黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

文字の大きさ
上 下
185 / 194
第六章

動物虐待…?

しおりを挟む
「かっ……!!」

衝撃と激情が声となってほとばしりそうになり、慌てて口を覆った。

あ……あっぶねぇ!!後方の姫達に奇異の目で見られるところだったよ。

『ってかナニあれ!?どう見てもヒナだよね?しかもカラスの!?』

毛が生えてるから、生後1週間くらい?鴉って成長するのがめっちゃ早いから、ヒナの姿を見られるのって僅かな時間だって聞いた事ある。

ってか、おっきな目を潤ませて……プルプルと震えながら、懸命に踏ん張り立ちしてる姿なんか、もう……。

『あぁああ!やっぱ駄目だ!かっわいいーーっ!!』

前世でも今世でも、俺って無類の動物爬虫類全般大好き人間なんだよね。しかも、ちんまい鳥の雛とかドストライク過ぎて理性が飛びそう!!

……と、心中身悶えてしまった俺だけど、実の所分かってはいる。

目の前にいる『コレ』。

見かけはまごう事なく雛だが、この状況下ではどう考えても『普通の雛』ではない。…けど!暴力的に可愛過ぎてどうしたらいいの!?状態だよっ!

「…ちっ!焼き潰したと思ったのに、一欠片だけ残りやがっただと……?」

だけど、大悪魔様ベリアルの反応は、俺とは真逆だった。

眼下でプルプル震えている雛を睨み、不愉快そうに舌打ちをする。そしてスタスタ近づくと、何の躊躇もなくダンッ!!とそれを踏みつけたのだった。

『ギュアーッ!!』

「ああっ!?」

「しかも、俺の焔を喰らっておいて……欠片とはいえ破損してねぇ魂の核だぁ!?」

『キュァァ~!!』

「しぶといゴミが!テメェ如きクソが、一体どういった姑息な手を使いやがった!?おら、吐けこのゴミ!!」

ベルの口調から確定した。『鴉の雛』の形をしたソレは、ついさっき焼き尽くされたラウルの魂?の一欠片、しかも核らしい。

確かに鴉だし、目も見覚えある深紅だ。低位精霊のコノハと違って、上位精霊って魂の欠片は実体になれるんだなぁ…。それとも、黒の精霊悪魔に限った事なのか?

『だ、だけど……これは……!』

ぐりぐりと、情け容赦無くラウルを踏みにじるベル。

キュア~!キュアァ~!と足の下でぱたぱたと手羽を動かす鳥のヒナラウル……。

『むごい!むご過ぎるっ!!』

それは俺にとって、目を覆いたくなるような動物虐待地獄絵図そのものだった。

「キュアキュア五月蝿ぇ!!言葉を使ってさっさと……」

「ベ、ベルッ!!」

踏み続けながらラウルを詰ってるベルに、俺は思わず駆け寄り肩にかかった垂布を掴んでしまう。

「あぁん?何だよ?」

だけど、胡乱げに一瞥するベルに言うべき言葉が見つからず口籠ってしまう。

つい衝動的に動いてしまったが、目の前の可愛い「コレ」は危険な悪魔で、カルカンヌにもオンタリオにも酷い事した、滅しなければならない敵であって……。

『キュアァ~……』

「うぅっ!?」

ウルウルと涙の溜まったつぶらな瞳で俺を見上げ、弱々しく鳴いて助けを求めるか弱い毛雛……。これでもか!とあざと可愛さを演出する黒ぽぁ(ただし正体はラウル)に、俺は思わず頬を赤らめ胸を押さえてしまう。

くっ…、なんて攻撃力だ…!!人型だった時の記憶が、塗り替えられてしまいそうだ。こ…これが大悪魔の、真の実力なのか……!?

「………えっと、な。ヒナを踏みつけてるの…絵面的に無理っていうか……その……。せ、せめて、もうちょっと穏便なやり方とか……」

「……は?お前、何言ってんだ」

布を引っ張りしどろもどろで呟くと、ベルが絶対零度な呟きを返してきた。本気で何言ってるのか分からんって顔をされて、然もありなんと俺も思うんだけどさ。

「……おい。まさかだが、コレの姿に絆された……なんて言わねぇよな?」

「…………」

何も言えずにいる俺をベルが半目で睨み、おもむろに足下をグリッと踏み躙る。途端、「キュアア!」と苦しそうに鳴く鴉の雛もといラウルに、俺は「あっ!」とあからさまに動揺してしまった。

「「…………」」

暫し俺達は無言になったが、やがてベルが「はぁ~…」と心底呆れたとばかりにため息をついた。

「お前は阿呆か?それとも、真面目に頭沸いてんのか?バカユキヤ!」

うっ!そ、そりゃ自分でもバカな事言ってる自覚はあるけど!見下ろす真紅に蔑みの色がくっきり浮かんでいて、思わずムッとしてしまう。

「わ、わいてないっ!!だいたい、俺の元いた処前世の地球では、こういう場面を平然と見れる奴らが頭沸いてるって言われたんだ!!」

「…………」

目を微妙に逸らしながら精一杯キリッと口ごたえする俺に、ベルはビキビキと青筋を立てた。そして、「こっち向け」とばかりに問答無用で俺の顎をガシッと掴んだ。

「黙れ!!真正の大バカが!!」

「い、いたたた!!」

「まんまとこのゴミに誑し込まれてんじゃねぇ!バカも過ぎれば可愛さ皆無だ!!……おいユキヤ。曇った目を醒ます意味でも、公衆の面前でブチ犯してやろうか……!?」

容赦無くギリギリと顎を掴まれ、涙目で悲鳴を上げる俺に激おこなベルの声が降り注ぐ。最後は物騒な脅し文句を囁かれたけど、双眼に宿る色は半ば本気だった。

「ご、ごめんって!だから離せ、よっ!」

「ったく、お前という奴は……!?」

ベルは怒りと呆れを含んだ声で更に文句を口にしようとした。が、ふと足元の……踏みつけている鴉の雛ラウルを睥睨した瞬間、表情が一変した。


『私の可愛い部下を、虐めないでおくれよ』


「えっ!?」

聞き覚えのない、人ならざる『声』が突如頭の中に響いた、僅か数秒後の出来事だった。

俺はベルに掻き抱かれ、力強く羽撃かせた翼によって後方に大きく飛び退る。

風圧と衝撃音に驚き、見開いた俺の目に飛び込んできたのは……。

『な、なに…!?』

俺達が立っていた場所に鋭い爪を立てていたのは、黒くて透き通った大きな「左手」だった。

しかも人型であった時、ラウルが出していた触手の様に、ソレはぐったりした雛の身体から出現していたのだ。これは、ラウルが力を隠し持っていたという事なのか?でも、たった今聞こえてきたあの『声』は一体……。

「……成る程。そういう事か」

困惑している俺を他所に、ベルはばさりと翼を広げて俺を覆い隠す。そして前方を睨みつけながら、何処か納得した様に嘯いた。

『ふっふふふ……』

透明だった黒い手は徐々に現実化していく。それから床に食い込んだ爪を抜くと、ゆっくりとこちらに掌を向けた。

「!!」

俺は、更なる驚きに声を無くす。なんと掌には、ギロリと動く巨大な『一つ眼』が在ったのだ。紫がかった紅い色に、ベルと同じ縦割れの瞳孔がある人外のそれ。

「下僕である其奴ラウルの核に種を植え、繋がっていたか。相変わらず用意周到なことだ」

『大事な配下の救済措置だよ。お前と違って、私は慈愛に溢れているからねぇ』

「抜かせ!大方テメェへのおイタ・・・防止だろうが、『三つ頭』」

『え!?』

低く紡がれたベルの言葉に、キュッと笑うように『眼』が細まる。そして、不可思議な旋律にも似た深い音が謁見の間に響いた。……これは、笑い声?

『ふふふ……それにしても。まさかこんな巡り合わせが起こるとは、いやはや僥倖僥倖!』

何処かラウルに似た口調だった。巨大な目に俺を映さない様、俺を抱きしめ翼で遮っているベル。唯我独尊で自信家なこいつには珍しく、明確な警戒が全身から滲み出ている。

ベルは『三つ頭』と言った。それはラウルの仕える『王』の渾名。

つまり、突如出現した黒い手と目の持ち主は、ベリアルと同じ七大君主の一柱……!

『少しぶりだな。殺したい程会いたかったぞ……『無価値』よ』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが

松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。 ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。 あの日までは。 気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。 (無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!) その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。 元日本人女性の異世界生活は如何に? ※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。 5月23日から毎日、昼12時更新します。

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた

しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される??? 家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。 R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。 現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。 (第1章の改稿が完了しました。2024/11/17) (第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる

ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。 ※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。 ※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話) ※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい? ※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。 ※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。 ※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。

処理中です...