいってなるそうだ。
特に師匠は実家が太い。
さらに協会に請われて出向ってかたちで副皇都に居を構えているわけだ。
勝手に出張ると大変なことになるらしい。
まるで反社の勢力争いだ。
どこの業界も世知辛いもんだと思う。
ただ理事をしている九つの家は仲がいいらしい。
どこの家だって一長一短があるもので、他家からの助けが欲しいってことが多いそうだ。
持ちつ持たれつなので揉めてる場合じゃねえってことだね。
そもそもの話。
見習いのオレが勝手に仕事を請けるわけないじゃん。
っていうか、いくらオレには無敵の神様が憑いてるっていっても素人なんだから。
そこまで無謀じゃありませんってば。
なんてことを師匠に伝えると、”その慎重さは頼もしいね”と師匠は笑っていた。
ケータイを使って師匠が電話をしている間、オレは食器を洗って片づけてしまう。
居間に戻ってくると、既に話し合いは終わっていたみたいだ。
「明日、六林から正式な返答がくるそうだよ」
「となると早くて明日には百々さんのところに?」
「いや調整もあるだろうし明後日になるだろうね」
「オレも一緒に行くんですよね?」
「逆だよ、逆。キミがメインでわたしが付き添い」
ニヤニヤとしながら師匠が言う。
その言葉に思わずオレは眉をしかめてしまった。
「大丈夫なんですか?」
素人なんですけどねってことを言外にこめる。
「余裕、余裕。あのね、キミのバックには誰が憑いていると思っているんだい?」
そりゃ無窮なる深淵に棲まう大神と師匠ですが。
「と言うかだよ、六林はどうなっているのかね? いくら分家とはいっても弛みすぎ」
”ところで久仁彦くん”と師匠がオレを見る。
「もうさっきのケーキはないのかい?」
「明日の朝にも出そうと思って少し残してますけど」
「明日の朝なんてとんでもない!」
どうやら師匠はすぐにでもロールケーキを食べたいらしい。
また明日もお土産に買って帰ってこようと、オレは密かに決意した。
陰通門を使って帰宅する。
師匠にお土産のロールケーキを渡すと、ものスゴくいい笑顔を見せてくれた。
夕食後のデザートにしたいそうだ。
ちょっとした雑用をこなしてから、夕食の準備に取りかかる。
メインにブロッコリーと豚肉をニンニクで炒めたものを用意した。
副菜は作り置きの豆苗のごま和えと、レンコンのきんぴらだ。
今日は遅くなったから手抜きだけどな。
ちなみに家守は食事をしないので、師匠の意向もあって姿を消している。
一緒にご飯を食べない人がいると落ちつかないそうだ。
その気持ちはオレもよくわかる。
食後のお茶を飲みながら、師匠に二人から相談されたことを話す。
話を聞いてるのかってくらい師匠はロールケーキに夢中だ。
かなり気に入ったみたいである。
おかわりが続いて、ほぼ三分の二をぺろりと平らげたからだ。
そんな師匠がお茶を啜りながら言った。
「大陸の鶏血石か……久仁彦くん、そのお友だち、確か百々さんって言ったね」
はい、と返事をする。
「三徳商会のはずだから、担当は六林だね。うん、久仁彦くん。先に相談してくれてよかったよ」
「ええと、訳ありで?」
「そうじゃなくてね、うん。いい機会だから協会のことを説明しておこうか」
「はい?」
師匠のいう協会とは祓魔師協会のことだ。
正確には国家祓魔師協会という。
国家と名がつくだけあって、宮内省に所属する機関だ。
平たくいうと皇国内の祓魔師は全員が協会に所属する義務がある。
つまり建前として、この国には野良の祓魔師はいないのだ。
それだけ長くあやかしと戦ってきた組織でもある。
宮内省管轄なんだけど、実質的には国を『あやかし』から守護してきたやんごとない御方の直属になる。
そのくらいは知っているんだけど、あまり詳しくは説明されていない。
なにせ祓魔師見習いになったのは山姫の件に同行する少し前だからだ。
当然オレだって協会員になっている。
「協会には理事っていって九つの家があるんだ。この国の祓魔師はいずれかの家に所属しているんだよ。うちの場合は実家の巳輪家ね。で、理事の中から選出されるのが理事長。協会のトップだと思ってくれていい。今代の理事長は土御門家だね」
訳がわからず”はぁ”と生返事をしてしまう。
そんなオレにかまわず師匠は話を続ける。
「北海道・東北・甲信越・関東・中部・関西・中国・四国・九州沖縄って感じでブロックごとに大まかな地域ごとに担当理事がいるんだよ。で関東は六道家の管轄なんだけど、千葉県は分家の六林家が担当なんだ。つまり百々さんの実家が経営している三徳商会は六林家の管轄ってわけだね。十中八九、その倒れた拝み屋ってのが六林家に所属する祓魔師だよ」
「ってことは勝手にうちが手出しできないってことでいいんですか?」
「うちの実家は関西担当だからそうなるね。ただ厳密にってわけでもないんだよ」
「どういうことです?」
「今から協会経由で六林に連絡してみるよ。それでどうするか対応が決まるから。古美術商なんてうちの業界とはしっかり繋がってるから、もし久仁彦くんが百々さんちにお邪魔してたら面倒なことになったかもしれないね」
師匠が言うには祓魔師にも面子ってものがあるらしい。
それを軽視するのはよくないんだと。
協会経由での仕事なら問題はないけれど、勝手に営業をするとうちの縄張りでなにしとるんじゃいってなるそうだ。
特に師匠は実家が太い。
さらに協会に請われて出向ってかたちで副皇都に居を構えているわけだ。
勝手に出張ると大変なことになるらしい。
まるで反社の勢力争いだ。
どこの業界も世知辛いもんだと思う。
ただ理事をしている九つの家は仲がいいらしい。
どこの家だって一長一短があるもので、他家からの助けが欲しいってことが多いそうだ。
持ちつ持たれつなので揉めてる場合じゃねえってことだね。
そもそもの話。
見習いのオレが勝手に仕事を請けるわけないじゃん。
っていうか、いくらオレには無敵の神様が憑いてるっていっても素人なんだから。
そこまで無謀じゃありませんってば。
なんてことを師匠に伝えると、”その慎重さは頼もしいね”と師匠は笑っていた。
ケータイを使って師匠が電話をしている間、オレは食器を洗って片づけてしまう。
居間に戻ってくると、既に話し合いは終わっていたみたいだ。
「明日、六林から正式な返答がくるそうだよ」
「となると早くて明日には百々さんのところに?」
「いや調整もあるだろうし明後日になるだろうね」
「オレも一緒に行くんですよね?」
「逆だよ、逆。キミがメインでわたしが付き添い」
ニヤニヤとしながら師匠が言う。
その言葉に思わずオレは眉をしかめてしまった。
「大丈夫なんですか?」
素人なんですけどねってことを言外にこめる。
「余裕、余裕。あのね、キミのバックには誰が憑いていると思っているんだい?」
そりゃ無窮なる深淵に棲まう大神と師匠ですが。
「と言うかだよ、六林はどうなっているのかね? いくら分家とはいっても弛みすぎ」
”ところで久仁彦くん”と師匠がオレを見る。
「もうさっきのケーキはないのかい?」
「明日の朝にも出そうと思って少し残してますけど」
「明日の朝なんてとんでもない!」
どうやら師匠はすぐにでもロールケーキを食べたいらしい。
また明日もお土産に買って帰ってこようと、オレは密かに決意した。
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