10 / 20
10
しおりを挟む
*
元接客業ということもあってパソコンの操作はあまり得意ではなかったけれど、業務に慣れてきて遊佐さんはできることがどんどん増えていった。さらに電話対応でもおどおどすることはなくなり、変な人からの電話にあたっても気にしなくなったーー最初は落ち込んだりトイレで泣いたりしていたそうーーという。
遊佐さんが入社して1週間経ち、堀内チーフが僕の席にやってきた。
「遊佐さんの歓迎会兼お前の送別会しようと思うんだけど、来週の金曜日空けといてな」
来週の金曜日は特に予定がなかったので承諾する。場所は会社近くの居酒屋(どこかは未定。決まったらまた言うとのこと)で、メンバーは部長・堀内チーフ・遊佐さん・僕・郁大・星野さんの6名だという。郁大が興味本位で遊佐さんに余計な詮索ーー彼氏いるのかとか、結婚しないのかとかーーをしないか心配だったけれど、さすがに部長とチーフの前だし大丈夫かなという気持ちもあった。
*
いよいよ当日を迎える。結局は会社近くの焼き鳥店に行くことになった。18時に現地集合することになっていたけれど、なかなか遊佐さんが来ない。何があったのかと心配していると、遊佐さんがダッシュでこちらに向かってくる。
「すみません、道に迷ってしまって……。ギリギリになってしまいました……!」
遊佐さんは息を切らしながら話す。堀内チーフが「大丈夫だよ、間に合って良かった」と言ってくれたこともあり、遊佐さんは安堵した様子だった。
入店し、お酒を飲んだり焼き鳥を食べたりしながらいろいろな話をする。恋愛の話になり、酔いの回った郁大が遊佐さんに彼氏がいる前提で話し出した。僕が「おい郁大、よせって……」と止めようとすると、遊佐さんは
「よく彼氏いる前提で話されることが多いんですけど、私、元旦那と死別したんです」
としんみりした顔で言う。
「えーそうなんですか? なんかすんません……」
郁大はこれ以上踏み込んではいけないことを察したのか、遊佐さんに気まずそうに謝罪した。僕は遊佐さんが元夫と死別した経緯を知っているけれど、この場で言うことではないので黙っていることにする。
そして話題の中心は僕に移り変わり、部長が「小野関も理不尽なことで異動になったけど、腐らず頑張れよ」と応援の言葉をくれた。虚偽の内容で炎上してしまい、部長と堀内チーフで人事部長に異動は取りやめにしてくれと掛け合ったけれど、それでも人事部長は首を縦に振らなかったという。
「はい、新しい部署でも頑張ります!」
僕が宣言し、3時間半に及ぶ会はお開きとなった。
元接客業ということもあってパソコンの操作はあまり得意ではなかったけれど、業務に慣れてきて遊佐さんはできることがどんどん増えていった。さらに電話対応でもおどおどすることはなくなり、変な人からの電話にあたっても気にしなくなったーー最初は落ち込んだりトイレで泣いたりしていたそうーーという。
遊佐さんが入社して1週間経ち、堀内チーフが僕の席にやってきた。
「遊佐さんの歓迎会兼お前の送別会しようと思うんだけど、来週の金曜日空けといてな」
来週の金曜日は特に予定がなかったので承諾する。場所は会社近くの居酒屋(どこかは未定。決まったらまた言うとのこと)で、メンバーは部長・堀内チーフ・遊佐さん・僕・郁大・星野さんの6名だという。郁大が興味本位で遊佐さんに余計な詮索ーー彼氏いるのかとか、結婚しないのかとかーーをしないか心配だったけれど、さすがに部長とチーフの前だし大丈夫かなという気持ちもあった。
*
いよいよ当日を迎える。結局は会社近くの焼き鳥店に行くことになった。18時に現地集合することになっていたけれど、なかなか遊佐さんが来ない。何があったのかと心配していると、遊佐さんがダッシュでこちらに向かってくる。
「すみません、道に迷ってしまって……。ギリギリになってしまいました……!」
遊佐さんは息を切らしながら話す。堀内チーフが「大丈夫だよ、間に合って良かった」と言ってくれたこともあり、遊佐さんは安堵した様子だった。
入店し、お酒を飲んだり焼き鳥を食べたりしながらいろいろな話をする。恋愛の話になり、酔いの回った郁大が遊佐さんに彼氏がいる前提で話し出した。僕が「おい郁大、よせって……」と止めようとすると、遊佐さんは
「よく彼氏いる前提で話されることが多いんですけど、私、元旦那と死別したんです」
としんみりした顔で言う。
「えーそうなんですか? なんかすんません……」
郁大はこれ以上踏み込んではいけないことを察したのか、遊佐さんに気まずそうに謝罪した。僕は遊佐さんが元夫と死別した経緯を知っているけれど、この場で言うことではないので黙っていることにする。
そして話題の中心は僕に移り変わり、部長が「小野関も理不尽なことで異動になったけど、腐らず頑張れよ」と応援の言葉をくれた。虚偽の内容で炎上してしまい、部長と堀内チーフで人事部長に異動は取りやめにしてくれと掛け合ったけれど、それでも人事部長は首を縦に振らなかったという。
「はい、新しい部署でも頑張ります!」
僕が宣言し、3時間半に及ぶ会はお開きとなった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
後悔と快感の中で
なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私
快感に溺れてしまってる私
なつきの体験談かも知れないです
もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう
もっと後悔して
もっと溺れてしまうかも
※感想を聞かせてもらえたらうれしいです
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
どんでん返し
あいうら
ミステリー
「1話完結」~最後の1行で衝撃が走る短編集~
ようやく子どもに恵まれた主人公は、家族でキャンプに来ていた。そこで偶然遭遇したのは、彼が閑職に追いやったかつての部下だった。なぜかファミリー用のテントに1人で宿泊する部下に違和感を覚えるが…
(「薪」より)
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる