黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

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第六章

断罪

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グリフォンの言葉に反応し、国王は顔を上げ「バティル、其方……!?」と困惑していた。同じく顔を上げたコリン王太子は、怒りを宿した目で眼下のバティルを睨みつけている。

『貴様は小賢しい悪魔の手を借り、我を謀り忌々しい『呪い』を植え付け、そして我を……我の愛するカルカンヌと子孫を、よくも甚振ってくれたな……!!』

「ひっ、あ……!!」

『!?……バティルの目が!』

己を守ろうとしてか、バティルの目が薄く茜色になっている。

だが、永い時を経て聖獣となったグリフォンには、国王達や数多の者達を操っていた奴の『魅了』など効く訳がない。

にしても、奴の双眼の色は随分と弱々しいな。

魔力はそこそこあるのはわかるが、砦の前で見たものとは明らかに違う。……もしかすると、ラウルが奴の『目』を底上げしていたのかもしれない。

「バティル様!!」

その時、怯えるバティルの前に、ラシャド達親衛隊が立ちはだかった。

青褪め震えているが、気丈にもグリフォンから奴を守ろうとしている。どうやら奴等は魅了ではなく、自発的に忠誠を誓っているらしい。

『厭わしい、失せろ!』

一喝し、翼を羽ばたかせたグリフォンから強い突風が放たれた。

途端、ラシャド達は悲鳴をあげる間もなく薙ぎ払われ、左右に吹き飛ばされてしまう。

「ぎゃあっ!!」

しかも、平伏していた騎士達の頭上を超えて壁に次々と激突したのだ。
強かに打ち付けられたラシャド達は、そのまま床へ落ちて動かなくなった。

「断罪者」であるグリフォンの圧倒的な力を見せつけられ、平伏していなかった者達は顔に大量の汗を噴き出させると、慌ててグリフォンに首を垂れていく。

それらに頓着する事なく、宙を浮いていたグリフォンは絨毯にふわりと降り立つ。

そして守る盾ラシャド達が無くなり、ガクガクと震えへたり込むバティルへと一歩、二歩と歩み寄った。

「ひっ!せ、聖獣さま……!!ど、どうかっ、お許し下さい……!!」

傲慢かつ自信満々だった顔は、今や恐怖に歪み切っている。

ここにきて命乞いをするバティルの姿は、ついさっきのラウルを思い出した。そして、奇しくも対するグリフォンの反応はベルの時と同じだった。

『薄汚い口を塞げ、痴れ者が!貴様は我やカルカンヌだけでなく、盟友であるオンタリオ国王や王太子……果ては民達をも害し、爭の礎にせんとした。万死に値する愚行とはこの事よ』

「いっ、いえっ!!わたっ、わたしは!アミール殿下に強要されただけ……」

「アミール、だと!?」

バティルが口にした王弟の名。それにいち早く反応したのはグリフォンではなく国王で、信じられないとばかりに目を見開き、震える声を零す。

「そういえば、私は……一体いつから意識が無かったのだ?聖獣様が仰られた事が真実ならば……」

「父上……」

「悪魔の手を借り、貴様とアミールが共謀し、恐れ多くも聖獣様を害し……カルカンヌとこの国を……!?」

「父上!!」

声を上擦らせ興奮していく国王を制したのは、横にいたコリン王太子だった。

「父上のお気持ちと憤りは分かります。ですが今は、聖獣様の御前でございますれば……」

肩に手を置き静かに諭す息子に、父王も我に返り口を閉ざす。そして非礼を詫びるように、グリフォンへと再び首を垂れた。

国王を咎める事なく、王弟が「いる」場所……。多分生きているとは思うけど、めり込んでいる壁の方を一瞥したグリフォンは、侮蔑の色を混ぜた嘲笑と共に声を発した。

『成る程、あそこな肥え太った男に主な責任がある……と。生憎だが、鑑定眼を持つ我に嘘は通じぬ。貴様の魂は、口程に真偽を語っておるわ!!』

グリフォンの翼が僅かに揺れた。と同時にバティルの絶叫が響き渡る。

「ぎゃあああ!!」

階段から転げ落ちたバティルは両手で顔を覆い、悲鳴を上げながら絨毯の上でもがき苦しむ。それを見下しながら、グリフォンは尾をふるりと揺らした。

『先程から不快な……。貴様の最も害悪な『部位』は、この世に存在するべきではない』

害悪な部分とは、きっとラシャドの『魅了』を司る双眼の事だ。

そして存在を消したとは、二度と奴がそれらを使えなくした……という事。更にグリフォンは、苦しみ呻くバティルへと翼を軽く羽撃かせた。

「ぎゃ!?ぐぁあ!!」

再びバティルから絶叫が上がる。

いく数もの風の刃に華美なローブが切り裂かれ、鮮血が舞い散った。あちこちから恐怖の悲鳴が上がる中、凛としたグリフォンの声が響き渡る。

『貴様には、我が受けた痛みの一部を与える。だが、殺しはせぬ。共謀した者達も、我によって然るべき制裁を与えた後、この国の裁きを受けさせよう!』

ばさりと大きく広げた翼が、グリフォンの魔力を帯びて黄金の光を纏う。

そしてぶわりと大量の羽が宙に高く舞い散った、と思う間も無くそれらが金の矢となり、ひれ伏す群衆に降り注いだのだった。

「がぁあーっ!!う、腕がぁ!?」

「ぎゃあああ!!い、痛いっ!!痛いぃ!!」

「ぐぁあ……!?せ、背中が熱いっ!!誰か、誰か助け……!!」

グリフォンが「有罪」と断定した者達に、容赦のない鉄槌が下された。

何度目かの阿鼻叫喚だったが、身体的な痛みを伴ったのはこれが初めてだろう。謁見の間にいる騎士、貴族、従者達に満遍なく金の矢が突き刺さり、あちこちで苦痛の絶叫が上がる。

『貴族達は、ほぼ全員。騎士達は半分強。従者達は三分の一……ってとこか』

ちなみにだが、壁に激突したラシャド達と、めり込んでいる王弟には羽?矢?は刺さっていなかった。
まぁ、瀕死な今の状態でアレ受けたら確実に死ぬから、グリフォンも免除したのかな?


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