黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

文字の大きさ
上 下
158 / 194
第六章

交渉成立…?

しおりを挟む
『この大カラス、スラッシュみたいな下級の使い魔じゃ…ない…?』

「…魅了師殿」

表情を消したバティルの顔が上がり、重い口を開いた。

「カルカンヌの『特使』としてなら、姫と共にオンタリオへの入国を許可しよう。この意味…貴殿ならば理解出来るであろう?」

へぇ。俺を「私」ではなく「公」で扱うと。つまり、俺が言ったトンデモ宣言をすれば、二国間の同盟が破綻するぞと釘を刺してるのか。

一旦口を閉じたバティルだったが、条件はこれだけじゃ無いと目にありあり書いてある。取り敢えず最後まで聞いておこうと俺が無言でいると、再び奴の口が開いた。

「そして…王太子との婚儀前に、姫の『魅了』を解く事を確約して頂けまいか」

「了承は出来ないな。最初に言ったはずだが?それは国王と王太子への質疑応答によると」

告げられた新たな条件に、俺は緩く頭を振ってはっきりと「是」を拒否する。

入国を許可するだけで、結局俺の利は何も無いじゃないか。身の安全にも全く触れてないし、舐めてんのかとイラッとしかけたが、我慢だオレ。

また一触即発の空気になるかと思ったが、バティルは悔しそうに眉根を寄せつつも、更なる譲歩を口にした。

「…陛下と王太子への謁見を認めよう。ただ、話し合いの結果が不服だった場合は….。姫の魅了解除の交換条件として、かの聖獣を『治して』も良い、と言ったら?」

「…信用しかねる。が、これ以上の押し問答は無意味だな」

『ベル!?』

「特使として招かれてやる代わり、ささやかな条件をそちらも飲んでもらおうか。国王達との謁見は今から数刻後。それから別件の交渉に応じるか否かを決めてやる」

「…了解した。『話し合い』は一応成立した…で良いのだな?」

「一応はな。そうと決まれば、さっさと姫達と俺を入国させろ」

『おいおいおい!べルゥ!?』

何の前触れもなくベルが俺の声音で応え、さくさくバティルと話をつけてしまった。動揺を隠して態度を合わせながら、俺はどう言うつもりなんだと脳内で疑問を投げかける。

『間怠っこしいのは飽きた。で、知っていたか?今夜は満月だ』

『はぁあ!?』

すると返ってきた台詞がオレ様、そして全くもって意味不明。思わず大声が喉を迫り上がってきたが、どうにか嚥下に成功する。

いや、飽きたってお前ぇ!?満月だって知らなかったけど、関係無いだろ今はそんなの!
俺が聞きたいのは、反故するに決まってる見え透いた条件なのに、どうして納得したんだって事で!

『煩ぇぞユキヤ。お互い信用ゼロだってのに、納得もクソもねぇ!兎に角入国できりゃあこっちのモンだろうが』

『おまっ…!打ち合わせした時には、あんだけ俺に『粘って主導権奪え』って檄飛ばしてたくせに!今までの俺の苦労は何だったんだよっ!!』

『ああよくやった、流石は俺の嫁だ。後でたっぷり可愛がってやるから拗ねんじゃねえよ』

『誰がお前の嫁だ馬鹿やろう!!だから!ふざけてる場合じゃ…』

『粘ったおかげで、ようやく小物バティルの後ろに隠れてた『奴』が出てきやがった』

「え?」

『奴』って、例の『諸悪の権化』か?

戸惑う俺の視線はバティルからベルへと向く。本蛇はというと、肩の上でじっと未だにこちらを睨め付ける大カラスに鎌首を向けていた。

「ベル、もしかして…」

『今夜で一気に片を付けんぞ。いいなユキヤ』

ベルは大カラスよりも鮮やかな紅眼を細め、チロリと舌を出した。

「これよりカルカンヌの貴賓が入国される。開門せよ!」

威厳の籠ったバティルの声を受け、閉じていた門がゆっくりと開いていく。人一人通れる程の隙間だった前回とは違って、目一杯の観音開きで。

門の内側には、バティル達のような位の高そうな騎士達がずらりと佇んでいた。中央には姫やバティル達を乗せる為の豪華な輿と、それらを担ぐだろう下男達が平伏している。

奇怪な事に、彼らの全てが黒い布で顔を覆っている。目を凝らして「見てみる」と、それらには微かに防御魔法が掛かっているみたいだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた

しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される??? 家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。 R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。 現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。 (第1章の改稿が完了しました。2024/11/17) (第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)

天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる

ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。 ※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。 ※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話) ※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい? ※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。 ※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。 ※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。

勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。 力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。 だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。 イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる? 頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい? 俺、男と結婚するのか?

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...