彼の場合は

相沢 朋美

文字の大きさ
上 下
9 / 12

9

しおりを挟む
 カフェを出た後、啓徳と敦子は手を繋いで周辺を歩く。それから人の少ない公園のベンチに座り、啓徳は敦子に告白した。
「今日会ってお互いをもっと知っていきたいと思いました。付き合ってください」
敦子は「え、嘘、私でいいの……?」と目を丸くする。啓徳は「敦子がいいんだ」と返し、敦子は「はい、ぜひよろしくお願いします」と言う。これで啓徳と敦子は恋人同士になった。敦子にとっては初めての彼氏で、啓徳にとっては高校時代以来の彼女だ。
 敦子と付き合い始めて、啓徳はたくさんの思い出を作る。カフェでのお茶や食事はもちろん、嵐山に紅葉を見に行ったことも。敦子はディズニーランドに行ったことがないとのことだったので、来年敦子が20歳の誕生日を迎える際にディズニーランドに行こうという話もした。付き合って1ヶ月記念日には映画を観に行き、ハンバーグレストランで食事をし、イルミネーションを見に行ったこともある。これだけ見ると、普通のカップルと変わらないと啓徳は感じた。



 敦子は可愛いし、一緒にいて楽しい。しかし啓徳にはどこか違和感があったのだ。食事する場所は毎回おしゃれなところで(敦子はガヤガヤ騒がしいのが好きではなく、ゆっくり話せる場所が好きだそう)、たまにはラーメン屋や親子丼屋はと言うと難色を示される。話題の提供はいつも啓徳からで、敦子はあまり話す方ではない。またデートスポットの提案もいつも啓徳がしており、敦子から「ここに行きたい!」という言葉は聞いたことがない。しかし会計時には財布を出し、支払う意思を見せてくれる。
 結局これって、俺が楽しませる前提なの? 俺はホストかガイドで、敦子はお客さんなの? 啓徳はそういったことを考えるようになる。しかも、啓徳はそこまで敦子を好きだというわけではないことに気づいてしまった。可愛い見た目は好きだけれど、それ以外に敦子の好きなところはと聞かれても、パッと思い浮かばないのだ。
 啓徳は悩みに悩んで、敦子にLINEで話を切り出す。1ヶ月以上付き合っているのに、自分の気持ちが敦子のそれに追いつかないこと。そんな気持ちなのに、恋人でいるのは誠実じゃないと思うこと。可能なら敦子とは友達に戻りたいということ。
 送った後、啓徳は自分の身勝手さに気づく。マッチングアプリでお互い恋愛前提で知り合っている以上、友達期間なんてないし、友達に戻るだなんて無理な話なのだから。結局啓徳と敦子は2ヶ月という短期間で破局した。友達に彼女と別れたと言うと、「早っ!」「なんで?」「まだ2ヶ月でしょ?」と言われたけれど、啓徳はもうこうするより他はなかったのだ。なんだかんだで叶絵への未練が完全には消えていないこともあり、やはり自分には恋愛は向いていないと啓徳は悟った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...