Axis of Fate〜大樹物語〜

たみぽん

文字の大きさ
上 下
7 / 32
第1話 始まりの道

④過去

しおりを挟む
聖歴3896年、これは13年前の出来事ーーー
イリンシュレイ国の王都より西にある辺境の村地【ハイス】
山々に囲まれ自然豊かな村だ。
そこに住む黒髪短髪の少年は村から少し離れた丘で花を摘んでいた。

「喜んでくれるよな♪」

彼はにこやかに微笑み呟く。
今日は妹の誕生日。
そのお祝いの為に少年は片手いっぱいに彼女が好きだというオレンジ色の可愛らしい花を摘み取っていたのだ。
しばらくすると花を摘み終え、家へと向かい帰っていると少年は村の異変に気付く。

「…何だあれ?」

村全体が黒い靄に覆われていたのだ。

「っ!」

火事かと思った少年は急いで村へと戻って行く____
 
村へたどり着くと黒い霧に全体が覆われていた。
霧自体には匂いは無かったが辺りは薄暗く、昼間だというのに夜のように暗かった。

「…!!」

急に鼻を突くような酷い匂いが漂い眉をしかめる。
その原因はすぐにわかった。
村中にはおびただしい量の血が散っていたのだ。

「どうなってんだよ…?」

彼は今、村がどのような状況になっているのか理解ができぬまま、足を進ませる。
ただ大変な事態が起きている事だけは分かった。
おびただしい血と動かない村人達が倒れているのだから…少年は自宅へと急ぎ走る。

「早く帰らなきゃ」

こんな状況だからこそ家族の安否が不安になったのだ。

「父さん!!母さん!…っ!!」
 
勢い良く扉を開け放ち叫ぶように言う。
「お帰りなさい。急いで逃げましょう」と言ってもらえるのを信じて。

「… …」

が、その声も虚しく少年の両親は重なるように倒れ込み、その下には血だまりができていた。
放心状態になっていた少年はしばらくすると静かになっている両親の身体を震える手で揺すった。

「…父さん …母さん」

そうすれば起き上ってくれるのではないかと思って…。
 
「きゃ!」
 
その時奥の部屋から女の子の小さな叫び声が聞こえてきた。

「アイナ!?」

彼はその声が妹のものだと確信し悲鳴の聞こえた方の部屋へと向かう。

「!!」

そこには天井にも届きそうな大柄な男…いや二足歩行であるが全身毛むくじゃらで狼の顔、鋭い眼光をもった者が居た。
大きな手には鋭利な爪が生えており、その掌には小柄な体の少女が握られている。
茶色のボブヘアーに深緑の大きな瞳を恐怖で揺らしながら少女は少年に気付く。

「…おにぃ、ちゃ…ん…」

「アイナっ!!」

彼に向って震えながら振り絞った声で少年を呼ぶ。
彼も少女の名前を呼び手を伸ばそうとするが、少年もまた後ろから首を何者かに掴まれた。

「!!」

首を掴んでいるのは目の前にいる狼の様な毛の感触ではなく、ひんやりと滑らかな感覚…まるで大蛇にでも巻かれた感じだ。
そして少年の首筋には硬い感触があった。
それは爪で、彼は掴んでいる者の姿を見ようと振り返る。
二足歩行ではあるがこれもまた天井にも届きそうな大きさの黒く硬いうろこでおおわれた爬虫類のようで、蝙蝠の翼が背中から生えており、それはまるでおとぎ話で出てくる…

「ドラ、ゴン…?」

目を見開きそう呟いた次の瞬間、少年の首に当たっていた鋭い爪が彼の首筋を切り裂いた…
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

エンジェリカの王女

四季
ファンタジー
天界の王国・エンジェリカ。その王女であるアンナは王宮の外の世界に憧れていた。 ある日、護衛隊長エリアスに無理を言い街へ連れていってもらうが、それをきっかけに彼女の人生は動き出すのだった。 天使が暮らす天界、人間の暮らす地上界、悪魔の暮らす魔界ーー三つの世界を舞台に繰り広げられる物語。 著作者:四季 無断転載は固く禁じます。 ※この作品は、2017年7月~10月に執筆したものを投稿しているものです。 ※この作品は「小説カキコ」にも掲載しています。 ※この作品は「小説になろう」にも掲載しています。

転生した俺が神様になるまで

HR
ファンタジー
ゲーム廃人の佐藤裕は強盗に銃で撃たれて、異世界に転生! ・・・の前に神様とあって 「すべての職業になったら神になれるよ。」 と言われた佐藤裕改め、テル=ハングルはアルファ王国を支えるハングル家に転生して神様になる っていう感じの作品です。 カクヨムと、小説家になろうでも連載しています。 面白いと思ったら ブックマーク、感想、レビュー、評価をお願いします。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

処理中です...