19 / 32
第2話「ラウルス遺跡」
⑧
しおりを挟む
薄暗い部屋にルアがかけた魔法の淡い光がふわふわと漂っている。
「これを焚けば魔物は寄ってこないから、大丈夫よ」
彼女は魔物除けの為の香を焚き、少女へ向けて安心させるように話す。
「はい、アルファはこれ飲んで」
そして、アルファには煎じた毒消し草を飲ませた。
「あなたの怪我も治すから診せて」
ルアが少女の側へと寄ると治癒術をかけようとする。近寄られた時、少女は一瞬怯えたように肩を跳ね上げたが、治療を嫌がる事なく受け入れた。
「大地に満ちたる命の躍動、汝の傷を癒せ」
呪文を唱えると淡く温かい光が少女の全身を包み込んだ。小さい切り傷や擦り傷はたちまちと治っていく。
「ありがとう、お姉ちゃん…」
少女は小さな声で呟く様に礼を述べる。しかし、少女は部屋の隅に膝を抱えた状態で座ったまま、フードを深く被り顔を見せないようにしていて、未だに怯えている様子だった。
「そう言えばまだちゃんと名乗ってなかったわね?私はルア。そっちのアホ面で寝てるのはアルファよ」
怯えている少女へとルアは笑顔で話しかける。
「誰が…アホ面だ」
彼女等に背を向けて横になっていたアルファだが、ルアの言葉にしんどそうな様子ながらも静かに反論した。
「あら?起きてたのね」
「息しづらくて、寝てられっかよ…」
そんな彼へとクスリと笑いながらルアが言う。それにつらそうな口調でアルファが答える。
「くすっ…」
ルア達のやり取りに小さく微笑んだ少女は少しだけ警戒を解いてくれたようだった。
「ボクは…サウスだよ」
「サウスっていうのね。何でこんな所に?」
ようやく笑ってくれた少女が名乗ると、ルアが何故こんな所にいるのか尋ねる。
「くうかんのはざま…」
「!?」
サウスの言葉にルアは驚く。まさか少女の口から“空間の狭間”という言葉が出てくるとは思わなかったからだ。
「まさかあの場所から!?」
「ううん…ボクは、そこを目指してるんだよ」
驚き尋ねる彼女へとサウスは首を振って否定すると答える。
「…あなたもなのね」
「お姉ちゃん達も?」
静かな口調で言ったルアの言葉に少女は不思議そうに尋ねた。
「そうね…目的は…」
「王様が言ってた管理するものをはいじょするためだよね」
「えぇ。あなたもあの場にいたのね」
同じところを目指しているという目的は同じだと頷くルアに、サウスは聞いた話を思い出しながら言う。その言葉に彼女は小さく頷いた。
「うん。でもボクはちょっと違うかな。会いにいくんだ」
「会いに?」
少女の言葉に管理する者に会ってどうするのだろうかと不思議そうにルアは首を傾げる。
「…この、人とは違う姿。この理由を知るために…」
「… …」
己の両の手を見詰め暗い表情で呟かれた言葉に、ルアは何も言えずに黙ってサウスを見詰めた。
「ボクが何なのか知りたいんだ…こんな姿したくてしているわけがないのに…」
少女は襲われたことを思い出したのか、小さくうずくまり震えだす。
「大丈夫。もう大丈夫だから。私達が守ってあげる。だからもう大丈夫よ」
ルアはサウスの頭を優しく擦り、もう大丈夫だからと何度も言って慰めた。
「お姉ちゃん…」
少女は堪えていた涙をついに流し、彼女の優しさに甘えるように胸に縋りついて泣きじゃくる。
「… …」
その様子をアルファはただ横目で見ているだけだった。
「これを焚けば魔物は寄ってこないから、大丈夫よ」
彼女は魔物除けの為の香を焚き、少女へ向けて安心させるように話す。
「はい、アルファはこれ飲んで」
そして、アルファには煎じた毒消し草を飲ませた。
「あなたの怪我も治すから診せて」
ルアが少女の側へと寄ると治癒術をかけようとする。近寄られた時、少女は一瞬怯えたように肩を跳ね上げたが、治療を嫌がる事なく受け入れた。
「大地に満ちたる命の躍動、汝の傷を癒せ」
呪文を唱えると淡く温かい光が少女の全身を包み込んだ。小さい切り傷や擦り傷はたちまちと治っていく。
「ありがとう、お姉ちゃん…」
少女は小さな声で呟く様に礼を述べる。しかし、少女は部屋の隅に膝を抱えた状態で座ったまま、フードを深く被り顔を見せないようにしていて、未だに怯えている様子だった。
「そう言えばまだちゃんと名乗ってなかったわね?私はルア。そっちのアホ面で寝てるのはアルファよ」
怯えている少女へとルアは笑顔で話しかける。
「誰が…アホ面だ」
彼女等に背を向けて横になっていたアルファだが、ルアの言葉にしんどそうな様子ながらも静かに反論した。
「あら?起きてたのね」
「息しづらくて、寝てられっかよ…」
そんな彼へとクスリと笑いながらルアが言う。それにつらそうな口調でアルファが答える。
「くすっ…」
ルア達のやり取りに小さく微笑んだ少女は少しだけ警戒を解いてくれたようだった。
「ボクは…サウスだよ」
「サウスっていうのね。何でこんな所に?」
ようやく笑ってくれた少女が名乗ると、ルアが何故こんな所にいるのか尋ねる。
「くうかんのはざま…」
「!?」
サウスの言葉にルアは驚く。まさか少女の口から“空間の狭間”という言葉が出てくるとは思わなかったからだ。
「まさかあの場所から!?」
「ううん…ボクは、そこを目指してるんだよ」
驚き尋ねる彼女へとサウスは首を振って否定すると答える。
「…あなたもなのね」
「お姉ちゃん達も?」
静かな口調で言ったルアの言葉に少女は不思議そうに尋ねた。
「そうね…目的は…」
「王様が言ってた管理するものをはいじょするためだよね」
「えぇ。あなたもあの場にいたのね」
同じところを目指しているという目的は同じだと頷くルアに、サウスは聞いた話を思い出しながら言う。その言葉に彼女は小さく頷いた。
「うん。でもボクはちょっと違うかな。会いにいくんだ」
「会いに?」
少女の言葉に管理する者に会ってどうするのだろうかと不思議そうにルアは首を傾げる。
「…この、人とは違う姿。この理由を知るために…」
「… …」
己の両の手を見詰め暗い表情で呟かれた言葉に、ルアは何も言えずに黙ってサウスを見詰めた。
「ボクが何なのか知りたいんだ…こんな姿したくてしているわけがないのに…」
少女は襲われたことを思い出したのか、小さくうずくまり震えだす。
「大丈夫。もう大丈夫だから。私達が守ってあげる。だからもう大丈夫よ」
ルアはサウスの頭を優しく擦り、もう大丈夫だからと何度も言って慰めた。
「お姉ちゃん…」
少女は堪えていた涙をついに流し、彼女の優しさに甘えるように胸に縋りついて泣きじゃくる。
「… …」
その様子をアルファはただ横目で見ているだけだった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜
mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!?
※スカトロ表現多数あり
※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる