157 / 194
第六章
鴉
しおりを挟む
「気を付ける事だな。物理だろうが精神だろうが、もしも私に攻撃などしていれば、『彼の者』の生命力は一気に絶たれていた」
「………」
バティルが告げた言葉を反芻させ、思わず自分自身へ舌打ちしたくなった。
なんせ、ベルが止めてくれなかったら、俺は石の瘴気に煽られるがまま衝動的行為でグリフォンを死に至らしめていたのだから。
気を引き締めていたとしても、少しの油断で張り巡らされている罠に嵌る。それを身をもって実感した俺は、反省すると共に己を戒めた。
俺が冷静になったのを見届けると、漸くベルは腕から牙を抜いて穴が空いただろう肌を服の上からチロチロと舐め、傷を癒してくれた。
「ありがとう、ベル」
定位置である首へ緩く巻きつき、チロリと顎を舐めたベルに、俺は頬を緩め滑らかな身体を優しく撫でる。それから『目』の力を努めて抑えつつバティルを睨んだ。
『…あ。コイツの目が!』
バティルの焦茶色だった双眼が、何時からなのか鈍いオレンジ色の光沢に染まってる。
奴が自身の『目』を使って俺の『目』を防御してるのか、果てまては攻撃のつもりなのか?俺には全く影響がないからよく分からないけど。
敵意も怒気も抑えている俺に伴い、バティルの双眼は次第に元の色へ戻っていく。
ただ、自分の『目』が俺に通用しないのを実際に目の当たりにした所為か、焦燥感を色濃く残して。
『やっぱり…』
図らずも奴が『目』を見せてくれたお陰で確信した。バティルの能力は俺より遥かに下だと。
それに反して杖に嵌っている黒石。あれは『呪い』の塊そのもので、俺すら油断の隙をついて精神干渉できる代物だ。バティル自身が創れる様な...ましてや扱える物ではない。
『だとしたら、アレを与えた者は、砦の壁を構築したのと同一と考えて間違い無いだろう』
そう、ベルが言っていた人ならざる者。聖獣となった古のグリフォンに呪いを掛けられる「諸悪の権化」だ。
バティルが黒石を「発動させた」ように見えたが、それも今では疑問となる。
俺の能力を測る為なのか知らないが、挑発し怒りを増長させ攻撃を促して。よっぽど石の力に自信があったと言えばそれまでだけど、かなりの博打行為だったと俺は思う。
『もしかしたら...バティルが誰かに指示されてた…なんて、あり得るかな?』
『……………』
俺の心の声を聞いてるだろうベルにさりげなくお伺いを立ててみたけど、うんともすんとも答えてくれない。
何だよ、普段は喧しく怒鳴ったりする癖に!さっきの失態で呆れてるのか?なら助言くれとまで言わないから、鎌首横か縦に振ってくれないか…ってソッポ向くんじゃないっ!!
兎に角、このままじゃ「話し合い」は平行線もいいとこだ。
俺は『魅了』で姫を縛っていると脅し、バティルは『呪い』でグリフォンの生命を握っていると脅してきた。落とし所を探ろうにも、拮抗している互いのカードが下手を打てなくなっている。
さほど時間は経ってないが、周囲はどんどん暗くなり空気は冷たくなってきた。後少ししたら、明かり無しでは顔の表情もわからなくなるだろう。
後方で成り行きを見守る姫や将軍、ついでにオンタリオ側の兵達にも、不安が広がっているに違いない。睨み合っている俺とバティル達に「決断」が迫られる、そんな時だった。
「!?」
突如バサッバサッと上空から羽音が聞こえ、反射的に顔を上げる。
すると何処から現れたのか、闇夜の濡れ羽色をした大鴉が俺達の頭上を旋回し、ふわりとバティルの肩に停まったのだ。
『あの大鴉、ザビア将軍が言っていたバティルの使い魔か』
「――!お前…!?」
バティルは何処か戸惑った様子を見せ、何か言いかけたが咄嗟に口を噤む。そして無言で肩に乗った大鴉と目を合わせていたが、次第に眉根を寄せ表情も憮然となっていった。
『……ん?』
一人と一匹の沈黙したやり取りに既視感を覚える。なんかあれ…バティルと鴉、俺とベルの脳内会話でのやり取りみたいな事、してないか?
それからバティルは首を横に振り、肩の大鴉を睨み付けていたが、やがて悔しげに唇を噛んで俯いてしまった。
こいつら、主従の関係なんだよな?なんか、使い魔が主人を言い負かしたっぽく見えるんだけど…。って、ベルと俺も似たようなもんだから、気安い関係なのかもしれないか。
なんて考えてたら、バティルから視線を外した大鴉は次に俺へ顔を向けてきた。じっと見つめる双眼は、明らかに魔に属するモノだと知れる紅。それもベルと似通った、鮮血の様に凶暴な煌めきを孕んだ…吸い込まれそうに底がない危険な色だった。
「………」
バティルが告げた言葉を反芻させ、思わず自分自身へ舌打ちしたくなった。
なんせ、ベルが止めてくれなかったら、俺は石の瘴気に煽られるがまま衝動的行為でグリフォンを死に至らしめていたのだから。
気を引き締めていたとしても、少しの油断で張り巡らされている罠に嵌る。それを身をもって実感した俺は、反省すると共に己を戒めた。
俺が冷静になったのを見届けると、漸くベルは腕から牙を抜いて穴が空いただろう肌を服の上からチロチロと舐め、傷を癒してくれた。
「ありがとう、ベル」
定位置である首へ緩く巻きつき、チロリと顎を舐めたベルに、俺は頬を緩め滑らかな身体を優しく撫でる。それから『目』の力を努めて抑えつつバティルを睨んだ。
『…あ。コイツの目が!』
バティルの焦茶色だった双眼が、何時からなのか鈍いオレンジ色の光沢に染まってる。
奴が自身の『目』を使って俺の『目』を防御してるのか、果てまては攻撃のつもりなのか?俺には全く影響がないからよく分からないけど。
敵意も怒気も抑えている俺に伴い、バティルの双眼は次第に元の色へ戻っていく。
ただ、自分の『目』が俺に通用しないのを実際に目の当たりにした所為か、焦燥感を色濃く残して。
『やっぱり…』
図らずも奴が『目』を見せてくれたお陰で確信した。バティルの能力は俺より遥かに下だと。
それに反して杖に嵌っている黒石。あれは『呪い』の塊そのもので、俺すら油断の隙をついて精神干渉できる代物だ。バティル自身が創れる様な...ましてや扱える物ではない。
『だとしたら、アレを与えた者は、砦の壁を構築したのと同一と考えて間違い無いだろう』
そう、ベルが言っていた人ならざる者。聖獣となった古のグリフォンに呪いを掛けられる「諸悪の権化」だ。
バティルが黒石を「発動させた」ように見えたが、それも今では疑問となる。
俺の能力を測る為なのか知らないが、挑発し怒りを増長させ攻撃を促して。よっぽど石の力に自信があったと言えばそれまでだけど、かなりの博打行為だったと俺は思う。
『もしかしたら...バティルが誰かに指示されてた…なんて、あり得るかな?』
『……………』
俺の心の声を聞いてるだろうベルにさりげなくお伺いを立ててみたけど、うんともすんとも答えてくれない。
何だよ、普段は喧しく怒鳴ったりする癖に!さっきの失態で呆れてるのか?なら助言くれとまで言わないから、鎌首横か縦に振ってくれないか…ってソッポ向くんじゃないっ!!
兎に角、このままじゃ「話し合い」は平行線もいいとこだ。
俺は『魅了』で姫を縛っていると脅し、バティルは『呪い』でグリフォンの生命を握っていると脅してきた。落とし所を探ろうにも、拮抗している互いのカードが下手を打てなくなっている。
さほど時間は経ってないが、周囲はどんどん暗くなり空気は冷たくなってきた。後少ししたら、明かり無しでは顔の表情もわからなくなるだろう。
後方で成り行きを見守る姫や将軍、ついでにオンタリオ側の兵達にも、不安が広がっているに違いない。睨み合っている俺とバティル達に「決断」が迫られる、そんな時だった。
「!?」
突如バサッバサッと上空から羽音が聞こえ、反射的に顔を上げる。
すると何処から現れたのか、闇夜の濡れ羽色をした大鴉が俺達の頭上を旋回し、ふわりとバティルの肩に停まったのだ。
『あの大鴉、ザビア将軍が言っていたバティルの使い魔か』
「――!お前…!?」
バティルは何処か戸惑った様子を見せ、何か言いかけたが咄嗟に口を噤む。そして無言で肩に乗った大鴉と目を合わせていたが、次第に眉根を寄せ表情も憮然となっていった。
『……ん?』
一人と一匹の沈黙したやり取りに既視感を覚える。なんかあれ…バティルと鴉、俺とベルの脳内会話でのやり取りみたいな事、してないか?
それからバティルは首を横に振り、肩の大鴉を睨み付けていたが、やがて悔しげに唇を噛んで俯いてしまった。
こいつら、主従の関係なんだよな?なんか、使い魔が主人を言い負かしたっぽく見えるんだけど…。って、ベルと俺も似たようなもんだから、気安い関係なのかもしれないか。
なんて考えてたら、バティルから視線を外した大鴉は次に俺へ顔を向けてきた。じっと見つめる双眼は、明らかに魔に属するモノだと知れる紅。それもベルと似通った、鮮血の様に凶暴な煌めきを孕んだ…吸い込まれそうに底がない危険な色だった。
5
お気に入りに追加
935
あなたにおすすめの小説
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた
しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される???
家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。
R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。
現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。
(第1章の改稿が完了しました。2024/11/17)
(第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)

収納大魔導士と呼ばれたい少年
カタナヅキ
ファンタジー
収納魔術師は異空間に繋がる出入口を作り出し、あらゆる物体を取り込むことができる。但し、他の魔術師と違って彼等が扱える魔法は一つに限られ、戦闘面での活躍は期待できない――それが一般常識だった。だが、一人の少年が収納魔法を極めた事で常識は覆される。
「収納魔術師だって戦えるんだよ」
戦闘には不向きと思われていた収納魔法を利用し、少年は世間の収納魔術師の常識を一変させる伝説を次々と作り出す――
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる
ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。
※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。
※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話)
※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい?
※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。
※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。
※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。
勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。
イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。
力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。
だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。
イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる?
頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい?
俺、男と結婚するのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる