黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

文字の大きさ
上 下
173 / 194
第六章

真の力を見せて

しおりを挟む
「そうですねぇ。最初はシェンナ姫からと思いましたが…。先ずは手元にある二つの『器』に手をつけましょうか。国王は一つ、王太子は二つの元素でしたねぇ?」

『器と元素だって?コイツ何を…!?』

不穏な単語に嫌な胸騒ぎがする。

ラウルは空な国王の顔を覗き込み、顎をしゃくってにんまりと笑うとバティルを手招き、杖に…正確には杖の魔石に手を伸ばした。

「貴様!国王と王太子に何をするつもりだっ!?」

ザビア将軍が俺の疑問をそのまま代弁してくれた。それに対し、ラウルは優雅に微笑を浮かべて小首を傾げる。

「知りたいですか?フフフッ、良いでしょう。特別に教えて差し上げましょうねぇ~。事の発端は、バティルが偶発的に私の召喚を成功させ、南大陸の制覇の為の戦力を望んだ事です。私への対価は、蹂躙で死ぬ大量の人間達。まあ、それならば分不相応な召喚も許せると言うもの…」

「なっ!!」

こともなしに告げる悪魔に、ザビア将軍は信じられないと驚愕の表情となった。勿論俺も同じくだ。

あの男バティルは、この大陸を支配する為に悪魔召喚を行い、尚且つ虐殺予定の、なんの罪もない人達を対価として提示しただと…!

俺にとっても、耳を疑うレベルで人非人の戯言だ。無言のバティルには、後ろめたさも罪悪感も見られない。そして更に最悪なのは、謁見の間に居る貴族達や騎士達の態度だった。

顔色を悪くして動揺を見せた者達は少数で、そうで無い者達の方が圧倒的に多い。此奴らはバティルのしでかす『計画』を知って尚賛同し、ここに居るのだ。…いや、もしかすると奴の魅了に掛かっているのかも知れないが。

「戦争の道具を設てやればいいのですから、簡単な仕事ですよ。そして、『器』に相応しい者として挙がったのが国王と王太子。彼らの魂を抜き、代わりに私の力を核にして『火』『水』『土』、3大元素の力を移植するのです」

『だから、コノハや他の精霊の力を奪ったのか…!!』

それが、奴等が国王と王太子を生かしていた最悪最低の理由。あのメタボはお話にならないが、兄である国王は十分ラウルのお眼鏡に叶う力があり、更にコリン王太子は三元素の精霊と意思疎通でき、彼らの力を扱えていたから。

『ダメッ!そんな事したらコリンは…っ!』

コノハは泣きそうな顔で絶叫する。フゥも同様だった。

得意げにペラペラと語る糞悪魔に俺は吐き気を覚え、硬く握る拳を震わせる。

俺達の憤りを、そして恐ろしい計画を聞き、兄に身を寄せガタガタと震えるシェンナ姫を王座のラウルは楽しげに見つめた。

「そしてシェンナ姫には、最後の元素である『風』を…。私の『呪い』で吸い取ったグリフォンの力を移植します」

「せ…聖獣様の力を、私に?」

「そうですよ。聖獣グリフォンの血を色濃く継いで生まれた貴方ならば、『器』として充分利用可能でしょう。そして意のままに操れる、四大元素の力を持った人形兵器が誕生するのです!」

幾らシェンナ姫が先祖返りであったとしても、成人もしていない未熟な身体で膨大なグリフォンの力を受け入れられる訳が無い。よしんば成功したとしても、待っているのは『器』である身体の崩壊だ。

『人間の身体に精霊の力を移植だと?無理に決まってんだろバカが!』

ベルがようやく発した言葉に、ラウルは「はて、何を可笑しな事を」と言う風に首を傾げる。

「同胞らしからぬ発言ですねぇ??精巧で長持ちの人形なら無理でしょうが、半年…いえ、数ヶ月でも保たせるのは可能でしょう?ならば、充分南大陸程度の制覇は成せますよ」

『………』

確かに不可能ではないだろう。

魔力が高くて強靭な肉体。そして資質と霊獣の血を受け継ぐ者ならば、『使い捨ての道具』という前提なら可能なのだ。

権力や覇王を求める者。相応の対価をもって応える悪魔。

いつの世にもある、権力欲に取り憑かれた者達が侵す、なんら珍しくもない構図だ。殊更、やり方が反吐を吐きそうな程下劣、かつ外道そのものと言うだけで。

「フフフ、後はバティル、貴方があそこの肉塊をお飾りの王にでもして、上手く使いなさいねぇ?」

ラウムの言動は、さも自分の所業が素晴らしいとでも言わんばかりだった。喉の痛みを凌駕する怒りがマグマとなって、腹の底から心の臓に迫り上がる。

『下衆が…!!』

俺は無意識に黒大蛇ベルを見遣った。

アレと同胞であり、黒の精霊の頂にいる存在。だけど、俺には確信がある。短い期間しか共に過ごしてないけど、この悪魔は歪んだ享楽主義者であるアレとは違うんだと。

「と、いう訳なので。暫し私の邪魔をしないで頂きましょうか、黒蛇の同胞よ。でないと、貴方の使役主が大変な事になりますよぉ?」

『…!ぐぅっ!!』

突如、今までと比較にならない激痛が喉に襲いかかる。炎で炙られるような痛みに、堪らず片膝をついてしまった。

『ユキヤ!!』

鉄臭い味が口一杯に広がる。思わずえずけば、床に付いた手の甲に赤い液体がぼたぼたと落ちてきた。

鼓膜…じゃない。思念での対話が阻害されて、フゥ達の声が聞こえづらい。視界の片隅には駆け寄るシェンナ姫とザビア将軍、それと這い寄ってくる黒大蛇ベルが映った。

「フフフッ、愛しい貴方にも大人しくして頂きますねぇ~?集中力が要りますから、『目』を使われて邪魔されると少しだけ厄介なんですよ」

ああ、死にはしませんから安心なさって下さい?と付け加え、ラウルは咳き込む俺を真紅の双眼で見つめてから踵を返した。霞む目を凝らすと、バティルを伴い国王達に再び近寄っているヤツが見える。

『ユ…ヤ……! かめ…を……せ!!』

ベルの怒鳴り声が途切れ途切れに響いてくるが、うまく聞き取れない。コン!コン!と顔を鎌首で何度も突き、何かを伝えようとしているみたいだけど、焦るだけ思考が散漫になっていく。

『くそぉ!!どうすればいい!?どうすれば…』

『全く君って子は。強いのに抜けてるトコロ、ベハティそっくりだなぁ』

パニックに陥っていた俺の頭の中に、突如鈴の様な声が鳴り響いた。静かで深く染み込むような、そして呆れを含んだ…これ、この声って…!?

『ウォレン、さん ?』

『でもね、君が選んだここまでの道は、危なっかしかったけど及第点をあげられる。君の黒蛇くんが喚いてる通り、早く仮面を取りなさい』

『 あ!! 』

あんまりにも肌に馴染みすぎててすっかり忘れていた。俺の『目』が抑制されるマジックアイテムを着けているって事を。正しく「眼鏡は顔の一部」の仮面バージョンだ。

ベルが懸命に顔を突いて喚いてたのって、励ましでも心配でもなく、俺にその事を伝えようとしてたからか。

……どうしよう、俺、真面目にバカ過ぎる…!!

別の意味でパニックになりかけたら、『時間が無いんだから、猿でも出来る反省は後でやりなさい』とバッサリ斬られてしまった。

『さぁ、君の『』を僕に見せておくれ?』

自分の間抜けさに恥いってる暇はない。

ウォレンさんの声に促されるがまま、俺は仮面に手を掛ける。そして、他の者には取れない魔法具仮面を外すと床へ投げ捨て、蹌踉めきながら立ち上がったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた

しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される??? 家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。 R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。 現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。 (第1章の改稿が完了しました。2024/11/17) (第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)

収納大魔導士と呼ばれたい少年

カタナヅキ
ファンタジー
収納魔術師は異空間に繋がる出入口を作り出し、あらゆる物体を取り込むことができる。但し、他の魔術師と違って彼等が扱える魔法は一つに限られ、戦闘面での活躍は期待できない――それが一般常識だった。だが、一人の少年が収納魔法を極めた事で常識は覆される。 「収納魔術師だって戦えるんだよ」 戦闘には不向きと思われていた収納魔法を利用し、少年は世間の収納魔術師の常識を一変させる伝説を次々と作り出す――

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる

ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。 ※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。 ※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話) ※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい? ※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。 ※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。 ※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

処理中です...